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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅰ)

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魔王城へ

「ここが賢者の館の地下……」
 仲間達が、移動魔法で跳んだ先を珍しそうに見渡す。
 ここに来た事があるのはセリアと精霊だけ。他の仲間は、初めてだ。

 魔法の灯りに照らされた、明るい部屋だ。天井がやたらと高く、倉庫みたいに広い。
 しかし、広さのわりに調度品が少なく、部屋の隅にソファーと長机がポツンポツンと設置されているぐらいなのだ。

 そして、この部屋には扉が無く、移動系の魔法は全て封じられる。
 壁の……どこだっか忘れたが、どっかに賢者にしか開けられない魔法の扉があるだけ。
 お師匠様が石化している今、オレ達には地下室の外へ行く手段はない。
 魔王城と繋がる魔法陣を通る以外に。

 なので……
 セリアに熱心に頼んだんだ、『どこでもトイレくん』は絶対に地下室に持ちこもうと。

 運び込んだ木箱から『どこでもトイレくん』を取り出し、ソワが設置してくれる。これで、とりあえず一安心だ。


「あの辺りに魔法陣が現れます」
 部屋の中央の床を、セリアが指さす。
「玉座の広間へと繋がる魔法陣……女神様からのご助力です。魔王城は、初代魔王が築いた魔法城。あらゆる魔法と攻撃をはじき、しかも入口がありません。魔法陣を用いねば、魔王城への侵入はほぼ不可能でしょう」
 お師匠様に聞いたであろう説明を、セリアが口にする。何か変な感じだ。
「魔法陣の出現は、魔王が目覚める少し前。数時間前の時もあれば、数分前の時もあります。代ごとに異なるのです。移動可能となるまで、ここで過ごしましょう」

 ソワとアウラさんが、長机の上に軽食を並べてくれる。
 正午まで、あと二時間ちょい。
 魔王との決戦は正午過ぎからだ。いつ魔法陣が出現しても、おかしくはない。


「ここで、お兄さまは……十年間、修行なさったのですね」
 部屋を見渡し、しみじみとした声でジョゼがつぶやく。
「違うよ。オレが暮らしたのは、この上。地下室に来たのは、オレも今日が三度目だ」
 多分、そう。
 二度目は、ほんの一月前。エスエフ界から戻ったオレは、賢者の館で裏世界について研究していたセリアを迎えに来て、地下室に入ったんだ。
 んで、一回目は八つの時。見習い勇者のオレは、お師匠様の移動魔法で賢者の館に連れて来られた。だから、そん時、地下室に入ってるはず……記憶には無いが。

 何で覚えてないのか?

 この前も変だなあとは思った。が、最近になって、何となく理由がわかった。
 勇者としての自覚ができる前……てか、ガキのころ、オレはたいへん感情が豊かなお子様だった。よく笑い、よく怒り、よく泣く子供だったわけで……
 賢者の館で修行を積むうちに、だいぶマシになった。
 が、お師匠様の石化後、オレは情緒不安定になった。
 ガキ返りをした。
 つまり、涙腺が非常に緩くなった。

 賢者の館に初めて来た時、オレはへこみまくっていた。
 勇者は世俗と交わってはいけない、魔王が現れるまで外界に出られない、家族や友人と手紙を交わす事も許されない……て、お師匠様から言われたし、泣いてオレにすがるジョゼと別れて来たばっかだったから。
 泣くまいと気を張っていた記憶もある。
 だが、最近のオレからすると、涙ダラダラだったんじゃないかなあ。

 涙で視界がにじんでたらものははっきり見えないし、泣き顔を隠そうとすりゃうつむく。

 地下室に見覚えがないのも、当然かも。

 むぅ。

 ふと、風の精霊と目が合う。
 アウラさんは、何とも意地の悪い顔で笑っていた。『その通り』と言いたそうな顔だ。
 別に真実が知りたいわけじゃない。
 オレはアウラさんから顔をそむけた。


 サラは、地下室の天井を見つめていた。
 十年間、オレが暮らした所に、幼馴染も興味があるのだろう。

「賢者の館って、どんな所?」
 どんなって……

「二人で暮らすには、広すぎる館だよ。オレやお師匠様の部屋は二階、この前、セリアさんが研究の為に籠った図書室や書庫があるのも二階だ」
「ふーん」
「オレが、魔法木偶人形と剣の修行をしたのは一階のホールだ」
「魔法木偶人形って?」
「魔王並の強度のある、魔法人形だよ。魔王戦の練習用にあるんだ」
「へー」
「魔法剣士だった二十六代目勇者の遺産だよ。ちゃんと動く木偶人形は十四体残ってて、それぞれに二十六代目の時代の有名な武道家達の動きがコピーされてるんだ」

「それって、剣の達人のコピーってこと?」
 横から声がかかる。アナベラは興味津々って顔だ。
「剣ばっかじゃないよ、弓・槍・斧・格闘・鞭の使い手のコピーがいる」
「おお」
「本気モードと師範モードに切り替えられてさ、師範モードにすりゃその道の達人から稽古をつけてもらえるわけ」
「じゃ、本気だと、もしかして!」
「うん。昔の武人のそっくりさんと、真剣勝負ができる」
「おおお!」
 アナベラが目をキラキラと輝かせる。
「それはすごいねー 対戦してみたいなー」

「ああ、いいよ。オレが賢者になったら、館に招待するよ」
「ほんと?」
 アナベラが大きな緑の目を丸くし、それから可愛く笑った。
「ありがとー 勇者さま。楽しみー」

「お宝はねえの?」
 と生意気盗賊が聞くと、セリアが咳払いをした。賢者の館で盗賊業をする気なら見逃さないぞと、脅すように。
「魔法木偶人形とか魔法修行用の部屋の仕掛けとか、かなりなお宝らしいよ。オレには価値はさっぱりわからないけど。書庫の本も、貴書が多いってさ」
 その手のお宝には興味がない、とリーズが肩をすくめる。
「あとは……過去の勇者達の武器や防具かな?」
 リーズの目がキラーンと輝く。
「過去の勇者の武器と防具! そんなん取ってあるんだ! そりゃあ、お宝中のお宝じゃん!」

「リーズ」
 眉をひそめる学者様に、リーズはおどけて手を振ってみせた。
「盗らねえよ。目の保養がしたいなあって思っただけ」
「本当ですね?」
「あったりまえじゃん。盗みってのはさ、気づかれないように鮮やかにかっさらうから美しいわけ。誰が盗ったか一目瞭然な状況下で、このオレ様が仕事するわけねえだろ?」
 それは、バレない時なら盗むぞって宣言してるのか?

「けど、下手に触ると怪我するぞ。昔の勇者が遺した伝説級のお宝には、ほぼ漏れなく呪いやら妙な祝福がついてるから」
 剣も持ち手を選ぶモノばっかだった。鞘から抜けないのやら、触れただけで雷を落としてくるのやら、柄を握っただけで掌を焼かれるやらで……昔、オレもひどい目にあった。

 オレの脅しに動じた風もなく、生意気盗賊は、
「アナベラを呼ぶ時、ついでにオレも呼んでよ」
 などと言って笑った。

「お食事は、どう、なさって、いたのですか〜?」
 聖女様がニコニコ笑顔で尋ねる。
「お師匠様が作ってくれましたよ」
 と、オレもニコニコ笑顔で答えた。

 何故か、室内はシーンとした。

「賢者様がお料理?」
 意外そうにカトリーヌが聞く。カトリーヌの背に隠れるように小さくなってるのは、マルティーヌ先生だ。仲間候補の魔法学校先生は、魔術師の帽子を目深に被り、今は体を魔術師のローブで覆っている。あの下がどうなっているのか、ちょっと……いや、かなり気になる。

「一階に、厨房があるんだ。お師匠様は移動魔法を使えるから新鮮な食材を買えるし、食料備蓄庫も井戸もあるし」
「そういう事じゃないのよ」
 顎の下に手をあて、カトリーヌがオレをジロジロと見る。
「たとえばね、私のかわいい子猫……じゃない、ドラゴンちゃんもお料理はできるのよ。生野菜を大胆にカットしたノー・ドレッシングのサラダと、生肉をノー・調味料で火であぶったお料理をご馳走してくれた事もあったわ。他の人にはどうかわからないけれども、私的にはパメラの愛情が感じられるとても素晴らしいお食事だったわ」
 はあ。
「でも、あなたの様子からして、そういう事でもなさそうよね。賢者様って、もしかしてお料理上手?」
「うん」

 何故か、室内から驚きの声があがる。

「お師匠様が料理しちゃ、おかしいのか?」
「そんな事はないわ」
 カトリーヌがウインクをする。
「家庭的でなさそうな女性が、お料理上手ってけっこう萌えるシュチエーションよ。賢者様の魅力が、一層深まるわ」
 む?

「九十八代目や百代目も子供の時に引き取られたんだぜ。賢者の館には賢者と勇者しか入れないんだ、お師匠様が家事するのは普通じゃないか?」
 オレも手伝いはした。ジャガイモを洗ったり、レタスをちぎったり、皿を並べたりとかだけど。

 あ〜

 そっか……
 賢者になったら、勇者の為に家事もしなきゃいけないのか。
 ちょっとヤバイ?
 つーか、オレに育てられる勇者……かわいそうかも。

 やっぱ……勇者の教育システムは改めるべきだ、うん。


 それから、あれこれ聞かれ、賢者の館でどんな暮らしをしてたのかを話した。
 何とも照れくさい。
 百人の伴侶を探してひたすら突っ走ってきたから、ジョゼ達とすらゆっくり話す機会があんまなかった。ほとんど自分のことを話さずにきた。

 とはいえ、それは逆も同じこと。
 オレばっか話すのもナニだから、仲間達にもオレから逆に質問して話をしてもらった。

 アナベラに遺跡探索の旅はどうだった? って聞いた。
「けっこー ドカンでドドンでバリバリだったー リーズがちょちょいとパパッと罠を外してくれなきゃ、グッチョングッチョンだったと思うー」
 てなアナベラの説明に耐えられず、リーズやセリアが横から解説を加える。
 大物のお宝は、アナベラの両手剣、リーズの小剣だけだった。が、それ以外にも微ステータスアップな装飾品を何種類か手に入れているのだとか。
「つってもスズメの涙みたいなモンだけどさ、ねーよりはマシだろ? 知力・魔力系は魔法使いのねーちゃんに、素早さ系は学者のおねーちゃんに渡したよ」

「セリアさんに素早さ系?」
 知性派というか、運動音痴っぽいのに?
「所作を早くする為です」
 セリアがコホンと咳払いをする。左手をあげて、口元をおさえて。
「先制攻撃の法は敵と仲間、二つの対象間で成立する技法です。つまり、魔王を敵と認識できる状態とならねば技法を完成させても無意味……無効果となるのです」
「てことは、魔王が起きてから唱えなきゃ駄目なわけ?」
「そうです。むろん、事前に仕込みはしておきます。魔王が目覚めてから行わねばならない所作は三つ。全てを最速で行えるよう、装備品にも心を配ったのです」
 魔王は攻撃力だけみりゃ、神族より強い。
 先制攻撃の法が完成する前に魔王に動かれたら……最悪の事態もありうるのだ。
 セリアの技法にオレ達の命運がかかっている、と言っても過言ではない。

 オレは改めてセリアを見つめた。
 言われてみれば、普段はつけないようなアクセサリーをしている。イヤリングに、指輪まで。アカデミックドレスの下にも装飾品があるのかな? 左手の袖から腕輪っぽいのが、ちょろっと見えてるし。
 いきなりセリアが動く。
 バッ! と左手を下げて右手で手首を押さえると、オレに背を向け長椅子へと向かう。いつもより動作が早い……のかな?
「た、立ち話も、何です。みなさま、長椅子に座るなり、リラックス、いたしましょう」
 動揺している。
 照れてるのか? アクセサリーをつけてるったって、実用品じゃん。恥ずかしがる事ないのに。

「お時間まで何をなさっていても結構ですが、戦闘準備だけは移動前に完璧に整えておいてください。魔王と対峙してからの自他の強化は、敵対行為とカウントされかねませんので。ご自分に支援魔法をかけるのはもちろん、装備品の追加・貸与等も厳禁です」
 おっけぇ〜


 それから雑談をしながら、思い思いに時を過ごした。

 準備運動をして体をほぐしたり、長椅子で休憩したり、軽食を食べたり。

 イザベルさんは長机に水晶珠を置き、ゆっくりと撫でていた。「何を占ってるんですか?」って聞いても、「ないしょ」と、うふふと笑うだけだったが。

 パメラさんは、ドラちゃんを獣使い屋に連れてった日の事を語ってくれた。お師さまや兄弟子達から祝福してもらったと、とても嬉しそうに。

 院長様が体を起こせるぐらいには元気になったってマリーちゃんがほわ〜と語り、昔の思い出を語ろうとしたシャルロットちゃんは何故かセリアに阻まれ……

 ニーナはずっと楽しそうだった。みんなの話をわくわく顔で聞き、ソワとたわむれ、ドラちゃんに体に巻きついてもらい、ピンクのクマのぬいぐるみとポチ2号の培養カプセルを抱きしめニコニコ笑っていた。

 オレも楽しかった。
 仲間を探さねば! と焦る事なく、だらだら過ごせるのは久しぶりだし。
 ジョゼやサラと並んで座り、思い出話をしたり軽口をたたいたり。

 だが、みんな、どんな時も目の端で地下室の床を捉えている。

 長机の上に置かれたルネさんの発明品『自動ねじまき 時計くん』で時間を確認しては、中央の床へと視線を向ける。

 そこに現れるはずのものを待って。





 最初は、かすかなゆらぎだった。
 熱で空気が揺れているような……

 パシッ、パシッと何かがはじけるような音が響き……

 やがて……

 黒い炎が生まれ、床を走る。
 大きな円を描いて。

 円を描き終えると炎は内へと向かい、複雑な動きをする。
 ジグザグに、直線的に、或いは丸く。
 呪言葉と幾何学的な模様を床に刻んでゆく。

 間もなく、黒い炎は消えた。自身が描いた図形に飲み込まれるように。

 正午まで十五分を切ったところで、ついに……
 魔王城に通じる、転移の魔法陣が現れたのだ。

「ティーナ、マーイさん、サブレ、グラキエス様、エクレール、ルーチェさん」
 契約の石を通し、精霊達に伝えた。魔王城への道が開いた、と。

 すかさず、サブレが現れる。
 しかし、ルネさん家で武器開発を手伝っている炎・水・氷・雷・光の精霊はやって来ない。 
「ルーチェさん、至急ルネさんを連れて来て欲しいんだけど」
 魔王城は結界で覆われている。中へ行くにはこの魔法陣を利用するしか手はなく、魔王の目覚めと共に魔法陣は消滅する。

《勇者ジャン、あとほんの少し待っていただけませんか?》
 ホワイト・オパールのブローチから、光の精霊の声が響く。
《発明家さんが最後の最後のスパートに入っています。『あと5分!』とか叫んでいらっしゃいます……》
 まだ作ってるのかよ。
「けど、もう時間が」
《大丈夫です。正午三分前には必ずそちらに移動します。その時間に強制的に移動魔法を使う事は、発明家さんも了承済みです》

 むぅ。

『勇者の書』の最終ページに、
『魔王城直通の魔法陣出現後も、発明家ルネは現れず……発明は計画的に』とでも書いてやろうか。

……責める文章じゃ可哀そうか。『勇者の書』は代々の勇者が見るしな。
『発明家ルネは、間もなく駆けつけてくれるだろう。地上の平和の為、ぎりぎりまで武器開発に心血を注いでくれた仲間に感謝する』
 に、しとくか。


 ルネさんが到着したら、すぐに転移だ。

 ジョゼはレイを、サラはアナムを自分に同化させる。準備運動をしたり、装備を確認してる仲間も居る。

 オレは『勇者の書』の最後のページを記し、書を閉じた。
 賢者の館の地下に残してゆくこの書を取りに来るのは、オレだ。賢者になったオレだ。かたくそう信じて。

 裏英雄世界で貰った、ヒーロースプレー。ペンの形をした発明品を、上下にしゃかしゃかと振っておく。
 右手のみに噴射するにしても、強化スーツの素はあと一回分だ。
 効果時間は六時間。オレの番が回ってくるまでに六時間もかかるとは思えないけど、一応の用心で、開戦直前までふりかけない。シェイクだけにしとく。
 噴射後数秒で透明なスーツは完成するから、問題はないはずだ。

 正午まで残り三分となる。

 オレの目の前の空間が揺れる。
 光差す場所から、魔法の灯りの満ちた地下室へ。
 光から光へと、オレの精霊が移動魔法を使って現れたのだ。
 仲間の精霊や武器の入ったコンテナ、それに、
「ああああ、もうタイムアップですか! たった今、いいアイデアが浮かんだのに! 魔王戦に全力で挑むには、体調を万全にするのが大事! みなさまの精神を、しゃきっとリフレッシュする発明品! その名も『コーヒー冷めないポットくん』! まずコーヒー豆を入れてですね」
 意味不明な事をわめいているロボットアーマーの人などを伴って。

 ルーチェさんの姿を見た途端、『はあ?』とは思った。
 緑の髪に、藍色の兜、オレンジのブーツ……は、まあいいとして……
 目に痛いほどのキンキラの黄色の鎧をつけ、右手に真っ赤な長剣を持ち、左手に青い盾を構え、背中から紫の翼を生やしている……

 それが、七色ファッションのとっておき?
 すげぇ毒々しいんですけど。
 堕天使ですか?

 オレの内心のつっこみに、光の精霊からは《勝利の女神です! 魔王戦必勝を祈り、おめでたい格好にしたんですよ!》との反論が返った。
 だが、今は相手をしている暇はない。それどころではない。

 オレは、ルーチェさんに運ばれて来た人物に近寄った。
「何しに来たんだ?」
 呼ばれてもいないのに来るなんて、馬鹿だろう、おまえ?
 魔王と戦いに行くんだぞ。
 運が悪かったら、死ぬぞ?

「わからないのかね? 用があるから来たのだよ」
 そいつはフッと笑い、オレに対し右手を突き出す。
 ぺたり、と腹に何かが貼られた。
 変な模様の……シール?
「『運がひらけ〜る君』。古今東西の護符をミックスして作った、ルネさんオリジナルの開運シールだ。不幸になりやすい君を救いたいと、何ともいじらしいお気持ちで発明してくだすったのだよ」
 へ?
「効果のほどを検証する時間はなかったが、有害という事はあるまい。ルネさんのまごころに感謝し、装備していたまえ」
 いやいやいやいや! 今はそんな事はどうでもいい! 仲間でも仲間候補でもない、おまえが何でここに!

「お喜びください、勇者様! 新たに九つの武器が完成しました!」
 ちょっと離れた所から、ルネさんのすっとんきょうな声が響く。
「最初に四! 次に三! そして九! どれも最高の私の発明品が、全部で十八! 魔王戦用に十八もできたのです!」
 ん?
 四、三、九で……十八……?
「すべて、取り扱いがちょ〜簡単! しかも! 魔王に大ダメージを与えられるエゲツナイ武器ばかりです! 私の発明品があれば、魔王なんぞイチコロ! そうは思いませんか、勇者様!」
 ルネさんの声は遠い。オレの方にまったく近寄ってこない。
「勇者様……あれ? 勇者様、背が縮みました……? あ〜、じゃないか、『迷子くん』が熱膨張しているのかー」

「……頭の中に虫がわいてんじゃねーのか?」
 ルネさんに話しかけられている奴が、顔をひきつらせながら吐き捨てる。
「オレとあのバカは、これっぽっちも似てねーよ! だいたいな、四+三+九=十六だろうが!」
「あー そー そー そーでした! 十六に注目なさるなんて、さすが勇者様。お目が、高い!」
「だから、勇者じゃねーって言ってるだろーが! リーズだよ、リーズ! 忘れたのかよ、ねーちゃん!」

「と、いうわけだよ」
 オレの前の金髪巻き毛野郎が、溜息をつく。
「ルネさんは、一カ月近く平均三時間睡眠、そしておとといから完徹なのだ」
 完徹……
「見ての通りの、ナチュラル・ハイ状態だ。君とリーズ嬢の区別もつかなくなるほど、意識が朦朧としている。せっかく発明した武器についても、まともに解説ができるかどうか」

「じゃ、武器の解説の為に来たのか?」
 そんなのエクレールにさせりゃいいのに。
《だよね? あたしもそう言ったんだけど、その人、聞かなくて》
 紫水晶の髪と衣装の雷の精霊が、ちょっぴりむくれた顔で言う。
《ルネの発明はどれも最高だもの。ぜ〜んぶ、ドカンでビシャンでスゴゴゴ! どれを使っても、魔王なんて絶対イチコロなのに!》
 む。
 やっぱ……
 さっきの無し。エクレールは解説役に向かない。
 何でよ! っと怒る雷の精霊は、風・氷・光のベテラン精霊に任せた……

「ルネさんの助手達も似たような状態だった。理知的なサガモア君までもが支離滅裂な事しかつぶやかないのだ、惨憺たる有様だったよ。異世界の方々に武器の説明をできる者は、ルネさんの発明と関わってきたこの私しか居ないだろう?」
 キザな男がキザったらしい仕草で、髪をふぁさっと掻きあげる。
「しかしね、ジャン君、恩に着る必要はないよ。勇者に協力するのは、臣民の義務。私は当然のことをなす為に、魔王城へ向かうだけだ。ポワエルデュー侯爵家嫡男としての矜持を持ってね」
 お貴族様が、ハハハと耳障りな声で笑う。
 爽やかな好青年を印象づけるような……実にムカつく笑い方だ。

 いつも通りじゃん、こいつ……
 ジョゼに振られたのに、もう立ち直ったのか。

「来ちまったものは、しょうがない。しっかり働けよ、お貴族様」


「ジャン、一分前よ」
 サラに頷きを返し、オレは地下室の中央へと歩を進めた。魔法絹布を左脇に抱えて。
 コンテナを抱えた精霊達、各々の荷物を持った仲間達が後に続く。

 オレが魔法陣の中央に足を踏み入れた途端、円陣から黒い霧のようなものが広がり……


 オレの視界から賢者の館の地下室は消え、そして……
+注意+
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