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ハーレム100 作者:松宮星

裏 ジパング界

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きつね こんこん  【ニビィ】(※)

 オレらの前に、突然、立派な門を持った大きなお屋敷が現れる。
《もうよるだ。 こんやは おれの いえに とまれ》
 入れと言われたから、アネコ様の後に続いた。
《おまえも こい》
 アネコ様は、蜘蛛の妖怪カグラも招いた。黒い蜘蛛の姿になったカグラは、とても小さい。踏んづけちゃいそうなんで、掌を差し出した。
《はこんで もらえ》とアネコ様に促され、カグラはオレの掌にのった。

 アネコ様が見えないセリア達も、屋敷は見えるらしい。きょろきょろと辺りを見回している。
 大きな樹木のある花咲く庭も綺麗だったが、木造の建物もとても美しい。華美な装飾は無く、自然に溶け込むような落ち着いた雰囲気がある。
 庭やら廊下やらを、小さなものがちょこちょこと歩いていた。アネコ様に棲む事を許された小さな神様や霊らしい。召使いみたいに働いているものもいれば、のんびりと遊んでいるのもいる。
《つくも しゅう だ》と、アネコ様は言った。
九十九(つくも)衆』という単語が頭に浮かんだ。九十九衆は、やはりセリア達には見えないようだ。
 オレらが通されたのは、その家の広間。部屋の中央にある囲炉裏という四角い炉を囲んで座った。
 炉の上には、小さな火の神様が居た。お客人が来たと楽しそうに踊る。
 夏なのに火を囲むのかと思ったが、空気が乾いているせいかとりたてて暑いという事はなかった。
 膳や器や箸が歩いてやってくる。セリア達は歩くところは見えないらしいが、自分の目の前に並ぶと見えるようだ。だもんだから、そこに急にフッとわいたように見えるらしい。

 気がつくと掌の上にカグラは、いなかった。アネコ様は、食事に行ったのだろうとまったく気にしていなかったが。
 囲炉裏で焼いた魚や餅、天井から吊るされた鍋で作った味噌スープをいただいた。美味しかった。

 食事中、パメラさんの卵のことが話題にのぼった。
《おれは その たまごの うたは しらん。 だが だれか しってる かもしれん。 きいてやる》
「ありがとう……ございます」
 パメラさんがお礼を言う。人間が苦手なパメラさんも、アネコ様とは普通にしゃべれる。
 ニーナとも仲良しだもんな。アネコ様は人間の子供そっくりだけど、人間じゃない。パメラさんの対人恐怖症も、表に出ないようだ。


 食事を終えた時だった。
《かたじけのうござんした。どうにか(しょう)を取り戻せたでありんす》
 衣ずれの音と共に、重たげな髪形と衣装の蜘蛛の妖怪が唐突に現れた。
 セリア達がびっくりとしている。カグラは、見えるらしい。
 だが、蜘蛛の妖怪の話相手はアネコ様だ。上座にちょこんと座っている神様は、カグラの方を見もしないで手毬を弄んでいる。
《いても いい。 かえっても いいぞ》
《重ね重ね、かたじけのうござんす。わっちも一国の主人(あるじ)。配下のもののもとに戻りたいでありんす》
《すきにしろ》

 アネコ様に対し恭しく頭を下げてから、蜘蛛の妖怪はオレを見た。
《戻ってもようござんすかェ?》
 へ?
「良いんじゃないんですか?」
 なんでオレに聞くの?
《わっちは、勇者様に調伏された身にありんす。ぬしさんが大主人(おおあるじ)。わっちの家の子郎等すべて、ぬしさんのもんにござんす》
 はあ。
《これを》
 カグラが髪にいっぱい挿している髪飾りを一本抜いた。
《ご用の時は(かんざし)を手に、わっちの名をお呼びなんし。すぐに馳せ参じますェ》
「ありがとう」
 (かんざし)っていうのか、その頭にいっぱい挿してる髪飾り。

《今、ご用の筋はござんすかェ?》
 無ければ帰るって言いたそうだ。
「家の前に巣をいっぱい張るのはやめてくれるんだよね?」
《あい》
 じゃ、あとは魔王戦のことを頼むぐらいだが……

「あのさ」
 気になっていたことを聞く事にした。
 簪をいっぱい挿した頭、ぶ厚い着物、でかい前帯。蜘蛛の妖怪は、歩きづらそうな格好をしている。
「重くない?」
《は?》
 蜘蛛の妖怪は、白塗りの顔だ。その顔も、作り物みたいなんだよな。
「もっと身軽な格好はしないの?」
《姿を変えろとおっせぇすか?》
 あ。
 怒った?
「ごめん。そうじゃないんだ。その格好、綺麗だけど……ノーメイクでも、髪を背に垂らしても、もっと薄手の着物でも、魅力的だと思う。カグラさん、美人だし」
 カグラが目を微かに細め、オレを見る。
 う。
 やっぱ、怒ってる?
 よそから来た人間が、異世界の衣装にいちゃもんつけるとか……間違ってるよな。
「いろいろと重たそうだから、ずっとそれで居るのはつらいかなあと思ったんだけど……」
 いたたまれなくなり、オレは頭を下げた。
「……ごめん。馬鹿なことを言った。忘れてくれ」

 華やかな笑い声が聞こえた。
《おもしろいお方でありんすネ》
 カグラは袖で口を押さえて笑っていた。
 怒ってない。むしろ、嬉しそう。
《わっちの身を、ただ案じてくださった。ただ、それだけ……。男から裏のない真心を頂戴するんは初めてでありんす》
《それは なりは おおきいが こどもだ。 ばかなのだ》
《さようにありんすな。良い馬鹿を拾われ、ようござんしたな、わらし様》
 むぅ。
 誉められてる気がしない。

「勇者様」
 セリアだ。声をかけられ、うずうずしたその姿を見ただけで、何を求められているかはわかった。
 学者のインタビューに応じてやってくれと、カグラにお願いする。
 ざっとの印象だけど、普通の人間が目に見え話ができる神霊は少ない。セリアはチャンス! とばかりに、カグラにあれこれ質問しメモをとっていた。

「ジャン。アネコ様にお家の中で精霊を呼び出していいかお尋ねしてくれない?」と、サラ。
「あんたとパメラさんしか神霊が見えないのって不便だもん。アタシやジョゼも精霊を憑けた方がいいと思うの」

 パメラさんは、ちっちゃな九十九衆を見てニコニコしてる。その隣のキツネ耳と尻尾のカトリーヌは、心配そうに幼馴染を見ている。
 同じものを感じ取れなくて不安になってるんだ。気持ちはわかる。けど……

「おまえは、この世界をまともに見ない方がいい」
 幼馴染として、助言はしてやった。何でよ? としつこいんで、正直に教えてやった。
「足元にも空気にも、小さな生き物がいっぱい居るんだよ。アネコ様の結界の中には入ってこないけど……蛇とか蛙とかナメクジとかミミズとかアレとか」
「アレ?」
「アレだよアレ」
「だから、なに?」
 オレは溜息をついた。
「……おまえが大嫌いなアレ」
 サラの顔色がサーッと青ざめる。
「アレがさー、もぞもぞうじゃうじゃしてるわけ。アレをグチャッてかグチョッて踏まなきゃ進めないし、したら中身がムニョって出てムニュになるし。宙にも黒雲みたいにムアムア〜って居てさ〜 それが全部、足をシャカシャカさせてるわけ。近づくと、手足とか体とかにくっついてきて、顔の上をムジャムジャと」

「想像させるなッ! バカッ!」

 サラに殴られた。
 せっかく、見ない方がいいってアドバイスしてあげたのに。

「そこまで言われたら、見えない方が嫌よ!」
 そうか?
「もしかして、今、触っちゃったんじゃないかとか……足の先に居るんじゃないかとか……体の上を這いまわっているんじゃないかとか……駄目! 想像しちゃう!」
 サラがぞぞっと身を縮まらせる。
「おまえ……本当にムカデが嫌いなんだなあ」

「その名前を言うなッ! バカッ!」

 また殴られた。
 いちいち殴るな、乱暴者め!

 アネコ様のご許可をいただき、幼馴染と義妹がそれぞれの精霊を呼び出して同化し感覚を共有する。レイは本当のこと言うと、勝手に義妹に憑いて護衛してたようだけど。
 これで神秘のものが見えないのは、セリアとカトリーヌだけとなった。

《あすは きつねの だいようかいの ところへ いく。 ちちと しりが でかい びじんだぞ》
 アネコ様がご機嫌うるわしくなさそうな顔で、オレを睨む。『ちちと しりが でかい おんな』が話題にあがる度に、これだ。
 さすがに聞いてみた。
「胸やお尻の大きい女性が苦手なんですか?」

《ばか》
 アネコ様はむっつりとした顔で、手の中の手毬をクルクルと回している。
《おんな じゃない。 おれは おとなの おとこが きらい なのだ》
 う。
 ボンキュッボン好きの男がお嫌いなんですね? オレ、別に、ボンキュッボンだけにこだわってるわけじゃないんですが……

 アネコ様が座ったまんま、手毬をつき始める。赤い糸で彩られた毬がポンポン跳ねる。

 子供の姿の神様の毬つきを、オレは見つめていた。





「お喜びください、勇者様」
 翌朝、セリアはたいへん上機嫌だった。
「カグラさんから伺った話を、私なりに研究・解釈いたしました。概要をご説明しますね」

 概要というわりには、非常に長い。
 朝食から出立、移動となっても、セリアはず〜っと話しっぱなしだった。
 アネコ様のデカイお屋敷は消え、オレらはてくてくと山道を歩いて行った。セリアの声をBGMに。


 セリアから聞いた話を、オレなりに整理する。

 裏ジパングは、一言で言うならお伽噺の国。

 裏ジパングには、すごくいっぱい神様が居る。八百万(やおよろず)の神だそうだ。けど、それよりももっと居るとカグラは言っていた。
 でもって、神ではないが魂的なものがいっぱい居る。妖怪やら霊魂やら変化(へんげ)やら……
 ほとんどの神霊は神秘を見通す目がなきゃ見えないけど、中にはカグラみたいに『人間が見える姿になれる』ものも居るのだそうだ。
 何で見えるのと見えないのといるのか、セリアは難しい言葉で説明してくれた。が、難しすぎてよくわかんなかった。
 その存在が人間とどう関わるかによって見えたり見えなかったりする……ってことらしい。

 まあ、ともかく……

 神霊の加護の下、人間が暮らしている。
 たいていの人間は、見えず聞こえず話せず。
 でも、見えなくても気にせずに信仰している。
 唯一神を決めたりせず、そこらにいる神様に次々に手を合わせる。
 で、お恵みをいただけたら、ご恩返しをしてお礼をする。
 そうやって、神霊を敬って仲良く暮らしている。この世界の人間は、とても信心深いようだ。

 海にも森にも山にも、村にも都にも神霊が居る。
 雷神やら水神のようなまともな神様もいれば、トイレの神様のようなスケールの小さい神も居る。中には、石を転がすだけ、髪の毛を切るだけ、穀物を洗うだけなんてわけのわかんない存在まで居る。
 神と言えないような存在も、裏ジパングの人間は愛して大切にする。よくしてもらえれば、愛された方もお礼をする。人間もまたお礼を返してで、ただの霊であったものが神様に昇格する事もあるのだとかなんだとか。

「ジパング界と裏ジパング界の差異もわかりました。ジパング界は、鬼がうとまれた世界。つまり、精霊の子孫が奇異と映るほど、神秘が珍しい世界なのです。対して、裏ジパング界は神霊に満ちております」
 表と裏があるのは……
 聖なる天界と、魔族のいる魔界。
 主神の力が強かった冒険世界と、神よりも魔の方が強かった裏冒険世界。
 そして、ジパングと裏ジパング。
「冒険世界とジパング界のそれぞれの裏は、天界と魔界ほどには表裏の関係にはないように思われます。けれども、両者には共通点と差異があり、何より赴くべき呪文が似ております。表裏ではなく並行、亜世界なのではないかという推測も成り立ちます」


 セリアは次々にお説を語ってくれるが、かろうじてついていけるのはサラだけ。でも、サラも半分もわかってないと思う。
 アネコ様などは、
《その おんな くちから うまれたに ちがいない》
 と、ぶすくれてた。セリアはアネコ様の存在を感じられないけど、セリアの姿も見え声も聞こえているようだ。
《うまれかわったら きーきー わめく さるに なる。 でなければ ようかい くちだけ おんな だ》
 オレとサラがプッとふきだし、ジョゼも口元をおさえる。
「どうかなさったのですか、勇者様? アネコ様が何かおっしゃったのですか?」
 しつこく追及してくるセリアに、何でもないと言い続けた。

 そんなオレらから少し離れ、パメラさんとカトリーヌは歩いていた。
 ニコニコ笑顔で、結界外の神霊を見るパメラさん。時には、手を振ったりする。
 そんなパメラさんを、カトリーヌは心配そうに見つめていた。





 そんなこんなで、オレらは目的地に着いた。
 深い森の中に、木々に埋もれるようにある洞窟。
 そこが、狐の大妖怪の棲み処のようだ

《おさきは きゅうびの きつね。 だいようかいだ。 おとこを とりこにし せいを すう》
『九尾の狐』という単語が頭に浮かんだ。
「強いんですよね?」
《つよいぞ。 なんぜんという さむらいどもと いくさをして かったこともある》
 へぇ。
 そりゃ凄い。

《おさき。 でてこい。 はなしがある》
 アネコ様が声をかけると、しばらくして暗い洞窟の中から住人が現れる。

 見た途端……
 オレの心は揺れ動いてしまった。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十一〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 はぅぅぅ〜

 やばいッ!

 かわいいッ!

 ちょ〜 かわいいッ!

「かわいい! かわいい! かわいい!」
 理性が崩壊したのは、オレだけじゃなかった。
 パメラさんが、その子に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。
 サラもジョゼも走り寄り、抱っこスタンバイおっけ〜状態。
 もうみんなホワ〜って笑顔。

「かわいいですね……アネコ様、ご推薦の子」
 オレは子供の姿の神様に話しかけた。本当は抱っこ戦に参加したいんだが、動物のこととなると目の色が変わるパメラさんがメロメロで当分離しそうにない。ジョゼとサラも抱っこしたそうだし。

《ちがう》
 アネコ様が強い口調で否定する。
《あれは おさき じゃない。 ちいさきものだ。 おさきの むすめか》

 そう言って、アネコ様がパメラさんの方へと向かう。
 オレはその姿を目で追い、
「……あの子、正体は大妖怪なのでしょうか?」
 セリアから声をかけられた。あの子が見えているようだ。
 学者は眉をひそめ、探るようにオレを見つめている。
「いや、大妖怪の娘らしい。小さきものだそうだ」
 非常に言いづらそうに、セリアが尋ねてくる。

「……萌えました、勇者様?」

 う。

「……萌えました」

 セリアが額に手をあてる。
 オレも額に手をあてた。

 抱っこ戦に参加したがっていたサラとジョゼも、キュンキュン気分がふっとんだらしい。心配そうにオレを見ている。

 うぅぅ。
 あと十一人ってとこで、借金追加か。

 でも、しょうがないだろ。
 かわいかったんだもん。
 洞窟から大妖怪が出て来ると思い込んでたから、まともに見ちゃったし……

 アネコ様が、パメラさんの手の中の子へと声をかける。
《おさきは どうした?》

《かかさまハ、えさとりに、ございますゥ》
 もふもふの緑のきぐるみに抱っこされている、もふもふが答える。
 ピンと立った耳は先っぽだけ黒くって、ふかふかの毛は赤っぽい金でとっても綺麗だ。猫みたいな目は、金色でくりくりしている。
 でもって……尻尾が二本ある。ふさふさのフカフカのモコモコ……

 すっごくかわいい狐の子だ。
 ちっちゃくって、たよりなげで、いとおしくって……

 魔王に大ダメージなんか、絶対に無理だよな。
 胸にキュンキュンくるかわいさは、100万ダメージ分くらいありそうだけど。

《かかさまハ、みやこヘ、おとこヲ、かりにゆきましテ、ございますゥ》
《せいを すいに いったのか》
《あい。わたいハ、カカさまのむすめ、ニビィ。おるすばんニ、ございますゥ。かかさまへノ、ごようハ、かわっテ、うけたまわりますゥ》
 キュウゥゥ〜と鳴った。
 こぎつねが。
 口からじゃなく、おなかから音を出して。

「おなかがすいてるの?」と、聞くとこぎつねはかぶりを振った。
 つっても、しょぼんとしてる。
「干し肉あるけど、食べる?」
《おにくゥ?》
 こぎつねは、ダラダラとよだれをたらし始めた。が、あわててかぶりを振った。
《はらガ、へってモ、ひもじゅうないのですゥ》
 む?
《ひとかラ、ごはんヲ、もらってハ、いけないのですゥ。りっぱナ、バケぎつねニ、なれないのですゥ》
 狐家の教育方針か。

「……自分で狩りをしたものしか、食べてはいけないの?」
 パメラさんの問いに、こぎつねが頷く。
《でモ、いまハ、おるすばんニ、ございますゥ。かかさまノ、おもどりまデ、ごはんハ、がまんにございますゥ》
「どんぐらい我慢してるの?」
 って聞くと、わからないとの答え。
《カカさまガ、おでかけになってかラ、だんじきなのですゥ》
「おかあさん、いつ出かけたの?」
 こぎつねが首をかしげる。
《ゆきガ、ふるまえニ、おでかけになりましテ、ございますゥ》
 へ?
 この世界、今、夏だろ?
 去年の秋から食べてないの?

《ちいさきものだが ようかいの こ だ。 くわずとも しばらくは いきられる》と、アネコ様。
 そういうものなのか?
 でも、空腹を感じてはいるんだよな……

「おるすばんって……おかあさんをたずねて来た人から、伝言を聞けばいいの?」
 パメラさんの問いに、こぎつねが頷く。
「……それだけなら、他の人でもできるわ。代わって、あげられると思う……」

 パメラさんがこぎつねから、オレへと視線を動かす。
「……あの……」
 パメラさんがオレの方に向き直る。
「お、お、お、おね……」
 何度も何度も、喉をつまらせながら、パメラさんが必死に訴える。
 しまった。オレ、今、ドラゴン帽子を被ってない。
 オレを見るパメラさんは震えている。顔色も悪い。

 頭にズボッとカチューシャが挿された。
 すぐそばのカトリーヌが、フンと息を吐いている。

 パメラさんがホッと息をつき、オレを見る。キツネ耳カチューシャをつけているオレを。

「お願い……この仔が狩りをする間……お留守番をしたいの……」
 いい? と、首をかしげる。ドラゴンのきぐるみから、美しい顔を覗かせて。

「誰でもいいんでしょ? なら、留守番はオレがしますよ」
 パメラさんに笑顔で答えた。
「パメラさんとカトリーヌは、こぎつねと一緒に狩りをしてきたらどうです? 人からもらった物じゃなくって、いっしょに獲ったものなら、その仔も食べられるんじゃないかな?」
 オレがそう言うと、パメラさんの顔がパーッと明るくなった。
「ありがとう……キツネちゃん」
 パメラさんはキツネ耳をつけたオレに笑顔を見せた。とっても綺麗だ。

《まおうが めざめるのは じゅうさんにちご ではなかったのか?》
 こぎつねとパメラさん、それにキツネ耳と尻尾をつけたカトリーヌが森の奥へと向かってゆく。その背を見送っていたら、アネコ様が不思議そうに聞いてきた。
《のんびりしいて いいのか?》
「のんびりはできませんが、数時間ぐらいなら大丈夫です」
 お腹ぺこぺこの仔を放ったらかして、次に行くなんてオレも嫌だ。焦ったってしょうがない。
《ふぅん》
「アネコ様のおかげで、仲間探しは順調ですし……あと十二日で十一人を仲間にすればいいんです」

《なぜ こぎつねを なかまにした?》
 アネコ様がオレをジーッと見つめる。
《たたかえる やつを さがしているのでは なかったのか? あれは よわいぞ。 ろくな ちからが ない》
「……強い弱いは関係ありません。オレが萌えちゃったら仲間なんです」
《ふぅん》
 アネコ様がジロジロとオレを見る。
《おまえ ばか だな》
「……はい」
《つよい やつだけ なかまに すれば いいものを》

 オレもそうしたいんですが……

 横目でチロリとセリアやサラやジョゼを見る。みんな、すごく心配そうだ。
 せっかく神霊がいっぱい居る世界に来たんだ。ここなら、魔王に大ダメージを与えられる女性も居るはず。
 あと十一人なんだ。
 もう絶対、失敗すまい。

 アネコ様は、手に持っていた毬をポンと地面に落とした。
《おんなは つぎで しまいだ》
 そうなのか。
「わかりました」
《こんどこそ ちちと しりの でかい おんなに あわせてやる。 みっつの ふくの あとでも ばかのままなら ほんとの ふくを やれるだろう》

「どういう意味です?」
 尋ねたのだが、答えは返らなかった。
 アネコ様は右手で手毬をつく。鮮やかな毛糸が巻かれた毬が、気持ちいいぐらいに弾む。

 真っ赤な毬をつく真っ赤な着物の神様を、オレはぼんやりと見つめていた。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№089)

名前 ニビィ
所属世界   裏 ジパング界
種族     妖怪
職業     留守居役?
特徴     母親は九尾の狐、大妖怪。
       まだ小さいのでたいした
       妖力を使えない。
       おなかがすいていても母親との
       約束を破らない。いい子。
戦闘方法   不明。
年齢     不明。
容姿     赤金の毛並みのかわいいこぎつね。
       ふわもこの尻尾は二尾。
口癖    『ですゥ』
好きなもの  カカさま。ごはん。
嫌いなもの  カカさまとのおやくそくをやぶること。
勇者に一言 『はらガ、へってモ、ひもじゅうないのですゥ』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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