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ハーレム100 作者:松宮星

裏 冒険世界

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囚われの光を救え  【ジュリエット】(※)

 マリーちゃんがさらわれた、エグリゴーリ国の暗黒の神官に。

 チビッ子暗黒神官は言っていた。
『……ヒカリのソーリョ、アンコクのイダイなるカミさまに、キサマのイノチをササゲてやろう。カクゴするがいい』

 怒りで、目の前が真っ赤になりそうだった。
 ジパングでサラがさらわれた時も、お師匠様がニノンに刺された時も、オレは何もできなかった。
 大切な者を守れなくって、何が勇者だ。
 ものすごく自分に腹が立った。

 しかし……ぎゃーぎゃーわめいたってしょうがない。
 落ち着いて、やれる事をやらなきゃ。

 アウラさんの移動魔法で撤退。敵に見つからないよう、結界を張ってもらいながらオレは仲間達と顔をつきあわせた。
「で、どーすんの?」
 盗賊の問いには答えず、神聖騎士見習いバジルに尋ねた。エグリゴーリ国の奴は、生贄をどう扱うのか? と。
「夜空から月が消える夜に邪悪なるものを召喚し、生贄を差し出す……と、聞いています。『最高の暗黒神には最高の生贄を』がモットーらしく、その日、生贄は花嫁のように美しく飾られるのだそうです」
 てことは……
「その日まで、生贄は大切にされる?」
「はい。清いものを自ら穢す事に、邪悪は喜びを感じますから……新月までは聖女様の御身は無事かと思います」
「次の新月は?」
「三日後です」

 三日か……

「なら、マリーさん救出の前に、光の代行者のもとへ行こう」

「感謝します、勇者様」
 この世界の住人バジルが礼を言う。
 北西に神の代行者が居る……王宮で、マリーちゃんはそう感じた。
 神様ではないけれど、神様に近い存在らしい。
 タイロン国王……かもしれないんだ。ムキムキ国王は国のシンボル。でもって、強力な神聖拳闘士。タイロン国王が復活すれば、光の国は勢力を取り戻すだろう。
「明日には、光の代行者のもとへ行き着ける。捕まってるのかもしれないし……まずはその人に会う」

「何がなんでも、僧侶のねーちゃんを助けに行くかと思ったのに」
 意外って顔で、リーズがオレを見る。
「ちょっとは頭使うようになったじゃん」

「相手は、強化魔法無効のアイテム持ってるんだ。無策でつっこんでも、捕まるだけだ。今は光の代行者に会いに行って……可能なら協力を求める」

 さらわれる瞬間、マリーちゃんは()に戻っていた。『マッハな方』は何らかの術で、強制送還されたんじゃないかと思う。
『マッハな方』の庇護無しに、マリーちゃんは闇の中に居るんだ。

 胸が痛んだ。

 だが、三日後の夜まで大丈夫なのだ。そのまえに、光の代行者に会い、マリーちゃんを取り戻す。

「アウラさん、姿隠しの結界を張ったまんま、目的地へ急いでくれ」
《夜も移動しろっての? 危険よ。こっから先、かなり闇の気が濃いわ。急げば、それだけ見つかりやすくなるし》
「敵に囲まれてもいいよ。そん時は、『悪霊から守るくん 改・改』を使う。あれなら、邪悪はもちろん人間も精霊も撃退できる」
 アウラさんは『あたしたちまで殺す気?』と、ケラケラ笑った。
《使う前には警告してよ。精霊界に避難するわ》

「ソワ。さっきの奴等の居場所は探れるか?」
《うん。あの場所から移動してても、大丈夫、痕跡から辿れるよ》
「じゃ、頼む。けど、ヤバそうになったら、探索を打ちきって帰って来い」
《え?》
「何も情報をつかめなくても、粘る必要はない。危ないことはしないでくれ」
《なに言ってるの? 無茶してでも、マリーさんを早く助けなきゃ。幽霊になっちゃうよ》
 闇の精霊ソワが、涙でうるんだような瞳でオレを上目づかいに見る。
《あたし、精霊だから四散しても平気。復活できるもん。あたしのことより、今はマリーさんでしょ?》
「誰かの為に誰かを犠牲にするなんて、オレが嫌なんだよ。窮地に陥るまで頑張るなんて、バカだ。オレの為に、ちゃんと帰って来い」
《ジャン……》
《はいはい、ご主人様の命令には逆らわない》
 アウラさんが、ソワの肩をポンと叩いた。
《命令に従い、その中で成果をあげる。それが『しもべ』よ。命令に違反しないように、最高の働きをしなさい》
 ベテラン精霊を見つめ、それから闇の精霊は頷きを返し、夜の闇へと溶けていった。

 ティーナには、アナムと連絡を取ってもらった。
 マリーちゃんが誘拐された事を伝え、何かわかったら連絡し合う事にした。

 強化魔法を無効のアイテムも、発明品なら大丈夫な気がする。
『ルネ ぐれーとでらっくすⅡ』の中に役立ちそうなモノはないか、雷の精霊エクレールと共にオレも中身を改めた。





 結局、ソワが戻らぬまま夜は明け、オレらは目的地の森へと到着した。
 光の代行者がいるはずの森。
 バジル曰く、そこはもともと大型肉食モンスターが居るぶっそうな森らしいんだが……
 紫色で耳と鼻がでかいモンスターが、いっぱい居た。
 小山ほどあった暗黒神官達の騎乗獣にそっくりだ。でも、ものすごく小さい。ネコぐらいしかない。
「こんなモンスター、ここに居ないはずですが……」
 と、バジル。対モンスター訓練で、神聖騎士団は何度かここで特別訓練を積んでるのだそうだ。
 紫のモンスターたちは、我がもの顔で動き回っている。木の上から飛び降りてきたり、狩ったモンスターに群がって食事してたりする場面を目にすると、ゾゾッとした。
 アウラさんが風の力で姿隠し+消音+消臭をしてくれてるから見つかるわきゃないんだが、奴らが鼻をクンクン動かしながら近づいて来るとドキドキした。肉食獣に囲まれる恐怖って感じだ。進行方向を防ぐように、いっぱい居るし。

《困ったなーという時には、これ! 『わんにゃん 大集合くん』〜》
 エクレールが宝石箱サイズの機械を取りだす。
《肉食獣をひきつける甘〜い罠みたい。草食動物の鳴き声が流れて、血の匂いとか撒き散らすのー あと恋の季節のメスの獣の匂いもするんだってー》

 エクレールが《あっちに設置して来るねー》と姿を消してから間もなく、獣達は一変した。
 目を爛々と輝かせ、エクレールが向かった方向に突進し始めたのだ。

「げ」
「ひ!」
 リーズやバジルが声を漏らす。
 木の上から草むらから道なき道から、紫のモンスターが飛び出してくる。ひたすら一方向を目指すそれらは、さながら急流。
 紫の毛皮の流れに、オレらは飲みこまれてしまった。

「いやぁん、どーしたの、ミツカイさま! ゴハンはタベタでしょー!」
 聞き覚えのある声が近づいて来る。きゃーきゃー悲鳴をあげている。
 見えた。
 ちょいとまだ距離は開いているが……大型犬ほどの紫の獣に、あのチビッ子神官がまたがっている。
 黒革のビキニ、首輪そっくりな首飾り、肘までの手袋、黒のブーツ……色っぽい格好をした六才ぐらいの幼女。
 後頭部には、あの髪飾りをつけてそうだ。コウモリを模した髪飾りが、『マッハな方』やソワの結界を無効にしたんだ。

 いきなり突進を始めた騎乗獣を御そうとし、チビッ子は頑張っている。周りの獣たちも大人しくしようと声をかけていた。が、獣たちは言うことを聞かない。

 あいつに見つかったら、アウラさんの結界は解かれてしまう。肉食獣の群れの中で、オレ達は無防備になるんだ。
 オレは『勇者の剣』を抜き、奴の動きを目で追った。何ごともなく通り過ぎてくれと、思っていた。が……

 すれちがいざま、チビッ子神官の体はふわっと宙に浮いた。

 獣たちがものすごい勢いで、『わんにゃん 大集合くん』に殺到していく中……
 そいつらを御すべき神官は、獣達からひきはなされていた。

「えへへ。つ〜かまえたー♪」
 ビキニ戦士アナベラの腕の中に、チビッ子神官モードがいた。
 チビッ子は、きょとんとしていた。自分が今どうなってるのか、さっぱりわかんないんだろ。
 それはオレも一緒だ。アナベラが動いた、結界外に出たと思ったら戻ってて、暗黒神官をつかまえてるんだもん。きょとんとして、暗黒神官を見つめるだけだ。

「そば通ったから、つかまえちゃったー」
 こともなげに、アナベラが言う。
 ようやく事態がわかったのか、モードがジタバタ暴れ出す。
 けど、戦士アナベラがぎゅっと両腕でしめているんだ。上半身も腕もまったく動かない。下半身も足先がちょっと自由になるぐらいだ。
 そっか。動けなきゃ、髪飾りも使えない。
 あの髪飾りさえ封じれば、モードは怖くない。アウラさんの結界内にいる限り、声は外に漏れない。モンスターに指示も出せない。

 しかし……
 猛突進していた獣の波をかいくぐって、一瞬でモードを捕まえて戻って来たのか?
「だから、前、言ったじゃん」
 盗賊リーズが、へへんと鼻の下をこする。
「アナベラはバカだけど、ハンパなくすごいって。刹那のスリ技を見切って、神速のオレ様を捕まえたぐらいなんだから」
 リーズは、何故か得意そうだった。

「あたしを……どうするつもり?」
 チビッ子が目に涙をためながら、オレを睨みつけてくる。

「オレの仲間……尼僧のマリーさんは何処にいる?」
「オホホホ。ワタクシは、アンコクシンカンのモード。このワタクシが口をわるとオモッて?……きゃん!」
 悪役に徹し切ろうとするお子様は、ビキニ戦士にぎゅむぎゅむされた。
「ひぃぃん! いだだだっ!」
「いたくないよー やさ〜しくぎゅっしてるだけー」
「いたいもん!」
 あ〜あ、本格的に泣きそう。かわいそう……そんな小さな子を……

「そうか。そんなんで、痛いのか……お子様だな」
 オレをおしのけ、リーズがモードの顔をのぞきこみ嘲笑う。
「泣け、チビ。ママ〜 助けて〜 と泣き叫べ」
「いたくないもん! へっちゃらだもん!」
「へー、そーなんだ」
「あたし、アンコクシンカンだもん。まけないもん」
 リーズがニヤッと笑う。
「だってさ、アナベラ。もっと力をいれていいって」
「え? そんな! まって! ひゃん! いったーい!」
「もっとギュッギュッしろ、骨がボキボキになるまでさ。暗黒神官なんざ、ぺちゃんこにしちゃえ」

「ひゃぁぁん! 言う! なんでも言う! ぺっちゃんこやめて!」

 リーズは後は任せたって感じに、オレの肩を叩いた。
 えっと……
 ありがとう……

「マリーさんは、何処だ?」
「……おばちゃんのとこ」
「そのおばちゃんは何処に?」
「……しらない」
「知らない?」
「あたし、おルスバンだもん……ここで、おばちゃん、まってるの……ミツカイさまたちと」
 えっぐえっぐ泣きながら、おチビが答える。あ〜あ、鼻まで垂らしちゃって……
 ハンカチで拭いたげたら、リーズに睨まれた。
 むぅ。
 もういいだろ、話し始めてくれたんだから。

「おばちゃんって誰?」
「シモーヌおばちゃん」
「このまえ一緒に居た人か? ちょっとこわい感じの綺麗な人?」
「おばちゃん、アンコクシンカンチョウなの」
 暗黒神官長……
「偉いんだ」
「うん。シンデンでいっちばんエライんだー あたし、メイで、すっごくユーシューだから、シンデンのナンバー8なんだー」
「八番目に偉いの?」
「うん!」
「すごいねえ、そんなにちっちゃいのに」
「ちっちゃくないよ、もうすぐ七つだもん」
 えっへんとお子様が、得意そうに言う。
「……どーせ、神殿にゃ八人しか居ないんだろ」と、リーズがぼそっとつぶやく。
「ぐ!」
 幼女がぷるぷる震え、また目に涙をためる。
 図星か。
 つーか、泣かすなよ、リーズ。こんなちっちゃい子を。オレは涙をふいて、鼻もかんでやった。
 幼児がリーズにベーと舌を出す。リーズもベーと舌を出し返す。また泣きそうになった子を撫で撫でしてあげた。

「あたし、エライんだもん。ミツカイさまのオセワヤクだもん」
 む?……御使いのお世話役かな?
「御使いって、あの紫の獣?」
「うん。ヒャクイッピキいるの」
「百一匹も? 全部をキミが世話してるの?」
「うん。あたし、モンスター使いなんだー」
「へー 偉いなあ」
「ここなら、ゴハンがいっぱいあるから、オセワもらくー ミツカイさま、おいしい、おいしいってヨロコんでるんだー ゴハンたべるの、すっごくひさしぶりだからー」
「久しぶりの食事なの?」
「うん。キキンだから」
 キキン……?
「うんとね、お水がないの。ハタケも森もかれちゃってね、ずーっとゴハンが足りないの。おニクもないの」
 飢饉か!
 オレは神聖騎士見習いのバジルを見た。バジルはかぶりを振った、暗黒の国が飢饉だという情報はつかんではいなかったと。
《嘘は言っていません》と、オレと同化している水の精霊が教えてくれる。
《この子供の記憶には、枯れた大地とやせ衰えた生き物達の姿があるだけです。ものごころついてからずっと、その光景しか見ていないようです》

 暗黒の国エグリゴーリは飢饉……
 だから、光の国を襲ったのか……

「ミツカイさまもね、おなかすきすぎてねてたの。でも、ここにきたから、みんな、おきたんだ♪ いっぱいたべて、山みたいにおっきくなれた子もいるし。ここにこられてよかったー」
 モードが無邪気に言う。
 けど……キミの国は光の国を侵略してるんだよ。よその国を不幸にしているんだ。
「もうすぐね、エグリゴーリは大いなるヤミにみたされるの。いいイケニエが手にはいったもん。タイロンとマッハ。あいつらささげれば、おおよろこびでおめぐみをくださるってー おばちゃんがそう言ってたー」

 タイロン国王とマリーちゃんを、暗黒神への生贄にする気なのか……

「ここに、光の神の代行者がいるだろう?」
「ヒカリのカミのダイコーシャ?」
 モードがきょとんと首をかしげる。
「この国の者を閉じ込めてるだろう?」
「うん。シンセーキシダンがいる」

「神聖騎士団!」
 神聖騎士見習いが身を乗り出す。
「どなたがいらっしゃるんです?」
「つかまえたのぜんぶ。んっとね、五十人くらい? ミツカイさまのマユでねかせてるのー つぎのイケニエこうほとヨビのゴハンだから、あたし、ちゃーんとカンリしてるんだー」

 御使い達が周囲から居なくなったのをみはからって、移動した。

 アナベラにギュっされたまま、モードがオレらを森の奥に案内した。

「な?」
 目を見張った。

 太い幹の巨木がある。そこの大きな枝々から、真っ黒なミノ虫もどき垂れている。
 オレとほぼ同じくらいの大きさ……人間だ。大木に、人間が吊るされている……
 ゆらゆらと揺れる彼等は、全身が真っ黒。頭のてっぺんからつま先まで、真っ黒な糸に包まれている。顔までも、すっぽり糸の下だ。目も鼻も口も出ていない。

「……生きているのか?」
 オレの問いに、モードはあっけらかんと答える。
「いきてるよー ミツカイさま、こーやってヨビのゴハンとっておくのー ゴハンたち、ねてるんだ。このまんま、一年ぐらいプリンプリンだよー」

「コチコチ」
 ぶらさがっている人間を触って、アナベラが言う。
「糸っていうより、固い石みたいだよ、この黒いの」
《呪いの一種っぽいわね》と、アウラさん。

「どうやったら、糸を外せるんだ? あの紫の獣なら解けるのか?」
「ううん。ミツカイさまは、糸をハくだけ。とかないよ。ヨビのゴハンはそのまんまパックンしちゃう」
 なんだってー!
「じゃ、解く方法は無いのか?」

 モードは話したくなさそうだったが、アナベラにギュッされて素直になった。

「あたしのカミカザリ……ママがセンリツのジゴクのオウサマからいただいたモノなんだけど……それツカえば糸はキエルよ」
 センリツのジゴクのオウサマ?
「暗黒神から貰ったのか?」
「ちがうよー センリツのジゴクのオウサマからだよー」
 む?
 エグリゴーリの王様のことか?
 ま、いいや。

 強化魔法無効の髪飾りだったよな、それ。
「どうやって使うんだ?」
「コウモリさんのリョウメをおして、おナカをむければいいの」

 オレはモードの頭から髪飾りを注意深く外し、ミノ虫もどき一体に向け言われた通りにやってみた。

 髪飾りから、キーンと耳をつんざく嫌な音が響く。

 その人から、はらはらと黒い糸が落ち始めた。

 美しい女性だった。

 白銀の鎧をまとった、神聖騎士らしい姿。
 それでいて、髪は女性らしく長い。軽いウェーブを描く金の髪が、背の半ばにまで垂れている。
 そして、その顔はほっそりとしている。武人らしい武骨さなどまったくない。
 女性がゆっくりと瞼を開く。
 泉のごとく澄んだ青い瞳。優しい眉、愛らしい頬。やわらかそうな魅惑的な唇……

「ジュリエット先輩!」
 バジルの声が聞こえた。よかった、ご無事だったのですね、と。

 ジュリエットちゃんって言うのか……

 ジュリエットちゃんがオレを見つめ……
 微笑んだ。
 天使のような笑みだった。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十六〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 天使のような笑み……と、思ったのだ。その時は。

 木に繋がっていた糸も消え、神聖騎士の女性の体が枝から落ちる。
「先輩、危ない!」
 その体をバジルは支えようとしたんだが……大地に転がるはめとなった。蹴飛ばされたんだ。
「邪悪あるところに光あり・・・」
 倒れたバジルを片足で踏んづけながら、その女性は高笑いを始めた。
「光の中に生まれ、光を広める。それが俺の定めなのだ」
 その全身が神々しく輝いている。

「誘拐、監禁、睡眠の強制、殺人未遂の現行犯だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまのペットの罪を言い渡す」
 神聖騎士が、びしっ! とモードを指さして決めポーズをとる。

 おお! あなたは!

 全身からまばゆい光を発する神聖騎士が、親指をビシッと突き立てる。
 そんでもって、ククク・・・と笑いながら、手首をゆっくりひねって親指を下に向ける。
「有罪! 浄霊する!」

「その死をもって、きさまらの罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 神聖騎士の体から光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化してゆく。
「ククク・・・あばよ」
 神聖騎士が呟くと同時に、浄化魔法は爆発的に周囲に広がっていった。



「なんたることだ・・・この俺が・・・」
 がっくりと膝をつく『マッハな方』。体に力が入らないようだ。脇から支えようとしたバジルを殴り飛ばす元気はあるけれど。
『マッハな方』の神聖魔法は、黒のミノ虫だった囚われの神聖騎士達全員を解放し、モードの髪飾りをぶっ壊した。
 だが、しかし……この森にいる百一匹の御使いを浄化できなかった。付近に居た数匹を倒しただけ……それも浄化ではなく卵に返しただけ。

「ヤチヨかせめてタイロン級でなくば、強大な俺を受け入れきれぬか・・・」
『マッハな方』憑きの神聖騎士さんが、キッ! とオレを睨む。
「この女を連れて行け・・・コレならば、かろうじて、ようやく、どうにか俺の輝きを受け入れられる・・・マリーかタイロンを取り戻すまでは、これで我慢する・・・」
 そのまま神聖騎士は、大地にがくっと倒れた。憑依体の肉体に限界がきたのだろう。『勇者の書』にもあったけど、別の魂をやすやすと受け入れられる超一流の器ってのは滅多にいないらしい。

 神聖騎士達は、ぼんやりと大地に座っていた。しばらく魔法で眠らされていたせいだろう。けど、みんな外傷はない。見習い神聖騎士バジルは、誰々先輩と声をかけては嬉し涙を流していた。

《ジャン》
 耳の側で、小さな小さな声がした。
 周囲を見渡した。が、誰もそばに居ない。

《見つけたよ。あのね、あの怖い顔の神官、船に乗ったの。マリーさんと大きな男の人を連れてた。二人とも、真っ黒な糸でぐるぐる巻きにされてた》
 ソワの声だ。
《取り返そうと思ったんだけど……ごめんね……変な術がかかってて……》
 オレはソワの姿を求めた。けど、髪も肌も服も黒い少女の姿が見当たらない。
《でもね、あの女の部下に印をつけたから後を追えるよ。あの女、闇の鬼だけど、遠くの闇までは一気に跳べないみたい。船を使ったもの。追いつけるよ。助けに行こう。マリーさんを死なせたくない。マリーさんまで幽霊にしちゃったら、かわいそう。幽霊はさびしいもの……》

 ソワは宙に居た。
 オレの親指くらいの大きさになって……
 人型がとれないほど弱体化しているんだ。

 無茶するなって言ったのに……

《ちゃんと命令は守ったよ。四散しなかったもん》

 オレは、小さくなってしまったソワを掌に包みこんだ。
 これからは……存在基盤が揺らぐほどの大怪我も禁止だ、怪我するような無茶も禁止だ、と叱りながら。


 魔王が目覚めるのは十七日後だ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№084)

名前     ジュリエット
所属世界   裏冒険世界
種族     人間
職業     神聖騎士
特徴    『マッハな方』を降ろす事ができる
       誇り高き神聖騎士。
       見習い騎士バジルによると、
       高潔で後輩思いの女騎士らしい。
戦闘方法   剣・槍・弓・神聖魔法
年齢     不明
容姿     金のウェーブのかかった髪、
       ほっそりとした美人。
       武人と思えないほど華奢なのに
       白銀の鎧をまとって武装してる。
口癖     不明
好きなもの  平和
嫌いなもの  邪悪
勇者に一言  本人とはまだしゃべってない
挿絵(By みてみん)
+注意+
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