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ハーレム100 作者:松宮星

魔王戦まで

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シルヴィと精霊達 (※)

 ニーナと別れてから、二十分も経っていない。
 ニーナはまだ、イザベルさんの精霊達と名残を惜しんで遊んでいるはず。
 部屋に帰るには、早すぎる。

 ジョゼやサラとも話をしたいんだが、ジョゼはアンヌばあさんの所へ行ったばっかだし、サラはセリア達の明日の打ち合わせ中だ。

 足は、オレの部屋の隣室へと向かった。

 誰もいない部屋は、灯りが無く真っ暗だった。
「ルーチェさん」
 オレの呼びかけに応え、契約の石より光の精霊が現れる。服装どころか髪色も目の色さえもコロコロと変える精霊は、初めて会った時の格好をしていた。大きい紫のリボンを頭につけたブロンドの髪、青のバルーンミニドレスを着ていた。
 オレの心を読んだ精霊が、毬ぐらいの大きさの光球を生み出す。光球は、オレがよく見たい所の真上の宙に浮かんだ。
《また後で呼んでくださいね》
 帰還を命じてないのに、ルーチェさんは左胸のブローチへと還ってしまった。
 気を利かせなくてもいいのに……そう思いながらも、思いやりが嬉しかった。

 オレは大切な女性(ヒト)の前に立った。

 両手を広げ、髪を乱しているお師匠様。
 オレをかばおうと飛び出したその姿のまま、石化してしまっている。
 オレを守ろうとしているからだろう、真剣な顔だ。他の人が見たらいつもと同じ無表情だと言うかもしれない。けど、お師匠様がどんな気持ちだったかはオレにはわかる……

「いよいよ明日です」
 オレはお師匠様と向かい合った。

「明日、オレは勇者として、魔王『カネコ アキノリ』と対決します」
 オレとお師匠様は、ほぼ同じ背丈だ。

 顔を合わせれば、視線がぴったりと重なったものだった。
 お師匠様は、ものすごい美人だ。
 絹糸のような白銀の髪、賢者専用の輝く白銀のローブ、肌もきめ細かくて白い。
 すみれ色の瞳に見つめられると、ドキマギした。

「まだ託宣を叶えられずにいます。でも、セリアさんに作戦があるみたいだし、何とかなると思います」
 オレは苦笑を浮かべた。
「情けない勇者で、すみません。オレ、昔と同じですね。落ち着きがなくって、他人任せで、だらしなくって……魔王戦も最後までバタバタするんじゃないかな」

 少し下がって、腰の勇者の剣を抜き、宙を切った。
 勇者の剣は剣身が通った後が、光の軌跡となって残る。キラキラと輝く宙を見つめながら、柄頭のドラゴンに口づけをした。額にアメジストの宝石が埋め込まれたドラゴンは、ファントムクリスタルをその大きな口にくわえている。お師匠様のペンダントの飾りだ。

「明日はお師匠様も一緒です。オレの戦いを見守ってください。お師匠様に誇らしく思ってもらえるよう、頑張ります」

 明後日、お師匠様の石化魔法は解ける。
 刺された傷も塞がり、お師匠様は無事な姿で目覚める。

 その時、オレはこの部屋に居る。

 そう信じたい。

 もう一度、お師匠様に会いたい……
 綺麗な瞳で、オレだけを見つめてもらいたい……
『ジャン』と、あの優しい声で呼びかけて欲しい……

 だけど、魔王に負けるぐらいなら、オレは……
 勇者としての使命を全うする。
 この世界を……
 大切な女性(ヒト)を守る為に……

 気持ちのままに動いた。
 剣を鞘に収め、お師匠様に抱きついた。

 ガキっぽい事はもうしないと思っても、駄目だ。すぐにオレはやっちまう。

 お師匠様の体は、硬く冷たい。
 まるで石像を抱きしめているようだ。
 お師匠様の左肩に、オレは顔を埋めた。


 気持ちが落ち着いてから、光の精霊を呼び出した。
「いろいろありがとう……」
 みっともない顔を見せるのが照れくさく、ついうつむいてしまった。

「そろそろニーナの所に行ってもいいかな?」
《まだ少し早いですね》
「そうなのか……あのさ、ルーチェさん、ニーナとは大事な話をしたいんだ」
《ええ、わかっています。その時には席を外しますよ》
「ありがとう。けど、石に戻らなくていいよ。オレが死んだらルーチェさん達は精霊界に強制送還だろ? 精霊界に戻ったら、次に余所の世界に行けるのは何時になるかわかんないわけだし、こっちでしたい事しててくれよ」

《ありがとうございます、勇者ジャン》
 ルーチェさんが朗らかに笑う。
《でも、あなた、間違っていますよ》
「え?」

《私は導き手の役を休んで、あなたのしもべとなりました。これ以上はもう休めません。明日の魔王戦の後、光界に還ります》

 あ。

 顔をあげると、可愛らしく微笑むルーチェさんの笑顔が見えた。

「オレが生き残ろうが死のうが、明日、還るの?」
 ルーチェさんが小さく頷く。
「お別れなのか……」
《職場に復帰したら、当分休みなしです。けれども、それに見合う充実した日々を送れました。勇者ジャン、あなたとあなたの仲間達と共に過ごせて楽しかったです》
「ルーチェさんにはいっぱい助けてもらった。ありがとう、感謝している」
《お礼は精霊全員に、》
「もちろん言うよ」
《魔王戦の後に言ってください》

 光の精霊が悪戯っぽく笑う。笑うとできる、えくぼが可愛い。
《死なないでくださいね、勇者ジャン。あなたが賢者となり、この世界で生き続ける事を望みます》
 オレもそう望んでいるよと言うと、ルーチェさんはクスクスと笑った。
挿絵(By みてみん)
《私の七色ファッションを披露するのも、明日が最後です。とっておきをお見せしますね》
「最後だからって、点は甘くしない」
 オレはルーチェさんの服を指さした。
「趣味が悪いと思ったら、遠慮なくそう思うぞ。ものすごく可愛い時もあるけど、たいていは変だからな。ルーチェさんのファッション、おかしいよ」
《聞き捨てなりませんね。変なのは、あなたのセンスの方ではありませんか?》
 ルーチェさんと顔を見合わせ、笑った。

 生き延びれば、ずっとみんなと一緒にいられるような気がしていたが……
 魔王を倒す為に、仲間達を集めたのだ。
 目的を果たせば、それぞれが自分の道へと戻る。

 別れは当然なのだ。

「握手してもいい?」
《いいですよ》
 クスクス笑いながら、ルーチェさんが手を差しのべてくる。
 器用そうな、細くて長い指。やわらかで、あたたかい掌。人間そっくりに変化した精霊の手を、そっと握りしめた。

 胸がジーンとした。

「ティーナ、マーイさん、アウラさん、サブレ、グラキエス様」
 たまらず、残っていた精霊達を呼び出した。
「みんなは魔王戦の後、どうする? ルーチェさんと違って、『無職(フリーター)』だからすぐに還らなきゃいけないわけじゃないよな?」

《ちょ! 無職て呼ばないで。みっともない》と、ティーナ。
《私はご主人様の護衛ですから。ご主人様の生ある限りお側に置いていただきたいです……》と、マーイさん。
《私もご主人様の奴隷ですから……お側に……》と、サブレ。
《あきるまでは還らないわよぉ〜ん》と、アウラさん。
《あなたのような半人前を見捨てるほど、(わたくし)、無慈悲ではありませんことよ》と、グラキエス様。
 ティーナは『アナムと相談して決めるけど』とボソボソ言う。多分、炎界には還らない、と。

 ルーチェさんが『良かったですね』とオレに微笑む。
 魔王戦の後も、他の精霊達との絆は続きそうだ。オレが死ななければだが。

 嬉しくなって、握手を求めた。

《んもう! ご主人様(マスター)、子供みたい》
《私の手、冷たくありませんか?》
《ま、握手会でもいいんじゃない? 楽しきゃ》

《握手? 下僕のくせに、生意気ですわ。手の甲への接吻でしたら、挨拶として受けてあげなくもありませんけれど》
 グラキエス様はそうおっしゃったんで、握手ではなく、キザな貴族の真似をした。跪いて、グラキエス様の右手の甲へ接吻。ちょっぴり、ひんやりした。
 アウラさんとティーナが、ひゅーひゅーっとはやしたてる。
《慣れない事はするものではありませんわね。まったく(さま)になっていませんわ》
 冷たい声でグラキエス様がご不満を口になさる。
《まあ、私を崇め奉った事だけは誉めてあげてもよろしくってよ。ジャン、明日もこれからも、犬として私に忠実に仕え続けなさい。よろしいわね?》
 死ぬな、と言ってくれてるんだ。
 オレは下僕として礼儀正しく、グラキエス様に『はい』と返事を返した。

《私も握手では物足りないです……》
 はあはあと熱くあえぎながら、土の精霊がオレを見つめる。うるんだ瞳や上気した頬が、サブレの興奮を伝えている。
《ご主人様が欲しくって……欲しくって、たまらないんです……》

「よし、わかった」
 オレはきっぱりと言った。
「踏もう」
 今日が最後かもしれないし。
 踏まれるのが大好きなサブレは、とことん踏んでやろう。
「そこにうずくまって。どこを踏んで欲しい? 体重をかけて欲しかったら、言えよ。ぎゅーぎゅーしてやるから」
《………》
 サブレが上目づかいにオレを見る。
 M趣味ではあるが、サブレの人型は清楚な美少女だ。さらさらの金髪、オレ好みのむちむちの体を黄色のレオタードに包んでいる。非常にエッチで魅力的だ。
「あ、そっか。短い時間じゃ嫌なのか。じゃ、後で遺言書を書くから、その間ずっと椅子の前にうずくまれよ。足踏み台にしてやるからさ。それで、どう?」
《………》
 息を乱しながらも、サブレは何か言いたげにオレを見つめる。
 足踏み台にされるだけじゃ不満なのか。
 むぅ。
 もっとサブレが喜びそうなシュチエーションはないものか。
「………」
 閃いた!
「そうだ! ベッドの下敷きなんか、どうだ? ベッドを持ち上げてさ、その下のマットになるわけ。したら、一晩中、オレとベッドの重みを感じていられるだろう? 踏まれまくり。最高だろ?」

《ああ……》
 サブレが、がくっと肩を落とし、その場にうずくまる。その体を、せつなそうに息づかせながら。
《ひどい……》
 サブレの目元にきらっと光るものがあったような……

 て?

 えぇぇっ!

 もしかして、オレ、泣かせた?

 ど、ど、どうしたの?

《足踏み台にしてやるとか……ベッドの下敷きはどうだとか……ひどすぎます》
 ごめん!
 そーいうの、好きかと思ったんだ!
 喜ばせられるかと思って、調子にのっちゃった! ごめんよ!

《だから……それでは駄目なんです》
 両手で顔を覆い、サブレが肩を震わせる。
 泣いてる……よね?
 ごめん、ごめん、本当にごめん!

《嫌々やってるのが良かったのに……》

 へ?

《私の望みに応えようと、トホホな気分で踏んでくださる所に風情があったのに……》

 は?

《『オレ、そんな趣味ありません!』と絶叫しながら、周囲から誤解されてゆくお姿が魅力的だったのに……》

 はあ?

《しょぼくれたお顔、自棄になってるのに私に怒りをぶつけきれない煮え切らなさ、踏む足に力をこめられない優柔不断さ……そういう総合テイストが良かったんです。積極的に踏むだなんて……そんなのただのSです。ご主人様のみじめったらしいS役、最高だったのに……》
 サブレが、さめざめと泣く。

 キミ、M趣味かと思ってたけど……
 もしかして、オレをショボーンな状況にわざと追いやってた?
 んで、楽しんでたわけ?

 Mの振りして、オレをいたぶってたの?

……本性はSかよ。

 くっ……

「わかった! サブレはもう二度と踏まない!」
《え?》
 オレは土の精霊を睨んだ。
「これからは、サブレを大事にする! サブレ様と呼ぼう! サブレ様! キミは本当にかわいいなあ! 黄金のような髪も、愛らしい顔も、ボンキュッボンな体も最高だ! オレのお姫様だ!」
 えーと、えーと、それから……
 歯が浮く台詞が思いつかん。スケベ貴族なら、口からペラペラ出てくるだろうに。
「美しくって魅力的なキミに、ひどい事なんかできないよ! キミを誉めて誉めて誉めまくって、尽くして尽くして尽くしたおしたいよ!」
《ご、ご主人様、口ではそうおっしゃってますが、内心は怒りまくっていますね? (はらわた)が煮えくりかえる感じですね?》
「キミに高額なプレゼントをして、薔薇か何かで飾りたててあげて、お姫様抱っこでふかふかのベッドに運んであげる! 一晩中、キミをやさしくマッサージしてあげよう!」
《な、なんですか、それ? 新しいプレイ? M趣味の私を姫扱いですか? あああああ、心の中でののしりながら、私を大事にする振りだけなさるんですね!》
「大好きなサブレ様に、オレは仕えよう。真綿で首を絞めるように、優しく、優〜しく、ぎゅーぎゅーしてやろう」
《今、本音を言いましたね! 真綿で首を絞めるって! ああああ……ス・テ・キ……さすが、ご主人様……新たな境地に行き着きましたね……一生ついていきます……私のご主人様はジャン様だけです……》

 むぅ。
 仕返ししてやろうと思ったのに。
 何を言っても、喜ぶ。
 つまらん。
「やっぱ、やめた。面倒だから何もやらない」
《ああああ、私はその気にさせといて、おあづけ? 放置プレイですね? なんて、ひどい……。凶悪……。さすが、ご主人様……》
 サブレが幸せそうに、うっとりと微笑む。
 ティーナとアウラさんは、大爆笑だ。

 玩具にされてる気分。



 馬鹿な会話をしている間に、ニーナのもとへ戻っていい時間となった。
 精霊達には自由時間を与えた。ニーナとの話が終わったら呼びよせると約束して。


 ノックをすると、部屋の中からいらえがあった。

 扉を開け、中に入った。

 オレの部屋には、ニーナとソワ、それにマリーちゃんが居て、テーブルを囲んでいた。
 マリーちゃんが淹れた紅茶を、三人で飲んでいたようだ。ニーナとソワは食事ができないから、飲む雰囲気を楽しんでいただけだが。テーブルの上には、女の子が好きそうな、可愛らしくって甘そうなお菓子がいっぱいだ。

 ぬいぐるみ達は床に転がっている。イザベルさんと精霊達は別所に移動し、明日の準備を始めたのだろう。

《おにーちゃん》
 白い幽霊のニーナが、ニコニコ笑いながらオレのもとへやって来る。その腕はピンクのクマを抱きしめ、ポチ2号の培養カプセルを大事そうに抱えていた。

「いっぱい遊べた?」
 ニーナは元気よく頷いた。
《うん。みんな、ニーナの赤ちゃんになったの。ラルムおにーちゃんまで、赤ちゃん役をやってくれたんだよ。とっても楽しかった》
「そうか。よかったな」

《うん。ニーナ、しあわせ。イザベルおねーちゃんの精霊さんも、ポチちゃんも、アンヌもソワちゃんもおにーちゃんもおねーちゃんも、みんな大すき。みんなといられて、あたし、しあわせだった。だからね、おにーちゃん》
 ニーナが胸をそらせる。
《あたし、もうだいじょうぶ》
「大丈夫?」

《きっと最期まで笑ってられる》
 可愛らしくニーナが微笑む。

《あたし、決めたの》
 その笑顔を、オレは見てきた。
 オランジュ邸で。
 英雄世界で。
 エスエフ界で。

《魔王戦の後、神さまのもとへ行くね》
 あどけない子供らしい笑顔が……いつもと違って見えた。
 年を経て落ち着きを得た婦人のように、ニーナが静かに微笑む。

《先に行って、みんなを待つことにしたの。おにーちゃん、神さまのごほうびをニーナのために使うって言ってくれて、ありがとう。うれしかった。でも、ごほうびはおにーちゃんのものだもの。おにーちゃんが使って。ニーナは先に行くけど、ゆっくり来てね。魔王戦で死んだら、だめだよ。おにーちゃんが死んだら、みんなが泣いちゃうから》
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