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ハーレム100 作者:松宮星

魔王戦まで

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精霊達とルネ (※)

「マーイさん」
 部屋に戻ったオレは、水の精霊を呼び出した。

「二人っきりで話したい。結界を張ってくれる?」
 願いを聞き届け、マーイさんが水の結界を張る。

 向かい合ったオレ達の周囲を、水のカーテンが覆う。マーイさんの防御壁だ。涼しげな水の音だけが響く。
「これで、声は外に漏れない?」
《はい》

 オレは水の精霊を見つめた。
 長い水色の髪が、綺麗だ。けど、濡れたように輝いていて重たそうに見える。
 額で二つに分かれた髪の毛、契約の石が埋め込まれた黒い仮面、水色のドレス。
 空気中の水分に潜み、オレを護衛してくれる水の精霊……

「オレが何の話をしたいのかは、わかるよね?」
 精霊は人の心が読める。
 マーイさんが、少しうつむいた。
《『女神の何でも答えちゃおうコーナー』の事ですね……》
 オレは頷いた。
「ずっと気になってたんだ……教えてくれ」



 ジパング界から還ったオレのもとに女神様が降臨したのは……だいたい五十日前だ。

 伴侶五十人突破+日数がほぼ半分経過で、女神様が勇者と仲間達を激励に来たわけだ。
 その場に居た者が、一回づつ神様に何でも質問していい事になった。
 オレは質問の機会(チャンス)をふいにしてしまったが。
 まあ、それはいいとして……
 ジョゼは魔王戦用の攻撃……えっと、雷なんちゃら拳のことを教わった。
 サラは『メテオストーム』の事を教わっていた。もっとも、危険すぎる魔法だから使うな、とセリアに釘を刺されていたが。
 マリーちゃんは『マッハな方』のことを、カトリーヌはパメラさんの相棒のことを、セリアは赴くべき世界のことを聞いていた。

 マーイさんは『魔王戦の事を聞きたい』と願い、神さまと内緒話をした。
 どんな質問をしたのか、声が聞こえなかったのだ。
 魔王戦で魔王にダメージを与える以外のことをしたいみたいだったが……
 女神つきのお師匠様が、
《八体が協力して息を合わせても、成功率は百分の一以下。お勧めできないぞぉ》
 って答えてたから、ヤバい事をするつもりなのは確かだ。
 あの時、マーイさんは『アイデアの段階だから今は話せない』って言ってた。
 話してくれるのを待ってたけど、もう待てない。
 明日は魔王戦だ……

「女神様に何って質問したのか、何をする気なのか教えてくれ」
《それは……》
 マーイさんはお腹のあたりで手を組み合わせ、もじもじしている。

「正直に答えてくれよ。嘘やごまかしは無しだ。オレが理解できるように、わかりやすく説明してくれ」
 精霊支配者に命じられれば、しもべは逆らえない。

 マーイさんが、ゆっくりと語り始める。
 つらそうに声をしぼり出して。

《……ご主人様をお救いする方法をお尋ねしました……》
「オレを救う?」

《魔王戦で究極魔法を……使っていただきたくなかったのです……》

《ご主人様を失いたくなかったのです……》

《精霊界は……ご主人様が二番目に訪れた世界……ご主人様が戦われる時には、私達精霊は既に魔王への敵対行為を終えています……『先制攻撃の法』発動中は、PT全員が攻撃を終えるまで二巡目はできません》

《魔王への攻撃も、味方への支援もできなくなっています……けれども、私達が自分の意志で動くのではなく……しもべとして使役されるのであれば……問題はありません。ですから……》

 黒い仮面をつけたマーイさんが、横を向く。
 つられてオレもそっちを見た。
 水の壁の先に、白い反物……魔法絹布があった。

《アレを利用するつもりでした》
「魔法絹布を?」
 どうやって?

《精霊全員の攻撃が終わった後……『精霊界の伴侶たちよ、感謝する』とご主人様におっしゃっていただきます……》
 帰還の為の言葉をオレが口にする?
 他の世界の仲間は、召喚して帰還してもらう。けど、精霊達にはその必要はない。
 その台詞を口にする気はないんだが……

《いいえ……ご主人様は必ずそうおっしゃいます……術をかけてありますから……》
 へ?
《催眠暗示です……だいぶ前に内緒で、かけました……》

 はあ?

《私達はいったん精霊界に還ります。そして……百人の伴侶達が攻撃を終えた時……『精霊界の伴侶達よ』と魔法陣に呼びかけて召喚していただきます。それも、既に暗示をかけてあります……》
 再召喚?

「何をする気なんだ?」

《……再召喚された私達は本来の姿に戻っていて……召喚され次第、既存の命令を果たすのです……魔王を倒せという、ご主人様のご命令を……》

「オレはそんな命令は」
《していただいています……》
 マーイさんが体を震わせる。
《暗示をかけ……既にご命令を口にしていただいています……》

「マーイさん……」

 水の精霊がうつむく。
《申し訳ございません……》

「オレの攻撃として、精霊達全員で魔王にぶつかる気だったのか?」
《はい……》
「んなことしたら、みんな」
《四散します。でも、四散は人間の死とは違います……時をかければ復活できます……けれども、ご主人様は……究極魔法で亡くなったら、それっきりです……。二度とお会いできない……絶対に嫌です……》

 顔をあげ、マーイさんの黒い仮面がオレを見つめる。額にアクアマリンを輝かせて。
《私を救ってくださったのはご主人様です……私の主人はあなたしか居ない……あなたが死んだら、私は存在する意味すら無くなります……》
 涙をぬぐうかのように、マーイさんが仮面にそっと手を触れる。
《生きてください、ご主人様……お願いです……》
挿絵(By みてみん)
「……マーイさんの作戦のこと、他のみんなは何って言ってるんだ?」
《受け入れてくれました……みな、ご主人様を失いたくないと考えていますから……》
「それだけじゃない」
 オレはかぶりを振った。
「マーイさんの願いだから聞き届けたんだろ? 大切な仲間が思いつめているから、どうにかしてあげたいって思ったんだよ」
《え?》
「精霊って精霊の心は読めないの?」
《できなくはありませんが……相手が許可してくれた時だけです。私達が見通せるのは、自分よりも下等な存在だけですから》
「んじゃ、いっぺん頼んで心を見せてもらいなよ。みんな、マーイさんが好きだよ、ずっと一緒に頑張ってきた仲間だもん」

《ご主人様……》

「けど、マーイさんの質問に、神様は『成功率は百分の一以下』って言ってたよな?」
《はい……》
「何が百分の一の成功率なの?」
《私達が魔王にとどめを刺せる確率です……でも、それは》
 マーイさんが強い口調で否定する。
《私達が一丸となっても、4999万9999ダメージには到達しないというだけです。自分の回で、大ダメージを魔王に与えた後ですので……精霊全員が、弱体化しているからです。ですが、所属世界に還り統べるものを吸収し、持てる力の全てを攻撃に用いれば、1000万は出せるはずです》
 マーイさんがにじり寄る。
《どうか……いざという時には私達をお使いください。お願いします》
 オレが勇者の剣で戦うよりは強そうだが……

「持てる力を全て使うとどうなるの?」
《攻撃力があがります》
「そうじゃなくって、マーイさん達がどうなるのか聞いてるんだよ」
《……四散します》
「四散するだけ? 他にペナルティはない?」

 水の精霊が沈黙する。
 話したくない、ってか話しちゃマズイって感じで。
 だが、精霊支配者の命令にしもべは逆らえない。マーイさんの意志に反し、返事が返る。
《ペナルティは……あります……》
「どんな?」

《一度、何もかもを失ってしまいますので……個を再構築するのに、いつもより……時間がかかります……》

「だいたいどれぐらいかかる?」
《……年単位です》
「もっと正確に教えてくれ。何年かかるんだ?」

《早くて……》
 そこでマーイさんは口ごもり、のろのろと言葉を続ける。
《……三年》

 早くて三年……

「もっとも時間がかかる場合、どれぐらいかかる?」

《五十年……ぐらいだと思います》

 五十年……?
 冗談じゃない。

 オレの心を読んだマーイさんが、うろたえる。
《ですが、ご主人様。精霊には死はありません。精霊界で存在を消去しない限り、消滅する事はないのです。五十年は人からみれば長い時間ですが、精霊からみればほんの一瞬です。どうか、私達を使ってください。究極魔法はおやめください……》

「なんで、そんなに時間がかかるの?」
《ですから……一度、存在基盤を失ってしまう為で……》
「四散してもいつもは数日で復活するじゃないか。五十年もかかるなんて、変だよ。いつもの復活とは違うんだろ?」
《ご主人様……》
「マーイさんはマーイさんとして、ちゃんと復活できるの? 別のマーイさんになったりしない? マーイさんに似た他の誰かが現れるとか嫌だぞ」

《それでも、あなたを失うよりいいのです》
 悲痛な叫びが、オレの内側を揺さぶる。
 魂が千切れるような痛みすら伝わってくる……
《自分が自分でなくなっても……私に情をかけてくれたアウラさん達を変化させてしまうのでも……どんな罪を犯してでもいい……あなたが生きていてくれれば……》

「マーイさん……」
 オレは水の精霊へと歩み寄り、その体を抱きしめた。
 マーイさんの体は濡れている。冷たい。衣服も肌に張りついている。
 けど、やわらかい。胸もそれなりにある。
 それに、清水のそばにいるかのような爽やかな香りがする。

「ありがとう、マーイさん。心からオレの身を案じてくれて」
 オレは、マーイさんをぎゅっと抱きしめた。

「だけど、精霊だからわかるよね? そんな事はオレは望んでいないって」
《……はい》
「だから、内緒でやろうとしたんだろうけど……全部の暗示を解いてくれ。オレは誰かの犠牲の上で生き延びたくない」
《ご主人様……》
 うなだれたマーイさんの髪が、オレの体にかかる。

「暗示を解いてもらう代わりに、マーイさんには別の命令を与える」
 オレはマーイさんからそっと離れ、ポケットに入っていたものを出した。

「オレがこの世界からいなくなっても、マーイさんは水界に還さない。とどまってもらう」
《え?》
 マーイさんが、オレとオレの手の中にあるものを見つめる。
《それは不可能です。精霊支配者が亡くなれば、しもべはもとの世界に強制送還されます》

「通常ルールでは、ね。だけど、どんなルールにも抜け道はあるんだってさ」
 オレの掌にあるのは、『必勝祈願』と書かれた赤いお守りだ。
 裏英雄世界で、風来戦士マサタ=カーンさんから貰ったものだ。

 カーンさんには未来予知とか時空操作とか自己再生とかいっぱい能力があったが……数多くのしもべを所持する、超一流の精霊支配者でもあった。
 なので……電脳世界にカーンさん達と閉じ込められた時に、相談した。オレが死んだら、精霊界で自分の存在を消去しようとしてる精霊がいる。オレの為に死を選んでもらいたくない、と。
『後追い自殺しちゃいそうな子がいるのか。精霊は情が深いからなあ。そういう子とはじっくりと語り合って有限の命の尊さを理解してもらうのが正しいんだが……君には時間がないからねえ。ちょっとしたズルを教えてあげよう』
 裏英雄世界にしょっちゅうトリップしちゃうカーンさんは、英雄世界に常に八体の精霊が残るよう術をかけていると言っていた。
 主人とは別の世界に精霊を置いておく術を知っていたのだ。
『君の体の一部……髪の毛でも爪でもいい。それと、その子を結びつける契約を追加するんだ。君の一部がその世界に存在する限り、君がよその世界へ行っても、死んでしまっても、その世界に生きているも同じ。その子と君の契約は解けず、精霊界に強制送還される事はない』

「このお守りの中に、契約追加のアンチョコがあるんだ。今、ここでやっちゃおう」
 オレの心を読んだマーイさんが、ためらいがちに仮面の口元に手をあてる。
《本当のようですね……でも、今までそんな記憶は、お心になかったのに……》
「ズルはズル。精霊界の創造神やうちの女神様のご機嫌を損ねかねないから、術が発動するまでは内緒にしろってさ。マーイさんと二人っきりになった時にのみ思い出すよう、暗示がかけられてたんだ」

《私をこの世界に残して……何をせよとおっしゃるのです……一緒に生きるって言ってくださったじゃないですか……あなたが死んでしまったら、私が存在する意味などなくなるのに……》

「マーイさんは護衛として、ずっとオレと一緒にいてくれた。オレの希望も夢も、知ってるよね?」
 オレは水の精霊の手をとった。
「オレが死んじまったら……魔王戦の後、オレがやりたかった事を代わりにかなえてくれないかな?」
《え?》
「マーイさんの仮の主人を、お師匠様にする。お師匠様と協力して、まず賢者と勇者のシステムを改革してくれ。世を救う勇者が、賢者の館で閉じ込められて育てられるなんておかしい。賢者が、勇者を育てる為だけに存在するのも、おかしい。お師匠様がずっと不幸で死を望んでいたのも、おかしい」
 思いつく限りを口にした。
「制度改革ができるまで、次代の勇者の友達になってあげて。話相手でもいい。その子をマーイさんの優しさで支えて欲しい。……お師匠様もだ。オレ、お師匠様には幸せになってもらいたい……フォーサイスに見せてたって笑顔を、取り戻してもらいたい……」
《ご主人様……》
「ジョゼとサラはオレが死んだら、がっくりすると思うんだ。二人が立ち直れる日までマーイさんが見守ってくれたら、オレ、安心して逝ける。ニーナの墓前にもお花をあげて欲しい。ニーナが喜びそうな、かわいい花を……。あとリーズにも、」

《ご主人様》
 マーイさんがオレの手を握る。
《お言葉になさらなくても、わかります……ご主人様の望まれている事は……》
 濡れた冷たい手が、震えながらオレの手を握る。
《ご主人様の心残りを……代わりに果たせとご命じになるのですね?》
「うん」
《何時まで……?》
「『これならオレも満足したろう』と、マーイさんが思える時まで」
 オレはマーイさんに微笑みかけた。
「オレは欲張りだから、満足させるのは難しいと思う。けど、マーイさんにお願いしたいんだ。頼む……オレの為に、この世界で生きてくれ」

 契約を無効にするには、オレの体の一部を無くすか、新たな主人と新契約を結ぶかだ。

 制約がかかるので、マーイさん本人はオレの体の一部を壊せない。
 壊してもらうには、誰かに頼まなきゃいけないわけで……
 その誰かと情が通い合ってるなら、水界に還らず、その人と共に生きてゆけばいい。

 オレはオレのせいで、誰かが死ぬのは嫌だ。
 誰かを犠牲にするのも嫌だ。

 マーイさんがオレの死に絶望して、水界で存在を消去するなんて……絶対に嫌なんだ。

《なぜ、あなたは……。どうして……そこまで……私を……こんな私を……》
 マーイさんが体を震わす。
 まるで嗚咽するかのように。

 マーイさんはオレの伴侶の一人だ。大切にするのは、当たり前じゃないか。





 マーイさんと特別な契約を結び、暗示を全て解いてもらった。

 水の結界を消し去ってもらってから、ソワを除く精霊を呼び寄せた。
 エクレールには『来られるようなら、来て。忙しいのなら、後でいいよ』と命じたところ、《ちょっと待って!》との返事が契約の石から返った。そのまま待ったが、エクレールはなかなか現れない。

 マーイさんは、他の精霊達に囲まれていた。
《良かったですね、マーイ。祝福します》と、ルーチェさん。
《ほ〜んと、あんたってば最後まで特別待遇。嫉妬しちゃうわ〜》と、アウラさんがケラケラ笑う。
《もしもの時は、あなたが百一代目勇者の遺した精霊の代表となるのでしてよ。誇りを持って行動なさい》と、グラキエス様。
《ご主人様亡き後の放置プレイを受け入れるなんて……マーイも私と同じ嗜好を……》いやいやいや、それは無いぞ、サブレ。
《ま、ご主人様(マスター)は魔王戦で死ぬわけないから、そうはならないと思うけど》と、ちょっと羨ましそうにティーナ。

《ごめーん。待った?》
 契約の石を通し、エクレールが現れる。
 エスエフ界から持って来たコンテナを抱えている。
「なに、それ?」

 エクレールが胸をそらせて笑顔を見せる。
《ルネの発明品! 魔王戦用武器!》
 おおおお! ついに! 完成したのか!
《うん! 四つ!》

 四つ……?

 あれ?

 このまえ、シャルルが言ってたよな、『今、正常動作する発明品は三つ』だって。
……魔王戦、明日なのに一個しか増えてないの?
 同時使用不可な武器もあるので、六種類は武器が必要って言ってなかったっけ……?

《だいじょーぶ! ルネも助手さん達も、徹夜で明日の昼まで頑張るんだって! 明日には、あと十八から三十六個完成するはずだから》

 はい?

 十八から……三十六?
 一夜でそんなに、できるの?
 てか、何でそんな数なの? 一個一個を堅実に完成させ、一つが完成してから次の発明品にとりかかるのが普通じゃない?
《それだと、ルネのモチベーションが下がっちゃう。思いついたら即発明が、ルネのモットーだから》
 いや、モットーはそれでも……
 魔王戦、明日なんだけど……

 発明品、間に合うの……?

《ルネに任せておけば、だいじょーぶ! 助手さんもいっぱいいるし! あたしも手伝うから!》
 そっか……
 助手がいるんだもんな……
 大丈夫だよな……
 助手まで……ルネさんと同じ性格なわけ……ないよね?

 状況が芳しくないと察したティーナが、オレとエクレールを交互に見てから言った。
《わたしも手伝いに行こうか? 炎と熱なら、自在に操れるし》
《来て、来て〜 大歓迎!》
 ルネさんの手伝いが増える事を、エクレールが無邪気に喜ぶ。
「行ってくれると助かるよ」
 武器が完成しない事には、ますます状況が悪くなるわけだし。

《ホントは〜 今日は大事な日だから〜……勇気を出そうかと思ったんだけど……》
 紫水晶の髪と衣装の精霊が、何とも思わせぶりな目でオレを見る。ちょっぴり顔も赤くなってるような?
《やっぱ、やめたー》
 やめたって何を?
《教えない》
 エクレールが明るく笑う。
《ルネがすっごい武器をいっぱい作れば、魔王に負けないもん! 今日やろうと思ってたことは、魔王戦の後にする!》
 む?
《ご褒美だから! 期待しててね!》
 ご褒美……
《また明日ね!》
 エクレールが手を振って、ティーナを連れて姿を消す。ルネさんの家に移動したのだ。

 コンテナを開けてみて……

 オレは、更に脱力した。

 四つの発明品のうち、一つは初めて見るものだったが……
 残り三つは、『悪霊あっちいけ棒 改・改』と『悪霊から守るくん 改・改』、それに『聖なる気分にひたっちゃお〜君』だったからだ。
『ルネでらっくす』に入ってた既存の発明品じゃん……

『悪霊から守るくん 改・改』は裏ジパング界で自爆しちゃったから、新しく作り直したんだろうけど……
『悪霊あっちいけ棒 改・改』は聖なる光を放つライト、『悪霊から守るくん 改・改』はマリーちゃんの歌声が流れる腕輪。
 それに加えて、『聖なる気分にひたっちゃお〜君』はどうかと思う。天界に持ってたコレは、讃美歌詠唱機能付きライトなわけで……性能が被ってるよ!

《あたしも手伝いに行こうかな〜》
 苦笑を浮かべ、アウラさんが短い髪を掻きあげる。
《お好きになさったら? あの下品な発明家の家に行くなど、(わたくし)は嫌。ゾッとしますわ》
 グラキエル様はそっぽを向かれる。
 強制はしない。
 行ってくれると、開発状況は多少は良くなるとは思うけど。多少だし……
《では、私も行ってきますね、勇者ジャン》
 ルーチェさんが、にっこりと笑う。魔王戦がどう転ぼうとも、ルーチェさんは明日には光界へ還る。この世界に留まれる短い時間を、武器開発に使ってくれるの?
《構いません。私の一番の希望は、あなたがこの世界で生き続ける事ですから》
 ルーチェさん……

《私も行きます……》
 マーイさんが静かに言う。
《強力な武器ができれば、ご主人様の為になりますもの……》

《あ、じゃあ、私も……》
 と、言いかけたサブレを、キッ! とグラキエス様は睨みつけた。
《あなたは残りなさい。ジャンの護衛がいなくなります》
《え、でも、私がいなくても、》

 グラキエス様が、オレへと冷たい眼差しを向けられる。
《これから遺言書を書き直すのでしたわよね?》
「はい」
《では、サブレを足置きにしておあげなさい》
 へ?
《あなたに踏まれる事が、サブレには活力となるのです。明日の魔王戦の為に、土の精霊の能力を向上させるべきですわ》
 はあ……
《……まったく気が進みませんけれども、仕方ありませんわ。私は氷の精霊、懐が広いのです。あなたがどうしてもと望むのなら、下品な人間の所でほんの少し力を振るってあげてもよろしくってよ》
 何つーか……
 素直じゃなくて……
 可愛いなあ……

 と、思った途端、冷気を感じた……

 今の無し!
 よろしくお願いします! ありがとうございます、グラキエス様! 犬として感謝します!



《ああああ……みんながご主人様の為に働いているのに……私だけが自分の欲望にまみれ、快楽を貪っている……なんて、背徳的で……ス・テ・キ……》

『そこ、もうちょっと強く踏んでください』とリクエストする土の精霊を足置きとしながら、オレは……
 もしかして死んでしまった時の為に、手紙を書いていた。


 魔王が目覚めるのは、明日だ。
+注意+
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