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ハーレム100 作者:松宮星

裏 冒険世界

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呪われた声     【メリザンド】(※)

 神聖騎士団とは、森で別れた。

 神聖魔法の使い手達に同行してもらえりゃ心強いが……運ぶ人間が増えれば、精霊の負担がデカクなる。移動速度も落ちる。
 新月前にマリーちゃんとタイロン国王を取り返す為にも、少数で進むべき。
 チビッ子神官モードと獣達を騎士団に預け、オレらは先を急いだ。『マッハな方』の憑依体になれるジュリエットさんだけを伴って。

 港に残っていたエグリゴーリ国の帆船を奪い、オレらは暗黒の国を目指し……

 そして、わりと順調に旅をしている。



儚キ夢幻(ミラージュ・)ヨリ舞イ堕リシ(レクイエム・)天獄陣(ジェイル)!」

 アウラさんは帆船を結界に包みつつ、風で押してくれる。普通の船よりずっと速い。

「破壊、騒乱、強奪、暴行、殺人未遂の現行犯だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまらの罪を言い渡す」

 闇のソワが、羅針盤役だ。ソワが暗黒神官長の手下に印をつけてくれたから、奴等の後を追える。
 一時は親指ほどまで小さくなったソワも、暗黒の大陸エグリゴーリに近づいたせいかだいぶ力を取り戻し、人型になれるようになった。

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 海の上でも、けっこうバトル。
 魔族やら海賊が襲って来る。姿隠しをしてもらってるんだが、襲われる。特殊な監視魔法があるのかもしれない。
 けど、まったく問題がない。
 魔族は、神聖騎士ジュリエットさんにアレな方が降りて来てアレな魔法で掃討してくれる。
 人間の海賊は、炎のティーナやビキニ戦士アナベラが蹴散らしてくれる。命までは奪わず、海に落として。

 勇者なオレは、ほとんどやる事がない。海賊が船まで乗り込んで来た時にはちょっとだけ加勢したが、その程度。
 勇者の剣の追加効果は、ハンパなくデカイ。人間を斬ったら、間違いなく殺してしまう。なので、オレは相手の武器を砕いて戦った。
 でも、どうもすっきりしない。
 追加効果が100万オーバーにならない。毎回84万ダメージ。
 今、伴侶は84人……それで84万ダメージっぽい。
 王宮で闇を斬った時には、景気よく158万とか160万とか追加ダメがついたのに。
 魔族相手だからか? 魔族にはダメージ二倍効果があるとか? でも、必ず二倍ダメってわけでもなかったし……
 むぅ。
……よくわかんない。


「お疲れ様です!」
 邪悪掃討を終えた『マッハな方』に対し、見習い神聖騎士バジルはタオルを差し出し、
「どうぞ!」
 折りたたみ椅子にどっかりと腰かけた『マッハな方』が右手をあげると、ササッとそこに紙巻タバコをはさむ。すっかり下僕が板についたな……
『マッハな方』は左の指をパチンと鳴らし、所作のみで炎の魔法を発動させる。
 ゆっくりスーッと吸いこみ、ふは〜と煙を吐く。外見は神聖騎士のおねえさんだけど、中身はオヤジくさいぞ。
「仕事の後の一服こそ、至福の時・・・」
『マッハな方』が美味そうに紫煙をくゆらせる。

『この女とは、相性があまりよくない。カス器との結合を高めねばならん』
 と、言って『マッハな方』はバジルに煙草を用意させ、喫煙を開始した。
 戦闘後に還らない時は、必ず吸う。起床、睡眠前、食後、仕事の後は吸わないと落ち着かないのだとかなんとか。
 ヘビースモーカーだったのか……魔界でよく我慢してたな……つーか、吸えないからよけい凶悪になって、魔族に当たり散らしてたのか?

 見習い騎士が、真面目な顔で尋ねる。
「お教えください。飲酒喫煙は神聖騎士団では、奨励されておりません。精神力の弱さの象徴にすら例えられます。使徒様は何ゆえ、お煙草を嗜まれるのですか?」

「俺は聖なる血を受け継ぎし神の使徒だ・・・」
 ジュリエットさんが、フッと笑う。
「十二の宇宙で常に戦い続ける俺だとて、時にはクールダウンが必要。煙のもたらす安息と肺にガツンとくる刺激・・・一服終えれば、新たな闘志がマッハで俺の内を駆け廻るのだ」
 んでもって、『ククク・・・』とお笑いになる……

「さすがは使徒様!」
 見習い騎士が『感動』の文字を背負い、『マッハな方』へと敬意を捧げる。
「使徒様をお手本に、私も精進します! さっそく今日から私も煙草を!」
 ぉい、ぉい。
「馬鹿者。表面だけなぞるなぞ、愚の骨頂。オリジナリティのない信仰心は、マッハで人を堕落させる」
「オリジナリティ……」
「きさまが用意した煙草は、俺専用だ。きさまは他の道を探せ」
「はい、使徒様!」

 リーズが『バカじぇねーの』と吐き捨てる。『タバコ一人占めしたくって、詭弁言ってるだけじゃん』と。
 オレもそう思う。
 けど、煙草を吸い出してから、ジュリエットさんに憑依しやすくなったのは本当らしい。連続して神聖魔法を使えるようになったし。マリーちゃんの体で使用する時に比べれば、かなり威力は弱いらしいが。





 そんなこんなでどうにか、オレ達はエグリゴーリ国に上陸した。
 ギリギリもギリギリ。暗黒神召喚の儀式が行われる当日に。
 夜になったら、生贄が捧げられてしまう。何時頃かはわかんないけど、ともかく夜。
 日が沈む前に、マリーちゃんとタイロン国王を取り戻さなきゃ。

 アウラさんに姿隠しをしてもらい、短距離の移動魔法連続使用で目的地を目指した。

 これが最後! と、ばかりに敵も襲いかかってくる。
 非常に戦いづらかった。
 闇はいいんだ。数こそ多いけど、『マッハな方』が神聖魔法で簡単に祓ってくれるから。
 けど……人間は……
 兵士や神官はわずかで、ほとんどが一般人。武器にしても、(もり)やらスキやらクワやら包丁……。そんな普通のオジサンやオバサンが、オレらに挑んでくるんだ。すごい必死な形相で。
 神官がいなくなると、風の結界に包まれたオレらがどこにいるかわからなくなるようだった。
 攻撃相手が見えなくなっても戦えとわめき、彼等はオレ達を探しまわった。
 自分の家族や国を守る為、防衛隊に志願して加わったのだろう。暗黒神降臨の礎になる覚悟を固めているんだ。

 オレらの方が悪人のような気すらした。

「けど、食料が不足したからって、よその国を攻めていいわけねーよな」
 オレの内心をみすかしたのか、リーズが独り言のように言う。
「望まぬ者を暗黒神の生贄にしていいわけもねえ」
 オレは景色を見つめていた。
 行けども行けども、岩と土ばかりのひび割れた大地が続く。
 植物は見あたらず、野生の動物や鳥の姿すらなく……
 何処もかしこも乾ききっていた。
 バジルへと、視線を動かした。
 神聖騎士見習いの兄ちゃんは……複雑な表情で景色を見ていた。オレの視線に気づき、バジルが真面目な顔で言った。
「我が国とエグリゴーリは、長く敵対関係にあります。何度となく大災厄を起こし、我が国から人間や物資を奪い、エグリゴーリは我が国を侮辱し続けたのです。許す事はできません」
 しかし……と、バジルが言葉を続ける。
「困窮にあえぐ人々を見捨てるのは、光の教えに反します。タイロン国王ならば、人道支援をお決めになるはずです。私も王家につらなる家系の貴族として、王道をご支持いたします」
 バジルは瞳を伏せた。
「むろん、何らかの戦争責任をとってもらわねばなりませんが。何の咎めもなしでは、我が国の民が納得しません。容易な道ではないでしょうが……タイロン様ならば、必ず……」

 全ては国王とマリーちゃんを助け出してから……だ。


 ソワの案内で、とあるハゲ山に登った。その頂上の岩造りの塔。そこに、あの暗黒神官長が居るのだそうだ。
《防御結界に覆われてるわねえ》と、アウラさん。周囲の風を通して塔を探ってくれたようだ。
《出入り口は一箇所。一階の扉だけね。移動魔法で中に侵入するのも無理》

 塔に近づくと、ビキニ戦士アナベラが「ああ、いるね、聖女さま」と軽い口調で言った。
「わかるの?」って聞いたら、「傭兵だからー」とか答える。
「アナベラはバカだから、足りない頭を勘で補ってるんだよ」と、リーズがひどい説明をする。
「バラバラになっても、こいつ、すぐオレと合流すんだよ。オレがどっちの方角にいるか、気配でだいたいわかるんだってさ」
「……超能力?」
「ううん、傭兵の勘ー」
 アナベラがニコニコ笑う。
「聖女様は……上の方。上階にいるっぽいー」

 夕暮れが迫っていた。
 もうあまり時間がない。

 目指す塔の入口には、女が居た。
「オホホホ。よくぞここまで参ったな、光の者ども。闇満ちる時に暗黒神の御前に参るとは、どこまでも愚かな奴等だ」
 いかにもボス級悪役ですよ〜ってな台詞。闇色のマントで体を包んだ女性が居る。黒髪を背に垂らし、顔にコウモリ形の仮面(マスク)をしている。いかにも怪しい。
『又、コウモリ形だな』と、リーズがポツッとつぶやく。モードは、強化魔法が無効となるコウモリの髪飾りをつけていた。あのマスクには警戒しなければ……
 そう思った時だった、女が右腕で宙を払い、マントをバサーとしたのは。
「私の名はメリザンド。光の者達よ、暗黒の偉大なる神に貴様等の命を捧げてやろう。覚悟するがいい」
 どっかで聞いたような台詞……

 ずっきゅん! と、何かがオレの胸につきささった。

 身にまとっているのは、黒革のビキニだ。首輪そっくりな首飾り、肘までの手袋、テカテカ黒光りするピンヒールブーツ。
 どっからどう見ても、モードそっくり。
 けど、お子様とは明らかに違う。
 たいへんボリュームのある胸、ウェストはくびれが物足りないけど、その分、お尻はむっちりで、そっから先は肉感的な太ももだ……
 超セクシー!
 今、飢饉なのに、素晴らしいプロポーションですね……
 目元は仮面のせいでよく見えないけど、真っ赤な唇も、白い肌もエッチな感じで……
 心臓がバクバクした……

「あの……」
 オレは、ゴクッとツバを飲み込んだ。
「もしかして……暗黒の女神官って、ソレが制服なんでしょうか?」
 だったら、わかるぞ! 信者達が命がけで信仰を貫くのも! たった今、オレも惑ったもん!

 後頭部に激痛。
『マッハな方』にグーパンチで殴られたらしい。

「仮面。マリーとタイロンは何処だ?」

 妖しい女がオホホホと笑う。
「この塔の上で、栄光の訪れを待っておるわ。取り戻したくば、昇るがいい」
 そのまま女は滑るように後退し、扉の中へと消えてゆく。

「待て!」
 後を追ってオレは中に入った。後からリーズ達も続いたんだが……

 音を立てて背後で扉が閉まり……

 辺りは真っ暗になった。

 何も見えない。
 水の精霊マーイさんに同化してもらってるのに、だ。まったく視界がきかない。感覚を共有できてないんだ……同化が解けているのだと気づいた。
 マーイさんだけじゃない、ティーナもアウラさんもソワも側に居ない。ひきはがされたのか?
 周囲に人の気配もない。
「アナベラ、リーズ、バジル」
 声は、闇の中に飲み込まれてゆくだけだ。

「オホホホ。結界師メリザンドの闇にようこそ……」
 どこからともなく、女の高笑いが聞こえた。

「間もなく偉大なる神が降臨なさる……邪魔はさせぬ」

「オレ達をどうする気だ?」
「我が闇の中で命を落とすもよし……生き延びるようなら、ついでの生贄にでもするか」
……ついで。
「美しきものを暗黒神様に捧げるのが我等の役目……だが、貴様等の中で合格なのはビキニと女神聖騎士だけだ。残りは、神に差し出すには恥ずかしいレベル……ん? 当然であろう? 貴様のようなツルペタ、暗黒神様がお喜びになるか」
 う。この会話、オレ以外にも聞こえてたのか。暗黒神官はリーズと話してるっぽい。リーズの声はまったく聞こえないけど、怒ってるだろう。十四歳だもん、ツルペタでもしょうがないじゃん……
「オホホホ。子供なぞ、暗黒神様のお目汚しにしかならぬ。もう少し乳と尻を育ててから来ればいいものを」

「けど、モードはお子様だったよな」
 オレがそう言うと、闇からの高笑いがやんだ。
「生贄はボンキュッボンじゃなきゃ駄目だけど、神官はツルペタでもいいのか?」

「モード……」

 闇の中から憎々しげに声がする。
「そのような者、もはや暗黒神官ではないわ」
「え? でも、」
「御使い様のお世話という大切なお役目に就いておきながら、光の国に捕まるとは……許せん。のこのこと戻って来たら、私が殺してやる」
「そんな」

 ヒュッと風を切る音がした。
 オレの頬に痛みが走る。
 よろけながら、どうにか後退した。
 シュッシュッと音がする。
 闇の中から鋭い刃が迫る。
 相手がどこにいるのかも、刃が何処にあるのかもわからない。よけるというより、運よく避けるに近い。
 オレは腰のキンキラ剣に手をかけた。

 相手の姿は見えないが、相手が踏みこんできたタイミングでこいつを振れば、運が良ければ当たる。魔族相手なら、残光すらダメージになるわけだし。

 けど……

 剣を抜いた瞬間、すごい音がした。頭の中を揺さぶるような、キンキン音。
 剣が鳴っているのだ。

 何かが迫ってくる。

 勇者の剣は剣身が通った後が、光の軌跡となって残る。剣を構えるまでに描いた光が、闇の中でキラキラと輝く。
 その光が、近づきつつある者を捉えた。

 オレは急いで剣を下段に下げた。
 刃が迫る。
 闇の中、気配を頼りにしかけているのか。

 よけきれない。
 とっさにオレは左腕をあげた。

 ガキン! と嫌な音が響き、火花が散った。
 オレの手首の腕輪に、鋭い刃の先端が当たったんだ。

「オレだ!」
 勇者の剣で宙を切り、光の軌跡を描いた。
 闇を照らす光が、襲撃者とオレの姿を浮き上がらせた。

 襲撃者は、ポカーンとした顔でオレを見た。
「そんな……あんただなんて……あの女の気配がしたから、オレ……」
「幻術で惑わされたんだろう」
 襲撃者はカーッと頬を染め、小剣を引いた。
「ごめん……」
「いや、いいよ。オレの方こそ、ごめん。剣が警告してくれなきゃ、リーズを斬ってた。大切な伴侶のリーズを」
 リーズの頬が更に赤くなる。
 キンキン音は消えていた。
 アシュリン様は言っていた。オレが伴侶の女性に誠実であれば相手も気持ちを返してくれ、その思いが剣の力となると。
 大切な伴侶に刃を向けようとしたから、剣が止めてくれたんだ。

「バカでスケベなお坊ちゃんだと思ったけど……やるじゃん、オレ様の素早い攻撃を腕輪で受けるなんてさ」
「偶然だよ」
「謙遜すんな。見直したって誉めてやってんだから」
「……ありがとう」
 話しながら、オレは素振りをしていた。光の軌跡はしばらく経つと消えちまう。光に照らされてる間は幻術にかからないっぽいんで、絶やすわけにはいかない。
「闇ん中でオレらを同士討ちさせようとか……あのババア、えげつねえ」
 リーズがチッと舌打ちをする。
「冗談抜きでさ……アナベラに襲われたら、オレらイチコロだぜ。あいつ、一瞬で距離つめて目にも止まらぬ早さで剣を振るうんだ」
 げ。
「闇を祓おうぜ。早くしないと、くたばっちまう」
「うん」
「アレ使え」
 アレか……
 精霊達はオレからひきはがされたし、緊急事態には精霊界に還れって言ってある……使ってもいっか。
 リーズが両耳をふさぐ。
 オレは光の封印を解く呪文を唱えた。

「窓を閉ざして」

 オレの左腕から……ルネさんの発明品『悪霊から守るくん 改・改』から、マリーちゃんの歌声が流れ始めた。
 超能力ジャマー並の凶器と言われる……耳にした者を天国へと誘う音楽だ。

 オレの周囲から、ザーッと闇が逃げてゆく。
 マリーちゃんの歌声に恐れをなして、逃げ出したんだ。

 古びた石造りの壁と上へ上へと続く螺旋階段が見えた。塔に入ってすぐの場所に、オレ達は居たようだ。
 上階に、マリーちゃんが居るはず。
 オレは螺旋階段を昇った。リーズも後に続いた……はずだったが……
 何時の間にやら、オレは一人になっていた。リーズは気が遠くなって、下の方でダウンしたんだろう。

 オレも、何度も意識が飛びかけている。
 素晴らしすぎる歌声のせいで、脂汗が流れ、体中から血の気が引いている。
 けど、上へ行かなきゃ……マリーちゃんを助けなきゃ……

 螺旋階段の上から、何かが落ちてくる。
 暗黒神官メリザンドだ。
 体を庇おうともしない。気を失っている?
 すごい勢いで壁に激突しそうだ!
 危ない!
 オレは、メリザンドへと走った。その体を受け止めようと。

瓏ナル(ディフ)幽冥ヨリ(ェンス・)疾ク奉(ガード)リシ麗虹鎧・バリア
 オレが受け止める寸前、光の守護魔法壁がメリザンドを包み込んだ。
「愚かにもほどがあるぞ、マリーの下僕。魔の手下と共に、落ちる気だったのか?」
 金の髪をたなびかせ、神聖騎士が階段の上から降りて来る。メリザンドと対戦してたのか?
『マッハな方』は、全てを見下す傲岸な顔。いつも通りだ。マリーちゃんの歌声を聞いてもダメージがないっぽい。

「あのまんまじゃ、メリザンドは死んでいた。助けるのは当然だろ」
『マッハな方』がチッと舌打ちをし、暗黒神官の体を螺旋階段の上に横たわらせた。
「闇の術師は、もはやふぬけ。闇は消えた。マリーの歌声を止めろ」

 呪文を唱えて光の結界を張り、『悪霊から守るくん 改・改』を沈黙させた。

「仮面。マリーとタイロンのもとへ案内しろ」
 メリザンドが頭だけをあげて、弱々しい声を漏らす。
「……行かせぬ……モードを捕え辱めた、貴様らを……決して……生かしておかぬ……」
「辱めてなんかいない」
 オレはメリザンドに言った。
「ひどい事はしないでくれって、神聖騎士達に頼んだ。御使い達は卵に戻すけど、浄化はしない。モードも迷い込んだ子供として保護するって、騎士達は約束してくれた」
「まことか……?」
「まことだよ。オレは勇者だ。子供にひどい事はしないし、させない。勇者道に反する」

「甘いな……子供とはいえ、敵であるのに……」
 メリザンドの顔から、コウモリの仮面がはらりと落ちる。
 切れ長の美しい瞳が見えた。涙が浮かんでいる……

「だが……暗黒神官としてではなく……母として礼を言う。貴様の甘さに感謝する」

 モードのお母さんだったのか……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十五〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


「逃げろ、勇者……もう間に合わぬ……」
 え?
「結界の中では、時の流れが違う……もう新月の夜だ……召喚の術は完成した」
 何だって!

「戦慄のお方がおいでになる……慈悲のかけらもない恐ろしいお方だ……逃げろ」

『マッハな方』が螺旋階段を駆け昇る。
 オレも後を追いかけた。

 螺旋階段を昇りきった先には、二つの部屋があった。
『マッハな方』は迷わず向かって右の扉を開けた。そこから邪悪な気を感じたのだろう。

 部屋にずら〜と並ぶ髑髏の形の燭台。黒で統一された、恐ろしげな内装。
 奥に魔法陣と祭壇がある。祭壇に転がされているのは、筋骨逞しい男性……だと、思う。
 けど、御使いの黒い糸に包まれているから顔すら見えない。で、その上に鎖をグルグル巻にかけられている……これだけやんないと安心できないって事か。
 タイロン国王に間違いなさそうだ。

 部屋を見渡したが、マリーちゃんの姿はない。

 祭壇の側の女が、振りかえる。
 結いあげて背に垂らした黒髪、狂気をふくんだ美しい顔……
 暗黒神官長シモーヌだ。

「召喚はなされた」
 口元に手をあて、女がオホホホと笑う。
「暗黒神様においでいただくまでもない。我が神につらなるもの……戦慄の地獄の王に、貴様等を屠っていただく」
 暗黒神ではなく、別の神を呼んだ?
 戦慄の地獄の王……?
 オレは勇者の剣を握りしめた。
「なにを召喚しようが、同じこと」
『マッハな方』憑きジュリエットさんが、決めポーズをとる。
「俺の内なる霊魂が、必ず邪悪を葬り去る」
「弱体化した貴様が、か? 無駄だ! 地獄の王は暗黒神に次いで強大! 貴様なぞ、ひねり潰されるであろう!」
 悪魔のような顔で、女が笑い続ける。

「戦慄の地獄の王は、身の毛がよだつほどに、恐ろしく、凄まじい方だ。あの方に捧げられたものは、死よりも辛い苦痛に沈む。貴様等は、自ら己の死を望むであろう!」

 女の側の空気が揺れ、召喚されたものが姿を見せる。
 風もないのに、風を感じた。
 凄まじい瘴気……
 そこにそれが存在するだけで、全てが暗黒に染まってゆくようだ。

「戦慄の地獄の王よ! 光の国の王タイロンとこの者らを捧げます! 異世界の勇者と神の代行者にございます! 滅殺ください! 暗黒神様に歯向(はむ)かうものどもに死を!」

《黙れ……》
 闇の気が濃くなり、召喚士がはじき飛ばされる。
 その者が存在しているせいで生まれる気……それに耐えきれなくなったのだろう。
 暗黒神官長は床に倒れながら尚も叫んだ、『勇者達に死を』と。

《これが、贄だと……?》
 ぞっとするほどに美しいそれが、冷たい眼差しでオレ達を見渡す。

 オレは息をのみ、地獄の王を見つめた。

 ありえない……そう思いながら。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№085)

名前     メリザンド
所属世界   裏冒険世界
種族     闇の鬼
職業     結界師
特徴     エグリゴーリ国の神官
       モードの母親で
       シモーヌとはたぶん姉妹。
戦闘方法   闇の結界。
年齢     モードが七つだから……
容姿     モードそっくりな服。
       コウモリの仮面(マスク)
       つけてる。胸とお尻は大きいけど、
       腰のくびれはいまいち。
口癖    『オホホホ』
好きなもの  暗黒神・娘
嫌いなもの  光の国
勇者に一言 『貴様の甘さに感謝する』
挿絵(By みてみん)
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