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ハーレム100 作者:松宮星

裏 英雄世界

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サラのひとりごと

 パンパカパ〜ン。ファンファーレが鳴り響いた。

「おめでとう!」
「おめでとう、ございます〜」
「さすがですね! 素晴らしいです!」
 祝福の声。
 拍手。
 舞い散る紙吹雪。

 スポットライトが、幸せいっぱいの二人を照らす。
 至福の笑みを浮かべた少女と、にやけたバカ(ヅラ)の男。

 少女が頬を染め、うっとりとした顔で男に微笑みかける。
「……今日の日を迎えられて嬉しいです……愛しています」

 そう言われて、男はへらへらと笑う。ムカつくほどの上機嫌だ。
「オレもだ。愛しているよ、ジョゼ。オレの本当の伴侶はおまえだけさ」

 もう一度、パンパカパ〜ンとファンファーレが鳴り響く。

 ライスシャワーの祝福を受け、幸福な二人がどんどん遠のいてゆく。
「お幸せに〜」
《おねーちゃん、きれい》
「お二人のこれからのご活躍を祈らせていただきます」
「ま、がんばれよ」

 明るいのは、スポットライトの下の二人だけ。
 二人が遠のいてしまうと、周囲は闇に満たされてしまう。

「待って」
 走りたいんだけど、体が重い。
 動けない。

 二人が歩みを止めて、振り返る。
 けれども、アタシなんか目に入ってない。二人きりの世界に浸っている。

 ジョゼは頬を染め、微笑んでいる。
 そしてバカは……
「十二世界コンプおめでとぅぅぅ! 全世界について来てくれたのは、おまえだけだ! さすが、オレのジョゼ! これからもず〜〜〜〜〜っとオレと一緒にいてくれよな!」





 最悪の目覚めだった。

「ジャンのバカッ!」
 怒りをこめて、枕を床に叩きつけた。


 時間が経てば、冷静さが戻ってくる。
 夢見が悪くって枕に当たり散らすなんて……バカすぎるわ。

 床に散らばった羽毛を片づけてから、サイドテーブルの上の小さな絵を手に取った。

『撮れルンです君』で作った絵。英雄世界の写真にそっくりな、現実を切り取ったかのような絵だ。
 冒険世界の恐竜達の森を背景に、アタシとジャンとジョゼが写っている。
 ガキっぽい顔のジャン、かわいらしく笑っているジョゼ……ツンとした顔のアタシ。撮られるのが嫌そうにも見える。

 見る度に溜息をついてしまう。
 こんな表情をしちゃって……アタシはバカだ。
 三人の絵が欲しいってジャンの気持ちも嬉しかったし、絵が出来るのもとっても嬉しかったのに。
 昔からアタシは……大事な時に素直になれないのだ。





 アタシとジャンは、お隣さんだった。
 パパとおじさんが商売仲間だったんで、ずっと家族ぐるみの付き合いだった。それこそ産まれた時から。

 アタシとジャンは、毎日一緒に遊んだ。
 兄妹みたいな親しさだった。
 ジャンは、へらへら笑ってばかりで……たまにおにーさんぶったけど、まぬけでドジで泣き虫で……年上って感じはしなかった。小さい頃の一才違いは、本当ならけっこう大きい差のはずなんだけれど。

 おじさんがベルナおばさんと再婚して、ジャンに義妹ができた頃の記憶はけっこう曖昧。
 アタシ、三つだったし。

 けど、おぼろげに覚えている。
 昔、アタシはジョゼが大嫌いだった。

 遊びに誘い、ジョゼの一人遊びに混じろうとし、ベルナおばさんに間に入ってもらい……仲良くなろうとジャンは頑張っていた。
 なのに、ベルナおばさんの後ろに、ジョゼはすぐに逃げ込んでしまうのだ。
 ジョゼは怯えたネズミのようだった。

『おとーさんがしんでさ、ベルナかあさんとジョゼはたいへんだったんだって。いっぱいこわいめにもあったみたい。だから、ジョゼがおへんじできなくっても、おこんないであげてって、ベルナかあさんがいってたんだ』
 ジャンからそう聞いたのは、あの頃だったか、もう少し大きくなってからだったか……

 アタシはジャンと一緒にジョゼに話しかけ、遊びに誘い続けた。
 ジョゼの為に、ではない。
 ジャンと一緒に遊びたかったからだ。
『ごめん。いけない。ジョゼとなかよくなりたいんだ』
 と、遊びを断られ続けるのが嫌だったから……それで手伝うふりをしたのだ。
 アタシは、そんなズル子供だった。

 けれども、いつの間にか……
 ジョゼのことは嫌いではなくなった。

 ジャンの粘り勝ちで、ジョゼが心を開いたからだ。

 返事を返すようになり、怯えながらも遊びに参加するようになり、笑みを漏らすようになり、アタシたちの背中を追っかけてくるようになり……

 だんだんジョゼがかわいく思えた。
 妹ができた気分になった。

 室内から庭へ、そして野原へと遊び場は変わっていった。

 出逢った頃のジョゼは、髪の毛も長くってかわいいお洋服を着ていた。ちょこんと座っている姿はお人形そっくりだった。
 けれども、そのうち男の子みたいになった。髪をばっさり切っちゃって、服もジャンのお古を着るようになった。
 ジャンのする事を何でもやりたがったからだ。木登りも、泥遊びも、剣士ごっこも、格闘ごっこも。
 で、外遊びするなら動きやすい格好がいいだろう、とベルナおばさんが変身させたらしい。今、思うとおばさんは大胆な人だったわ。豪商の義娘に男装とは。

 アタシやジャンには心を開いたけど、ジョゼのひとみしりは直らなかった。
 だから、三人で遊ぶ事が多かった。

 ジョゼは、かわいかった。
『おおきくなったら、ジャンおにいさまの、およめさんになる……』が口癖の、甘えん坊だった。
 ジャンはバカだから、『うん、いいよ』って軽く答えてた。

 対抗して、『ずるい! アタシもジャンのおよめさんになる!』って言ったこともあった。
 それに対しても、あのバカは『うん、いいよ』と答えた……
 本当にバカ。
 結婚できる女性は一人だけだって知らなかったのか、その場の気分で答えただけなのか……いや、きっと、何も考えてなかったのね、バカだから。


 ジャンが六つ、アタシが五つ、ジョゼが四つの時に、百代目勇者が魔王と戦っている。

 魔王が出現し眠りに就いている間の百日は、国の上層部や軍隊は忙しかったんだと思う。
 でも、庶民には関係なかった。アタシは、普通にジャンとジョゼと遊んで暮らしていた。

 魔王戦当日はお触れで、国中がお休みとなった。
『勇者の日』という特別休日。『お家で勇者様の勝利を祈って、勇者様に正義の(パワー)を送りましょう』と神父様はおっしゃっていた。
 今にして思えば……あれは災害や騒乱に備えての休みだったのだ。
 勇者と魔王が激突した為に、災害が発生した例は多々ある。地震、火山の噴火、暴風、落雷、雹、水害……暴動や反乱が起きた事もあった。

 けれども、子供にはそんな事は関係なかった。
 当日、アタシはママと一緒にジャンのおうちの地下室に招かれ、小パーティを楽しんでいた。
 地下室は綺麗に内装されていて、備蓄食料や水がいっぱいあった。
 アタシたちはご馳走を食べ、地下で転げまわって遊び、時々『勇者さま、がんばって』とお祈りした。
 災害や騒乱に備えてお店を守っていたのか、商売機会をうかがっていたのか知らないけど……両家の父親は地下室には居なかった。代わりに、おっかない顔の傭兵が雇われ、上階にいっぱい居た。

 その日も楽しかったし、翌日からの国をあげての戦勝のお祭りもすごく楽しかった。
 花火があがり、街は明るい音楽にあふれた。
 あっちこっちで祝賀パーティが開かれ、出店や大道芸人で街は賑わった。
 ひとみしりのジョゼも、ジャンの背中にひっついてお祭りムードの街の中を歩いた。

 国中が『勇者が魔王を討伐した』喜びにわいていた。

 けれども、勇者がどんな人か、どんな風に魔王と戦ったのか、アタシは知らなかった。パパもママも知らなかった。

 国民に知らされたのは、『勇者が勝った』という事実だけだった。


 そして……バカで単純なジャンは勇者ごっこに夢中になった。
 もともと勧善懲悪ものが大好きだったし。
 勇者ものの絵本を読みふけり、しばらくの間、勇者ごっこばかりをやりたがった。魔王の役も交代でちゃんとやってくれたから、あのバカ遊びにもつきあってあげたけど。


 それから二年……
 ジャンが八つ、アタシが七つの時に別れはやってきた。

 あの日……
 アタシとジャンは、ジャンのおうちの裏庭で虫とりをしていた。
 ジョゼは、木のブランコで遊んでいた。

 いつ現れたのかわからなかったけれど、気がついたら、すぐそばにパパよりも背の高い大人が立っていた。

 白銀だった。
 風になびく長髪も、その体にまとうローブも。

『顔を見せてくれないか?』
 しっとりとした、やわらかな声がした。

 その人は身をかがめ、ジャンと顔を合わせた。
 白銀の糸のような長い髪がさらりと流れ、ジャンの頬を撫でた。

 色が白い。感情が浮かんでいない顔は、美しい人形のようだった。瞬きを惜しむかのようにジッとジャンを見つめるスミレ色の瞳も、ガラス玉みたいに見えた。

 その人は、しばらくジャンを見つめ……
 それから、おもむろに口を開いたのだった。

『……やはり、間違いないか。迎えに来たぞ、百一代目勇者よ』と。



『ごめんなさい。これから大事な話し合いがあるの』と、ベルナおばさんにお家に帰されてからずっとアタシはやきもきしていた。
 ジャンが百一代目勇者だなんてありえないと思った。
 頭が悪くて、バカで、単純で、泣き虫なジャン。
 喧嘩も弱かった。ベルナおばさんから格闘を習ってたくせに、『素人相手には使っちゃいけないんだ』と馬鹿正直に教えを守っていたからだ。
 力まかせに殴ってくる相手に、拳を封印とかバカじゃないのと思った。ちょっと格闘を習っただけの子供なんて、普通の子とたいして差が無いのに。
 そのくせ、ジョゼの悪口を言われるとカーッとなって、相手が誰だろうが挑んでく後先を考えないバカ……
 ボロボロになっても、ジャンは降参なんかしないから……
 だから、アタシが加勢してあげた。
 守ってあげた。
 アタシが代わりに、近所のガキどもを泣かせてやった。

 なのに……

『なんか、オレ、百一代目勇者だったみたいでさ』
 その日の夕方、バカはヘラヘラ笑いながら別れの挨拶にやって来た。
『これから、お師匠様のお家に行くんだ。歩いて登れないすっごい山の中にあるんだって。魔王が現れるまで、ずっとそこで修行するんだ』
 いつも通りのしまりのない顔。
 でも……こいつ泣いたなって、すぐにわかった。目が赤いし、腫れぼったい顔をしていた。
『勇者は……えっと、セゾクと交わっちゃいけないんだ。手紙もダメだって。だからさ……サラ、魔王が現れるまでお別れだ。元気でな』

 お別れ……そう聞いて、胸がズキンとした。
 赤ん坊のころから、ずっと一緒だったのに……

『ふーん』
 ジャンの顔を見つめながら聞いた。
『ジョゼ、泣いたでしょ?』
『……うん』
『大好きなおにいさまがいなくなっちゃうんだもん。かわいそう。あの子、あんたがいないと外に出られないのに』
『……うん』
 ますますジャンがしょんぼりする。

『だけど……オレ、勇者だから』
 バカは拳を握りしめ、自分を励ますように言った。
『オレが魔王をたおさないと、世界がほろびちゃうんだ。がんばらなきゃな。オレ、ぜったいこの世界やジョゼ……、それにサラ、おまえを守ってやるよ』

 夕日を浴びているせいか、バカの笑顔がキラキラと輝いて見えた。

『サラ。ジョゼのこと、これからもたのむ。メンドウみてあげて』
 そんなあたりまえのことを頼むなと怒ると、ごめんとジャンはすぐに謝った。

 人と争うのも怒らせるのも、ジャンは苦手。
 へらへら笑ってるのが好きなのだ。
 お気楽な、バカ……
 勇者なんて、似合わない……

『行っちゃイヤ』って言いたかった。
 だけど、どうにか飲みこんだ。
 わがまま言ったってしょうがない。ジャンは行かなきゃいけないんだから。
 なら、せめて『がんばってね』と可愛らしく応援してあげられればいいんだけど……

『あんたが勇者だなんて、この世はもう終わりね』
 口から漏れたのは、憎まれ口だった。
『魔王が現れるまで、山ン中にこもるの? へぇ〜 ま、あんたみたいなバカのお守り、あきてたし。せいせいするわ。期待してないけど、勇者なんだから、せいぜいがんばってみたら?』

 なんで、こんな風にしか言えないんだろう……
 その時も、自分が嫌になった。

 だけど、バカはこう言ったのだ。
『ありがとう、サラ』と。
『オレ、がんばるよ』と。

 アタシの憎まれ口を聞いて、どうしてそういう言葉が出てくるのか……
 どこまでおめでたい頭なのか……

 やさしい言葉を返してくれたのは嬉しいけど、かなり心配になった。勇者としてやっていけるのだろうか? と。

 三つ編みの白いリボンを解いて、ジャンに渡した。
『リボンなんかいらないよ』とバカが言ったから、
『お守りよ』と答えた。
『お守り?』
『アタシのリボンだもん。持ってれば、泣き虫のあんたも強くなれるわよ』
 旅立つジャンに何かを渡したかった。
 けど、とっさのことで何もなかったから……リボンにした。
『勇者なんだから、魔王を倒せるぐらいには強くなりなさいよ。泣き虫も直してよね、みっともないから』

 ジャンは不満そうに唇をとがらせて、『おまえがびっくりするような、すっごい勇者になってやるからな』とわめいて帰って行った。アタシの白いリボンを持って。
 アタシは舌を出して見送ってやった。





 あの日から、十年の月日が流れたのだ……

 思わず笑みが漏れる。
 確かにジャンは『アタシがびっくりするような、すっごい勇者』になった。
 十二の世界から百人の女の子を『伴侶』として仲間にし、一度づつ力を借りて魔王を倒す勇者……

 アタシの想像を越える勇者になったわ。


《サラ様。シャルロット嬢との約束の時間が迫っています。そろそろお召し替えを》
 サイドテーブルの上のぬいぐるみから思念が伝わる。
 アタシは炎の精霊にお礼の気持ちを伝え、寝巻を脱ぎ、魔術師のローブに着替えた。


 魔王が目覚めるのは、三日後となった。


 ポワエルデュー侯爵家に伝わる魔力回復及び魔力増強用の食事を三食とも食べ、シャルロットさんの指導を受ける。
 魔王戦までやれるだけのことをやっておかなくては……

 勇者の剣を得たジャンは、魔王戦で少なくとも100万ダメージは出せるはず。

 魔王のHPは1億。

 ジャンの攻撃順番は、一番最後。

 アタシはその前に攻撃するつもりだ。どの魔法を使うかは、魔王の残りHP次第。
 できれば、アレは使いたくないけれども……

 いざとなったら、アレを使う。
 覚悟はできている。

 決して死なない。
 死んだら、あのバカが自分のせいだって傷つくもの。
 やるとしても、その手前まで……

 シャルロットさんから、魔力増強用の装備品をお借りした。
 あの魔法については、天才魔術師のシャルロットさんとよく相談し、途中からはシャルルさんの助言も得ている。
 魔力濃縮の技術も習った。
 あの魔法を制御する自信はある。あとはいかに人体への負担を軽減するかだけだ。
 アナムも魔力となってくれる。
 五つまでなら……多分、大丈夫……
 アタシは死なない。

 けれども、魔王の残りHPが600万よりも多かったら……

 アタシは……

 でも、それでも……ジャンが居なくなるよりは……


 ジャンには、絶対、自爆魔法は使わせない。

 願わくば……
 ジャンが、裏英雄世界で強い仲間を得られていますように……
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