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ハーレム100 作者:松宮星

魔王戦まで

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サラ

「バカねえ」
 ストロベリーブロンドの髪の幼馴染が、あきれたように溜息をつく。
「ほ〜んと、あんたってば、ガキ。十八にもなって、昇天を望む霊を地上に縛りつけようとか……バカじゃないの?」
 サラがオレの頭をこづく。
「かわいそうかわいそうって同情するのと、思いやりは別よ。八つのガキじゃないんだから、少しは頭を使いなさいよ」
 うりうりされながら、オレは椅子に座っていた。


 マリーちゃんが部屋から立ち去ってからかなり長い間、オレは一人でボーッとしていた。

 精霊達を呼び寄せるって約束も、遅くなってしまった。
 けど、マーイさん達はまったく怒ってなかった。
 むしろ優しかった。
 精霊は人の心が読める。
 オレが落ち込んでる理由は、みんなには筒抜けだった。

 で、しばらくするとサラが入室して来た。
 多分、ティーナがアナムに心話で知らせたのだろう。ニーナが逝く事にオレが動揺している、と。
 サラと入れちがいに、精霊達は姿を消した。幼馴染とオレを二人っきりにしてくれたのだ。

「あんたに比べれば、ニーナちゃんのがよっぽど大人よ。やっていい事といけない事を、ちゃ〜んとわきまえてるんだから」
「……そうかよ」
「そうよ。ま、当たり前だけど。女の方が心の成長は早いもの。いつまでもガキな男とは違うわ」
「……悪かったな」
「ニーナちゃんに心配されて守られるとか、恥ずかしくない? ちょっとは大人になりなさいよ。あんた、勇者でしょ?」
「……うるせえ」

 すぐにカッとなって暴れるくせに。
 おまえの方が、オレよりてんでガキだろ。
 女のが精神年齢が高いんだとしても、おまえは例外だろうが。
 偉そうに説教するなよ。

 不満をこめて睨んでやった。

 口では毒を吐きながらも、今日のサラは優しい。
 まるでマリーちゃんのように、いたわるようにオレに微笑みかけている。
 普段は、ちょっとつりあがっている眉も、きつい目つきも、ツンとした唇も……今は穏やかだ。

「ニーナちゃんは、最期まで笑って逝くんですって」
「……うん。そう言ってた」

「アタシ達も笑って送ってあげましょう。ニーナちゃんが明るい気持ちで逝けるように」

「……うん」

 それだけ答えるのに、ひどく時間がかかった。


『バカだ、バカだ』と、サラがオレを軽くこづく。
 けど、口調は明るいし、ぜんぜん痛くない。殴られているというより、撫でられているみたいだ。
 力づけようって気持ちが伝わってくる……

「ありがとな……サラ」
 そう言ったら、
「殴られてお礼を言うの? やっぱ、あんた、変な趣味に目覚めたわね?」
 とか、ちゃかすし。
 ケラケラ笑うサラが、すごく可愛く見えた。

 少しだけ、気持ちが軽くなった。


「そいや、攻撃順番をセリアさんと相談したんだろ? どうなった?」
 幼馴染は肩をすくめた。
「会議の時と一緒よ。あんたが魔王戦前に百人目を見つけない限り、九十九番目だそうだよ」
「ふーん」
「あんたの前のがいいのに……」

「なんで?」
 って聞くと、サラはちょっぴりぶすくれた顔になった。
「……全力でいきたいからよ」
「全力?」
「……魔界の王と戦った時、魔力も体力も使い果たしてアタシ倒れちゃったでしょ? 明日もそうなると思うの……。あんたが魔王と戦う姿を見たい。気絶してる間に、全てが終わったら嫌だもの。百番目なら、次はあんただし、頑張って意識を保てると思うのよ」
 なるほど、そういう理由なのか。

 サラがジロッとオレを見る。
 興奮してるのか鼻の頭が、少しだけ赤い。
「明日は魔王戦だし、無理しろとは言わない。でも、あんた、キュンキュンしやすいし、どこでどう転ぶかわからないわ。頑張って百人目を探してみて」
「ああ」
 オレ達の世話役は、メイドさんに変更になった。仲間にできるかどうかはわかんないが、会う度にしっかり見るつもりだ。カトリーヌからナンパ手帳をもらってるし。

「あ、そうだった。明日の朝食、カトリーヌさん達が見つけた十九人の仲間候補も同席するんですって。可能な限りジョブ変更もさせるって、セリアさんが言っていたわ」
 ぎりぎりまで百人目を探すわけか。

「なあ、サラ……魔王戦中にシャルロットちゃん達を特殊なジョブに変更させるって、セリアさんが言ってたけど……おまえ、それが、何だか」

「知らないわ」
 サラが、ぴしゃりとオレの言葉を遮る。
「知りたかったら、セリアさんに聞いたら? まあ、その時まで、話してくれないとは思うけど」
 そっぽを向いたサラ。
 その鼻が、ますます赤くなったような……

「それより、あんた」
 サラが横目でオレを見る。
「不用意な発言しすぎ」
 へ?

「会議で、仲間を百人集められれば魔王のHPを必ず削りきれるって言っちゃうし」
 む?
「まずかった?」
「当たり前でしょ」
 サラがフンと鼻を鳴らす。
「あんたがバカで弱っちい勇者だって、みんな知ってるもん。どんな状況であれ魔王に勝てる秘策があるだなんて……ヤバイことするつもりでーすって宣言してるようなものよ」
 むぅ。

「秘策がどーのって言ったのは、シャルルだ。オレじゃねーよ」
 サラが眉をひそめる。
「……つまり、シャルルさんにも薄々気づかれてるわけね」

 う。

「となると、セリアさんにもバレてるかも」

 ぐ。

「リーズも変だと思ってるっぽかったわよね。カトリーヌさんも勘がいいし……。イザベルさんは国一番の占い師だし……」
 ぐぅぅ。

「あと、自爆魔法のことを察してるのはジョゼ?」
「ああ。それと、ニーナちゃんとマリーさん。いざとなったら、オレが魔王戦で死ぬ気だって気づかれてる……」

 サラが目を丸める。
「じゃ、ほとんどみんなにバレてるわけ?」
「……そうかもな」

 正面からオレをまじまじと見つめ……
 それから、サラはプッ吹き出した。
「駄目ねえ」
 サラが、楽しそうにクスクスと笑う。
「あんた、昔っから嘘が下手だったものね。すぐに顔に出ちゃうから」
「正直者なんだよ」
「ていうより、不器用なのよね」
「ペラペラ口から出まかせ言う奴より、よっぽどいいだろうが」
「それはそうだけど」

 口元に手をあて、サラが首をかしげる。
「自爆魔法のこと……それでも内緒にするの?」
「教える必要はない。究極魔法の事を伝えたって、みんなを不安にするだけだ」
 魔王に負けるわけにはいかない。
 死にたくはないが、どうしようもなくなったら自爆して魔王に4999万9999ダメージを与える。その覚悟はできている。
 究極魔法をみんなに伝えたところで、なにが変わるわけでなし。いたずらに、みんなの心を乱すだけだ。
「使わないで勝ちゃいいんだ。そうだろ?」
「……そうね」
 サラが緑の瞳を細め、オレを見つめる。
 切なそうな表情で。

 胸がチクッと痛んだ。

「こう見えても、オレ、だいぶ強くなったんだぜ」
 不安にさせちまって悪かった……
 憂いをとりはらってやりたくて、わざと明るい声で言った。

 まず、頭の銀のサークレットに触れた。冒険世界の魔神からの贈り物だ。
「ナディンから貰ったこれ、神聖防具だ。これを装備してると、邪悪へのダメージは一・二倍増しになる」
「そうだったわね」

 つづいて、左の二の腕に巻いている赤い布に触れた。今は形を変えているが、もとは裏ジパング界の福の神様の手毬だ。
「アネコ様の手毬には、守護結界の効果がある。けど、それだけじゃない。邪悪へのダメージも増える。これも神聖防具の一種なんだと思う」
「そうね」

 オレは胸元からペンを模した発明品を取り出した。裏英雄世界で風来戦士から貰ったものだ。
「これが、ヒーロー・スプレー。ペン先から強化スーツの素が噴射される。筋力・防御力・命中力・敏捷性が高まって、正義に燃える心が攻撃力に変換される。これを使ったおかげで、裏英雄世界で200万オーバーの攻撃ができたんだぜ」
「へー」

 さっき左耳につけたものを取って、掌にのせた。変な形のイヤリングだ。
「これはリーズから借りた。大物相手にクリティカルが出やすくなる耳飾りなんだってさ」
「リーズから?」
「リーズがナディンから貰ったものだよ。勇者の剣は、オレの攻撃値次第で追加ダメが変わるだろ? オレが着けた方が絶対いいって貸してくれたんだよ」
「そう……良かったわね」

「勇者の剣の追加ダメは、オレの攻撃が100万以下なら100万、100万オーバーなら200万、200万オーバーなら400万になる」
 オレは幼馴染に微笑みかけた。
「魔王はめちゃくちゃ防御力が高いけどさ、みんなの力を借りてオレは強くなった。弱っちいオレでも100万以上の攻撃ができると思う」
 サラが何か言いたそうにオレをみる。
 畳みかけるようにオレは言った。
「その上、イザベルさんが魔王の防御力を下げてくれるんだろ? オレだって100万なら楽勝だよ。追加効果200万で、合計300万ダメだ」
「……そうだったらいいわね」
「大丈夫、いける」

 頼むから……そんな辛そうな顔はしないでくれ。
 究極魔法のことをおまえにぶちまけちまって……本当、馬鹿だったよ、オレ。

「それにさ、もしも……もしもだぞ? オレが200万以上を出せたら、追加効果は400万だぜ。オレ一人で600万とか凄くない? さすが勇者って、おまえも感心するだろ?」
「ジャン……」
「300万ダメは出したことないけど、出せたらきっと追加効果は800万だ。それから、1600万、3200万って追加ダメは伸びるわけだし。魔王のHPはたった1億だ。楽勝だぜ」

「バカ」
 サラが、ちょっとだけ唇をほころばせる。ほんの少しだけ、いつもの顔に戻ったような。
「なに、夢をみてるのよ。いいアイテムが揃っただけで、あんたが強くなったわけじゃないでしょ」
「バレたか」
 サラが笑う。
 とても可愛らしく。
「調子にのるんじゃないわよ。弱っちい勇者のくせに」

「うん、オレは弱い。お師匠様も日記に書いてた。オレの戦闘力は低い、魔王戦で主戦力となれるだけの実力は無いって」
「え? 賢者様が?」
「事実だからな」
 オレは笑った。

「けど、十二の世界を巡って、オレも変わった。愛に助けられ、力も得た」

「愛?」

「愛ってのは、恋愛だけじゃない」
 アシュリン様の受け売りだが。
「家族の情、友情、好意、いたわり……何でもいいんだ。多くの人と心を通わせたことで、オレは多少はマシになったと思う」

 気が強くって乱暴で怒りん坊で……だけど、心優しいサラ。
 お師匠様を失ったオレが立ち直れたのは、サラのおかげだ。サラが叱ってくれなきゃ、オレは勇者として駄目になっていたろう。
 昔っから、サラはそうだ。勇ましくってめちゃくちゃ格好いい。オレやジョゼをかばって近所の悪ガキどもをぶん殴りに行くような……そんな奴だった。
 ほっそりとした体で、とても可愛い顔をしているのに。

「これでも、強くなったんだ」
 だから、心配しないでくれ。

「オレは死なない」
 そう信じる。

「ずっと、みんなと一緒にいる」

「約束……よ」
 サラは眉をしかめ、おっかない顔でオレを睨んでいる。
 鼻の頭をみるみる赤くしながら。
「死んだら、許さないんだから……」

 オレの胸に、幼馴染が飛び込んでくる。
 その背に、そっと手をまわした。
 温かで柔らかな体……
 華奢な体つきをしている。

 かよわいくせに、愛する者を守ろうと戦う……優しい奴なんだ。


 全伴侶達の攻撃の後、魔王のHPが300万以上残っていたら……
 その時、オレは勇者としてあの呪文を唱える。
 だが、最後の最後までそんな未来は来ないと信じる。


 遺言状を書かなきゃ。

 チュド〜ンする事になっても、オレがそうしたいからするだけ。
 サラもジョゼもお師匠様も……誰も気に病んで欲しくない。

 逝く事になったとしても、この世界を守れるならいい……
 みんなが幸せになってくれるんなら、満足だ。

 そう思って、ふと気づく。

 ニーナも、今、こんな気持ちなのだろうか?

 少しだけ、ニーナの心がわかったような……そんな気がした。





 このままずっとサラと一緒にいたい……
 ガキのころみたいに側にいて……
 触れ合って、あれこれ語り合いたい……

 離れがたい……

 オレの腕の中のサラも、同じ気持ちのはずだ。
 きっと、そうだ。

 けれども、サラは目元をぬぐうと、こう聞いてきた。
「……ジョゼとは話した?」
 まだなら早く行け、とその顔は言っていた。

 サラは優しい。自分よりも他人を大事にする。

 本当にいい奴なんだ……


「おやすみなさい」
 扉の前で照れたように笑い、サラが手を振る。
 オレを一途に見つめる緑の瞳。
 せつなげな瞳に、胸がキュンとした。

「サラ……」
 背を向けた幼馴染を呼びとめる。

「あのさ……オレ……」
 サラが振り返る。
 ひきとめたはいいが、何を言おう。
 伝えたいことはいっぱいあるのに、喉から出てこない
 何と言えばいいのかわからない。

 右手が胸ポケットへと伸びる。
 そこにはオレの宝物がある。『撮れルンです君』でつくった大切な絵。そして、まごころのこもった贈り物。エスエフ界から還った時に賢者の館から持って来た、オレの心の支えだ。

「オレ……ずっと……おまえに……伝えたいことがあって……」
 サラが無防備な瞳で、オレを見る。
 子供みたいに真っ直ぐな目で、オレを見ている……

 胸がときめいた……

「オレ、おまえが……」

 そこまで言いかけた時だった。

 派手な音が響き、屋敷に衝撃が走ったのは。
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