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ハーレム100 作者:松宮星

裏 ジパング界

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裏 英雄世界へ (※)

「女神様がマリー様に降臨し、ジャン君に贈り物をなさった?」
 シャルルは、ルネさんの家で魔王戦用武器のテストに立ち会っていたらしい。
 ルネさんは、今日の会議は欠席とのこと。
 シャルルはルネさんの助手を伴って戻り、会議用テーブルの上にデカい四角の機械を設置させている。
「……残念だ。麗しの女神様が愛らしいマリー様に宿り、奇跡を起こされたお姿を見逃すとは……」
 お貴族様が、悲劇の主人公よろしく嘆きのポーズをとる。
 基本的にはいい奴なんだが……気障すぎてムカつくぞ。張り倒したくなる。

「聖書とは大違いの、きゃぴきゃぴの腹黒女神だ。遭っても幻滅してたぜ」
「構わないさ」
 お貴族様がフッと笑う。
「女性とは、常に神秘の存在。常に新鮮で、常に嬉しい驚きを与えてくださる。イメージ通りではない美人なら大歓迎さ」
 あ、そ。

「お兄様にとって、女神様は憧れの女性なのです」
 シャルロットちゃんだ。そろそろ会議の時間だからオレの部屋に来たのか。
「昔からですわ。勇者さま達の冒険物語を愛読書になさってるから」
 へ?
「シャルロット」
 コロコロ笑う妹を、お貴族様がたしなめる。
「子供の時の話だ。セリアの影響で、勇者関係の本を一通り読んだだけ。美しい再従姉(またいとこ)殿を喜ばせたくて、ね」
「子供の時だけ?」
 シャルロットちゃんが口元を隠し、可愛らしく笑う。それに対し、お貴族様は『しつこいぞ』と不機嫌顔。
 へー セリアの影響で、シャルルも勇者おたくだったのか。
 知らなかった。
 のわりには、現勇者のオレへの扱い、ひどくない?


 裏ジパング界から還ってから、約三時間が経過。
 その間に、シャルルが戻り、セリアは残留組やオレの精霊達と事前の話し合いをしていた。
 サラは別室で休んでいる。
 残りのメンバーは、食事と風呂だ。
 オレはバッチかった。一週間もひっくり返ってたし、あっち夏だったし。ジョゼがこまめに体を拭いてくれてたようだが、湯あみしてサッパリした!
 そいや、オレ、寝て起きてすぐに普通に動けた。セリアが体力維持の技法をかけてくれてたんだろう。
 寝てる間、みんなのお世話になりまくりだったわけだ。


 で、会議。
 欠席は、サラとルネさん。
 今回も、全員、ケモ耳&ケモ帽子&ケモ尻尾着用だ。

 素肌に、白ビキニとドラちゃん。パメラさんの刺激的な姿に、助平貴族が動揺。鼻の下にハンカチをあてて、ごまかしていた。
 今でも鼻血ものだが、最初はビキニ無しだったんだ。もっと凄かったんだぜ、シャルル!
 わはは! オレは見た! この目でしかと! 珍しくうふふな経験できたぞ! 運気上昇中かもな!

「ブノワ君、スイッチを入れてくれたまえ」
 ポワエルデュー侯爵家嫡男の命令に、ルネさんの助手が従う。
 テーブルの上に置かれた四角い箱。旅行鞄ぐらいのサイズ? その上に丸い筒。どっかで見たような作りだなあと思ったら、真っ黒だったそれが急に明るくなり……
 機械が揺れ出し、ゴウゥンゴゥウンと凄まじい音を発して振動する。

――もしもーし! 聞こえますかー! 見えますか〜? あ〜あ〜あ〜 ただいま『テレビ電話くん』のテスト中〜――
 テレビ電話?
 ゴトンゴトンゴトンと振動している四角い機械。
 それの中央に画面があり、黒髪おかっぱのてっぺんが映ってる。
 ルネさんの頭?

――ルネ。カメラの位置が悪い。もうちょっと角度を下げろ――
 おかっぱ頭の後ろから、禿げ頭が現れる。
 機械の手のアップが映り、画像が揺れ動く。
――こんなもんでしょうかね、トスカンさん?――
 フルフェイスのヘルメットを外したルネさんが映る。童顔でかわいい。けど、首までだ。斜め上から見下ろす感じで、おでこがやたら目立つ。
 ルネさんの後ろに、ハゲのおっさんが居る。
――う〜ん。カメラ位置はモニターの上じゃなく、せめて横にすべきだったな。でなきゃ、モニター内にカメラを内蔵させるか――
――おお! カメラ搭載モニター! そのアイデアいただきです! 画面の中央でどうです? そこに丸い穴をあけてですね、鼻のあたりがピカピカ光っておしゃれな感じに――
――外からカメラが丸見えはマズイだろ。内蔵させようぜ――
――んじゃ、モニターの裏側に――
 ほっとくと、二人で延々と話しそうだ。

「ルネさ〜ん。そっちからオレが見える? 声が聞こえてるの?」
 やかましい機械音に負けないよう、大声で質問した。
――バッチリです! 勇者様! 紹介しますね! こちらトスカンさん! シャルル様が後ろ盾(パトロン)なさってる機械工房の親方さんです! 魔法機関分野の超ベテランなんですよ!――
 機械の中のルネさんが満面の笑顔となる。
 ルネさんの後ろのハゲのおっさんが、どうもと頭を下げる。オレも頭を下げ返した。

 思い出した。この機械は、エスエフ界の通信モニターに似てる。上の筒が撮影カメラなんだな。
 あっちのは、外にカメラなんて無かったけど。

「今、自宅?」
――はい! 作業場に居ます! 実はですね、魔王戦用の武器の開発がちょっとアレな感じにアレしてるもので、そちらにお邪魔してる暇がないんです!――
 遅れてるのか。
――会議にはテレビ電話で参加させていただきますね! 時々、よそ見してるかもしれませんが、映像と音声は録画してますので大丈夫! 話は通じます!――
 テーブルの上で、がたがた揺れている『テレビ電話くん』……
 いつ爆発してもおかしくない。
……いざって時は、機械を包み込む形で精霊に結界を張ってもらおう。

 セリアが、裏ジパング界での事をざっと語り、それから残留組の成果を教えてくれた。

「精霊界とエスエフ界の裏世界への転移呪文は、残念ながら判明していないそうです」
 そうか……
「明日より、英雄世界の裏世界に赴いてください」
「わかった」
 英雄世界の人間は戦闘力が低かった。その裏では、あまり期待できない。英雄世界の裏世界に行くのは最後の最後。他の裏世界への道がわからなかった場合のみって話になっていた。
 だが、仕方が無い。
 オレは十二の世界で伴侶を得なきゃいけない。託宣を叶える為に、どんなしょぼい世界であろうが、あともう一つ行かなきゃいけないんだ。

「最後のあがきをしてみます」
 穏やかな顔で、セリアが微笑む。
「勇者様が旅立たれる時間まで、精霊界の裏世界行きの(すべ)は無いものか、知識人の方々ともう一度検討してみます」

「セリアさん……」
 胸がジーンとした。
 ありがとう、そう言おうとした時だった。
『テレビ電話くん』から、ギュィィーン! な音が響きだしたのは。

 見れば、モニターから凄まじい光。
 直視したら、目が焼けて失明しかねない眩しさだ。
 テーブルの全員が顔を伏せる。
「ソワ、遮光!」
 闇の精霊に命じてから、オレはモニターへと叫んだ。 

「ルネさん!」
 鼓膜が破けそうな音!
「なに、この光と音?」
 爆発するのか?

 この機械を運んで来たルネさんの助手が、背面のボタンをポチンと押す。

――あれ? 緊急通信?――
 光と音が止む。
――どうかなさいましたか、勇者様?――
 ロボットアーマーの上から遮光マスクをつけたルネさんが、モニターに現れる。
「ルネ様〜 溶接なさるんなら、そっちの映像&音声カットでお願いします。モニターが焦げ付くところでしたよ〜」と、助手。
――え! 『テレビ電話くん』が壊れるところだったんですか! それはたいへん! 気をつけます!――
 おい、おい。
 メカだけでなく、人間の心配もしろ!


 この世界の仲間探しも、順調のようだ。
 今、別館には十九人の女性が居るらしい。
「けど、百人まであと七人だ。次の裏世界で少なくとも一人は仲間にするわけだし……補欠の子は最大六人いればいいんじゃないか?」
「集めておく女性は多いに越した事はありません。勇者様が萌え、且つ女神様のジョブ被り基準にひっかからない方でなければ仲間にできませんから」と、セリア。
「なるほど」
「魔王戦前日には、オランジュ邸の家人達にも待機してもらいます。別館に集めた女性達で百人に達しなかった時は、メイドでも庭師でもコックでも誰でもいいです……萌えてください」
 十二の世界で百人の女性を仲間としなきゃ託宣は叶えられない。
 いざとなったら人数合わせで、萌えるんだ。戦闘力ゼロの人間だろうが、仲間にしなきゃ。

「セリア姉さま……」
 セリアの隣のシャルロットちゃんが、再従姉の耳に何ごとかを囁く。
「その話は、また後で……」
 渋い顔となったセリアがメガネをかけ直し、そこで会話を終わらせる。

「シャルル。ルネさんの武器開発の進捗は?」
 ルネさんにではなく、『テレビ電話くん』のそばの助手にでもなく、セリアは再従弟に聞く。
 お貴族様がふぁさ〜と髪を揺らし、ハハハと爽やかに笑う。
「今、正常動作する発明品は三つ。五日後に間に合いそうなものは四つ。あとは、まあ、運次第だな」
 う。
「同時使用不可な武器もあるので断言はできないが……六つも完成していれば、英雄世界の方々と裏冒険世界の方々もどうにか攻撃に参加できると思うよ」


「勇者様と共に、裏世界へ赴く仲間を千慮いたしました」
 セリアがきりりとした表情となって、オレらを見渡す。
「私は魔王戦の準備がございますので、残留します」
 了解。

「まず……強化補助及び回復の使い手のマリーさん」
「はい〜」

「あとは……残り日数がたいへん短い事を重視し、特別メンバーと共に勇者様には異世界へ行っていただきたく存じます」
 特別メンバー?

 セリアがあげた名前に……オレは唖然とした。





「ジャン……?」
 眠っているかと思ったんだが、部屋に入ってすぐサラは体を起こした。まだ顔色が悪い。
「……これから、会議? ちょっと待って。すぐに支度するから」

 扉を閉め、ベッドのサラのもとへと向かう。
「会議は終わったよ」
 そう言うと、幼馴染はムッと眉をしかめてオレを睨んだ。
「なんで? 会議前に起こしてって頼んどいたのに」
 サラはネグリジェ姿だ。ピンク色のかわいいデザイン。いつもと違う格好に、胸がキュンとなる。
 ストロベリーブロンドの癖のある長髪。大きな緑の瞳、ふっくらとした頬、ピンクの唇。
 眉と目がつりあがってても、今日はやたら可愛く見える。

「今は無理して欲しくないんだ」
 落ち着けと、手ぶりで合図を送った。
「本番は五日後だ。大魔術師様にはその日に大活躍してもらいたいんだよ」

 鼻のてっぺんを赤く染めながら、幼馴染がオレを睨む。唇を尖らせてるのがキュート。

「だからって、勝手なことしないで。約束は守ってよ」
「うん、そうだよな、ごめん。けど、心配だったんだ」
 オレは幼馴染に微笑みかけた。
「はやく元気になって、またオレをぶん殴ってくれよ。サラ」

 ブスくれた顔が、緩む。
 幼馴染がクスリと笑う。
「あんた、変な趣味に目覚めてない? 土の精霊を踏んづけるわ、アタシに殴られたがるわ」
「おまえこそ、オレを殴るのが趣味になってないか?」
 オレ達は顔を見合わせ、笑った。

 会議のことを話した。

 ルネさんの『テレビ電話君』がいかに迷惑だったか。
 稼働音だけで、ごぉぉんごぉぉんうるさいんだ。
 大きい声を出さなきゃ全員に聞こえないんで、セリアの声は最後にはかすれてた。『セリアさん、かわいそうに』とサラがケラケラ笑う。

 次の世界には特別メンバーを連れてくと聞いて、サラは興味津々って顔になった。
「戦闘力のある美人と出会いやすくする為のメンバーなんだ」
「へー」

「まずは、占い師のイザベルさん。向こうに着いたら、イザベルさんによりよい未来がある方向を常に占ってもらうわけ」
「なるほど! イザベルさんは国一番の占い師ですものね! 一緒に行ってくれるのなら、百人力だわ! あ、でも……」
 サラが口元に手をあてる。
「セリアさん、占いの類いはぜんぶ大嫌いなのに、そんな理由でイザベルさんを選んだの?」
「いろいろあって、セリアも変わったんだろ」
「そうかもね……裏冒険世界へ行けたのはイザベルさんのおかげだし……」
「たぶん、占いは信じられないけど、仲間だからイザベルさんは信じる。そういう事だと思うぞ」
「そうね」

「それから、アナベラ」
「アナベラさん?」
「アナベラは、見ただけで相手の力量がほぼわかるだろ? アナベラに女の子達の実力を測ってもらって、できるだけ強い子を仲間にする」
「なるほど!」

「んでもって……」
 言いたくないけど、オレは言葉を続けた。
「シャルル……」

「は?」
 幼馴染が目をパチクリさせる。

「シャルル……さん?」
 サラの問いに、オレは頷きを返した。
「なんで? 連れてっていいの? あんたの百人の仲間じゃないのに?」

「異世界転移の魔法は、呪文を唱える者とその周辺の六人を運ぶだけのもの。伴侶でなきゃ連れてけないなんて、ルールはないんだよ」
 ありゃ、良かったのに……
「あいつは……中身はともかく、顔はいい。ハンサムでキラキラなお貴族様が立っていらっしゃるだけで、女の子がキャーキャー寄って来るんじゃないかと。まあ、ようするに、釣り餌だ。セリアがそう言ってた」

 サラはプッと吹き出し、口元を押さえた。
「……そんな拗ねた顔しなくても」
「うるせぇ」
「大丈夫よ、ジャン。あんただって、見苦しいってほどじゃないんだから」
「だから、うるせぇっての!」

 サラが明るい顔で笑う。

 ちょっぴり胸が痛んだ。
 だけど、伝えないわけにはいかないんだ。

「で、最後の一人に、」
「最後?」
 サラが、緑の瞳を大きく開く。
 オレ、マリーちゃん、イザベルさん、アナベラ、シャルル。これで五人。あと一人しか連れて行けない。
 幻想世界から裏ジパング界まで、オレは十の異世界を旅して来た。その旅には、常に幼馴染と義妹がついて来てくれた。
 けれども、次回は……

「ジョゼを連れて行く。すまない、サラ……。次回は残ってくれ」


 サラがオレを罵倒する。
 鼻の頭を真っ赤にし、おっかない顔でオレを睨む。
 大きな瞳から涙を流しながら。

「だめ! アタシを置いていかないで! あんたと約束したんだから!」
 抱きしめようとしたオレを、サラが拳でポカポカ殴る。
 力のないパンチで……。
 魔力も体力も回復していない……

「あんたが魔王を倒すまで側に居る……絶対、一人にしないって……」
 サラが顔をくしゃっと歪める。
「必ずあんたを正しい道に導いてやるとも言った!」
「うん」
「アタシがあんたを守るの! あんた、バカでエッチで流されやすいもん! 変な方にフラフラ行こうとしたら、ひっぱたいて連れ戻してあげなきゃ!」
「うん」

「だって、ジャン……アタシ……裏冒険世界で、あんたが頼むから王宮に残ったのよ」
「あん時は助かった。本当ありがとう」
「裏ジパングでだって! ほんとは、アタシ、あんたの看病がしたかったのよ」
「うん、わかってる」
「けど、パメラさんが卵の旅に行くから、手伝わなきゃと思って……」
「パメラさんが強い獣を得れば、魔王戦が楽になる。オレのことも考えてくれて、それでパメラさんの手伝いに行ってくれたんだろ? おまえ、本当にいい奴だよ、サラ」

「魔王戦は五日後なのよ!」

 サラの目から、ポロポロと涙が落ちる。

「ず〜っと我慢して、別行動したのよ……」

「一緒にいられるのは、あと五日だけかもしれないのに……」

「いやよ、ジャン……置いてかないで……」

「あと五日、あんたと一緒にいさせて……」

 オレに抱きつき、サラが声をあげて泣く。
 オレは『ごめん』と謝り続け、その背を撫でた。ほっそりとした、頼りなげな背中だ。

「オレ、おまえにすげぇ感謝してるんだよ、サラ。お師匠様が石化した時……おまえが叱ってくれなきゃ、立ち直れなかった。ありがとう……それから、ごめん。オレ、あん時、よけいな事を言った。自爆魔法の事、言うべきじゃなかった。不安にさせちまって、すまない」

「バカ!」
 サラがキッ! とオレを睨み、左頬をはたいた。
「知らないまま、お別れになる方がずーっと嫌よ! 絶対、あんたはアタシが守る! アタシが大ダメージで魔王なんか葬ってやるんだから!」

「おまえ、本当、逞しいよな」
 泣きながらオレを睨むサラに、笑みをみせた。

「大丈夫だ。おまえやみんなが居るんだ。きっと、自爆魔法なしで勝てるよ」
 根拠はないけど、オレはそう信じる。
 絶対、大丈夫だ。
 最後まで、希望は捨てない。

「みんなで揃って、賢者様の目覚めを迎えるのよ?」
「うん」
「死んだら、許さないわよ! 一生、怨んでやるんだから!」
 サラの目からこぼれ落ちる涙が、とても綺麗だ。

「六日後もそっから先も、オレはおまえ達と一緒だよ。賢者になっても、ひきこもり生活なんかするもんか。これからもいろいろバカやって、思い出を作ってこうぜ」
「約束よ……」

 幼馴染をそっと抱きしめた。

 今は静養してくれと頼んだ。シャルルん()の怪しい食事を食べて、魔力と体力を回復してくれと。

「あの独特のお料理を、また食べろっての?」
「セリアさんは可能なら二度でも三度で食べた方がいい、って言ってたぞ」
 うへぇって顔でサラが舌を出す。ちょっぴり表情が明るくなった。

「ジョゼと話したい……」
 サラがそう言ったんで、教えてやった。ジョゼも『サラさんと話したい……』って言ってたって。

「あんたバカだから。ジョゼに監視を頼まなきゃね」
 そう強がりながらも、鼻の頭が赤い。心細そうなその姿に、オレのハートはやたらキュンキュンしてしまった。





 翌朝、旅立ちとなった。

 残念ながら裏精霊界への行き方は判明せず。
 裏英雄世界へ行くしか道は無い。

 部屋の隅で、ジョゼとサラが仲良さそうに話をしている。
 リーズがアナベラに、きゃんきゃんわめいている。旅での注意だ。服を着ろよ、と。でも、アナベラは右から左だ。えへへと笑って『元気でねー』と、嫌がる相棒をぎゅ〜っと抱きしめていた。
 イザベルさんとセリアも何やら話をしている。セリアはメモまでとっている。何の話だ?

《おにーちゃん、しっかりねー》
 白い幽霊のニーナが、オレに抱きついて来る。
 昨晩のニーナは、ドラちゃんに夢中だった。パメラさんとカトリーヌ、それにソワとドラちゃんに囲まれ、ニーナは非常に楽しそうだった。
 だもんで……結局、魔王戦後のご褒美のことは相談できなかった。
 前日までには話しとかないとなあ。

 朝が弱いお貴族様は、椅子の上で船を漕いでいる……役に立つのか、この客寄せは?


『勇者の書 7――ヤマダ ホーリーナイト』を魔法絹布の上に逆さに置いた。
 七代目は、英雄世界から最初に来た勇者。高校生だった。
 ユナ先輩によると、今は三十過ぎのおっさん、あっちで勇者OB会のリーダーをやっているのだとか。
 七代目が活躍した時から、こっちでは千八百年以上も経っているのに、英雄世界じゃたった十六年しか過ぎてない。不思議だ。

 セリアが聞き取りづらい声でブツブツとつぶやき、手や足や首や体をせわしなく動かしている。古代技法の準備だ。
 ジョゼ、マリーちゃん、イザベルさん、アナベラ、それに欠伸をしているシャルル。共に旅立つ仲間は、オレの後ろに居る。
 少し離れた所から、サラ、セリア、ニーナ、パメラさん、カトリーヌ、シャルロットちゃんがオレ達の旅立ちを見守っている。

 ルネさんは自宅だ。
 武器開発は、今が佳境。
 脱線しまくってるんじゃないか心配だが……ギリギリまで努力してくれてるんだ、感謝してる。
 とりあえず、持っただけでは爆発しないといいな! 安全な武器が出来あがる事を祈る!

『ルネ ぐれーと・でらっくすⅣ』は、今朝、助手が届けてくれた。
 発明品の詰め合わせ袋をもらうのも、これが最後だ。
 即席絵画製造機械『撮れルンです君』は、ちょ〜気に入った。
『どこでもトイレ』や『ランプくん』や『自動ネジまき 時計くん』など便利グッズもあった。
 だが、アレな発明品のが印象が強い。
 大活躍はしたものの『悪霊から守るくん 改・改』は自爆したし……
 人馬のクロエさんを絶叫させた『かっとび君』とか……
 雷界で使用した、環境にやさしい兵器『エコなレーザーBomb君』とか……
 危ない発明品多すぎ……


「……  様と子と聖霊の御力によりて、奇跡を与え給え。魔法陣反転の法!」
 七代目勇者の書の下から、明るい光が広がり始めた。
 魔法絹布に刻むべき魔法陣に、古代技法の力が作用しだしたのだ。

 魔法陣反転の法の効果時間は、十分ほど。
 セリアがオレ達から離れ、代わりにオレが一歩進み出る。

「勇者様、こちらのことはご心配なく。どうぞ仲間探しに専念なさってください」
「ジャン、最後なんだから気合い入れて行きなさいよ! ジョゼ、バカのお守りをよろしくね!」
「どうぞお気をつけて……勇者様、お兄様、みなさま」
《おにーちゃん、おねーちゃん、がんばってね! またねー》
「足ひっぱるんじゃねーぞ、アナベラ」
「しっかりナンパしてきてね、勇者様」
「………」

 残る仲間達へと手を振ってから、セリアからもらったカンペ通りに呪文を唱え始めた。


 魔王が目覚めるのは、四日後だ。


 異世界へ行くのも、これで最後だ。
 あと七人……
 七人で百人揃う。
 頑張ろう。

 そう思いながら、オレは魔法陣を通って仲間達と共に裏英雄世界へと旅立って行った……
挿絵(By みてみん)
+注意+
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