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ハーレム100 作者:松宮星

決戦(Ⅰ)

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賢者の館へ (※※)

 お師匠様の夢を見た。

 真っ暗で何もない所で、オレはお師匠様と向き合っていた。

 白銀の髪に、白銀のローブ、表情のない綺麗な顔。
 お師匠様のすみれ色の瞳は、まっすぐに前を見つめていた。

『お師匠様』
 と、呼んだが、返事は返らなかった。

 闇の中、お師匠様はただ前を見つめていた。

 視線が重ならない。目が合っていない。
 オレを見ているんじゃない。オレの背後のずーっと先を見ているんだと、わかった。

 近寄ろうと、足を踏み出すと……
 いきなり、後ろにひっぱられた。

 視点が変わる。

 アウラさんの風の結界に包まれ、宙に浮かんだ時に似ている。
 オレはどんどん高みへとあがり、後方へと運ばれてゆく。

 お師匠様がとても小さくなる。

『お師匠様!』
 叫んでも、お師匠様はオレを見ない。

 同じ姿勢でたたずみ続けている。

 お師匠様の視界の先には……

 何もなかった。

 漠々とした闇が、ただ広がっていた……





《おはようございます、ご主人様》
 土の精霊サブレの挨拶が、やけに大きく頭の中に響いた。

 胸が痛い
 心臓がバクバクいっている。
 息をするのが、苦しい。

 オレは胸を押さえながら、体を起こした。
 やけに寒い……
 じっとりと汗をかいている。

「何つう夢……」

 抱いていた不安が、そのまま形となったようだった。

 お師匠様の目に、オレは映っていなかった。
 天に向かって、オレは昇ってゆくだけだった……

《予知夢ではありませんよ》
 体の下から声がする。
《ご主人様には魔力も霊能力もございません。予知夢を見る能力などないのです》
 ベッドよりももっと下、床の方から声は聞こえる。
《人間は、睡眠中に頭の中で膨大な情報を処理をします。その際に、既存の情報や感情・外界からの刺激によって、夢を見ると言われています》
 オレはベッドの端に寄って、ベッドの下敷きになっている黄色い絨毯を見つめた。
 一晩中、ベッドごとオレの重みを感じてうっとりしたいって望んだ、土の精霊の変化(へんげ)だ。
 サブレはのんびりとした口調で、らしくない知識を披露する。
《夢占いによりますと、闇の中で出逢う知人は心強い味方を表します》
 精霊は人の心が読める。オレがどんな夢を見たか、サブレにはわかっているのだ。
《天へと昇ってゆく夢は、落下……ようするに失敗を恐れる心を示唆する場合と、上昇志向を意味する場合があるのだとか》

 死を暗示してるとも限らないのか……

《夢は夢。現実とは異なった、物語のようなものです。現実とは結びつきません。嫌な夢はさっさと忘れ、楽しい夢だけを覚えていればよろしいかと》

 何時の間にか、呼吸は楽になっていた。
 カーテンが閉じられた窓から、やわらかな朝の光が漏れ入っているのが見えた。

 今日はいい天気のようだ……

「サブレの言う通りだな……サンキュウ」

《いえいえ。ノミの心臓を押さえて怯えるお姿は、とても魅力的ですが……》
 む?
《魔王戦当日なので、前向きになってくださらねば困ります。ご主人様には生き延びていただきたいので。トホホ顔の観察は、我慢します》
 むむ?
《今日が魔王戦でなければ『昨晩は、本当に激しかったですね……私、幸せでした……ご主人様のお体の重みが忘れられませんわ』とか何とか義妹さんや魔術師さんがいる前でわざとポロっと言いましたのに。そんなんじゃないと必死に否定するご主人様を、お二人が冷たい目で見て……弁解すればするほど誤解が深まり事態はこじれ……そんなス・テ・キなお姿をじっくりと拝見したいところですが、今日はしません。又にします》

 く。

 このぉ……
 Mの振りをしたSめ。


 金髪の美少女姿になったサブレに手伝ってもらって、身支度を整えた。
 神聖防具のサークレットをつけ、精霊との契約の石を装備し、アネコ様から貰った布を左の二の腕に巻き、リーズから借りた耳飾りをつけ、大事なものを胸ポケットにしまい、勇者の剣を腰に差し、勇者のマントもつけた。

「そいや、よく夢占いなんて知ってたな」
《ご主人様はたまに夜にうなされていますから、知識のある方の記憶を読み、情報を仕入れておいたのです》
 むぅ。オレ、うなされてるのか……不安をいっぱい抱えてるからだな。

 一応……心配してくれたのかな?
 国一番の占い師がそばに居るんだし、知識を収集するには困らないだろうが。
《いいえ。読んだのは、学者さんの記憶です》

 セリア?

 セリアが夢占い?

 意外な……

 あ〜 あれか。占い全般が大嫌いだから、占いのいい加減さを証明する為に、文献を読みまくったとか……そんなんだろう。

《それだけでもありませんが……》
 ん?
《乙女心は複雑ですから》
 乙女?

 サブレが妙に色っぽく笑う。何となく、イザベルさんに似た笑い方だ。





「おはよー 勇者さまー」
「よ」
 廊下の外には、ビキニ戦士と盗賊が待っていた。
「護衛するよー」
「土のねーちゃんを同化させて防御力あげときな。本番前にくたばったらバカだぜ」

 アナベラが先頭に立ち、リーズがオレの後ろにつく。
 ビキニ戦士のぷりんぷりんな後ろ姿を見ながら、明るい光に満ちた廊下を歩く。
 たまに出逢うメイドさんは、みな可愛らしい。愛想よくオレに挨拶して仕事に戻る。

 実に、のどかだ。

 オランジュ邸の外は、厳戒態勢がひかれているのだろうが。

 今日は『勇者の日』。
 勇者が魔王と戦う日なんで、国中が特別休日となっている。役場も学校も商店も全部休み。農作業も土木工事も、今日は休むよう通達されているはずだ。

 オレがガキの時、『勇者の日』があった。
 あん時は勇者の名前すら知らなかったが……百代目勇者セルジュがお師匠様と共に、魔王に挑んだわけだ。

 神父様や学校の先生に『お家で勇者様の勝利を祈って、勇者様に正義の(パワー)を送りましょう』とか言われ、オレは素直にその通りにした。ジョゼやサラやベルナ母さん達と地下にお籠りしたんだが……
 本当は危険だから、避難させられてたんだ。
 勇者が魔王と激突したせいで、何度となく天変地異が起きてるし、世情が不安なせいで暴動やら反乱が起きたりしてる。

 今日、活発に活動しているのは軍隊ぐらい。あとは、聖教会の神父様や尼僧さんか。
 屋敷の中からじゃ見えないが、オランジュ邸の周囲は警備兵がごまんと居るだろう。
 魔王城の周囲も王国軍が包囲しているらしい。前にお師匠様が言ってた。

 軍隊に出番を回したくない。
 魔王には何もさせずに確実に倒す……それがオレの使命なのだ。

「勇者さまを連れて来たよー」
 アナベラが食堂の扉を開ける。

『勇者の日』の朝だ。
 作戦や戦術の最終確認を何度やっても不安になり……
 精神統一しようと頑張っても心が乱れ……
 今更ながら鍛錬でもしようかと焦りまくったりなんかして……
 ピリピリしたり、ガチガチになったりしそうなものだ。

 けれども、食堂に入った途端、魔王戦当日だって気負いはどっかに飛んでいってしまった。


 オレのハートはキュンキュンキュンキュンと鳴った!
 鳴り響いた!


 いや、もう、何というか……
 別世界!
 ほぼ! 裸! な姿の美女達がいっぱい!
 わずかな布や装飾品だけをまとう女の子やおねえ様達は……仲間候補だった十九人とメイドさんだ。

 特別な事をしているわけじゃない。
 仲間候補達は立って雑談しているだけだし、メイドさんは朝食の準備をしているだけだ。
 水着姿やら、革紐やら、本物か細工物かはわかんないけど野菜やパンだけの装いやらをして。

 メイドさんは二種類。エッチな格好の子の他に、普通の格好のメイドさんも混じってたりする!

 日常と非日常が混在しているのが、ステキ!

 危ない格好してる子も、さまざま。
 全然、気にしてなさそうなのが、南方蛮族戦士や海賊のおねえ様方だ。立派なお胸やお尻を、堂々と揺らしている。
 エッチな格好のメイドさん達は、平然とした顔をつくっていた。でも、頬が赤い。恥ずかしいけど、必死に感情を隠して仕事に集中してる感じ。かなりキュンキュンもの。命令されて仕方なくエッチな格好をしてまーす、って雰囲気がありあり。まともな格好の同僚を羨ましそうに見てたりして。
 普通の格好のメイドさんは、仲間候補や同僚をなるべく見ないよう気を使ってる。でも、変な格好させられないで良かったーって安堵感も漂っている。
 どの子も、魅力的……

 その中でも、やっぱり、マルティーヌ先生が最高!
 肌を露出させた子が増えたってのに、先生は逆だ。装いが増えている。
 魔術師の帽子+大事なところだけを隠す宝飾品と銀のワイヤーにプラスされたのは……
 一つ目は、マント。
 しかし! 幅が狭く、丈が短い! 背こそ隠れども、お尻は見え隠れ、でもって前は隠れず。マントの左側をひっぱって前を隠そうとすると、ぷるんな右のお尻がどんどん見えちゃって……右をひっぱれば、左のお尻が……
 増えた二つ目は、首輪……。犬の首輪そっくりなそれが、先生の細い首を飾っていて……
 マルティーヌ先生の全身は、今日もほのかに赤い。魔術師の帽子を目深に被って、顔を必死に隠していらっしゃるのが、実に……
挿絵(By みてみん)
 キュンキュンしてたら、すぐ近くから声がした。扉側の壁にもたれていた女狩人が、フフンと笑った。
「マルティーヌはね、魔術師学校でシャルロットさんやその兄を教えていた時期もあるんですって」
 なにぃ!
 教え子の前で、こ、こ、この格好を強いられてるわけ?
 見られちゃってるの?
 それは恥ずかしい……

 オレのハートはキュンキュンキュンキュンと鳴った! 鳴り響いた!

 やべ。

 鼻血出そう。


 かなり非日常な空間の中には、いつもの仲間も居た。長机に並んで座っている。
《おはよー おにーちゃん》と、白い幽霊のニーナ。ニーナにべったりとくっついている闇の精霊ソワも、オレにニコリと微笑みかける。
「うふふ。ほれぼれするような晴天になりましたわね」と、色っぽいイザベルさん。
「勇者様、おはようございます」と、きりりとしたセリア。
「ごきげんよう、勇者さま」と、今日も可愛らしいシャルロットちゃん。

「おはようございます……お兄さま」
 席から立ち、義妹がほわっと微笑む。昨夜の動揺の跡は、綺麗さっぱり消えている。いつも通りのジョゼだ。半裸の女性達を見ないよう、うつむきがちだが。
 ジョゼの左肩には、紫の小鳥が居た。こいつは、オレの方を見ようともしない。

 護衛役のアナベラとリーズが、オレの後ろに立つ。

 席についたオレは、室内を見回した。
 カトリーヌとパメラさんは、仲間候補の女性達のまとめ役だった。十九人を、オレらと違うテーブルにつかせる。

 座ったまんま、オレは十九人を見渡せた。
 食事中も、キュンキュンしてろって事だろう。
 仲間候補達は、可能な限りジョブ変更してるはず。
 ジョブが異なれば、昨日キュンキュンした子でも今日のキュンキュンで仲間枠入りするかもしれない……そう期待して、カトリーヌ達はオレが萌えやすい場を準備してくれたわけだ。

 食堂に、サラは居なかった。
 マリーちゃんもシャルルも居ない。

「シャルルには、昨夜のうちにルネさんのお宅に行ってもらいました。スポンサーが立ち合っているのです、多少なりとも開発は進行したでしょう」と、セリア。
 なるほど。脱線しがちなルネさんを、スポンサーの威光で働かせようって作戦だな。
 しかし、ジョゼの部屋での騒動の後、シャルルの奴、ルネさん家に行ったのか……オレにムカついてるだろうに。

「マリー様とサラさんは、別室です」
 別メニューの人間は同席しない方が良いのだ、とシャルロットちゃんは言う。
「お味もそうなのですけれども、見た目もたいへん独特なお料理なのです。アレをお食べになっているところは、御覧にならない方が賢明ですわ」
 食欲が減退しますもの、とシャルロットちゃんがコロコロ笑う。
 魔力回復&増強用の料理って……ゲテモノ料理なのかねえ。


 朝食は、けっこう食った。
 何を口に運んだのか、よく思い出せないが。
 素晴らしい格好の仲間候補と向かい合っての食事だ。
 鼻の下を伸ばさない! にやけない! 不必要にじろじろ見ない! てな感じに必死すぎて、上の空だったんだ。

 けど、緊張でガチガチになってたら、どうせ食事なんて喉を通らないわけだし。
 バカバカしいほどにエッチな雰囲気のおかげで、むしろリラックスできたと思う。


 百人目は増やせなかったが。



「それでは、百人目の候補としてシャルロットとマルティーヌさんも魔王城へ同道願います。三十分後に勇者様のお部屋に集合、最終確認の後、魔王城へ出立いたしましょう」
 学者様がそう宣言した後、解散となった。

 マルティーヌ先生は、涙目でカトリーヌとボソボソと話していた。
 カトリーヌはネズミを弄ぶネコっていうか……にんまりと満足そうに笑っている。先生の格好は、間違いなく女狩人のコーディネートだな……


「お兄さま……」
 席を立とうとしたら、隣席の義妹に声をかけられた。

「昨夜は取り乱してしまって……ごめんなさい。あれから、シャルル様からお手紙をいただきました」
 口元に手をあて、義妹が話しづらい話題を口にする。
「魔王戦が終わった後……きちんと話し合って、お互いに納得がいく形にしましょうって。私もその方がいいかと……」
「うん、わかった」
 婚約を破棄するにしても、両者納得ずくの形で進めるってことだな。
「……国王陛下からのご褒美の事で、お兄さまにお願いをしていましたけれども……そういう事となりましたので、」
「ああ、わかってるよ」
 ジョゼとシャルルの婚約破棄を王様にお願いする件は、無しになったわけだ。
 一応、遺言状の方も書き直した。
 アンヌばあさんに、ジョゼと未来について話し合ってくれって頼む形で。
 ジョゼにはオランジュ伯爵家の娘としての義務もつきまとうんだろうが、それで不幸になって欲しくない。
 まあ、バアさんは変わった。頭ごなしに命令だけしてジョゼの主張は完全(ガン)無視、な〜んてことはもうしないだろうけど。
「国王陛下からのご褒美は……お兄さまのお望みのことを……」
「うん。こっちも、何か考えなくっちゃなあ」
 こっちも? と、首をかしげる義妹に何でもないと手を振った。

 ニーナも、神様へのお願いは自分の為に使ってくれと望んだ。
 魔王に勝ちゃ、神様から二つのご褒美&王様からのご褒美をもらえるわけだ。

 生き延びればだけど。





 精霊は己の司るものから司るものへと移動魔法で跳ぶ。
 なので、生身の人間の運搬には、炎・氷・雷の精霊は非常に向かない。できれば水・土の精霊も避けたいところ。防御結界を張ってもらや死ぬ事はないだろうけど。
 安全に跳ぶんなら、風か光か闇の精霊に頼むのがいい。

 契約の石を通し、風の精霊を呼び戻す。
 オレの前に、緑のベールをふよふよと漂わせた精霊が現れる。
 武器の入ったコンテナを抱えて。
《ただいま〜 おにーさん、完成品を三つ持って来たわよ〜ん》
 おぉ! 三つも!
「ありがとう、アウラさん!」
 オレの炎・水・風・氷・雷・光の精霊達は、武器開発状況があまりにもあまりにもな状況だったんで、ルネさんの手伝いに行ってくれている。
 昨晩に届いた四つに加え、これでルネさんの発明した魔王戦用武器は七つとなった。
 それだけありゃあ、戦闘力のない伴侶達も魔王戦でどうにか敵対行動がとれる……だろう、多分。

《ぎりぎりまで、発明家さんは武器開発するそうよ。ルーチェは最後まで発明家さんの所に残しておいて。おにーさんの合図があったら、発明家さんとその時点で完成してる発明品を持って駆けつけるって》
 おっけぇ〜
 エクレールを呼ぶのも、ぎりぎりのがいいな。機械に詳しいエクレールなら、良い助手になってるだろうし。

 昼までに役立ちそうな武器がいっぱいできる! そう信じて待とう。



 指定の時刻に、仲間達と仲間候補がオレの部屋に集まる。
 食堂で会えなかったサラとマリーちゃんも居る。
『気合いいれていきなさいよ』と拳で軽くオレをこづくサラ、『勇者さま、ファイト です〜』とぽよぽよ声で挨拶してくれるマリーちゃん。
 良い意味の緊張感が生まれた。

「本日正午過ぎから魔王戦です。その数分前から数時間前に、賢者の館の地下室に魔王城直通の魔法陣が出現します。我々は地下室に移動、勇者様の精霊達は不測の事態に備えて魔法陣出現まで外界で待機を願います」
 セリアが本日の予定を改めて伝える。
 今更、作戦変更があるはずもなく。
 聞いて、ただ頷くだけだった。

「オランジュ邸に待機してもらうのは、土の精霊一体で充分でしょう。勇者様、荷物の運搬を頼みたいので、闇の精霊は賢者の館に伴いください」
 学者様にしては珍しい温情。
 大量に荷物があろうが、アウラさんに頼めば全部簡単に運んでもらえる。荷物うんぬんは方便だ。
 ニーナがソワに抱きつく。賢者の館で、昼まで一緒に遊べると喜んで。

 ソワが託されたのは、エクレールが運んで来たコンテナと大きな木箱。木箱の中身は、地下室の待ち時間に口にできる飲食物と、オレが地下室に持ち込んで欲しいと切望した『どこでもトイレくん』。五セット入ってるそうだ。

 共に旅立つ仲間は、だいたい身軽。武器の他には、小さな手荷物ぐらいしか持ってない。
 アナベラは何故かどでかい衣装ケースを抱えているが。セリアに運ぶよう頼まれたもので、いざって時の非常装備が入っているとのこと。

 オレが持っていくものは、装備を除けば『勇者の書』と魔法絹布ぐらいだ。
 伴侶達が住む十一の世界と繋がっている魔法絹布は、大事に折り畳んで左わきに抱えた。



 旅立つ少し前、女伯爵のバアさんが現れた。
 直接、会うのは久しぶりだ。
 キュンキュンしかけて以来、バアさんとは面会謝絶にされてたんで。

 バアさんは、何つーか格好いい。
 綺麗に結いあげた白髪、昔は美人だったんだろうなあって顔は凛々しく、背筋もしゃきっとしてるし、深い蒼の装いも派手すぎず上品だ。
 いかにも女伯爵! って感じ。近寄りがたい雰囲気が漂っている。
 唯一、浮いているのがピンクローズの髪飾りだ。可愛らしい作りなんで、他と調和していない。
 しかし、ンな事はどうでもいいんだろう。
 友を見送る装いに、この髪飾りは欠かせないんだから。
挿絵(By みてみん)

 バアさんは、まず公人としての挨拶をした。
「勇者様、お仲間のみなさま方、ご武運をお祈りいたします。どうぞ、ご立派に使命をお果たしください」

 オレとセリアが滞在の礼と助力への感謝を伝えても、
「勇者様への協力は、臣民の義務です。お気になさらず。私の方こそ、いたらぬお世話しかできず、恥ずかしく思っておりました」
 と、逆に謝罪するし。
 真面目でとっつきにくいところは、あいかわらずみたいだ。
 けど、アレな格好のアナベラやパメラさんにも好意的になったし、身分が低いカトリーヌにも声をかけるようになった。

 ニーナと再会できて、バアさんは変わった。

「ジョゼフィーヌ」
 私人としてバアさんが、孫娘に声をかける。

「勇者様をお助けし、魔王討伐をお果たしなさい。家長として、オランジュ伯爵家の者が魔王討伐に参戦する事を誇らしく思います。そして、」
 バアさんが、寂しそうに微笑を浮かべる。
「祖母として……あなたの無事を祈ります。あなたは、私のたった一人の身内です。必ず帰っていらっしゃい……いいえ、帰って来て、ジョゼフィーヌ。待っています」

「おばあ様……」
 ジョゼがバアさんに、ほわっと微笑む。
「ご心配なさらないで、おばあ様……私、必ず帰ります。おばあ様のもとへ……」

 初めて会った時、バアさんとジョゼは他人行儀な関係だった。
 けど、バアさんがジョゼに対して偉そうに命令するなんて、もうしなさそう。
 孫娘の幸せを第一に考えてくれそうだ。

 バアさんの視線が、友人へと向く。落ち着いた微笑をたたえて。
「ニーナ……気をつけてね。あなたの未来に光があらんことを」
《ありがとー アンヌ》
 白い幽霊がにっこりと微笑む。ニーナは頭の左側に、大きなピンクローズの髪飾りをつけている。
 アンヌばあさんと、おそろいだ。
 華やかで愛らしいバラを髪に咲かせた二人は、静かに見つめ合った。
《先にいって、まってるね。アンヌは、ゆっくり来てよ。お土産話をいっぱい聞きたいもの。楽しい思い出を、いっぱいつくってから来てね》



「それでは、行って参ります」
 オレや仲間達の挨拶に、バアさんが鷹揚に頷く。

 毅然とたたずむアンヌばあさん、その斜め後ろにサブレ。二人は、オレらが光に包まれ消えゆくまで見送ってくれた。


 百日間お世話になったオランジュ邸に別れを告げ、オレは仲間達と共に懐かしい賢者の館へと旅立って行った……
+注意+
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