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ハーレム100 作者:松宮星

裏 ジパング界

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おまえ ばかだな  【アネコ】(※)

 風が、青々とした草を揺らしていた。
 見上げれば、青い空、白い雲。遠くに森や連なる山々も見えたが……この辺りはずっと同じ草が生えている。丈も同じくらいだ。
 オレ達はその草地と草地の間の細い泥道の上に、出現していた。

 見渡す限り、人影なし。
 上空に鳥が飛んでいるくらいだ。

 実に……のどかだった。

「おそらく水田ですね」
 メガネのフレームを押し上げながら、学者様が緑地を見ている。
「水を張った農地で穀物を栽培している異世界もあると、書で読んだ記憶がございます。確か、ジパング界もそうでした」
「穀物畑なのか……」

 オレも仲間達も、キョロキョロと辺りを見回した。
 この細い道を、どっち向きに進めばいい? どっちが人里だろう?

 カトリーヌが幼馴染のパメラさんに尋ねる。
「タマちゃん、何か言ってないかしら? どっち行きたいとか、何かいいモノを見つけたとか?」
 超内気な獣使いは、獣としか会話できない。
 カトリーヌは、キツネ耳とキツネ尻尾をつけっぱなしだ。パメラさんと会話したいから、異世界でもその格好で通す気なのだ。愛がなきゃ、できないよな〜

「ううん……」
 パメラさんが、小さな声で答えを返す。
 左手は、ルネさん作『たまご パック君』を握りしめている。
 その保護ケースの中に、パメラさんの相棒、卵のタマちゃんが入っている。獣使いの村に何百年も伝わっていたモンスターの卵だ。
 モンスターは、産まれ出る為に何かを食べる。生き物だったり魔力だったり大気だったり、好みは卵によってまちまちだが……
 パメラさんの卵は、この世界の何かを食べたいらしい。獣使いにしか聞こえない声で、裏ジパングについて歌っていたようだし……

 パメラさんは、きょときょとと落ち着きなく周囲を見渡している。
 オレの方も向いた。
 きぐるみの巨大な口の部分が上下に開き、上顎と下顎にはさまれる形で、パメラさんの顔が現れているんだが……
 ズッキン! と、衝撃が走った。
 パメラさんの神像のような完璧な美貌は、上気していたのだ。
 赤く染まった頬、澄んだ綺麗な瞳、うっとりとした笑み、その形の良い唇から漏れる熱い息……

 何とも色っぽい……

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……

 はふぅ。
 パメラさん……いつも綺麗だけど、今日は更に綺麗だ。
 すげぇ、幸せそう? 興奮してる? そんな感じ。


 オレは高鳴る心臓を押さえ、パメラさんから視線を外した。

 困った時には、精霊に頼るに限る。
 オレは風の精霊アウラさんを呼び出した。人里へ連れてってもらおうと思って。
 だが……
 アウラさんは出現しなかった。

《ごめーん、おにーさん、出られないわ》
 アウラさんとの契約の証……ペンダントから声がした。
 出られない?
 弱体化した? 怪我でもしたの?
《そーじゃないわ。元気よ。でもね、神霊にも仁義があってね》
 む?
《気軽に出られない世界もあるのよ》
 へ?

《マーイ、出しっぱでしょ? 彼女も困ってるはずだわ。同化したげて》
 水の精霊マーイさんは空気中の水分に潜んで、常にオレについて来ている。転移の時も、水分となってオレの髪の毛とかに付着しているらしい。
 姿は見えないけど、そばにいるはずだ。
「マーイさん、同化して」

 オレの体の中に、水の精霊が入ってくる。
《ありがとうございます、ご主人様。助かりました。身動きができずに、困っていたのです》
 どういうこと?
《……私の目をお貸しします。神霊の目で、この世界をご覧ください》

 夏っぽい綺麗な青空の下、遠くまで水田が続き、彼方に森と山が見える……

 そんな世界が……一変した。

「げ!」

 オレは思わず、のけぞった。
 が、足すら動かせない。
 動けば、踏んでしまう。

 いや、もう踏んでいるんだ。オレの足の下には、ぴくぴくと蠢くものが居る。片足づつあげて、足の下のものを逃がしてやる。踏まれていた奴等は、猛スピードで水田の方へと逃げていった。

 首を動かすのすら、ためらわれる。
 宙にも、いっぱい居るんだ。

 足元にも水田にも空にも……どこもかしこも……何かが居た。

 蛇やムカデやトカゲや貝や虫やネズミ……生き物とわかる形のもの。
 もやもやっとした雲みたいな、捉えどころのないもの。
 そして、福々しいおっさんやおばさん。水田の区切りごとに、誰かが居る。酒呑んでるのやら、昼寝してるのやら、踊ってるのやら、さまざまだけど……みんな、宙に浮いている……

 オレの思考を読み、水の精霊が教えてくれる。
《この世界の神霊です》
 ぜんぶ?
《はい。この世界は神霊の数がとても多いのです。空気にも土にも水にも全てのものに、ひしめくように神霊が居られるのです。ただそこに存在しているだけの弱いものから、神級のものまで……さまざまですが……》

《英雄世界の『テレビ』で見ましたよね、ラッシュアワーの電車の映像。あんな感じです》
 右胸のブローチから、光のルーチェさんの声がする。
《見えず聞こえずの人間ならばその世界でも動けるでしょうが、私達には無理です》
 そうですね……何かを押しのけなきゃ動けませんもんね。

《それだけではありませんわ。水がいっぱいのグラスにそれ以上注いでも、あふれてこぼれるだけですわよね?》
 右手首のブレスレットから、氷のグラキエス様の不快そうな声がする。
《神霊がひしめいているのです。私達がその世界に出現すると、先にそこに存在していた弱い神霊を消滅させかねません。無意味な殺生になりますの》
 うひ!

「かわいい! かわいい! かわいい!」
 すぐそばから、すっとんきょうな声がした。
 ドラゴンのきぐるみの人だが……

「………」

 凄い事になっていた。
 緑のきぐるみの全身に、いろんなモノがくっついていた。
 蛇やらトカゲやらの生き物タイプから、もやもや雲系まで。そこかしこのモノがパメラさんにくっつこうとしている。
 オレの側の宙に浮かぶ奴等も、前に居る奴等をぎゅうぎゅう押してパメラさんの方に行きたがっている。

 愛されてるんだね……パメラさん。

 パメラさんは集まってくる霊達を、うっとりと迎えていた。すっごく幸せそう。

 けど……
 自分の体を抱きしめているパメラさんを、首をかしげてカトリーヌは見ている。
 ジョゼもセリアも、けげんそうにオレやパメラさんを見ている。
 見えていないんだ。

「ジャン……このへん、神や霊だらけなんですって?」
 いぶかしそうに、周囲を見渡しながらサラが聞く。右手には魔術師の杖を持っているが、
「さっき、アナムが消えちゃったのよ。ここには居られないから、いったん精霊界に還るって……」
 左手に茶色のぬいぐまが居ない。
 そっか……
 アナムの奴、ほとんど事情を説明しないで強引に炎界に還ったのか……
 うん。正しい。それが正解だよ、アナム。
 ここが神霊だらけだって知ったら、サラは同化して目を貸してって頼むだろうし……
 そう言われちゃ、しもべのアナムは貸さざるをえなくなる。
 したら、大惨事だ。
 こののどかな田舎風景は一変する。
 阿鼻叫喚の炎地獄に。
 不審そうに周囲を見渡すサラ。その足元から、体、手足、髪にいたるまで……いろんなものがまとわりついている。蛇やらトカゲやら、サラの天敵ムカデまで……
 顔の上を、ムカデが這ってたりする……
 ンな自分に気づいたら、サラの奴、プッツンだ。キャーキャー叫んでムカデを追い払おうと魔法を使う。炎界の炎まで呼び寄せかねない。あっという間に、この辺は炎地獄だ。

《神霊は、サラさんの魔力に惹かれているのでしょう》と、マーイさん。
《パメラさんには、魂で惹かれているようです。人間らしくない無垢さ、生き物を愛する優しさ、いとけなさが、神霊の萌えツボなのです》
 なるほど。

 セリアやカトリーヌにくっついている神霊は、とても少ない。けど、居ることは居る。マニア好みというか通好みというかニッチ趣味な方々なのだろう。

 ジョゼには……まったく何もついていない。ジョゼの全身は紫に帯電している。
 レイの奴がジョゼに同化して、近づいて来るものを全部撃退している。たぶん、勝手にやってるんだろうな、ジョゼに断りなく。

 オレにもちょこちょこついている。勇者の剣や頭のサークレットや精霊との契約の証に、神霊は興味津々って感じだ。

「神霊だらけなのですか?」
 セリアは困惑顔だ。
 今、神秘のものが見えているのは、オレとパメラさんだけだ。他の者には、芋を洗うがごとく神霊だらけな状況が見えていない。
「うん。下手に動くと、何か踏みそうで動けない」

「勇者様好みの女性は? お強そうな方は居られませんか?」
 神霊ならば良い伴侶となるはず! セリアの顔は期待に輝いていた。
 しかし……
 ほとんどが形のはっきりしないモヤみたいなもの。あとは、蛇やムカデやトカゲや貝や虫やネズミなんかの小動物の霊。畑の方に居るのは、福々しいおっさんやおばさんばっかだし。
 萌えようもない。
「萌え美女はいないよ。動物ばっか」

 ふと見ると……
 遠くに、まばゆい光が見えた。
 お日様みたいな輝かしいものが、狭い泥道を通ってまっすぐに近づいて来る。
 そこに居たものたちは、どんどん脇へとよけてゆく。光に道を譲って行く。
 光の周囲には、他の神霊は居ない。平屋一軒分ぐらいだろうか? その光だけが存在する空間ができている。
 水田のおっさんやおばさんが、光へと恭しく頭を下げる。

 ずんずん近づいて来るそれを、オレとパメラさんは見つめた。
 オレらの周囲に居た奴等は、水田へと逃げて行った。オレ達にくっついていたものたちもぜんぶ、剥がれた。

 光が止まる。

 ちっちゃい。

 オレの腰から下ぐらいしかない。

 まぶしさに目を細めながら、光を見つめた。すげぇ眩しいけど、目がつぶれるってほどじゃない。精霊の目で見ているからか?
「……こんに、ちは……」
 パメラさんが、はにかむように光に話しかける。
 オレもパメラさんに倣った。
「こんにちは」
 そんだけじゃ、ちょっと寂しい。挨拶を続けた。
「いい天気ですね」

 チカチカと光が点滅した。

《おまえたち おれが みえるのか?》
 どこからともなく声がした。
《おとなのくせに。 ぼうずでも みこでもないのに みえるのか》
 光がしゃべっているのか?

《さては ばかだな》

 む?

 カラッとした口調だったせいか、最初、何って言われたかわかんなかった。
『馬鹿』って言われたんだと、気づくまでちょっと時間がかかった。

「……馬鹿なら見えるんですか?」

《おれが みえる おとなは しゅぎょうを つんだやつ。 でなければ、ばかだ。 こころが こどものやつ だけだ》

「オレ、精霊の目を借りてるんです。それで、神秘のものが見えるんです」

《ふぅん》
 光がチカチカする。
《そのみずは おまえの けらいか?》
『水』って、同化してるマーイさんの事だな。
「仲間です。しもべって形でついて来てもらってますが、オレの大事なものの一人です」

《ふぅん》
 光が、またチカチカする。
 目を細めた。

《まぶしいのか?》
「ちょっとだけ」

 光が目に優しいレベルとなる。

 そこには……
 光り輝く子供が居た。

 ちっちゃい。

 可愛い。
 おかっぱの黒髪も、色白の顔も愛らしい。
 赤い着物もよく似合っている。花籠や手毬が描かれた、女の子らしいかわいい柄だ。
 大事そうに赤い毬を抱えているところも、キュート。
 ほっぺはやわらかそう。触ったら、まちがいなくプニプニ。
 目が大きくって、とっても綺麗な顔立ちをしているのに……
 すげぇ機嫌悪そう。
 眉をよせ、キツイ目でオレを見上げ、唇をムスッと結んでいる。

 女の子がジロッとオレを睨む。

「えっと……」
 いたたまれなくなって、オレは謝った。
「ごめんなさい」

《なぜ あやまる?》
「いや、だって、怒ってるみたいだから……」
 頭を掻いた。
「オレ達、気づかない間に、馬鹿やっちゃったのかなあと……」

 女の子が、更におっかない顔になる。

「この世界に来たばっかなんです。ここのルールは、ぜんぜん知りませんでした。ここが神様や霊だらけだって知らなくって転移してきちゃって……ご迷惑をおかけしましたよね? すみません」

 女の子が鼻にしわをよせるほどに、オレを睨む。

《おまえ ばかだな》

「馬鹿……ですか?」
《うまれるものは うまれる。 きえるものは きえる。 それだけだ。 おまえたちが きて きえたものが いたのなら きえるさだめに あったからだ。 おまえらの せいでは ない》

「だけど……オレ達が動こうとすると、そこに居るものたちをかきわけ、踏んづけてかなきゃいけないでしょう? 先に、そこに居たものたちを押しのけて進むのって、申し訳なくって……」

 女の子が、ギン! とオレを睨む。
 何か……マズイ事を言った、オレ?
《よそから なにしに きた?》

「一つは、仲間探しです。オレ、十四日後に魔王と戦う勇者なんです。その日までに、十二の世界で百人の女の人を仲間にしなきゃいけないんで……この世界に、強くて綺麗な女性を探しに来ました」
 女の子が、更にギギンッ! とオレを睨む。すげぇ、こわい。三白眼みたいになってる……
「あと一つは、仲間の獣使いのためです。獣使いの卵が、この世界の何かを欲しがってるんで、それを探しに来ました」

《おまえ どんな おんなを なかまにする?》
 目で人を殺しかねない……そんなおそろしげな目で、女の子がオレを睨む。
《ちちと しりが おおきな おんなが すきなのか?》
 愛らしい口から漏れた、あんまりな質問。『乳と尻が大きな女が好きなのか?』とか……そんなかわいい顔で聞かないでほしい。

 だが……神霊には嘘は言っちゃいけない。水界でその事を身を持って学習している。オレは正直に答えた。
「ボンキュッボンは大好きです。けど、貧乳でもおっけ〜です。胸がちっちゃな子の恥じらう姿なんか、萌えツボ。巨乳な子たちに囲まれて、やるせなさそうに胸を隠したりなんかしたら、きっと、キュンキュン……」

 そこまで言いかけて、オレは汚泥に倒れた。
 すごい勢いで後ろから殴られたんだ。

「あんた、誰と何の話をしてるのよ!」
 サラか。
 ちくしょー 顔から泥につっこんだじゃねえか。
 ペッと口に入った泥を吐いてから、幼馴染へと怒鳴り返した。
「この世界の神様と話してんだよ! 質問に、正直に答えてるんだ!」
 この女の子は神様だ。オレはもう確信していた。何の神様かは、わかんないけど。

「神様〜? 神様相手に、何の話してるのよ、ボンキュッボンとか巨乳とか! あ、あと、そ、その、ひ、ひ、ひん……」

「貧乳でも、オレはおまえが好きだぞ!」
 断言した。
「オレは、胸だけに惚れてるんじゃない!」

「え?」
 サラが硬直する。鼻のあたりが、カーッと赤くなる。
「短気で暴れん坊でリズム感ゼロ。ツンデレとは名ばかりのツンツン暴力魔術師。欠点ばっかだが、いいよ。おまえが、いい奴だってのわかってる! おまえの胸がえぐれていようが、気にしない。大事な仲間だと思ってる!」
 いいこと言った! と、思ったんだが……

「えぐれてないッ!」
 暴力魔術師の杖に襲われてしまった。
 てか、痛いよ!
 ちょっとは遠慮しろ!

 両腕でカバーして、縮こまった。

 赤い着物の女の子が、プッと吹き出す。
《おまえ ほんとうの ばかだな》
 むすっとしていた顔が弛緩し、目尻がさがり、口元が大きく開く。
《ちいさなむねのおんなに えぐれてるだと? ひどすぎる》

 あははと、女の子が笑う。
 泥だらけのオレを指さし、ひどい顔だと笑う。
 楽しそうに。
 明るい声をあげて。

 ぶすくれてても可愛いけど……その顔のが、ずっといい。
 とっても、可愛いや……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十三〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。





 ジョゼが押さえてくれたんで、どうにかサラがおとなしくなる。
 しかし……気のせいではなく、あきらかに女性陣の目が冷たい。
 貧乳でもいいって、懐の広いところを見せたつもりだったんだが……逆効果だったか。


「お名前を教えていただけませんか?」
 尋ねると、女の子はぷいっとそっぽを向いた。
《すきに よべ》
 とか言うし。
 また不機嫌な顔になっちゃうし。

《にんげんは おれを すきに よぶ。 おまえも すきに よべ》
 神様の言葉をみんなに伝えると、セリアが口元に手をあててこう言った。
「お仲間やお身内からは何と呼ばれていらっしゃるのか、お尋ねください」

 女の子はジロッとオレを睨んだ。
《あねこ》

「アネコ……様?」

 女の子は、ますます不機嫌そうな顔になる。

 十四日後に魔王戦であること、その日にちょっとだけオレの世界に来て戦って欲しい等、事情を伝えた。
 アネコ様がどんな神様なのかはわかんないけど……
 相当、偉いはず。
 アネコ様が近づくだけで、周囲の神霊は場所を譲る。家一軒分ぐらいのスペースをしょって歩いている。その中に、誰も入ってこようとしない。畑にいる人型の神様も恭しく挨拶してくる。

 聞きたいことはいっぱいあったけど、まずこれを聞いた。
「アネコ様は、何で道を歩いていたんです? 異世界人のオレ達を見に来たんですか?」

《にんげんなぞ みに いかん》
 フンと鼻で笑う。
《おまえたちが おれの みちを ふさいで いただけだ》
「はあ、すみません」

《おれは もう ひとざとに あきた。 やまで ねようと おもっていた》
 オレは周囲を見渡した。明るい青空と白い雲。緑の水田。
「お昼寝ですか?」
 アネコ様が眉をしかめて、オレを見る。
「じゃないか。山に着くころ、ちょうど夜になるんです?」
 言ってから、気づいた。人間じゃなくて、神様なんだから、ただの睡眠じゃないのかも。
「もしかして、冬眠とか? にしても、早くないですか? この世界は、夏ですよね?」

 アネコ様が、プッと吹き出す。
《おまえ ばかだな》
 う。
「はい……良く言われます」

《あたまのなかは はなたれこぞうと かわらん。 だが ほんとうの ばかでなければ せぞくの あかに まみれ おまえも おとなに なるだろう》
 む?

《おまえ ここに どれぐらい いる?》
 オレは仲間達と相談してから、神様に答えた。
「獣使いのパメラさんの卵が孵るまで、と思っています。七日経っても孵る見通しがたたないようなら、そこで改めて滞在日数を考えますが……魔王戦は十四日後です。あともう一つの世界に行かなきゃいけないんで、そんなにはゆっくりできません」
《ふぅん》
 子供の姿の神様が目を細めた。

《しばらく いっしょに いてやろうか?》
「え?」
《つよくて きれいな おんなの ところへ あんないしてやるぞ》
 おぉ!
「ありがとうございます、ぜひお願いします!」
《おれの まわりには けっかいが ある。 ちいさきものは おれに ちかよれない。 おれの そばにいれば ちいさきものを ふまずに あるけるぞ》
 おぉ!
「ますます、ありがとうございます!」

 オレは仲間達に、アネコ様からの申し出を伝えた。

 アネコ様が見えるのも声が聞こえるのも、今はオレとパメラさんだけだ。どうしてもオレが通訳みたいになってしまう。

「勇者様。アネコ様は、どのような神様なのでしょう?」
 オレはセリアの質問を、女の子の姿の神様に伝えた。

《おれは ふくを もたらす かみだ》
 アネコ様がニッと笑う。

《おれといれば いえは さかえ ひとの のぞみは かなう》
 おぉぉ!
「すごいですね、それは!」

 アネコ様が、口の端を歪めて笑う。
《そうとも。 すごいぞ。 おれが いっしょに いる あいだはな》


 魔王が目覚めるのは、十四日後だ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№087)

名前 アネコ
所属世界   裏 ジパング界
種族     神
職業     福をもたらす神
特徴     光り輝いているが、まぶしいと
       言ったら、光を押さえてくれた。
       いつも不機嫌そうな顔をしている。
       笑うとかわいいのに。
       山に寝に行くところをオレ達と
       出会う。美女のもとへ案内してくれる
       のだそうだ。親切。位が高そうな神様。
戦闘方法   不明
年齢     童女に見える。
容姿     おかっぱの黒髪、色白の愛らしい顔。
       赤い着物を着て、
       手毬を持っている。
口癖    『おまえ ばかだな』『ふぅん』
好きなもの  不明
嫌いなもの  人間があまり好きじゃなさそう。
勇者に一言 『おまえ ばかだな』
挿絵(By みてみん)
 ジャン君が『勇者の書』に描いた落書きということで、たまにイラスト付きの回がアップされます。さかのぼって、イラストのついた方も居ます。
 イラストがある話には目次に(※)をつけてあります。
 今後もイラストは増えていきます。前のヒロイン達のイラストも、お楽しみいただければ嬉しいです。(2013/02/20)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
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