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ハーレム100 作者:松宮星

魔王戦まで

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リーズとアナベラ

「百人目ですが……明日までに勇者様が新たな方を仲間にできればそれでよいですし……そうでなければ、シャルロットとマルティーヌさんも魔王戦に伴い、九十九人目までの戦闘が終了したところでジョブ変更をしてもらい、新たな仲間としましょう」
 セリアの言葉に、首を傾げる。
「今、ジョブを変えてもらって仲間にしちゃいけないのか?」

「いけません」
 セリアがメガネのフレームを押し上げる。
「軽々しく変えてよいジョブではありませんので」
 へ?
「新ジョブは、たいへん特殊なジョブなのです。魔王戦勝利目前までPTに加えるべきではありません」
 むむ?
 なんかヤバそう。
「どんなジョブなんだ?」
「その時まで、お話できません。士気に関わりますから」
 セリアはにべもない。

「セリアさん」
 幼馴染が学者に対し、きついまなざしを向ける。
「ジャンの攻撃順番は、一番最後。アタシはその前に攻撃する事になってましたよね?」

「はい。開幕に支援をする三人を除けば、この世界の者は十一世界の方々の後に行動をとります。攻撃順番は、カトリーヌさん、パメラさん、ルネさん、リーズ、アナベラさん、マリーさん、ジョゼフィーヌさん、サラさんと考えています」
「アタシ、ジャンのすぐ前に攻撃したいって伝えましたよね?」
「百人目が魔王戦前に決まれば、そのようにします。ですが、そうでなければ、九十九番目にお願いします」
「だけど、一度しか攻撃できないんです。魔法の選択もあるし」
「サラさん」
 セリアが鋭く制する。
「別室で話しませんか? 他の方の前で相談する事ではありません。サラさんの攻撃順が九十九であろうが百であろうが、大勢(たいせい)には影響がありませんので」
 幼馴染が、ムスッとした顔のまま頷く。

「明日の進行はご理解いただけましたか? 質問はございますか?」

 リーズが手を挙げる。
「百人の仲間と勇者は、一度づつしか魔王を攻撃できないんだよな? 魔王のHPは1億。それを削りきれなかったら、どうなるのさ? 魔王の攻撃ターンになるの? それとも、オレらが二回目の攻撃をするわけ?」

「二度目の攻撃はありません。託宣通りに戦わなければ、勇者は魔王に敗北すると言われていますから」
「んじゃ、削りきれなかったら、」

「それは、ないよ」
 きっぱりとオレは言い切った。
「仲間を百人集められれば、魔王のHPは削りきれる。必ず勝てるんだ」

「なんで?」と、リーズが不審そうに尋ねる。

 究極魔法の事は、みんなには言いたくない。
 オレが自爆して魔王に4999万9999ダメージを与えるから……なんて教えたって、みんなの心を乱すだけだ。

「ジャン君には、魔王に勝つ奥の手があるのだそうだよ」
 シャルルが気障ったらしい仕草で顎に指をあてて言う。
「勇者の秘策だ。それを使えば、どんな状況であれ、魔王に勝てるのだろう?」
 そうだろう? という顔のシャルルに頷きを返した。

「ふーん」
 盗賊はオレとシャルルの顔をジロジロと見た。
「負けないんならいいけど」


「他に質問はありますか? ……特に無いようですね。では、解散し、明日に備え休養といたしましょう」



 サラとセリアとシャルロットちゃん、おまけにシャルルは、別室で話し合いをするようだ。
 おばあ様にご挨拶に行くと断って、ジョゼも部屋を出て行く。

「勇者様」
 女狩人にメモ帳を差し出された。
「あげるわ」
 会議の間にカトリーヌが書いてた奴か。
「ざっとでいいから読んでみて。明日まで頑張ってちょうだい」

 最初の頁を開くと……


★極意
●相手の良いところを見つける。欠点は目をつぶる。
●ひたすら誉める。容姿・声・性格・趣味・ファッション。
●勇者である事に誇りを持つ。自信を持って接する。しかし、鼻にかけない。
●口説いている子がゲットできなくても、めげない。女の子は世界中にいっぱいいる。深刻にならずに、軽く。

☆好感度アップ
●気さく。マイルドな物腰。笑顔を絶やさずポジティブに。
●清潔感を保つ。
●がっつかない。女の子に対し余裕をもって接する。
●空気を読み、ムードを壊さない。
●失敗する事を恐れない。


 などと書いてあって……
 そこから先は会話例なんかが書いてあった。

「なに、これ?」

「私のナンパ・テクニックよ。あなた流にアレンジして書いてあげたわ」
 カトリーヌが、ニッとネコのように笑う。
「いい、勇者様? 女の子は女の子であるってだけで美しい存在なの。ちょっぴり太めの子でも、お鼻の低い子でも、どこかしらに愛らしいところがあるの」
……まあ、そうかな。
「でも、恋をすると、更に華やかになるわ。より美しく、しなやかに、きらめく存在となる……女の子は恋で生まれ変わる妖精なのよ」
 言いきった。
 さすが女狩人。
「普段はボーッとしてる子も、大好きな人の前じゃキラキラするわ。その子を美しくできるかはナンパする人間次第。私のテクニックを参考に、もうちょっとあがいてみて」

「あがくって?」
「この屋敷の召使いが、従僕からメイドさんにチェンジしたでしょ? オランジュ邸の召使い達にはさっきも会ってるけど、出逢いが変われば気持ちも変わるかもしれないわ。さっきは萌えられなかった子にも、勇者様はキュンキュンできるかも」
 ふむふむ。
「その中に、百人目が居ないとも言えないわ。頑張ってみて」

 カトリーヌが手を振って、パメラさんと部屋を出て行く。

 オレは手帳をパラパラとめくった。
 明日まで女の子をナンパしまくりとか、無理だと思う。体力的にも気力的にも。
 だが、どこでどんな出逢いがあるかわかんない。読んでおいて損はないだろう。
 それに、オレの窮状をどうにかしたいって、カトリーヌの気持ち自体は嬉しい。

 カトリーヌのナンパ手帳をめくっていると、
《おにーちゃん》
 髪も顔も体も、全てが白く半透明なニーナがやって来る。ソワとお揃いのピンクローズの髪飾りが可愛らしい。

《ニーナね、おにーちゃんにお話があるの。でも、》
 ピンクのクマさんを抱っこしたニーナが、ちょっと寂しそうに微笑む。
《今はね、みんなと遊びたいの。イザベルおねーちゃん()のおにーちゃんたち、もうすぐお仕事だから……》
 おとーさんクマさん、子グマ2体、それに人形にイザベルさんの精霊が宿っている。

「一晩中、ニーナちゃんと遊ばせてあげたいのだけれども」
 長机には、マリーちゃんとイザベルさんが残っていた。セクシーな占い師が、物憂げに溜息をつく。
「精霊達を一つの呪具に封じなければいけないの。術が成るまでに半日はかかるのよ。グラス達に与えられる自由時間は後一時間ってところなのよ。ごめんなさいね」

《ううん、いいの。精霊のおにーちゃんたちは、大事なお仕事をするんだもん。それまで遊んでもらえるだけで、ニーナ、しあわせ》
 白い幽霊がにっこりと微笑む。

「オレもニーナちゃんに話があるんだ」
 エスエフ界でオレは、死の不安におびえていたニーナと約束した。
 魔王戦の後どうなろうとも、オレはずっとニーナと一緒にいる、と。
 死んじまったら、昇天するニーナの逝くところに一緒にいくわけだし……
 魔王戦で生き延びりゃ、オレは神様から二つご褒美が貰える。一つをニーナの為に使い、ニーナの昇天を待ってもらうように神様に頼むつもりだった。

 けど、このまえ、オレの生死に関係なくご褒美を二つあげると神様が言いきった。
 オレがチュド〜ンしても、ニーナの昇天を待ってとお願いができるようになったってことで……

 オレが逝くことになっても、ニーナは残れるぞて言ったら……嫌がりそうだな。ニーナは優しいから。
 だが、オレはニーナの悲痛な叫びを聞いている。
《やっとアンヌに会えたのに……まだ、なにもしてない……いろんな所にいって、いろんなことがしたい。みんなといっしょにいたい。大きくなりたい……消えたくないよ……》
 ニーナは、五十年以上も孤独だったんだ。幽霊になって、誰もいない屋敷で寂しく暮らしていたのだ。
 死んでいることも知らないまま、遊ぶ約束をした友人をず〜っと待っていた。
 それだけの五十年だったんだ。
 心残りがなくなるまで、やりたかったことをやらせてあげたい。

「後で話そう。オレも用事をしてくるよ」
《うん》
 ニーナが可愛らしく笑い、ソワ達のもとへと走り、おままごとを再開した。

 きゃいきゃいはしゃぐニーナ達。
 実に微笑ましい。

 オレは部屋を見渡し、書き物机へと目をやった。
 以前書いた遺言状は引き出しの中に入っている。
 見直して、書き直そうかなあと思っていた。が、今はニーナ達の遊びの邪魔をしたくない。

 明日の準備は他にもある。
 ジョゼやサラとゆっくり話したいし……

 気になっていたことを片づけたい。

 机の上にある、超豪華な箱に注目した。オレにはまったく不似合いな、貰い物だ。

 部屋を見渡す。
 アンヌばあさんが準備してくれた部屋に最初からあった調度品、賢者の館から持って来たもの、『勇者の書』、魔法絹布。
 ぐるっと見渡し、箱へと視線は戻る。
 自分の物の中から選ぶのならこれしかない。
 オレはキラキラな箱を手に取った。



 その部屋の前で、ついて来ていた炎・水・風・土・氷・光の精霊が契約の石へと戻った。
 個人的な事を話したいってオレの気持ちを尊重してくれたようだ。

 ノックをすると、部屋の中からいらえがあった。

 扉を開け、中に入った。

 リーズの部屋には、アナベラもいた。
 二人は向かい合って、テーブルに座っていた。テーブルの上には、裏英雄世界のモノがあった。お菓子、腕時計、貴金属……リーズへのお土産だろう。仲いいなー

「あ、勇者さまー」
 部屋に入ったオレに、アナベラがニコーと笑いかける。
 いつも胸ばっか見ちゃうけど、アナベラはか・な・りの美人だ。大きな緑の目で、笑うとすっごく可愛い。真っ赤な髪は、ちょっぴり巻き毛で胸が隠れるぐらいの長さだ。
「どしたの? 何か用?」

「いや、リーズとちょっと話がしたくって」
「ふーん」
 リーズがチロッとオレを見て、そっぽを向く。正しくは、オレが持っているモノを見たんだが。
 ライトブラウンのショートヘアー。一見、男の子みたいだが、リーズのヘーゼルの瞳は小鹿を思わせる。黙ってりゃ、美少女なんだ。

「今、いいかな?」

「いいよー」とアナベラが答えるのと、
「やだよ」と、リーズが言うのはほぼ同時だった。
 ソファーに座ったリーズは頬づえをつき、あさっての方を見ていた。
「オレ、その宝石には関わりたくねーんだ。触りたくねーから、持って帰ってくんない?」

 オレは持っていたモノを見た。
 裏冒険世界で貰った宝石箱だ。
 宝石箱の中には、大粒の宝石が整然と並んでいる。国を救った勇者への、王家からの贈り物。アンジェリーヌ姫が国宝の中から、オレの為に選んだものだ。
 盗賊リーズが好きそうな、お宝中のお宝っぽいんだが。
「宝石ってのはさ、思いがこもるんだよ。怨念がこもるとさー所有者を不幸にしたりするわけ」
 へー
「宝石の方で所有者を選ぶ場合もある。それ、お姫さまからの愛の贈り物だろ? あんた以外の奴が触ったら、お姫さまがヘソ曲げそう。ヤバイよ、それ」

「意外。迷信深かったんだなあ」
 ちょっとびっくり。
「イザベルさんの占い、あまり好きじゃなさそうだったし……現実主義だし……てっきり、その手の話は嫌いなのかと」

「バーカ。占い女の詐欺とは別物だよ。呪いのアイテムってのは、けっこうゴロゴロしてるの。オレは祓いはできねーから、持っただけで呪われそうな物は手を出さねーんだよ」

 う。

 いくらなんでも言いすぎだとは思う。アンジェリーヌ姫は、呪いには無縁そうな清純なお姫様なのに。

 ここまで言われると、言いだしづらいが……

「ごめん、そこまで嫌がるとは思わなかったんだ。だけど、受け取ってくれないかな? オレの財産、これぐらいしかないんだ」
「はあ?」

 テーブルの上に宝石箱を置いた。
「日当は一万。九十六日拘束するから、九十六万を超一流の盗賊に支払うって契約したよな?」

 リーズがオレと宝石箱を横目で見つめる。

「魔王戦前に払えって言ったのはリーズだろ? オレは魔王戦で死ぬかもしれない、とりはぐれるのはヤだからその前に寄こせって」
「まあ、たしかに言ったけど」

「すまない。オレ、金は持ってないんだ。代わりに、これ受け取ってくれないかな?」

 無造作に自分の頭を掻き、リーズが息を吐く。
「仲間になった時、日当を払えってもちかけたのは覚えてるよ。けど、それっきりだからさ、あんた、忘れてるんだと思った」

「忘れてないよ。ずっと気になってた」
 もしもチュド〜ンになったら、金を払わないまま昇天だ。後味が悪すぎる。
「魔王戦の前に心残りを無くしたい。嫌なのはわかる。けど、これしかないんだ。凄腕盗賊への報酬を、受け取ってくれ」

 頭を下げ、しばらく待った。

 待った。

 待ったが、リーズから何の反応もない。

 顔をあげると、冷たい視線とぶつかった。

「バーカ」
 リーズは不機嫌そうだった。
「ほーんと、あんた、お坊ちゃんだよな」

 む。

 リーズが宝石箱を顎でさした。
「開けて」

 言われた通り、蓋を開けた。
 大粒のキラキラの宝石がドーンと六つ入っている。サラの杖の杖頭のダイヤモンドぐらいデカい。

 リーズが顔の半分をしかめる。

「これを全部オレにくれようってわけ?」
「ああ」
 リーズが大きく溜息をつく。
「あのさ。鑑定スキルなくても、わかんない? こんだけデカい宝石だ、1コで九十六万の何倍、ものによっちゃ何十倍も価値があるんだぜ?」
「まあ、そうだろうな」
「六個全部やるとか、気前よすぎだろ」

「いや、でも、オレ、装飾品つける趣味ないし」
 リーズがオレの胸に視線を向ける。右胸にホワイト・オパールのブローチ、左胸にオニキスのブローチをつけている。
「これは精霊との契約の証。実用品だ」
 首のペンダントも左右の腕のブレスレットもベルトの飾りも、そうだ。頭のサークレットも神聖防具だし。
「せっかくお姫様からいただいたけど、オレ、宝飾品は使わない。持ってても、どっかにしまっとくだけだ。価値がわかる人に渡った方が、宝石も幸せだろ?」

「ふーん……その大事な大事な貰いものをさ、オレに売っぱらわれてもいいわけだ?」
「売っぱらう?」
「言ったろ、オレ、いらねーの、その宝石は。もらったら、売って金にするに決まってるじゃん。人からの貰い物、粗末にすんじゃねーよ、バーカ。女の怨みは怖いんだぞ。呪われたくなきゃ、その宝石はあんたが持ってろよ」

「リーズ」
「なに?」
「おまえ……いい奴だなあ」

「はあ?」

「貰ってそのまんま売っぱらう事もできるのに、忠告して止めてくれてさ……ありがとう」
「リーズはいい子だもん」
 えへへと、リーズの相棒が笑う。
「口は悪いけど、すっごく仲間思い。やさしいんだ」

「バカ言ってんじゃねーよ」
 リーズが声を荒げる。
「オレはその宝石はいらねーだけなの! 深読みすんじゃねーよ!」
 怒鳴るリーズ。頬が赤い。ちょっとかわいい。

「けど、どうしよう。オレ、他に金目のものないし……」
 幻想世界のドワーフから贈られた宝石は、あっちこっちでバラまいてしまった。冒険世界のNINJAマスターに前納報酬として払ったものが、最後だった。
 その他の貴金属は、異世界での活動費としてアンヌばあさんが渡してくれたもの。好き勝手に使っていいものじゃない。

 チッ! とリーズが舌打ちをする。
「わかったよ、じゃ、こうしよう」
 盗賊は宝石箱を顎でさす。
「それ、担保ね。魔王戦後に、王さまから報奨金貰ったら、九十六万寄こしな。返してやるから」
 担保?
「じゃ、オレが魔王戦で死んだら貰ってくれるってこと?」

 リーズがジロッとオレを睨む。
「だから、いらねーっての、ンなドロドロした恋愛感情がつまった宝石。あんた以外の奴の手に渡ったら、お姫様、バケて出るぜ」
「そうかなあ」
「そうだよ。ったく、十八のくせに、女心もわかんねーのかよ。世話が焼けるぜ」

 ブツブツ文句を言いながら、リーズは右手で左耳に触れ、左手をそっと添えた。
 ちょっとドキンとした。
 両手で左耳の耳飾りを外しているんだが……その仕草が、何つーか女の子っぽくて可愛かった。

「ほい」
 リーズが投げて寄こしたものを、掌で受け取った。巻貝みたいな形の、クルクル螺旋の耳飾りだ。どっかで見たような……
「担保が高価すぎるから、こっちからもお宝を貸すわ」

「へ?」

「『魔王戦お役立ちアイテム』」
「え?」
「ランプのオカマから貰った奴だよ。覚えてない?」

 あ。

 そうか。
 この変な形の耳飾りは、リーズが三つのお願いでナディンから貰った奴か。
 あの時、リーズは確か……
 魔力のこもったすごく大きなルビー、変わった形の耳飾りと腕輪を貰っていた。

「そいつ着けると、大物相手にクリティカルが出やすくなるんだってさ」
 おお!
「けど……これ、リーズが魔王戦の為に貰ったものだろ? オレが借りちゃっていいの?」
「うん。オレ、腕力ないだろ? それ着けて殴ってもたいしてダメージ伸びねーと思うわけ」
 リーズがニッと笑う。
「けど、あんたは攻撃値次第で追加ダメが変わるんだろ? オレがチビッと強くなるより、あんたが『どっか〜ん』になった方が絶対いい」
 リーズの笑みは何というか……ふてぶてしいというか、逞しいというか……

「それ貸してやるから、絶対、返せよ。んで、魔王戦の後、九十六万きっちりオレに払えよ。いいな、約束だぜ」

「リーズ……」

「勇者なんだから、もしもなんざ考えんなよ。勝利だけ信じて突っ走しりゃいいんだよ」

「そーそー 弱気はダメだよー 勇者さま」
 えへへとアナベラが笑う。
「死ぬなんて考えたらダメ。最後まであきらめない子は、ぜったい負けないから」 

「そうだな……ありがとう、リーズ、アナベラ」

「勇者さま、おなかをさびしくしちゃ、だめだよー」
「大丈夫。ちゃんと食べるよ、明日も」
 アナベラが大きく頷く。
「あともうちょっとだから、がんばろー」
 明日は魔王戦。あともうちょっとだ……

「賢者さまの石化が解けるの、明後日だもん。楽しみでしょ、勇者さまー」

 胸がドキンとした。

 明後日……

 明日を生き延びれば、オレは……

 口元に笑みが浮かんだ。

「うん……楽しみだ」
「みんなで、『賢者さま、おはよー』のパーティーしよーね」
 アナベラが、あっけらかーんと笑う。いつも前向き。明るい未来を信じる彼女の言葉は、オレを力づけてくれる。ぷるんぷるんと、今も揺れているその胸も。

「バーカ。ちがうだろ、アナベラ」
 リーズがニヤニヤ笑う。
「魔王戦が終わったら、賢者さまは『もと賢者さま』になって、そこの『勇者さま』が『賢者さま』になるんだよ。魔王に勝ちゃ、どんな勇者でも賢者になれるんだから」

 アナベラがおお! と声をあげる。
 リーズがふふんと笑う。
「んじゃ、未来の『賢者さま』、そこの宝石箱の蓋を閉じて、その辺の棚に置いといて。オレ、箱も触りたくないんだ。頼んだぜ、未来のケ・ン・ジャ・さ・ま」



 扉を勢いよく閉めた。
 リーズのせいでアナベラまで、オレのことを『みらいの賢者さまー』てニコニコ呼ぶし。
 リーズの奴、ニヤニヤ笑ってるし!

 いいだろ、バカのオレが賢者になっても!
 生き延びて、『賢者さま』になってやろーじゃねーか、ちくしょー!
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