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ハーレム100 作者:松宮星

裏 ジパング界

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たぬきの おんがえし【シヅ】(※※)

 こぎつねのニビィはパメラさん達と、お肉を狩りに行っている。

 留守番をひきうけたオレは、こぎつねのお家、ようするに洞窟の前に立っていた。
 その近くで、ジョゼは肉体の鍛錬、サラは魔法の修行、セリアは書き物をしている。

 子供の姿の神様は、赤い毬をついて遊んでいた。

 勇者の剣での素振りを止め、オレはアネコ様の前へと進んだ。
「アネコ様、お願いがあるんですが」
 返事が無い。毬つきに夢中なのだろうか? 聞こえているのかいないのかわからなかったが、言葉を続けた。
「これから、たまにニビィのおうちを訪ねてくれませんか? お母さんが帰って来るまで……。アネコ様なら、あのちっちゃなニビィが、どれだけの間、食べなくても大丈夫かおわかりでしょう? あの仔がお腹がすき過ぎて消えてしまう前に、留守番を代わってあげてください。お願いします」

《なぜ たのむ?》
 毬をつきながら、アネコ様が聞いてくる。

「だって、かわいそうじゃないですか、あの仔……お腹がぺこぺこなのに、お母さんとの約束を守ってお留守番してるなんて……何とかしてあげたいんですけど、オレ、この世界の人間じゃないし……もうすぐここを出て行く身だから、アネコ様にお願いしているんです」

《おまえ ばか だな》
 ポンポンと毬が弾む。
《まえにも いった。 うまれるものは うまれる。 きえるものは きえる。 このまま おさきが かえらず あれが うえて しんでも そういう さだめ だっただけの ことだ》

「けど、運命(さだめ)は変えようと思えば変えられる、オレはそう思います」

《なら きくが おまえは ひと だ。 ひとを やめて とりに なれるのか?》
 う。
「……なれません」
《ひとの まま せんねんも まんねんも いきられるのか?》
「……生きられません」
《おまえは ゆうしゃ だ。 ゆうしゃの しめいを すてられる のか?》
「……捨てられません。てか、捨てたくないです。オレは自分の世界を救いたい」

 ほらな、とアネコ様が口の端だけゆがめて笑う。
《いちど さだまったものは かわらん のだ》

「そりゃ……世の中にはどうしても動かせないものもあります。わかってます」
 ふと、お師匠様の顔が浮かんだ。
 死を願いながら、不老不死の賢者であり続けたお師匠様。
 勇者は、魔王戦で死ぬか、賢者となるか、異世界に流されるか、だ。
 オレの運命は決まっている。
 しかし、運命の日まで、どう生きるかはオレの自由だ。オレはオレらしく生きてゆきたい。
「だけど、他のものと触れ合うことで変わってゆく運命もあるんじゃないんですか?」
 オレは拳を握りしめた。
「オレはニビィと知り合って、あの仔が今どういう状況にあるのかを知った。救う手立てがないものか、考えたいんです。このままじゃ、あの仔がかわいそすぎる」

《おまえは ほんとに ばか だな》
 手毬を拾い、アネコ様が笑う。眉をさげ、目を細め、口元をやわらかくほころばせて。
 胸がキュンとした。
 かわいらしい笑みだった。
《おれに たよらずとも おまえには けらいが おる だろう》
「え?」
《かぐらに たのめ。 あのおんな おまえの たのみなら よろこんで きくぞ》

 蜘蛛の妖怪のカグラか。
 そいや、オレ、カグラをいつでも呼び出せる(かんざし)をもらっていたんだっけ。
「ありがとうございます、アネコ様。カグラを呼び出します」
 オレは、荷物入れから簪を取り出した。

 その時、横の草むらから、
《もうし……》
 声をかけられたんだが、オレはいきおいのままカグラの名前を呼んでしまっていた。

 ピギッとかヒギャとか変な鳴き声を残し、草むらの中をザザザっと何かが遠のいていった。
 獣っぽい。
 蜘蛛の妖怪の登場に怯えて逃げたのだろうか。

《ご用を承りますェ、大主人(おおあるじ)様》
 驚いた。
 蜘蛛の妖怪カグラは、贅を尽くした赤地の帯をつけ、黒地に白の蜘蛛の巣模様の着物を着ていた。
 だが、帯は小さくなり、着物は非常に薄手になった。まあ、模様と裾のずるずるは一緒だけど。
 髪は結ったまんまではあったが、簪の数もずいぶん減っている。白塗りの顔も、化粧が少し薄くなったような?
《お気に召しませんでありんすか?》
 カグラが静かにオレを見る。
《お言葉通り、内掛けとまな板帯をやめて、装いを減らしてみたんでありんすが……》
 恥じらうように袖で顔を隠している。何というか……セクシー……重すぎる飾りが減ったせいだろうか、襟から見える細い首とか……目がそっちの方に行ってしまう。
「いや、綺麗だよ。前のもいいけど、オレは今の方が好きだ」
《ほんだすかェ? 嬉しゅうありんす》
 そっと顔をあげるのが、また、何とも……。仕草が上品だなあ。

 ほんわかした気分だったんだが……
《ちちと しりを だすと もっと よろこぶぞ》
 赤い手毬を持った神様が、あんまりな決めつけをする。

《やはり、男の方でありんすなあ》
 カグラは袖で口を押さえて笑った。
 そのまんまでいい、素敵だって否定したのに、カグラはホホホと笑うばかりだった。

 ニビィの留守番の代役を頼むと、
《わっちの配下のものに、この洞窟のそばに巣を張らせますハ。子狐の話相手になれましょうし、留守も引き受けられます》
 と、言ってカグラは愛らしく微笑んだ。
「ありがとう、カグラさん」
 カグラがにっこりと笑う。人形っぽくなくなった。綺麗で可愛い。
《このようなご用の筋でありんしたら、いつなりと喜んで》

 帰って来たニビィに、カグラをひきあわせ、洞窟の側に蜘蛛の巣を張る許可をもらう。
 あと、留守番中に誰かが来たけれど、逃げてしまった事も伝えた。ニビィのお母さんを訪ねて来たのかどうかは不明。単に道を聞きたかっただけかもしれない。用があるのなら、又、訪ねて来るだろう。

 ニビィがカグラに懐くのを待ち、それから出発しようとした。
 んだが……
《ごしゅったつニ、ございますカ? おかげさまデ、おなかガ、くちましてございますゥ。みなみなさマ、ありがとうございましたァ》
 こぎつねのニビィが、笑顔でペコリとお辞儀をした。目からジョボジョボ涙を流しながら。

「ニビィちゃん……」
 ドラゴンのきぐるみの人が、こぎつねをギュッする。
 ニビィが泣きながら、獣使いに抱きつく。二本の尻尾が、しょぼんと垂れている。
《みなみなさマ、どうゾ、おげんきデ》
「……ニビィちゃんも元気でね」
《あい。ニビィは、おなかガ、いっぱいにございますゥ。ポカポカですゥ。ひとりになってモ、さびしゅうないのですゥ》

 ずっきゅん! と何かが胸につきささった。

 ず〜っとお腹をすかせて、一人ぼっちで洞窟に居たんだ。久々のお客様に大喜びだったろう。ましてやパメラさんは、獣から愛されまくる獣使い。一緒に居て、ニビィはすっごく楽しかったはずだ。

 セリアがオレを見て、かぶりを振る。
 仲間探しに行かなきゃ駄目だと目で訴えている。
 だけど……一晩ぐらいなら……

 セリアがおっかない顔で、かぶりを振り続ける。
 でも……もうすぐ夕方だし……

 セリアが鬼みたいな顔になって、ずっとかぶりを振っている。
 じゃ、せめて、あともうちょっとだけ……ほんの一時間とかなら……

「アネコ様、次に紹介してくださる女の方、何処にお住まいなんですか?」
 サラが、子供の神様に尋ねる。
《てんぐの たけだ》
「ここから遠いんですか?」
《ひとの あしなら あるいて みっかだ》
 う。
 遠いんですね……
 じゃあ、すぐに出発しないと……
「近道ってないですか?」
《ない。 だが あいては てんぐの くろばだ》
 アネコ様は、手の中の赤い毬をクルクルと回していた。
《とんで きて もらう ほうが はやい。 おれは ここに いると しらせて おこう》

「アネコ様……」
 オレを見て、子供の姿の神様がニッと笑う。
《あすの あさには くろばが つく。 こんやは ここに とまるぞ》

「アネコ様! ありがとうございます!」
 オレは、ちっちゃな神様に抱きついた。
《ばか。 はなせ。 なにを する》
 体も、ちっちゃな女の子そっくりだ。あったかくって、やわらかい。
《さわるな。 おれは おとなの おとこは きらいだ》
 急いで手を離した。
 アネコ様が、オレからプンと顔をそむける。
「すみません、つい……。嬉しかったもんで。……ありがとうございます」
 アネコ様はうつむき、顔をそむけたままだ。怒ったせいか、顔がちょっと赤く染まっている。

「そうやって、みなさんが勇者様を甘やかすから、勇者様がどこまでも甘い方になられるんです」
 ジョゼから事情を聞いたセリアが、ぷんぷん怒って言った。
 甘やかされていたのか、オレ……
 知らなかった。
 殴られるわ、冷たい目で見られるわ、罵倒されるわで、ひどい目に合されてばっかだと思ってたんだが……





 ニビィの洞窟は人間用にはできていないとのこと。夜までは一緒に過ごし、その後はパメラさんだけがお泊まりって話だったんだが……カトリーヌも泊まると言った。
 お客様が増える♪ と、ニビィは大喜び。カトリーヌのキツネ耳と尻尾も、気に入ってるみたいだし。
 だけど、パメラさんは駄目だとかぶりを振った。
「……ニビィちゃんのおうちには寝床がないし……虫がいっぱいいて……夜は真っ暗よ」
「平気よ。私、狩人ですもの。屋根のない場所に泊まるのだって、しょっちゅうよ」
「……でも」
「パメラ……あなたのそばにいさせて。あなたはこの世界で運命的な出会いをする……魔王戦で使う仔と出会うんでしょ? その素晴らしい瞬間に、私も立ち会いたいの」
 カトリーヌが、幼馴染に優しく微笑みかける。
「タマちゃんが、あなたの運命の仔だといいわね」
 パメラさんはしばらくカトリーヌを見つめ、それからほわ〜っと微笑んで、こっくりと頷いた。すげぇ、綺麗だった。
 とりあえず……エクレールに頼んで、カトリーヌの為にアイテムを出してもらおう。携帯灯り『ランプくん』、『蟲虫ノックアウト』は必須だろう。あと、『どこでもトイレ』もあった方がいいか。それから……

《それでは、わっちはお(いとま)いたしますハ。ご用の折には、お気軽にお呼びなんし》
 配下の蜘蛛を木に残し、蜘蛛の妖怪は帰って行った。

 アネコ様が、お屋敷を出現させる。
 森があったはずの場所に、アネコ様のお家がど〜んとある。
 不思議だ。

「亜空間通路をご利用なさっておられるのでしょう。ご自分とその周囲の者を、ご自宅のある空間に同位化する術をお持ちなのではないかと」
 セリアの説明は、難しすぎて呪文にしか思えない。
「えっと……つまり、アネコ様のおうちはよそにあって、移動魔法で跳んでいるってことですか?」と、サラ。
「それに近いですね。しかし、一瞬だけ空間がつながる移動魔法とは異なり、門を出現させ、門を通してご自宅がある空間とこの山を長時間繋げておられます。門をくぐるとあちらの世界、出れば山。据え置き型、転移魔法陣がある感じですね。しかも、呪文無しで効果は持続。素晴らしいです」
 セリアの長い話を、幼馴染と義妹が真面目な顔で耳を傾けている。聞く気もないアネコ様は、スタスタと門をくぐって行ってしまったが。

 セリア先生の聞き手は義妹達に任せ、オレは少し離れて後ろを歩いていた。

 アネコ様の家の門をくぐろうとした時だった。
《もうし……お待ちください》
 背後の草むらから声がかかった。
《きんきらな剣をお持ちの方》
 そう名ざしされたら、オレしか居ない。
「はい?」
 オレは足を止めて振り返り、草むらと向かい合った。
《まずは御礼を。ありがとうございました》
 む?
《こなたさまに、あぶない所をお救いいただいたものです。こなたさまは命の恩人にございます》

 む?

 オレなんかしたっけ?

《お話できてよかった。わらし様のお屋敷に入られたら、私では声がかけられません。今なら、蜘蛛もおりませんし……》
 そう言われ、ピンときた。
「もしかして、蜘蛛の網にかかってた子?」
 ピギとかヒギとか、変な声が聞こえた。
《あのぉ……それ、お答えせねばなりませんか?》
 草むらからの声が、ちょっと涙声になった。
 むむ?
「聞いちゃいけないの?」
《報恩にも決めごとがございまして……正体を暴かれたら、こなたさまとお話ができなくなります》
「あ、そうなんだ。ごめん。じゃ、いいや。話さなくて」

 カグラの網には、姿のないモヤモヤした雲みたいのが多かった。鳥やら虫やら獣やらもいっぱい捕まっていた。
 昼間も声をかけられたっけと思いだす。カグラを呼び出すと同時だったんで、声の主はすぐに逃げてしまったが。
「キミ、昼間も来てたよね?」
《あい》
 あの森からこの山まで、けっこうな距離が離れてるのに。わざわざ来てくれたのか。
 蜘蛛の網を壊したのは、カグラに会いに行く為だ。そん時、意識的に捕まってる奴を逃がすようにはした。けど、あくまでオレの都合だ。お礼を言われるほどのことはしていない。
《誠にありがとう存じます。他の衆と話し合い、わたしがご恩返し役となりました》
「ご丁寧にありがとう。けど、助けたのだとしても、たまたまそうなっただけのこと。気にしないでくれ」

 草むらから溜息がもれた。
《お優しくて、お強くて、謙虚なお方……。こなたさまのおこころばえは、みなわかっております……ほんに素敵な方。ご恩返しをさせてください》

 草むらが揺れ、何かが出て来た……と、思った時にはオレの前には綺麗な女の人が居た。
 真っ白だった。
 頭を覆う形で白い布を被り、帯も着物もその上の内掛けも全て白。
 うつむき加減なんで顔はよく見えないが、すっぽりと髪を覆った白い布から見える肌も白い。白粉をはたいている。
 神事の衣装なのか、白一色。綺麗で厳かな感じだ。

挿絵(By みてみん)

《受け取っていただけますか?》
 女の人の右手には扇があった。身体の真ん中、おへその辺りで持っていて、左手を下から添えている仕草が綺麗だ。裏ジパングの女性達は、みんな所作が美しい。

 扇を使う習慣はないけど、わざわざ来てくれたんだ。気持ちがありがたい。
「ありがとう」
 オレは女の人へと右手を差し出した。

 白い布からみえる赤い唇。紅で彩られたやわらかそうな口が華やかに笑みをつくる。

 ドキンとした。
 白い肌に、赤い愛らしい唇……
 とても魅力的だった。

《嬉しゅうござります》
 女の人がふわりとオレにしなだれかかってくる。

 甘い香りがした……

 オレの胸にそっと身をあずけてくる、控え目な抱擁。奥ゆかしくて、いじらしい心ばえ。

 やばい。
 これは、まずい。
 と、思って目をつむったんだが……

 間に合わなかった。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


「ジャン、何してんの? もうみんなアネコ様のお家まで……」
 サラの声が、そこで止まる。

 門から出て来たであろう幼馴染みは、今のオレをきっと凝視している。
 全身真っ白な女の人に抱きつかれ、硬直しているオレを。

「あんた、何やってるのよ!」
 声が近寄って来る。
 オレは拳を意識し、身をすくませた。





「ジョゼさん、サラさん……このまえはお二人を責めるような事を申し上げ、たいへん失礼いたしました」
 沈痛な顔でセリアが、オレの義妹と幼馴染に頭を下げる。
「普通の人間が勇者様のお立場におかれましたら、相手を選んで萌えるでしょう。しかし、勇者様は、目の前に好みの方がおられれば考えなしに無節操にキュンキュンなさるだけの方。多くを期待しても無駄。周囲が手綱(たづな)をとれば良いのだと、そう思っておりましたが……」
 頭痛をこらえるように、セリアは額に手をあてた。
「目を離したほんの短い時間でこれでは……防ぎようがないですね」

 サラはジト目。ジョゼは涙でちょっとうるんだような瞳でオレを見つめている。

 今のオレには、真っ白な服を着た女の人がよりそっている。
 アネコ様に伺ったところ、その白い服は裏ジパング界では花嫁衣装だそうで……

《もらってくれで もらうと こたえたのだろう? なら それは おまえの よめ だ》
 アネコ様はぶすくれた顔で、手毬を弄んでいる。
《よかったな。 ばかに よめの きて が あって》
「いや、もらうとまでは答えてません」

 恩を受けたものが、ご恩返しをするのは裏ジパングでは常識。
 恩に報いる為に、何かをプレゼントする。自分を差し出すのも、よくある事らしい……

《シヅと申します》
 花嫁さんがにっこりと微笑みながら言う。
《こなたさま好みの、乳も尻もでかい女でございます。強くて綺麗な女になりました。きっとお気に召していただけると思います》
 その姿、変化(へんげ)なのか。
 そうだよな。
 蜘蛛の糸から助けたヤツって、ほとんどが雲みたいな形のはっきりしない霊。あとは小鳥やウサギやタヌキや虫だったもんな。
 オレとアネコ様の会話を聞いて、オレ好みに化けたのか、この(ヒト)

 正体は何だろ?

「シヅさん。申し訳ないけど、オレ、この世界の人間じゃないから……」
 お嫁さんはもらえない、と断った。その上で、魔王戦のことを伝えた。その日に戦ってくれれば、すごく助かる、ありがたいと強調しておいた。

《そんな、つれないことをおっしゃらずに、もらってください。一夜妻でも構いません》
 いやいやいやいや。
 OKなんて言えるわけないでしょ。
 ジョゼにサラにセリアにアネコ様に見られてる状況で。
 周囲の目が痛い。

「……魔王を倒す為に、オレは女色断ちの願掛けをしてるんです」
 この嘘でいくしかない。
 これが一番辺り触りがないし、お断り率100%の効果だ。
「お嫁さんをもらったら、オレは魔王を倒せなくなる。生まれた世界を救えなくなるんです」
《こなたさま……》
「許してください。オレは故郷を守りたいんです」

《わかりました、帰ります……魔王戦でこなたさまのお力となれるよう、修行をつんでまいります》
 口元に悲しげな笑みを浮かべてから、床に指をついて優美にお辞儀をする。シヅの綺麗な所作に溜息がでそうだった。
《お屋敷に招き入れていただき、ありがとうございました》
 アネコ様に対しても、花嫁さんがお辞儀をする。
 見とれてたら、ボン! と黒い煙がシヅからあがった。
 煙幕のように。
 煙が晴れた時にはシヅの姿はなく、木の葉が一枚だけ落ちていた。

《しづは かえった》
 簡潔にアネコ様がおっしゃる。

 仕草が綺麗な奥ゆかしい子だったなあ。
 ちょっと心惹かれる子ではあった。

 と、のほほんとしていたオレに、セリアが現実をつきつけてくる。
「シヅさんは……十中八九、カグラさんの網に囚われていた方です。つまり、カグラさんの網から自力で逃げるほどの実力のなかった方、ようするに……」
 セリアが苦々しい顔で言う。
「魔王に大ダメージなど期待できない方……借金は更に追加ですね……」

 う。

「バカ」と、サラがそっぽを向いて言う。
 ジョゼは心配そうにオレを見ていた。

 アネコ様は、大きく息を吐いた。
《さんにんめ が くわわって しまったか》
 その小さな口から漏れた言葉。
 独り言のようだ。
《どうしたものか。 もう だめだろうか》


 魔王が目覚めるのは十三日後だ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№090)

名前 シヅ
所属世界   裏 ジパング界
種族     妖怪かな?
職業     花嫁さん?
特徴     オレがカグラの網から助けたものの
       どれか。雲みたいな霊か鳥か獣。
       恩返しの為に、花嫁になりに来た。
       木の葉を残し、姿を消した。
戦闘方法   不明。きっと弱い。
年齢     不明。
容姿     変化の時は、裏ジパング風の
       真っ白な花嫁衣装。
       綿帽子って布ですっぽり頭を覆って
       うつむき加減だったので口元しか
       見えなかったが美人っぽい。
       胸と尻も大きかったもよう。
口癖    『こなたさま』
好きなもの  オレ?
嫌いなもの  カグラ
勇者に一言 『受け取っていただけますか?』
挿絵(By みてみん)
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