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ハーレム100 作者:松宮星

勇者世界

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悪霊退散!幽霊の館 【ニーナ】(※※)

「お久しぶりです〜 賢者様〜 勇者様〜 ジョゼさん〜 サラさん〜 」
 お師匠様の移動魔法で跳んでった先は、デュラフォア園。領主の館の側のブドウ畑だった。
 そこに、癒し系のほんわか聖女がいた……
「お仲間のみなさま、はじめまして〜 マリーと、申します〜」
 マリーちゃんののほほ〜んとした雰囲気につられ、多くの者の顔に笑みが浮かぶ。
 癒されるなあ……

 くいっと、左袖が後ろにひっぱられる。
 ジョゼだ。悪霊退治に行くんで怖くなってきたんだろう、オレの袖にすがりついている。
 かわいいなあ。
 頭を撫でてやろうと思ったが、できなかった。
 ぐいーっ! と、右袖が後ろにひっぱられたからだ。
「べ、別に、こわく、なんかないんだからね! あ、あんたが、臆病風に吹かれないよう、支えて、あげてる、だけなんだからね!」 
 サラかよ。ひっぱりすぎ。袖が破れるだろーが。

「悪霊祓いの、聖務は〜 まずは、悪霊との、対話、です〜」
 幽霊の出る場所へと向かいがてら、マリーちゃんがオレらに悪霊の祓い方を説明する。
「話を、聞いて、さしあげる、だけで、満足なさって、天に向かわれる方も、いらっしゃいますので〜 でも、中には、対話すら拒まれる方も、いらっしゃい、ます〜 その時には、残念ですが、浄霊します〜」
 マリーちゃんが印を切る。
「浄霊してしまうと、魂は、消滅します〜 できれば、対話で、魂を清めて、さしあげたい、のです〜」
 清らかで優しい……聖女様がまばゆく輝いて見えた。

「困ったなーという時にはこれです!」
 と、発明家ルネさんが、オレに杖と腕輪を渡した。
「『悪霊あっちいけ棒』と『悪霊から守るくん』です!」
『守るくん』が腕輪の方か。
「悪霊を追い払いたい時には、こちらの杖の先端を向けてください。腕輪の方は装備してるだけでバッチリです! とり殺されずにすみます!」
 ほー。
「勇者様、これを装備してマリーさんの前に立ってください」
 おっけー! 盾になれって事だな。
「私達、後方に控えますから」
 ん?
「それ、とりあえず作ったプロトタイプなんです。私達、ちゃんと離れてますから!」
 おいおい……ちゃんと動くんだろうな……?
 あれ? オレの側にいるのマリーちゃんだけ? ジョゼとサラまで、そんなに後ろに行っちゃって……

 時刻は夕方。オレ達は、廃屋となったデカい建物の前へとやって来た。今はもう使われなくなった、領主の館だそうだ。
「ここには、かなり昔から、少女の、幽霊がいます〜 地元の方からも、愛されていた、かわいい、幽霊だったのだ、そうです〜」
 かわいい幽霊?
「あらぁ……確かに、ここ居るわね、強いのが……」と、豊満な胸に水晶玉を挟んでるイザベルさん。
「このところ、この屋敷の近辺で、人が、消えるんです〜 行方不明が、十三人〜 この家の、幽霊の、仕業か、現在、調査中なのです〜」
「誰も戻って来てないんですか?」と、セリア。
「はい〜 農夫や行商人で、わかっているだけで、十三人〜 もしかしたら、もっと、多くの、人…………」

 マリーちゃんのスローモーなしゃべりを聞いていたはずが……
 声は途切れ、オレは一人、闇の中にたたずんでいた。

 周囲はまっくらだった。

「あれ? マリーさん? お師匠様? ジョゼ? サラ?」

 きょろきょろと辺りを見回す。が、返事がない。人がいる気配すらない。

《つーかまえたー》

 うわっ。
 まっくら闇の中、オレの腰に、誰かが飛びついた。
 クスクスと誰かが笑っている。

《あそぼー おにーちゃん》

 オレは背後を振りかえった。
 が、暗すぎて何も見えない。腰のあたりに子供が抱きついているようなんだが。

「君は、誰?」
《あたし、ニーナ。おにーちゃんは?》
「ジャンだよ。ニーナちゃん、一人なの?」
《うん。ノワールといっしょにね、アンヌをまってるの》
「ノワール?」
《ネコちゃん。ここで拾ったの》

 目を凝らしてみたが、あいかわらず何も見えない。肘の辺りに子供のやわらかな髪の毛のような感触がある。

《アンヌとね、約束したの。ここで、あそぼーって。でもね、来ないの》
 子供の声がしょんぼりする。
《ずーとマドから外を見てるのに……いっぱいお花がさいて、なんども雪もふったのに、アンヌが来ないの》

『ずーと』か……花が咲く季節も、雪が降る季節も、『ずーと』一人で、この暗闇に……
 この子は、長い年月、ここに居るんだ。
 この世のものじゃない。

……マリーちゃんが言っていた悪霊って、この子なのか?

『浄霊してしまうと、魂は、消滅します〜 できれば、対話で、魂を清めて、さしあげたいの、です〜』
 マリーちゃんは、そう言っていた。
 オレは聖職者じゃないけど、話は聞いてあげられる。
 それに、オレの左腕には『悪霊から守るくん』がある! 腰には『悪霊あっちいけ棒』もある! 説得に失敗しても、死ぬことはない! ないと思う……たぶん。

「ニーナちゃん、ここは暗くてさみしいね」
《うん、さみしい》
「もっと明るいとこに行かない?」
《ダメ》
「どうして?」
《アンヌが来るもん。ここで、ひとりぼっちになっちゃ、かわいそう。あたし、まってなくっちゃ》

 胸がズキンと痛んだ。
 この子が友達と約束したのは、どれくらい前のことなんだろう?
 昔から、この屋敷には幽霊が出たって話だった。昔ってどんぐらい前? 五十年とか? 百年前?
 友人は、もう、この世にいないかもしれない。

「……アンヌちゃんを探しに行かない?」
 調べればわかるかもしれない。
 この廃墟は、昔、領主の館だったはず。昔を知る人を見つければ、そこに関わりのあった子供、ニーナとアンヌの話が聞けるかもしれない。
 アンヌって子がまだ生きているのなら、会わせてあげたい。
 亡くなっているのなら、お墓まで案内すれば……この子の魂は天に召されるんじゃないか?

《ダメ。アンヌが来たらかわいそう》
「伝言を書いて残しておけば、大丈夫じゃないかな」
《ダメ》
「ニーナちゃん」
《あたしは、アンヌをまつの。おにーちゃんは、アンヌが来るまで、あそんでくれればいいの》
「ここを出ようよ」
《いや。鬼ごっこしましょ》

 腰に抱きついていた感触が、離れる。
《おにーちゃんが鬼よ。おっかけてきてー》
 暗闇の中、声が少し遠のいた。

 一歩、足を踏み出す。
 硬い。
 木の床を踏みしめる感覚だ。

《はやく〜》
 声は更に遠のいている。

「待って、ニーナちゃん、オレ、何も見えないんだ」
《ニーナの声をおってきてー 鬼ごっこだよー》
 まっくらなんだけどな……

《どーして動いてくれないの? あそんでよ……》
 悲しそうな声が、オレを責める。

《ノワール、来て》

 突然、背後の床が激しく揺れた。
《ノワール、おにーちゃんを走らせて》

 ノワールって、猫だよな。ここで拾ったって、ニーナは言ってたが……

 背後から音が近づいて来る。
 ピシピシと何かにヒビが入るような音、メキメキと何かが潰れているような音。
 背後から何かが近づいてきている。
 目には見えないが、巨大な何かが……
 オレに向かって!
『悪霊あっちいけ棒』を後方に向けてみた。が、背後の接近音のスピードは緩まない。何の効果もない。失敗作かよ!
『悪霊から守るくん』は、装備してるけど……いやいやいやいや、ごめん、ルネさん! キミを信じてあげられないよ、オレ!

 オレは慌てて走り出した。

《そっちじゃない、こっちだよー》
 子供の声の方へと、オレは走った。

《こっち、こっちー》
 子供が楽しそうに笑う。

《はやい、はやーい。おにーちゃん、足、はやいねー》
 オレは全速力で少女の声を追いかけた。だが、距離は開いたままだ。まったく縮まらない。
 オレの背後では、木の床が潰れるような音がずっと追いかけ続けてくる。

《がんばれー おにーちゃん、ニーナはこっちよー》
 息が苦しい。
 だが、ニーナを捕まえることもできなければ、迫り来る巨大な何かをつき離す事もできない。

《おいでー おにーちゃん。 早く、早く〜》


儚キ夢幻(ミラージュ・)ヨリ舞イ堕リシ(レクイエム・)天獄陣(ジェイル)!」

 突然、オレの背後から、まばゆい光が広がった。

 地を揺るがすような獣の怒声がひびき、床のきしむ音が止まった。オレの後ろに迫っていた、巨大な何かの動きが止まったのだ。

 オレは両手を膝につき、ゼーゼーと荒い息を吐いた。心臓がバクバクいっている。

暁ヲ統ベル(エターナル・)女王(マリー・)ノ聖慈掌(セインツ)弐式(ゼロツー)!」
 オレの体が淡い光に包まれる。呼吸が楽になった。回復魔法か、今の……何いってんのか意味不明すぎるけど。

 オレは、背後を振りかえった。

 目を細めても、まともに見られない。
 目がくらむほどの光の筋。
 丸い大岩のようなものが転がっている。真黒な塊に、光の矢が何十本も突き刺さっている。矢がそれの動きを止めたのか。
 その奥に、光を放つ輝かしい女性がいた。まぶしすぎてよく見えないが、修道尼姿なのはわかる。

「誘拐、監禁、遊戯の強制、殺人未遂の現行犯だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまの罪を言い渡す」
 あ?
 あれ?
 マリーちゃん?
 ど、どうしたの?
 何か、いろいろ、変、です、よ〜? 

 全身からまばゆい光を発する聖女が、親指をビシッと突き立てる。
 そんでもって、ククク・・・と笑いながら、手首をゆっくりひねって親指を下に向ける。
「有罪! 浄霊する!」

 え?
 ちょっと。
 待って。
 あれ、対話は?
 先に、対話するんじゃ?
 浄霊すると魂は消滅しちゃう、そうしたくないって言ったの、マリーちゃんじゃないか!

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

挿絵(By みてみん)

 尼僧姿の聖女から光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化してゆく。
「ククク・・・あばよ」
 聖女が呟くと同時に、強大な浄化魔法の奔流が迫ってきた。

《いやー!》
 背後から、悲鳴。

 思わずオレは、振りかえった。

 オレの影の隣に、浄化の光に照らされたニーナが居た。
 小さな子供だった。
 あどけない顔……
 だが、髪も、顔も、体も、全てが白く半透明だ。
 幽霊なんだ……

 オレはニーナを抱き締めた。

 それで、庇えると思ったわけじゃない。
 浄化魔法の光が、オレとニーナを包みこんでゆく。
 だけど、嫌だ。
 この子を逝かせたくない。
 ずっと待っていた友達に会えないまま、消えちゃうなんて、可哀そうすぎる!


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと八十九〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 周囲から光も闇も消える……

 気がつけば、オレは、夕日が窓から漏れ入る薄暗い部屋にしゃがんでいた。埃まみれの荒れた部屋だ。あの廃墟の中、か。

 オレの腕の中には……
 小さな白い女の子がいた。
 ポロポロと涙をこぼしている。涙までもが白い。
「ニーナちゃん……」
 無事だったんだ。オレは白い幽霊を抱き締めた。

「悪霊、退散〜 聖務は、完了、しました〜」
 調子はずれの、スローな声がした。
「勇者様、ご無事で、なにより、です〜」
 いつものほんわかしたマリーちゃんが、オレらのそばに立っていた。
「すみませ〜ん、びっくり、しました〜? 私、邪悪と、対すると〜 力が、入り、すぎるみたいで〜 何か、天から、降ってくる、みたいな〜 院長様にも、よく、叱られて、います〜 もっと、慎み深く、なさいって〜」
 いや、あの、その……
 邪悪と対峙した時のマリーちゃんには、近寄らないようにします……

 悪霊は、ノワールと呼ばれていた猫の方だったのだ。マリーちゃんが最後に唱えたのは悪霊を祓う魔法なので、善霊には効果がないとのこと。
 そっか、ニーナが無事で良かった……
 長い年月、この世をさまよった猫の魂は、歪みきり、邪悪な存在に堕ちていた。面白半分に人の命を奪うような。
 祓うしかなかったと、マリーちゃんは言った。
 だが、ニーナにとって、悪霊はかわいいネコだった。
 ノワールは、ニーナを喜ばせたくって、人間をさらっていたのだ。じきに食欲に負けて、食べてしまっていたようだが。悪霊化したネコなりに、ニーナを愛していたんだ。

《ノワール、いなくなっちゃった……》
 シクシクと泣く幽霊を、オレは抱き締めた。
 うっかりオレが萌えちゃったから、ニーナはオレの『伴侶』になった。けど、こんな小さい子を戦わせる気はない。
 子供は守る……それが『勇者』ってもんだ。
「オレ、必ずニーナちゃんをアンヌちゃんに会わせてあげる。だからさ……オレについて来て」
《おにーちゃんに、ついてく?》
「うん。オレ、ずーっとは側に居られない。けど、オレには仲間がいっぱい居る。お師匠様もいる。ここに一人で居るよりも、寂しくないと思うんだ。一緒においでよ。アンヌちゃんを探しに行こう」





 マリーちゃんに連れられ、オレは仲間と合流した。
 新たな仲間ニーナを紹介すると、『呆れた…… 幽霊にまで手を出したの?』と、サラが冷たい視線で言いやがった、くそ。
 んで、ニーナのお友達を探したいと話すと、『アンヌ』の名前に反応した奴がいた。
 アンヌなんて、ありふれた名前ではあるが……


 魔王が目覚めるのは、九十四日後だ。
 それまでにオレはやるべき事を、ぜんぶ、終わらせられるのだろうか?
 百人の伴侶を得て、オレの武器を探して、リーズに九十六万ゴールドを払って、ニーナのお友達の『アンヌ』を見つけて、それから、えっと……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№011)

名前 ニーナ
所属世界   勇者世界
種族     もと人間
職業     幽霊
特徴     さびしがりや。甘えん坊。 
       悪霊化した猫のノワールと暮らしていた。
       友だちのアンヌを何年も待っていた。
       昼間でも日の光の下でも、大丈夫だそうだ。
戦闘方法   戦ってもらう気はない。
年齢     八才ぐらい。オレよりずっと小さい
容姿     髪も体も真っ白。涙まで白い。
       幽霊だけど、触れる。
口癖    『あそぼ』
好きなもの  鬼ごっこ
嫌いなもの  一人ぼっち
勇者に一言 『あそぼー おにーちゃん』
挿絵(By みてみん)
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