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ハーレム100 作者:松宮星

勇者世界

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幻想世界へ

 お師匠様の移動魔法で、オレ達はそこへ行った。
 部屋でくつろいでいたアンヌは、突然、現れたオレ達に驚き、ソファーから立ち上がった。

《アンヌ! やっと会えた!》
 ニーナはオレの側から駆け出し、友だちに抱きついた。
《あたし、まってたんだよ。ずっと、ずーと。あそぼー アンヌ》

「ニーナ……?」
 抱きつかれた方は、信じられないって顔をしている。
 戸惑いながら、白い幽霊を見つめる。

「本当に……ニーナ? あのニーナなの?」
 ニーナが、クスクスと笑う。
《アンヌ、鬼ごっこしよー アンヌが鬼ねー》

「是非、遊んで、あげて、ください〜」
 マリーちゃんがおっとりと、アンヌに言う。

「はじめまして〜 聖修道院の、マリーと、申します〜」
「マリー? もしや、あなたは、あのご高名な聖女マリー様ですか?」
「はい〜 いたらない私を、そう呼んで、くださる方も、いらっしゃいます〜」
 アンヌから、警戒心が消える。聖女の称号の影響力はデカいわ。
「あなたと、遊びたくて、それが、心残りで、この子、デュラフォア様の、荘園の館で、幽霊になって、待っていたんです〜 遊んで、あげて、ください〜」

「私を……待っていた?」
 アンヌは眉をしかめ、目を細めた。ニーナとマリーちゃんに視線をさまよわせる。

「でも、もう、あれから五十年以上も…… ニーナは、あの館で賊に襲われて、それで、」
 マリーちゃんが、口元に指を一本立てる。亡くなった時の事を、本人に教えてはいけないと。

「ニーナ……あなた、あそこで、私をずっと待っていたの?」
《うん。あそぼって約束したからー アンヌがいつ来てもいいように、あたし、どこにも行かなかったんだ》
「私のせいで、あなたは……あそこに……ずっと」

 アンヌはうつむき、目元をそっと隠した。
「ごめんなさい。私、怖かったの……あんな事があってから、悲しくて怖くて、あそこに近づけなかったの。許して、ニーナ」
《いいよ、もう。会えたから》
 ニーナが、にっこりと笑う。
《あそぼ、アンヌ。鬼ごっこ。アンヌが鬼だよー》

「待って、ニーナ。私、もうおばあちゃんなのよ。走れないの」

「ニーナちゃん……私も入れて……」
 そう言ってニーナに近づいたのは、ジョゼだ。幽霊を怖がっていた、内気な、あの、ジョゼだ。
「私、アンヌちゃんの……親戚なの……おねがい、遊びに入れて……」

 ニーナは、嬉しそうに頷いた。
《いいよー おねーちゃんが鬼ね》

 ジョゼは、アンヌに微笑みかけた。
「いっぱい遊んで……この子の心残りを無くしてあげましょう……おばあ様」

「ジョゼフィーヌ……」
 オランジュ女伯爵アンヌは、孫娘をジッと見つめた。いろんな思いのこもった瞳で。

《おにーちゃんも、そっちのおねーちゃん達も、あそぼー》
 ニーナの誘いに、オレと仲間達は頷いた。

 その日の夕方から、オレ達はニーナと遊んだ。

 あのセリアも照れながらだが、参加してくれた。
 鬼ごっこばっかじゃない。イザベルさんに誘われて、ニーナはみんなとカード遊びもした。
 人間と話せないパメラさんも、いろんな獣を呼び寄せてニーナを喜ばせた。
 ルネさんの披露する珍奇な発明に、ニーナは大はしゃぎだった。
 リーズはスリの仕方だのダガーの使い方だのニーナに教えようとして、バアさんに怒鳴られていた。
 サラはけっこうノリノリで遊んでいたんだが、『今日の分の課題、終わってるの?』って質問したら、うっ! と、うめいてバアさんに用意してもらった部屋に一人、移動した。

 夜も更けると、バアさんは『この子が遊びたがっていたのは私です。みなさまは、明日からの旅に備えお休みください』と、オレらを追い出した。
 しばらくしてから覗きに行くと、バアさんは大きな本を膝に載せて椅子でこっくりこっくり眠っていた。お年寄りは夜には弱い、ニーナに読み聞かせをしてやってるうちに、ダウンしちまったみたいだ。

 ニーナは近くの床に座って、ニコニコ笑っていた。眠っている友達を見つめる顔は、幸せそうだった。

 仕切りたがりのセリアがタイム・テーブルを決め、オレらは交替で休み、交替でニーナと遊んだ。


《楽しかったぁ》
 朝の光の下で、ニーナはニコニコ笑顔だ。
 人間と異なり、幽霊は疲れを知らない。一晩中、バアさんやオレ達と遊び続け、ニーナは大満足なのだ。

「これで、この子の、心残りは、なくなり、ました〜 神様の、御許に、旅立て、ます〜」
 マリーちゃんは、天使のような顔で微笑んでいる。
「でも〜」
 ん?
「勇者様が、この子に、萌えて、しまったので〜 仲間枠へ、強制加入、させられて、います〜 勇者様に、縛りつけ、られて、いるの、です〜」
 へ?
「なので〜 残念ですが、勇者様が、魔王を、倒すまで、この子は、神様の、御許へ、旅立て、ないと、いう、わけ、なのです〜」

 う。
 バアさんと仲間達が、一斉にオレを見る。
 視線が冷たい……

 いや、だって、あの、その……
 あそこは、萌えるでしょ、人間なら、普通……
 萌える……よね?

 うううう……
 ごめんなさい……

「ジョゼフィーヌから聞きました。勇者様は本日、異世界へ旅立つそうですね。何処へ行くのです?」
 女伯爵のアンヌばあさんが、ニーナの肩を抱きながらオレに尋ねる。
「お師匠様の魔法で幻想世界へ旅立ちます」
「危険な場所なのですか?」
「さほどは。でも、全く危険が無いというわけではありません」
 歴代の『勇者の書』の幾つかに記されていた。魔法的な力に満ちた生き物がいっぱい居た。巨人や獣人やら、ドラゴンなんかも。
「しかし、他の世界のがよっぽど危険ですよ」

「そうですか……これから先、勇者様は仲間を求め、危険な場所へ赴き続けるのですよね……この子やジョゼフィーヌを連れて……」
 バアさんがニーナを見つめる。幽霊となった旧友を見つめる眼差しは、ひどくつらそうだった。ニーナが迎えた最期を思い出しているのかもしれない。

「幻想世界へは、あなたのご友人は伴いません」
 と、答えたのはお師匠様だ。今日も、ドラゴンのきぐるみにくっつかれている。

「私の魔法で異世界に向かえる人間は、六人だけなのです。私と勇者の他には、尼僧マリー、魔術師サラ、獣使いパメラ、それからあなたの孫娘ジョゼフィーヌ様を伴おうと思っています」

「ジョゼフィーヌを?」
 バアさんが、孫娘を見つめる。
 オレが見た限り、バアさんは、ずっと高圧的だった。ジョゼに対しても、偉そうに命令するだけな、とっつきにくい人だった。
 けど、今は……
 孫娘の無事を心配する、おばあさんの顔をしている。

「私……お兄さまの……お役に立ちたいんです……」
 ジョゼがバアさんに、ほわっと微笑む。 
「ご心配なさらないで、おばあ様……私、必ず帰って来ます、おばあ様のいらっしゃるこの世界へ」

「ジョゼフィーヌ……」
 バアさんは複雑そうな顔をし、それから、いつも通りの女伯爵の顔となり、しゃきっと背筋をのばした。

「わかりました。では、こちらからご提案します」
 ん?
「みなさまはここを離れられましたが……改めまして、魔王討伐を果たすその日まで、私の館を提供いたします」
 お?
「賢者様も勇者様もお仲間のみなさまも、宿泊所としても、鍛練場としても、会議場としてでも、お望みのままにご利用ください。これまで以上に、おくつろぎいただけるよう、手配いたします」
 おおお?
「活動の為の資金も提供します。魔王退治に協力するのは臣民の義務ですので、そちらもご遠慮なく……」
 きらん! とリーズの目が輝く。
 ルネさんも機械仕掛けの両手を組み合わせ、バアさんを凝視。個人スポンサーか何かと勘違いしてそうだな。

「感謝します、オランジュ伯爵」
 お師匠様が、ジョゼのばあさんに頭をさげる。きぐるみのパメラさんを背中にひっつけたままだが。
「賢者の館は山奥にあります。移動魔法が使える私には不自由ありませんが、他の者には不便な場所です。都に、勇者と仲間達の拠点を置けるのは願ってもない事です」
「当然の義務を果たすだけです、お気になさらず」
 バアさんはツンとすました顔のまま、ちょっとだけ頬を染めていた。
「勇者様と旅立たれない方は当家にご滞在になって構いません。もちろん、よろしければ、ですが」

 ニーナが友達を見つめる。
《あたし、ここにいていいの、アンヌ?》
「もちろんよ、ニーナ」
 バアさんはニーナに対しては、子供の頃の口調になる。
《やったー うれしー いっぱいあそぼーね、アンヌ》

 ニーナに抱きつかれ、バアさんは嬉しそうに微笑んだ。

 意地悪ばあさんかと思ってたけど……
 なんか、かわいいじゃん。

 胸がキュンとした。

 あ?

 あれ?

 今、オレ、もしかして……
 ときめき、かけた……?

「………」

 どわぁぁぁ!

 やばい!

 失礼します! と、断って、オレは急いで部屋を飛び出した。

 ジョゼのばあさんにキュンキュンしかけちゃうなんて……

 オレってヤツは!

 あああああ!


 オレが途中退出した理由を知って、サラがとことん冷たい眼でオレを見つめる。
「女なら誰でもいいってわけ、あんた……」
 違う〜 違うんだ〜

 サラばかりじゃない。ほとんどみんなの目が冷たい。
『素敵よ、さすが勇者さま』ってイザベルさんは上機嫌だけど。ああああ……

 オレは、ジョゼのばあさんとも対面禁止となった。とほほ……





 いよいよ異世界に旅立つ。
 オランジュ伯爵家のオレ用の部屋に、みんなで集まった。
 共に行く、ジョゼ、サラ、マリーちゃん、パメラさん。
 残る仲間も、見送りに来てくれた。

「パメラ……あぁ、愛しの子猫ちゃん……気をつけてね。怪我しちゃ嫌よ。特にお顔はダメ。無事に帰って来てね」
 愛の狩人カトリーヌに、背後から頬ずりされているパメラさん。
 嫌だ! と、全身で拒絶するように、パメラさんはお師匠様にすがりついている。
 お師匠様は、ドラゴンのきぐるみどころか、絶対領域持ちの狩人にまでくっつかれてる。背中が重そうだ。

 物質転送の魔法で、お師匠様が白い反物を取り出し、オレに手渡した。
「部屋の隅の床に広げろ」

 巻かれていた反物を、床にコロコロと転がした。
 部屋の端っこの床に、サーッと一直線に白い道が出来る。
 真新しい、綺麗な光沢の布だ。
「魔法絹布?」
 サラに対し、お師匠様は頷いた。
「ここに異世界への通路を開く」

 つづいてお師匠様が取り出したのは、『勇者の書』だった。
 オレのじゃない。
 表紙に、『勇者の書 96――シルヴィ』ってある。
 お師匠様の『勇者の書』だ。

 お師匠様は、自分の『勇者の書』の裏表紙をオレに見せた。

「勇者が勇者としての生を終えた時、ここに魔法陣の模様が浮かぶ」
 え?
 嘘。
 そんなのあったっけ?

「その書を記した勇者の旅の跡……勇者が行った事のある世界への扉が刻まれるのだ」

 オレは、お師匠様の『勇者の書』をまじまじと見つめた。
 しかし、模様など、どこにもない。
 もしかして、ツメの先ぐらい小さいのかも! って思って、『勇者の書』に顔をはりつけ、探してみた。
 むぅぅぅ……
「どこ? どこです? 魔法陣模様」

「おまえには見えん」
 あっさりと、お師匠様が切り捨てる。
「賢者だけが見えるのだ」
 そーいう事は、早くに言ってください!

 お師匠様が自分の書の裏表紙を、そっと撫でる。
「現れる模様は、その勇者と関わりのあった異世界への道。私の書の裏表紙には、幻想世界へ行く為の魔法陣が記されている」
 へー。
「おまえの書の裏表紙には、十一の魔法陣が現れるだろう」
「託宣通りにオレが行動すれば、ですね?」
 お師匠様が、静かに頷く。
「おまえはこれから十一の世界に赴き、残り八十九人の仲間を得る。そして、魔王を倒し、私の跡を継いで賢者となるのだ。そうだろ?」
 しのび笑いをしてやがるのは……誰だ?
 オレが『賢者』になっちゃ悪いのかよ? 生き残れたら、そーなる予定なんだよ!

「これからこの魔法絹布に、幻想世界への魔法陣を写す。そこを通り、異世界へ向かうのだ」

「あんたらが仲間探ししてる間、オレ、お宝探ししてるね」
 と、プププと笑いながら、リーズ。笑ったのは、おまえか!

「リーズ、あなたの遺跡探索の旅には……多くの困難……刃……血が見えるわ……」
 水晶玉を撫でながら、イザベルさん。
「あなたを守る剣が必要ね……アナベラさんについて行ってもらいなさい」

「うん、いいよー」
 と、ビキニ戦士アナベラは、あっさりと答える。

「え? いいよ、探索はオレ一人で」
 アナベラがバン! と、胸を叩く。ぷるるんと、二つの山が素敵に揺れた。
「おねえさんに、任せなさい。守ってあげる。いっしょに旅しよー」
「やだよ! ついてくんなよ! あんたみたいなバカのお守り、絶対、ごめんだ!」
「バカ? んもう、きみ、また、言ったなー」
 アナベラにぎゅっとされ、リーズが悲鳴をあげる。小柄なリーズの頭の上に、ぷるんぷるんの胸が……あぁぁ、この胸ともしばらくお別れなのか……

「こちらの事はご心配なさらないでください、賢者様、勇者様。魔王戦に備え、さまざまな準備を進めておきますね」
 セリア、張りきってるなあ。
 まあ、学者様が仕切ってくれるんだ、こっちは問題ないだろ。

「勇者様、困ったなーという時にはこれです!」
 ルネさんが、オレの手にかなりデカい革袋を押しつける。
「私の発明品を詰めた、その名も『ルネ でらっくす』! あらゆる危機に対処できる、発明品を詰めておきました! 旅のお伴にどうぞ!」
 うわぁ〜い。うーれしーなー
 一個でも、役立つモノ、入ってるかなー 入ってたら、いいなー

 一人用の天幕やら荷物を背負い、荷物入れのポーチを肘にかけ、更に『ルネ でらっくす』を持つ事になったオレ。
 横からジョゼが、おずおずと声をかけてくる。
「それ、私が……」
 代わりに持つと、言ってくれてるんだ。
「ありがとー んじゃ、これ、頼む」
『ルネ でらっくす』じゃなく、ポーチの方を渡した。ジョゼは力持ちだけど、男として、女の子に重いものを持ってもらうわけにはいかない。
「でも……」
 オレの背の荷物や『ルネ でらっくす』を、ジョゼがチラチラ見る。
「それ、持ってくれればいいよ」
「わかりました……お兄さまのおっしゃる通りにします」
 ジョゼは淡く微笑んで、ポーチを肘にかけた。

《おにーちゃん、またねー》
 手を振る白い幽霊に、オレも手を振り返した。

 アナベラにひきはがされてカトリーヌが、ジョゼにひきはがされてパメラさんが、お師匠様から離れた。
「ここに立て」
 魔法絹布の一番端、向って右側にオレはお師匠様と並んで立ち、共に幻想世界へ旅立つ仲間はその後ろに立った。
 お師匠様が、『勇者の書 96――シルヴィ』を魔法絹布の上に置く。
「魔法にて、赴くべき世界の魔法陣のみを魔法絹布に記す」
「ここに魔法陣を開くんですか?」
 オレはびっくりした。
「だけど、布、丸め直しちゃったら、どうなるんです? オレら、帰って来られるんですか?」
「魔法防御をかけておく。我々が還るまで、何人たりとも魔法絹布には触れられない」
 なら、大丈夫か……
「いずれ、おまえは賢者として、次世の勇者を異界に導くのだ。今のうちにその法も覚えておけ。私の呪文の後に続け」

 お師匠様がオレと向かい合う。
 昔はすごく大きかったお師匠様。今じゃ、同じくらいまでオレは背が伸びた。

 そして、昔っから変わらない無表情。
 白銀の髪に、すみれ色の瞳。綺麗だが、作りものめいた顔がそこにはあった。

 そのお師匠様が、ゆっくりと……
 オレに顔を近づけてきて……
 おでこをオレに合わせたんだ……

「呪文に私がこめる念を感じ取れ……ゆくぞ」
 お師匠様が呪文を唱え出す。
 オレはどうにか、それをおっかけた。
 接触する事で魔力の波動を伝えようとしてるんだろうけど……

 いろいろ無理です!

 みんなが見てる中、お師匠様とキスができそうな距離で向かい合ってるんです!

 冷静でなんかいられません!

 ああああ、近い! 近いよ、お師匠様……

 ほんとに……

 綺麗だなあ……





 魔王が目覚めるのは、九十三日後だ。

 そんなわけで、お師匠様が魔法で開いた魔法陣を通って、オレは仲間達と共に幻想世界へと旅立って行った。
+注意+
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