挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハーレム100 作者:松宮星

裏 ジパング界

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

138/224

ねんねこ ころりん 【オトメ】(※)

 ふと、夜中に目が覚めた。

 夜中なんで辺りは真っ暗だが、
(かわや)ですかい?》
 すぐさま、寝床のそばから声をかけられる。声の主は、九十九(つくも)衆の一人の行燈(あんどん)君だ。客人の部屋に、それぞれ行燈君が居る。
 トイレと言われれば、そんな気もする。
「行きます。灯りをお願いします」
 頼むと、ボウッと灯りがつく。
 縦長の箱の行燈君が《んじゃ、行くぜ》と先に立って歩き始める。

 行燈君が近づくだけで、(ふすま)君ががらりと開く。
 アネコ様のお屋敷の建具も家具も道具も、みんな生きている。
 マーイさんに憑いてもらってるオレは、みんなと話ができる。

 そういえば、セリアはどうしてるんだろう?
 セリアは神秘をまったく感じ取れない。けど、アネコ様にしろ九十九衆にしろ、セリアの言う事なす事はわかってる。
 九十九衆の方が気を利かせてるのかねえ?
 セリアが夜中にむくっと起き上がったら、行燈君が勝手に明るくなり、立ち上がったら襖が勝手に開いて、廊下に行こうとしたら何だかわからないが灯りが先に移動してゆく……
 むぅ。
 恐怖(ホラー)小説っぽい。

 トイレは、廊下のつきあたりにある。
 長い廊下を歩いてたら、女の人の後ろ姿が見えた。髪を背にたらし、ガウンをまとったその姿は……
「セリアさん」
 振り返った学者に、オレは尋ねた。
「トイレ?」

「違います」
 ちょっと頬を赤く染め、ムッとした顔で学者が言う。その手には、携帯灯り『ランプくん』があった。行燈君と意思疎通ができないから、『ランプくん』を使ってるのか。
「何やら物音がしますので、気になって……」

 耳を澄ますと、ガタガタガタと音がした。
 風で網戸が揺れてるのかと思いきや、話声まで聞こえる。

 なんだろうと思ったら、玄関にアネコ様が居た。引き戸を押さえている。
 アネコ様のおうちには出入り口が三つある。台所のとこと、普通の玄関と、そして今アネコ様がいるところ。
 大事な冠婚葬祭の時だけ開かれる特別な玄関。普段は使わないと言っていた。
《かえれ。 まだ はやい》
 戸がガタガタと揺れる。
《あーけーてぇ いれてーよぉーぅ》
 外から誰かが開けようとしてるみたいだ。

「アネコ様。お客様ですか?」
 子供の姿の神様が振り返り、廊下のオレ達を見上げた。
《ばか。 おまえらは でて くるな》
《!!!!  そこにぃ もしヵしてー ゆぅしゃクン いるゥ?》
 外から女の人の声がした。

「はあ」
 と、言いかけたら、セリアに口を塞がれた。
 学者が、静かにかぶりを振った。
 うかつに返事をするなという事らしい。
 オレが頷くと、セリアは手を離してくれた。
「セリアさん、声が聞こえるの?」
 小声で聞くと、セリアから頷きが返った。
「外からの声は聞こえます。アネコ様のお声やお姿は、私にはわかりませんが」
「アネコ様はそこに居て、戸を押さえている」
 セリアは神妙な顔となった。
「つまり、アネコ様自らが戸を押さえねば侵入されてしまう程の……」
 アネコ様と同じくらい強い神様が、外に居るのか?

 アネコ様が、こわい目つきでオレを見る。
《いいから おまえらは へやに もどれ。 ねてろ》

《こんちゎ おとめッテゅぃますっ!!!! きゃぴりん☆》
 む?
 外からの声に、びっくりして足が止まる。
《ぃもぅとの おとめデスッ!!!!》
 妹?
《げんかんまえ なう★》
 へ?

《あけてヨー あ~け~てぇ~ん》
 扉が、ますますガタガタする。
《かわぅい~ ぃもぅと しめだしとヵ マジぁりぇなくナイ?! ぃみわヵンなぃ∪。。。 おネエちゃんェ・・》
 妹さんの言葉、聞き取りづらいぞ。
「なんでしょう……こう背筋にゾワゾワくるというか」
 セリアが小声でつぶやいた。
「イラっとするというか……」
 その額には青筋が浮かんでいた。
「正しい言葉使いについて小一時間指導したくなるというか……」
 すごくストレスをためた顔をしている。

《かえれ。 まだ、だ。 まだ はやい。 おれは まだ やってない》
 アネコ様が戸に向かって怒鳴る。

《ブッキューン ぁたしに パチこぃてモ だめポーン!! ゆぅしゃクン もー みっつ もらっテルじゃーん》
《きつねと たぬきは かずに はいらん。 おれは きゅうびと てんぐを やる つもり だった》
《そんなん ぁたし しらないU~ ここでドタとか マジありえんてぃー》
 ドタ? ティー?

《ゆぅしゃクン キツネとヵ タヌキゎ なえなえぽよ? てヵ じゃまメン?》
 む?
《いま ふこぅデスヵ~~?》
 狐と狸?
 ニビィが狐だから……シヅは狸?
 二人とも、いや、二匹ともたいした妖力なさそうだ。魔王に大ダメージは無理だろう。
 けど、それなら、不幸かと聞かれると……違う。
 ニビィはいじらしくって胸キュンキュンだし、シヅも奥ゆかしい素敵な女性。二人ともすごく可愛い。
「不幸ではないなあ」
 思いが漏れた。
 第一、伴侶になってもらっておいて不幸とか、失礼だろ。

《ばか。 へんじ するな》
《ラッきゅーーン!!!!》

 シャンシャンシャンと鈴の音が響き、ガラガラと引き戸が開く。

 入って来た者の意外な姿に、オレはびっくりした。
「……は?」
 セリアも驚いている。見えるようだ。

《やっふぃ♪ おネエちゃんの ぃもぅとの おとめデスっ!!!! てへぺろ☆》

 この子が妹?
 でも、アネコ様よりずーっと背が高い。
 オレより、やや小さいぐらい。十六~八に見える。

 裏ジパングの人は黒髪が多いのに、珍しいことに茶髪。ボリューム感たっぷりに髪を結いあげ、巨大な真っ赤な花やらジャラジャラの飾り玉をつけている。
 帯を前で結んでいる……そこはカグラと一緒なんだが……
 まず丈が異様に短い。膝よりかなり上。ミニスカみたいだ。でもって色はド派手な紫、柄も薔薇。更に、帯は半透明な黒レース。
 着付けにしても違う。カグラは重たそうな着物をしゃんと着こんでいた。が、こちらは、首から肩にかけてが露出しているし、裾がやたら短い。ボーン! な胸のふくらみも、バイーン! なお尻も見えちゃいそう。
 着物っていうより、ごてごてフリフリなワンピースを着てる感じだ。
 顔立ちは綺麗だが、目元ぱっちりで、まつ毛がびんびんで、口紅が濃い。

「なんですか、これは……」
 オレのすぐそばのセリアが、ふるふると震えている。
《メガもり おいらん トルネード まっくす アげ↑アげ↑ きゃわたんデショー?》
 その、ペロ舌だしたダブルピースでウィンクぱっちんは、セリアに逆効果じゃあないのか?
「カグラさんの異界情緒ただよう美しい着物姿とは大違いというか……着ている物を冒涜している着付けというか……だらしなさすぎというか」
 オトメさんの格好は、セリアの中の何かに触れてしまったようだ。
「控え目に言えば『浮いている』? 正直に言えば……」
 続く悪口は口の中で消えたので、オレの耳には届かなかった。

 アネコ様は、黒髪のおかっぱ。赤い着物がよく似合う、童女だ。

 姉妹……?
 しかも、アネコ様が姉?

 えぇぇ~?

「……アネコ様がおねえさんなんですか?」
 オレがそう尋ねると、オトメさんがギャハハと笑った。
《エェーッ!! ぅっぴょーん おネエちゃん あねこ ナノー?! ンじゃ ぁたし いもこぉ? マジよゆーにウケるーー》
 お腹を抱え、大きく口を開いて歯をみせて笑ってる……
 仕草にも表情にも、この国の人間らしい美しさがない。

「本名は違うんですか?」
 そいや、カグラ達は『わらし様』って呼んでたよな。
 子供の姿の神様は、むっつりとした顔でオレと妹を見ていた。
《にんげんは おれを すきに よぶ。 だから おまえも すきに よんで いいんだ》
「お仲間やお身内からは『アネコ』様って呼ばれてるんですよね?」

《おネエちゃんアネコなら ぁたしゎイモコ。 おネエちゃんエヒメなら ぁたしゎオトヒメ~♪》
 茶髪を飾りあげた妹が、ちっちゃな姿のお姉さんを後ろから片手で抱きしめ、もう一方の手で目の横にピースサインをつくる。
《ぅちら ふたりデ ひとォつ。 しまい がみ!!!! きらーん☆》
『姉妹神』という単語が頭に浮かんだ。

「二神一体の姉妹神……」
 セリアが難しい顔となる。
「では、アネコ様と同等の神様……」

 偉くて強いんなら萌えていいんだろうけど……

 セリアがチラッとオレを見る。
 オレもセリアをチラッと見た。

 オトメさん、可愛いとは思う……

 でも、何というか、その……

 キュンキュンこないというか……

 オレの萌えツボから、ちょっと……いや、かなり離れているというか……

 アネコ様の妹がぶ厚い草履を脱ぎ棄て、玄関から上がってくる。
《ぅちら なかよし だからー おネエちゃんチ ぁたしも すむんだぉー》
 ニコニコ笑いながら、オレに近づいて来る。
《おネエちゃんゎ ふくのカミ。 なんか マジカミッテルあげぽよ~ みたいな?》
 そして、いきなりベターとオレにくっついてくる。
《とりま おネエちゃんが ふくを みっつ ぉとこに あげれたら チョパッと ぉしかヶるんよω》
 むっちりな胸をオレにおしつけてくる。
 そんなはだけた着方で服を押しつけると、胸が出ちゃうよ。
《だぁってぇ~ ふくが ないぉとこゎ でらウザスってかんぢ~?》
 離れようとしたら、首に腕を回して、ぎゅっと抱きつかれてしまった。
 ぅぉ!
 右足が!
 オレの腰のあたりに絡みついてくるとか、すげぇ大胆!
 密着しすぎ!
 上と下がいろいろぶつかってるのに、どんどんしがみついてくる!

 心臓がバクバクしてきた。

 体もグラグラする。

《ぷぷー きょどッテルんですヶどー ウケるー キュンしに しちゃーう?!》
 オトメさんが、ギャハハと笑う。

 むっちんぼよよんな、やわらかな感触……
 お化粧臭くない。いい香り……ちょっとバニラエッセンスに似てるような? 甘いけど甘過ぎない。濃すぎなくって、ふわって香る感じがいい。

 しかし、オレの腰の辺りに片足を絡めてるってことは……
 超ミニなんだから……
 ヤバくありませんかっ!

 ついつい目が下に……
 太ももが見える……かも?
 ごっくんと喉が鳴った。
 ああああ!
 いやいやいや! 見えるのは胸だけ! どど~んな二つの山がデカすぎて、その下まで目がいかない。むっちりぷるるんな胸……イザベルさんよりは小さいかな? でも、みずみずしくって張りがあって、これはこれで……。谷間も魅力的。目が吸いこまれそう……

 オレのハートは、キュンキュ……

 ハッ!

 駄目だ!
 目をそらさないと、このままではオレは!

 あ?

 萌えていいのか?

 強い神様だもんな。

 だけど……

 セリアが目に入った。
 唇を噛んで、非常に不愉快そうにオレを見ている。
 アネコ様の妹神が大物っぽいんで堪えているものの、その目は『そんな方に萌えるんですか?』と責めたそう。

 アネコ様も見えた。
 アネコ様は、いつもふてくされた顔をしている。そっけない態度をとり、現実とは非情なものだと突き放した言い方ばかりをする。懐が広くって、小さきものにもとても寛容なのに。

 ドキンとした。

 アネコ様が、眉をしかめ、目を細めて、口をぎゅっと結んでいた。鼻と頬が、ちょっと赤い。泣き出す寸前の小さな子の顔に、とてもよく似ていた。

《んもー どォこ みてンのぉ?!》
 アネコ様の妹が、どアップでオレに迫っていた。
 横目でチラッと姉を見てから、小悪魔的にオトメさんが笑う。
《ぅちらゎ ふたりで ひとつ。 おネエちゃんの ぉとこゎ。。。 ぁたしの メロメロ★どっキュン》

 そのまま、ぐんぐん赤い唇が近づいてきて……

 エロティックな音が響き、漏れる熱い息が顔をくすぐった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ~ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと九~ おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 高鳴る胸の音を感じながら、オレは……

 真っ暗な闇の中に沈んで行った……





 あまりの痛さに、頭の中に閃光が走った。
 激痛なんてもんじゃない。
 殴られるのの数千倍の痛さだ。
 声を出したかったけど、くぐもった音しか出なかった。
 口に布をくわえさせられている。

 熱い。
 ひたすら熱い。
 燃えるようだ。

 歓声があがる。

「お兄さま……」
 ジョゼ……?

「勇者様!」
 セリア……?

《よかった。 ほんとに よかった》
 アネコ様……?
《まってろ いま なおして もらう》

 部屋の中がざわざわしている。
 何人居るんだ……?
 十人以上……?
 知らない声……
 誰だ……?

 目があかない……

 血が下がる……


 激痛のあまり意識が遠のきかける……が、急に体が楽になった。

 体がぽかぽかする。
 気持ちがほわほわする。
 雲の上にいるみたいだ……

 痛みは去り、体に血の気が戻る。
 マリーちゃんが治癒してくれたのか……?
 いや、ちがう。マリーちゃんは裏ジパングには来ていない。
 んじゃ、セリアか……治癒の技法を使ってくれたんだな。

『ありがとう、セリアさん』そう言おうとして、重たい瞼を開き……オレは硬直してしまった。
 戻ってきた血が、サーッと下がってしまう。
 すぐそばにセリアが居るもんだと思ってたのに……目に映ったのは、鬼みたいな顔。青色の肌で、三つ目のおっさん。牙も長いし!
 三つの目が、ぎょろりとオレを睨む。
《良し。治った》
 おっさんがオレから離れる。うぉ。腕が四本! どくろの首飾りをして、頭と体に蛇を巻きつけてる……すげぇ悪人っぽい。もしかして、魔族?

 と、思ったものの、違うようだ。
 寝床の前にちょこんと座っていたアネコ様が、おっさんに深々と頭を下げる。
 すぐそばのジョゼも、アネコ様に倣う。周囲にいる九十九衆も土下座をする。
《おんに きる。 あして》と、アネコ様。
《何の。易き事。手足の怪我や病を癒すのが(われ)の役目。いつなりと呼ぶが良い》
 おっさんがドシドシと床を鳴らして歩き去ってゆく。アネコ様とジョゼは、ずーっと平伏したままだった。

 おっさんが見えないのかセリアは、土下座に参加してない。オレの寝床のそばで、かなりナニなポーズをとっていた。腰をひねって、背をそらし、両手を胸のあたりで交差させたポーズ。治癒の技法の最終ポーズだったような……そんな記憶がある。
 オレを見つめ、セリアが泣き笑いのような表情を浮かべる。
「良かった……勇者様……」
 へたりとその場に座り、セリアが心配そうにオレを見る。
「左手……動かせますか?」

 言われた通りに指を動かして見る。
 む?
 水中にいるみたいだ。
 重い。
 うまく動かない。

「全ての指が、動きますね……これなら、じきに回復します。良かった……繋がって……本当に良かった……」

 繋がって?

 どういう事か聞きたかったが、う~う~としかうなれなかった。
「お兄さま、待って。今、お口の猿ぐつわを外します……」
 猿ぐつわ?
「お兄さまがびっくりして、舌を噛まないように……お口の中に布を入れて、その上からタオルで縛っていたんです」
 ジョゼは、ほわっと微笑んでいた。
 けれども、それは頑張ってつくった表情だった。
 ダークブラウンの瞳から大粒の涙がこぼれ、頬を伝わって落ちてゆく。
 小刻みに体を揺らし、顔を紅潮させ、義妹は静かに泣いていた。でも、悲壮な感じはない。むしろ、喜んでるような?
「ごめんなさい……」
 さっと涙をぬぐい、ジョゼがオレへと微笑みかける。
「今、楽にしてさしあげます……もう大丈夫ですから、お兄さま……」

「なにがあったんだ?」
 口が自由になったんで、聞いてみた。
 セリアとジョゼが顔を見合わせる。
 アネコ様は、また泣きそうな顔をしている。

「まずは左手の事を……」
 セリアが咳払いをした。
「実は勇者様……『悪霊から守るくん 改・改』が爆発しました」
 爆発?
 マリーちゃんの歌を流して、あらゆるものを撃退するルネさんの発明品が?
「『悪霊から守るくん 改・改』は、内部燃料が乏しくなりますと、『無念。モハヤココマデ!』と音声を流して自爆する設計でした」
 あぁ……
 そういや、そんな作りだってルネさんが言ってたよな。装備者には無害な爆発だとも。
「ルネさんの想像よりも爆発は大きいものとなりまして……勇者様の左手は手首からぱっくりと……」

 うひぃ!

 オレは慌てて体を起こし、左手を見た。
 エクレールとの契約の腕輪はあるけど、『悪霊から守るくん 改・改』は無くなっている。
 手首は綺麗なもんだ。傷口などなく、痕すらない。
 ただ手首から先を動かそうとすると、すごく頑張らなきゃいけない。麻痺の魔法がかかってるみたいだ。

「運動を続けられれば、二~三日で左手は回復すると思います」

 良かった……

 て……

 あれ?

「『悪霊から守るくん 改・改』、もう爆発したのか?」
 旅立ち前に、ルネさんは『十日もすれば燃料切れでーす。ご使用いただければ、更に活動時間が短縮されます』とか言ってた。
 カグラ相手に使用したとはいえ、まだ二日だろ。爆発するには早すぎないか?

「『もう』ではないのです……勇者様」
 セリアがきりりとした表情で、はっきりとオレに告げる。

「魔王が目覚めるのは五日後なのです」


「………」


 はっ。

 頭が真っ白になっていた。

 むむむ?

 今、何って……?

 セリアが凛とした声で言いきる。
「お心静かにお聞きください。もう一度繰り返します。魔王が目覚めるのは、五日後なのです」

「え? そんな馬鹿な……。ニビィやシヅさんを仲間にした時、魔王が目覚めるのは十三日後だったよね?」
 セリアが頷く。
「夜中に起きて……アネコ様の妹のオトメ神に萌えた時だって、十三日後か十二日後だったでしょ?」
 セリアが頷く。
「なら、なんで……?」

「勇者様はオトメ神と接吻されて、それから意識不明の昏睡状態に陥られたのです」

 へ?

「アネコ様は福徳を授ける福の神。その妹神……対となるオトメ神は貧乏神なのです」

 は?

「貧乏神とは、必ず災厄を起こす神。アネコ様が与えた福徳の分だけ、福を吸い取って、庇護者に悪いものをもたらす神なのです」

 部屋の隅に、オトメ神は居た。膝を抱えて、けだるそうに座っている。

「貧乏神は、その人が失ったら嫌なものを奪うのだそうです。つまり……勇者様にとっては、富貴などよりももっと大事なもの……魔王戦までの残り時間をオトメ神に吸い取られてしまったのです」

 オレを見て、オトメ神がニッと笑いかけてくる。歯を隠そうともせずに笑う。まるでオレをからかうかのような表情で。

「勇者様が眠りに就かれてから、皆で知恵をしぼり、禍福のバランスを崩せぬものか手を尽くしてはみたのです。お体を傷つけ、罵倒し、肉体的侮辱なども試みましたが……『勇者様を起こそうとする善意』からの行動の為、全て『福』扱いになってしまいました。七日もの間、お起こしする事ができず申し訳ありませんでした」
『不幸な目に遭われる事を期待して往来に転がしてもみましたが、駄目でした』とかセリアは言う。
……この七日、どんな目にあってたんだ?
……知らない方がいいのかも。
 今は、アネコ様のお屋敷に居るみたいだが。

 マーイさんも、オレと一緒に眠っていたようだ。戸惑っている。だが、人の心が読める精霊は《学者さんは真実を語っています……》と、オレの内から教えてくれる。

「『悪霊から守るくん 改・改』が希望でした。『悪霊から守るくん 改・改』の爆発ならば、作為の無い事故ですから。燃料の残量メーターから、そろそろ爆発するだろうと私が推測しまして、アネコ様は足手荒神(アシテコウジン)を招き、ジョゼさんは爆発が危険なレベルなら勇者様のお命を守る結界を張るように雷の精霊に命じて……爆発を待っていたんです」

 頭がガンガンしてきた。

「期待通りの結果でした。左手を失う『不幸』にあうことで、勇者様はようやく……貧乏神の眠りの呪縛から逃れられたのです。お目覚めになって、本当に良かった……」

 オレが眠ったまんまなら、オレらの世界は魔王に滅ぼされる。

 けど、起きたから万事オッケーってわけでもない。

 もう一つの世界に行き、あと九人を仲間にしなきゃいけないのに……
 魔王戦は五日後だと?

 部屋に居るのは、うすら笑いを浮かべたオトメ神。
 すまなそうにオレを見ているアネコ様。
 潤んだ目で、オレを見ているジョゼ。
 九十九衆。
 そして、セリアだ。

 おかしい。

 あいつが、オレの側を離れるはずがない……
 何か事情があって別の部屋に居るんでも、目ざめたら駆けつけてくれるはず。

 なぜ、ここに居ないんだ?

「サラは……?」

「サラさんはカトリーヌさんと共に、パメラさんの卵を孵す旅に出かけられました」


 魔王が目覚めるのは五日後らしい……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№091)

名前 オトメ
所属世界   裏 ジパング界
種族     神
職業     貧乏神
特徴     アネコ様の妹。
       福を司るアネコ様とは逆に
       禍を司る。アネコ様と二神一体。
       アネコ様の庇護を受ける者には、
       漏れなく妹もついてくるようだ。
       独特なしゃべり方をするので、
       聞き取りづらい。
戦闘方法   不明。
年齢     不明。
容姿     髪を結いあげ、大きな花と飾り玉を挿して
       頭を飾っている。
       お化粧は濃い。
       首から肩までを露出させて、
       ミニスカ風の派手な着物を着て
       ぶ厚い草履を履いている。
口癖    『ぁたしゎ』『マジ』『ぁりぇなくナイ?!』
好きなもの  禍をふりまくこと?
嫌いなもの  不明。
勇者に一言 『キュンしに しちゃーう?!』
挿絵(By みてみん)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ