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ハーレム100 作者:松宮星

魔王戦まで

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セリアとイザベル

「そうですか。仲間は増やせませんでしたか」
 オレが百人目を仲間にできなかったのに、セリアは冷静だった。
「異世界から戻られてから休憩なしなのです、お疲れとなったでしょう、勇者様、それにアナベラさん。どうぞお体をお休めください。カトリーヌさんとリーズ、御苦労さまでした。みなさまの夕食を準備させますね」

 馬車で街をぐるっと回ってみた。馬車から道ゆく人々を見回したし、エッチな通りで店にも入った。表舞台に絶対顔を出せないような犯罪者のお姉さま達とも、リーズの紹介で会ってみた。
 移動魔法で現れたソワが『会議だって。学者さんが戻って来てって言ってるよ』と連絡してくるまで、カトリーヌの先導でオレは女の子に会いまくっていた。
 だが、しかし……
 きゅんきゅんすれども、仲間は増えず……
 結局、何の成果も無くオランジュ邸に戻るしかなかった。

 オレの部屋で、セリアとシャルルにシャルロットちゃん、サラ、ジョゼ、マリーちゃん、イザベルさんは長机を囲んでいた。明日の相談をしていたんだろう。

 部屋の端の床にはクマさん一家も座り、ティーカップやお皿などのおままごと用の道具が広げられていた。
 ニーナが、イザベルさんの精霊が憑依したぬいぐるみや人形達とおままごとをしているようだ。
 ソワは、ポチ2号の培養カプセルを持ってニーナのもとへと向かった。
 ニーナとソワは、お揃いのピンクローズの髪飾りをつけている。幽霊や精霊や人間の髪を結べる霊体でできた髪飾り、仲良しの証だ。
 ソワが、冒険世界の魔神ナディンからもらったもので、同じ髪飾りをアンヌばあさんも贈られている。

 武器開発中のルネさんを除く全員が、集まったわけだ。

 席についたオレ達に、オランジュ邸の召使いが食事の準備を始める。
 ちょっとびっくりした。
 メイドさんだらけだからだ。
 不用意にオレがキュンキュンしないよう、オレらの世話係は全員男になっていたんだが……
 あと一人を増やさなきゃいけない今、あえてメイドさんが配置されたんだろう。
 従僕に世話をされるより、オレ的には和むんで嬉しいが。

 アナベラが、早速、食事をぱくつき始める。
 オレの背後には、炎、水、風、土、氷、光の精霊が立つ。用事が終わったので、戻って来たのだ。

「ごめんなさい。私の力が及ばなくって……」
 しゅんとしたカトリーヌに、セリアは穏やかに微笑みかける。
「カトリーヌさんは、よく働いてくださいました。お気に病まれぬように。百人目を容易に増やせない事には、理由があるのかもしれません」

「理由?」
 オレの問いに、セリアが頷きを返す。
「前にお伝えしましたよね? 神からの託宣には、表面の言葉以外に二重三重の別の意味がこめられている場合があると」
 あ?
 えっと……
 そんなこと聞いたような……?
「裏の裏の意味を読み取り、裏の託宣に従わねば、魔王を討伐できない恐れがあるともお話しました」
 そうだったかも?

「《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう。愛しき伴侶を百人、十二の世界を巡り集めよ。各々が振るえる剣は一度。異なる生き方の者のみを求めるべし》」
 オレが受けた託宣を口にし、セリアが唇を噛みしめる。
 何かを迷っているかのような表情。
 それから、きりりとした顔になり、オレに尋ねる。

「勇者様に質問します。どなたを愛しく思われました?」

 へ?

「この世界で、特に心惹かれた方はどなたでしょう? 容姿、性格、振る舞い……特にキュンキュンなさったのは? 私達九十九人の仲間を除けば……シャルロットが一番でしょうか?」

 オレはセリアの横に座る、貴族令嬢を見つめた。
 シャルロットちゃんが、オレに微笑みかけてくる。とっても愛らしい笑顔だ。
 シャルロットちゃんは、ものすごく可愛い。可愛いけど……

「ひ、一人に特定するのが難しいですか? でしたら、五人、いえ三人に絞ってください。勇者様がいいなあと思う女性は?」

 オレは首を傾げた。
 三人となるとちょっと迷うが……
 今日、会った美女達の顔や体を思い出し、心を決めた。

「お師匠様、シャルロットさん、魔術師学校のマルティーヌ先生」

 室内が、妙に静かになった。
 アナベラがカチャカチャとならす食器の音だけが響く。

 奇妙な沈黙を破ったのは、お貴族様だった。
 爽やかな好青年っぽい声で笑いやがった。
「賢者様か! 実に君らしいね、ジャン君」

「賢者は戦闘には不参加。きまりなんでしょ?」
 サラがジロリとオレを睨む。
「百人目にできるわけないじゃない」

 む?
 オレ好みの女の子三人をあげろってのは、その誰かを百人目の仲間にする為だったのか。
 ジョブの変更をさせて?

「でも……」
 ジョゼがほわっと微笑む。
「お兄さまが賢者さまをとても大事に思っていらっしゃることは……みなさまもよくご存じのことですし……百人目に一番ふさわしい方かも……」

「だけど、魔王戦は明日で、賢者様が目覚めるのは明後日。魔王に敵対行動をとれない方を百人目にできないわ。総合ダメージ1億の為に少しでも強い方を仲間にしなきゃ、ジャンが……困るわ」
 興奮してきたのか、サラの鼻の頭がちょっぴり赤い。

「サラさんのおっしゃる通りです」
 セリアが、メガネをかけ直す。
 胸元に白いスカーフをつけた濃紺のアカデミックドレス、正方形の角帽、小さな丸いフレームのメガネ。赤みがかったライトブラウンの髪はひっつめで、鼻はちょっとツンとしていて、眉はすずしげ。知的美人だ。
「魔王に勝利しなければ、この世界は滅びるのです。我々は勝利への道を模索し続けねばいけません」

 セリアがジーッとオレを見る。
「シャルロットに好意を寄せていらっしゃる事は察しておりましたが、マルティーヌさんですか……そうですか」
 う。
 そんな目で見られると、責められている気分になる。
 いや、だってさ……
 キュンキュンするよ、男なら。
 教師職のおねえ様が、銀のワイヤーのような下着と魔力のこもったアクセサリーだけで体を飾り、魔術師の帽子を深々と被って顔を隠してたんだもん。
 むっちむっちの色っぽい体が、ほんのりと赤くなっていて……
 恥ずかしくってたまらないのに、強制されて仕方なくその格好をしてますってのがありありで……
 あの格好で教壇に立っているわけじゃないだろうけど……
 眼福だった……

 食事をとらずメモ帳に何かを書きこんでいるカトリーヌがチラッとオレを見て、またメモ書きに戻る。
 言いたいことははっきり言えよ、カトリーヌ……



 魔王の出現と同時に、北の荒れ地に魔王城が出現する。
 初代魔王の呪いで、繰り返し生み出される城。歴代魔王の城はぜんぶ同じ位置に同じ形で現れてきたそうで、魔王城が立つ場所は『呪われた北』と呼ばれている。
 新たな魔王が誕生すると城は忽然と現れ、勇者が魔王を討伐すると幻のように消える。魔王の為だけに存在する城……そう聞いている。

 魔王城の広間の玉座で、魔王は百日の眠りにつく。
 魔王としての力を溜める為と言われている。眠っている間は完全無敵だそうだ。
 だから、目覚める日、つまり百日目の明日が、決戦日だ。
 その日を逃すと、世界は魔王のものになってしまうと言われている……女神様がそう言っているのだ。

「魔王戦当日、賢者の館の地下に魔法陣が現れます。魔王城の広間と直通となる魔法陣です」
 セリアが明日の説明する。
「百一代目勇者様の場合、魔王との決戦は正午過ぎから始まります。正午の数分から数時間前に魔法陣は出現し、魔王が目覚める前に私達は魔王城へと向かえます。ですので、明日は遅めの朝食をとり、九時半に勇者様のお部屋に集合。魔王戦準備の最終確認をした上で、勇者様の風の精霊の移動魔法で賢者の館の地下へ跳びます」

 魔法陣が出現する時まで、歴代勇者は賢者の館の地下室で仲間達と時を過ごした。作戦を確認したり、最後の鍛錬をしたり、飲食したり、仮眠をとったり……
 地下室の長机で、勇者の書の最終ページを書いた勇者も多い。
 魔王城へ赴く覚悟を記して書を閉じ、勇者の書を地下室に残し魔王城へと向かったんだ。

「賢者の館かその周囲に移動魔法で渡ろうとすると、必ず地下室に導かれます。地下室では移動魔法は使えず、上階へと通じる扉は賢者様しか開けられません。つまり、私達は移動したら出られなくなります。魔王城への魔法陣を用いるしか、外へ行けないのです」
 アウラさん以外のオレの精霊は、外部で待機。
 忘れ物をした! とか何かトラブルがあった時に、契約の石を通してオレが用事を頼み、遅れて地下へと来てもらう。
 移動魔法で跳べるのは、行った事がある場所か、知覚できる範囲。オレの精霊達は全員賢者の館に来た事があるから、跳ぶのに問題はない。
「勇者様。魔王城への魔法陣が出現したら、外に残していた精霊達もお手元にお呼びください」
 オレは頷いた。

 魔法陣を通った先は、魔王城の広間。
 そこの玉座で、『カネコ アキノリ』が眠っているはずだ。
 人間の五倍の大きさで、背中に羽があって、ニノンの双子の姉ヴェラをとりこんでいる。
 HPは1億。防御力はバカみたいに高い。
 魔王についてわかってるのは、それぐらいか。

『カネコ アキノリ』は、英雄世界じゃ普通の高校生だった。
 だが、幼馴染のタチバナ シオリさんに振られ、次元穴に飲み込まれてオレ達の世界にやって来て……
 シオリさんそっくりなヴェラに振られた為、心の闇に囚われ、魔王と化してしまった。

 魔王の能力や強さは代ごとに変わる。
 今までの魔王は、だいたい怪力無双。睨むだけで人間を殺すとか動物に変化させちゃう奴とかざらに居たし、眼から怪光線放ったり、口から火を吹いたり、歩くだけで地震を起こしたりした奴もいた。

 カネコがどれぐらい強いかはわからない。
 魔王となった以上、はんぱなく強いはずだ。
 魔界で、うちの魔王の13倍もHPのある魔界の王と戦った。軽い小手調べっぽい羽根攻撃ですら、凄かった。羽根一枚で5万〜10万ダメージなのに、羽根を一度に百本ぐらい飛ばしてきたし。
 それほどじゃないにしても……まともにやりあったら被害甚大だろう。

 なので、開幕にセリアに『先制攻撃の法』を唱えてもらう。
『敵に攻撃される前に、味方全員が必ず攻撃できる』技法を有効とし、オレら百一人の攻撃が終わるまで魔王には手出しさせない。
 先制攻撃の法が有効な間に、魔王を倒すんで、みんなが怪我をする事はないはずだ。

「質問」
 リーズが手をあげる。
「先制攻撃の法を唱える時ってさ、異世界の奴全員を呼び出してるわけじゃないよな?」
「そうですね。魔法絹布を魔王城に持ち込み、世界ごとに仲間を召喚してゆきますから。先制攻撃の法発動時には、幻想世界の方々がいらっしゃるかどうかぐらいでしょうね」
「技法発動時にいなかった奴等にも、先制攻撃の法の効果がかかるの?」

「アレンジした技法を使用するので、効果は全員にかかります」
 セリアがメガネのフレームを押し上げながら言う。
「先制攻撃の法は、PTメンバーにかける技法です。本来は、その場に居る仲間にしか効果がありません。しかし、魔法絹布の魔法陣にまで及ぶよう技法をかけますので、召喚されて出現する方々にも技法の恩恵がかかります」
 さらっと言ったけど、セリア、技法をアレンジしたのか? それってもしかすると、凄い事なんじゃ?

「もひとつ質問。仲間への支援も、魔王への敵対行為になるって言ったよな? 勇者が別世界の奴等を召喚するのって、敵対行為にあたらない?」
 む?
 召喚が敵対行為にカウントされちゃうと、詰むぞ。
 十一の世界から仲間を呼ぶから、十一アクションになっちまう。

「なりません」
 きっぱりとセリアが答える。
「勇者様がご自分の魔力をもって召喚すれば、敵対行為カウントとなります。しかし、勇者様には魔法の力はないので、通常の召喚は不可能です」
 ですね。
「魔法絹布を通しての召喚では、呪文ではなく、『会話』を用います」
 へー
「勇者様が『××世界の伴侶達よ』と呼びかけるだけで、魔法絹布の魔法陣が勝手に異世界の者を召喚するだけなのです。又、帰還にしても『××世界の伴侶たちよ、感謝する』というだけ。挨拶相当です。まったく問題がありません」
 ほほう。
 召喚・帰還ともにオレはただしゃべってるだけだから、敵対行為に当たらないってわけか。

「他に質問はございませんか? ならば、魔王戦の説明に戻ります。魔王の目覚めとほぼ同時に、私が先制攻撃の法を唱え、ニーナがポチ2号で防御結界を張ります。防御結界の使用は、仲間の保護の為です。他の仲間に攻撃の余波が及ばない状態にあれば、アタッカーは心おきなく魔王に全力で攻撃ができます。総合ダメージを伸ばす為に、ニーナに仲間を守ってもらうのです」
 おっけぇ!

「そして、後もう一人」
 こほんとセリアが咳払いをする。
「イザベルさんにも、全仲間への支援をお願いします」
 え?

 色っぽい占い師が、うふふと笑う。
 赤紫のヘッドスカーフを巻いた頭、ダークブルネットの癖のある長髪、流浪の民風の衣装。大きくあいた胸元から、素晴らしく大きな褐色の二つの山と谷間を覗かせている。
 テーブルの上に水晶珠を置き、その上で指を組んでいる。左は小指から順にルビー、サファイア、エメラルド、ヘリオドールの指輪をつけている。右手は、トパーズ、ロードライト・ガーネット、ダイヤモンド、黒真珠の順だ。
 全て精霊との契約の証だ。指輪を通してイザベルさんは精霊に命令するのだ。
 しかし、今、その指輪の中身は空っぽ。
 イザベルさんの精霊達は、ニーナのぬいぐるみに宿って一緒におままごとをしているから。

「フラム、ラルム、ヴァン、ソル、グラス、トネール、マタン、ニュイ。開幕で、八色の精霊達を魔王にぶつけるわ」
 魅力的なハスキーボイス。
 赤く厚い唇をほんのりと開いて、イザベルさんが微笑む。
「一アクションで全精霊に命令できるよう、魔王戦前に精霊達には一つになっておいてもらうの」
 愛しそうに指輪に口づけながら、イザベルさんが言葉を続ける。
「裏英雄世界で、ベテラン精霊支配者に会えて良かったわ。私の考えたやり方で精霊を一つに束ねられると、マサタ=カーンさんからお墨付きもいただけたわ」

「八体の精霊に合体攻撃をしてもらうんですか?」
 イザベルさんが、静かにかぶりを振る。
「精霊達に、魔王の防御力を下げてもらうのよ」

「炎水風土氷雷光闇の精霊が、各々司る四元素と四事象の耐性を対象物から低下させるのです。付随し、物理・魔法耐性も低下します」
 学者がメガネをかけ直しながら説明する。
「イザベルさんが魔王の弱体役となると、アタッカーが一人減ってしまいます。しかし、魔王を弱体化することで、全アタッカーの与ダメージが増加するのです。総合的にはダメージは伸びます。データを基に推測いたしました」
 いかがでしょう? と、セリアがオレに尋ねる。
 いかがも何も……
「セリアさんの作戦通りでいいよ」
「ご支持いただき、ありがとうございます」
 セリアが口元に笑みを浮かべる。

「魔王戦の間、フラム達には魔王と同化し続けてもらうの。魔王が倒れる時、彼等も四散するわ」
 精霊は恒常不変の存在。四散しても死ぬわけじゃない。その世界から自我を保つ為に必要な物質を吸収し、数時間から数日で復活できる。けど、四散すれば、精霊といえども相応の苦痛を感じるはずだ。
「術のことでは、ラルム達とも相談したわ。復活できるとはいえ、死にも等しい技を強制したくなかったの」
 ですね……
 わかります。オレだって、誰かの為に誰かを犠牲にするなんて嫌だ。精霊達にも無茶はしてもらいたくない。
「ヴァン達は、全員一致で作戦を支持してくれたわ。私の為……ひいてはこの世界の為、勇者さまの為に、四散する事を厭わないと言ってくれたの」

 オレに微笑みかけるイザベルさん。とてもなまめかしい顔に、オレのハートはキュンとした。
「あなたの未来は、険しい茨の道。けれども、魔王に勝利し、幸福な未来を手にできる道もあるわ。とても細いまがりくねった道だけれども……その先には光がさしているわ。私、あなたをその道へと導きたいのよ。私の心にソル達も応えてくれたのよ」
「イザベルさん……」
「勝ちましょうね、勇者さま。あなたが幸せになれる形で……」
「はい!」

 イザベルさん、頼りになるし……
 やっぱ、いい人だなあ……
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