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ハーレム100 作者:松宮星

裏 冒険世界

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闇より来たりしもの 【モード】(※※)

 オレの旅は、ものすごく順調だ。

儚キ夢幻(ミラージュ・)ヨリ舞イ堕リシ(レクイエム・)天獄陣(ジェイル)!」

 結界に包まれた状態で、アウラさんの移動魔法で風から風に渡る。移動は楽ちん。座ったまんま運んでもらえる上、歩くよりずっと速い。

「破壊、騒乱、放火、暴行、殺人未遂の現行犯だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまらの罪を言い渡す」

 光の代行者の現在位置も、ほぼ確定できている。地図からして、北西の森の中。まったく動かないから、立て篭もってるか、捕まってるかだろう。明日にはそこに着くと、アウラさんは言っている。

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」

 道中には、魔族がわんさかいる。
 ちょっと進むと、オレらが襲われたり、襲撃されている人達に出くわしたりする。
 けど、まったく問題がない。
 マリーちゃんにアレな方が降りて来て、アレな魔法で掃討してくれるから。
 勇者なオレは、やる事がない。
 リーズはあくびしてるし、アナベラはニコニコ笑ってる。
 出しっぱにしてる精霊達も、暇そうだ。

「神々しい……」
 見習い神聖騎士バジルが、ぽわ〜んと頬を染める。
 バジルは王妃様がつけてくれた護衛、つーか案内人のにーちゃん。剣を佩き、鎧を着ている。まだ正式な騎士叙勲は受けてないものの、信仰心に厚く、神秘の力もちょびっと使えるのだそうだ。
 土地勘もなけりゃお国事情も知らないオレらにとっちゃ、有り難い存在なんだが……
「どうぞ!」
 戦闘終了の度に、汗ふきタオルやドリンクを差し出し、折りたたみ椅子を用意し、マッサージを申し出る尽くしっぷり。
 アンジェリーヌ姫のいとこ。王家の血を引くお貴族様のはずなんだが、喜んで小間使い役に徹している。
 バジルにゃ、『マッハな方』は眩しすぎて神そのものに、憑依体のマリーちゃんは生き神様に見えるらしい。

挿絵(By みてみん)

 バジルには目もくれず、『マッハな方』が折りたたみ椅子にどっかりと腰かける。
 あの……
 尼僧姿で大股開きで座るのは、やめた方が……

 ご休憩中の『マッハの方』ごとオレらを結界に包み、アウラさんは移動を再開した。

「・・・きりがない。祓っても祓っても、クズどもがわいてくる」
 還らなかったって事は、魔が祓いきれてないって事。大技を使った後も還らずにそのまんま残ってる事が多い。今日は、これで四度目だ。
 光の代行者の居場所に近づいて来たから、敵の数も増えたんだろうか。
「ククク・・・光の使徒たるこの俺様の道を塞ぐとは、まったくもって、ただひたすら、どこまでも憐れな奴等だ」
 ふぅと大きく息を吐いてから、立てた右の人差し指と中指の間を口に近づける。そうしてから、チッと舌うち。『マッハな方』が、たまにやっている癖だ。

「どうぞ!」
『マッハな方』の下僕バジルが跪き、箱を掌にのせて頭より高く差し出した。
「お癖よりお察ししました! 使徒様がお助けになった領主より、わけてもらったものです! お口の寂しさを紛らせください!」
 蓋の開いた箱の中には、ずら〜と葉巻が並んでいた。
 煙草……? 吸うの?

『マッハな方』は眉をひどくしかめ、凶悪そうな顔を更に凶悪にして、葉巻入りの箱ごとバジルを蹴っ飛ばした。
「無能者! 俺は紙巻派だ!」
 あ、やっぱ、吸うんだ。
「はっきり言う。この体では吸わん。マリーの肺を汚せるか。マリーを苦しませるなど、二度と金輪際もう決して絶対にせん」
 ん?

 再びイスにどっかりと腰かけ、イライラと貧乏ゆすりを始める。
「っく・・・モクの誘惑が、マッハで俺の乾きをうずかせる」
 無意識にだろう、『マッハな方』の左手が動いている。ゆっくりと左の掌を結び、それからゆっくりと開く。それだけを繰り返す。
 あれ? その癖……

「どうぞ!」
『マッハな方』の下僕バジルが跪き、クルミを掌にのせて頭より高く差し出した。
「お癖よりお察ししました! 使徒様がお助けになった商人より、わけてもらったものです! 握力をお鍛えください!」

『マッハな方』は眉をひどくしかめ、凶悪そうな顔を更に凶悪にして、クルミごとバジルを蹴っ飛ばした。
「うっとーしい! きさま、もう何もするな!」
 でもって、見習い騎士をゲシゲシと踏んづける。人間相手にも容赦ないなあ。
 けど……
 そうか、握力鍛錬をしてたのか。
 マリーちゃんの癖とそっくりと思ったが、マリーちゃんは右手でやってる。
 偶然の一致か。

『マッハな方』が居る間に、どうにか会話しようと頑張っている。
 聞きたい事はいっぱいあるんだ。
 何処の世界の人間なのか、何で奇跡代行アルバイターをしているのか、会う方法はあるのか等々。しかし、
「きさまに答える義務は、ない」
 と、スパーンと会話を打ち切られてしまう。どこかの世界の神様の庇護を受ける身だから、その神様の望まない事は口にできないのだろう。

 だからか、話してくれるのは、自分やマリーちゃんと関わりが無い話ばかりだ。

「この国の王妃は『大災厄』の時に魔族は活性化する、とマリーに言ったようだが、綺麗さっぱり、まったく、完璧に勘違いだ」
「そうなんですか?」
 聖女様が偉そうに頷く。
「対戦したのだ。きさまとて、わかるだろう? 奴等の防御力は紙なみ。ヘボヘボのショボショボのザコザコのやられキャラだ」
 でした。
 100万以上のダメージだせたもんな、このオレが。
「数こそ多いが、一体一体の瘴気は薄い。弱体化している」
「え?」

「それはありません」
 見習い騎士バジルが強く言ってから、慌てて口を閉ざした。神同然の『マッハな方』に逆らった事を悔いるかのように。
「意見があるなら言え、下僕」
「あ、いえ……私は後方担当でしたから、直接は見ておりませんが……国王陛下と神聖騎士の先輩方が守りの陣を張られたのです……決して破れる事の無い守り……それが破られたのです。魔族が活性化したのでなければ、ありえません」

「魔族が強力になったのではない。弱体化した魔族に抗えぬほど、きさまらが弱くなっただけだ」
 フンと荒い息を吐きながら、『マッハな方』が言葉を続ける。
「この地の神は、現在、天界ツアーに参加中だ。絶景露天風呂と大満足ご当地グルメ食べ放題が売り。最終日は七日後。あと七日は還ってこない」

 は?

……はい?

 今は神様が居ないって、マリーちゃんから聞いてたけど……そんな理由???

「たいへん旅行好きなお方で、しょっちゅう何処かにお出かけになる。ご不在時に、ここでバイトするのは五度目だ」

 信奉者の国がひどい事になってるんだぞ!
 旅行中だろうが、還って来いよ!
 何つー、いい加減な神!

「魔族は弱体化している。しかし、それ以上にきさまらは弱体化したのだ。神がご不在の為、神聖魔法の威力が見るも無残なレベルにまで落ちているのだ」

「神様がご不在……」
 見習い騎士バジルが、茫然とつぶやく。
「神聖魔法は神様の御力を人間がお借りするもの……神が居られねば威力が落ちるのは当然ですが……」
 見習い騎士が、真面目な顔で尋ねた。
「お教えください! 使徒様は異世界の神様をご信仰なさっておられるのでしょう? なぜ、この世界でも光り輝いておられるのです?」

「俺は聖なる血を受け継ぎし神の使徒だ・・・」
 マリーちゃんが、フッと笑う。
「十二の宇宙と常に共にある。内なる俺の霊魂が揺るぎない光となり、魔界ですら俺の輝きを止められぬ」
 はあ。
「邪悪を粛清することこそが、俺の存在理由・・・邪悪によって滅びる世界など、二度と金輪際もう決して絶対にあってはならぬのだ。俺は全ての邪悪を滅ぼすまで、戦い続ける」
 んでもって、『ククク・・・』とお笑いになる……
 いや、その、あの……
 何といいますか……

「さすがは使徒様!」
 見習い騎士が『感動』の文字を背負い、『マッハな方』へと敬意を捧げる。
「使徒様をお手本に、私も精進します! 早く十二の宇宙を持てるように!」
「いきなり十二は無理だ。一つから始めろ」
「はい、使徒様!」

 盛り上がってるのは、バジルだけだ。
 リーズなんか、『マッハな方』を見ようともしない。見たら目が汚れるとでも言いたそうに。
 気持ちはわかる。でも、まあ、こういう方だから……


 その後、三回魔族退治をし、それでようやく『マッハな方』はお還りになられた。


 クークー寝息を漏らすマリーちゃんを、ウォーターベット化したマーイさんに運んでもらう。
 魔界から還った後、マリーちゃんは倒れ、その後しばらく寝込んだ。魔界で『マッハな方』を降ろしっぱなしだったせいだ。
『勇者の書』にも書かれているけど、神降ろしってのは半端なく疲れるらしい。むろん、降りて来るものとの相性や器となる人間の体質にもよるが……ひんぱんに降ろさない方がいい。
 しかし、マリーちゃんが邪悪の存在を感じるとあのお方は有無を言わさず降って来て、邪悪を駆逐しきるまで絶対に還らないんだ。
 マリーちゃんが倒れないといいんだが……。





 日が陰りかけたところで、結界担当は闇の精霊ソワに代わった。
 ベテラン精霊のアウラさんは、周囲を索敵しつつ、姿隠しの結界を張り、移動魔法までこなしてしまう。
 けれども、ソワは結界を張るだけでいっぱいいっぱいだ。光の信奉者であるオレらを魔族から守らなきゃと、必死になっている。
《索敵はエクレールがやって。ティーナはいつでも攻撃できるよう待機。ソワ、落ち着いて。ちょっとづつでいいから、闇から闇へ跳んでみましょう。跳ぶ前に、移動先の闇をよく見るのよ》
 アウラさんは指示しつつ、仲間を教育している。
 精霊達を仲間にしてすぐの頃は、オレはめちゃくちゃな指示ばかり出していた。なんもかんも自分で指示しなきゃいけないと思い込んでいたからだ。
 けど、途中から方針を切り替えた。精霊達に自主的に何ができるか考えさせ、オレや仲間の安全を守る為なら命令なしに動いて良いと権利も与えた。
 その上で、風・氷・光の精霊をリーダーとした。三体はしもべ経験が豊富なんで、どんな時にどんな精霊が動けば効果的かよくわかっている。彼女等に仲間の教育も任せてから、万事うまくいっている。

 アウラさん達のおかげで、新人しもべだったティーナ達はとても成長した。
 オレがチュド~ンしちゃっても、大丈夫だ。次の主人の下で、大活躍だろう。

《そんなこと思わないでください……》
 マリーちゃんの眠っているウォーターベッドから思念が伝わってくる。
《一緒に生きてくださるのでしょ? 水界で約束してくださったではありませんか……私のご主人様は、あなただけ。あなたしかいない……》
 携帯食を食べているリーズとアナベラ、二人と会話している騎士見習いバジル。誰もオレらに注意を払っていない。
 マーイさんは、オレの心だけに話しかけてるんだ。
《何があろうとも必ずお守りします。決して死なせません》
 ありがたい言葉だ。
 究極魔法のことは、仲間には秘密にしている。が、人間の心が読める精霊には隠しようがない。
 八体の精霊は、オレが魔王戦でチュド~ンするかもしれないと知っている。しかし、オレが内緒にしたがってるんで、セリア達には話さないし、オレとの会話でも話題にあげない。気を配ってくれている。
 究極魔法は使いたくない。使わずにすむよう、仲間探しを頑張っている。
 けど、もしもの時は考えておかないと。お師匠様に手紙を残して置きたいし、ジョゼやサラの為にも何かしておきたい。セリア達にも……。それに、精霊支配者のオレが死んだら、精霊達は精霊界に強制送還だ。みんなの今後の身の振りは、気になってたんだ。
 ふと思いついた。
 オレが死んだら、マーイさんはサラの精霊になればいいんじゃないか?
 サラは炎の申し子みたいな奴だから、水魔法はさっぱりだ。マーイさんがしもべになってくれれば、大助かりだろう。
 マーイさんも、水界に還らないで済むし。千二百年も外に出られなくって、あそこは飽きちゃったんでしょ?

《いいえ》
 マーイさんが強い口調で否定する。
《私のご主人様は、あなただけです。あなたが死んだら、私も死にます》
 へ?
《水界で存在を消去し、個を捨てます。マーイは死にます》
 なにを、言ってるの?
 オレ、人間だよ。魔王戦で生き残ったって、たかがしれている。賢者やってる間は不老不死だけど、やめたら百年ももたないよ。
 マーイさんは恒常不変の精霊。千年も万年も生きられるじゃないか。
《あなたの居ない世界で生きても意味がありません……》
 ウォーターベッドがぷるんと揺れる。
《ご主人様の心は、私の未来を案じる思いでいっぱいになっていますね……ご自分はもうすぐお亡くなりになるかもしれないのに》
 いや、だって……死ぬなんて言われたら、心配だよ。マーイさんは大切な仲間だし。
《でしたら、決して死なないでください。ご主人様が生きていらっしゃる限り、私は常にお側に居ます。ご主人様の護衛ですから……》

 それっきり、マーイさんは黙ってしまった。

 オレが死んだら、自殺するつもりなのか……?
 やめてほしい。
 いざとなったら究極魔法を使う覚悟はできている。けど、そのせいで誰かが死ぬ事になるなんて、絶対、嫌だ。
 マーイさんは、精霊の仲間達と楽しくやってるんだと思ってた。もう孤独じゃないんだと、そう思い込んでいた。

 オレ、ちゃんとマーイさんの事を見てなかったんだな。

 どうしたら、マーイさんの孤独を癒せるんだろう?

 悩んでいたら、マリーちゃんがガバッと起き上った。
 又、降りて来ちゃったんですか……マリーちゃんをもう少し休ませてあげた方が。
 と、思ったんだが……
瓏ナル(ディフ)幽冥ヨリ(ェンス・)疾ク奉(ガード)リシ麗虹鎧・バリア
『マッハな方』が使用したのは、光の守護魔法だった。

 闇の結界の外側に、パーティ全体を包み込む形で光の防御壁が張られる。

 ぎぎぎんと、何かがきしんだ。
 光の守護結界が、闇をはねのけてゆく。

《敵襲?》
 索敵担当のエクレールが、驚いている。
《嘘ぉ。魔族も人間も、近くにいなかったのにー》

「闇に生き、闇に溶け込み、闇から闇へ移りゆく・・・この世界の暗黒神官は、闇の精霊の末裔・・・闇の鬼だ」

 なに?

「闇の精霊。きさまならば、わかるはずだ。親しくもあり親しくもなき闇。それが敵だ。己が支配できぬ闇は敵と思え」
《親しくない闇……》
 ソワが『マッハな方』の言葉を噛みしめる。

 周囲は真っ暗だ。
 何も見えない。
 日が陰り夜になったのだとしても、暗すぎる。
 ねっとりと濃い闇が、辺りに満ちている。

『マッハな方』が、チッと舌打ちをする。
「・・・きさまでは役不足だ。帰れ」

「オホホホ。このワタクシにオクしたのですね」
 闇の中から声。

 む?
 誰と話してるんだ。

 マーイさんに同化してもらい、目を借りる。

 闇の中に……
 デカいものが居た。
 小山とみまごうほど大きな生き物。耳がデカくて、鼻が長い。象に似ているが、紫色のおどろおどろしいバケモノ。

 これが……暗黒神官?

《違います。それは騎乗獣。神官は背に》と、マーイさん。
 そういや、こいつ、見た事がある。
 王宮で『マッハな方』と対決してた奴じゃん。あの時は、こいつに黒衣の女性が乗っていたが……

「ワタクシは、モード」

 視線をあげ、オレは硬直してしまった。

 暗黒神官……?

 いや、確かに黒衣の女性だけど……
 このまえの人とは違う……よね?

「……ヒカリのソーリョ、アンコクのイダイなるカミさまに、キサマのイノチをササゲてやろう。カクゴするがいい」

 ずっきゅん! と、何かがオレの胸につきささった。

 やばい! 萌えそう!

 難しい台詞をがんばって暗記したんだもん! ってな棒読み台詞がかわいい!
 セクシー路線に憧れてるんだもん! ってな衣装がかわいい!
 身にまとっているのは、黒革のビキニだ。後頭部にコウモリを模した髪飾り、首輪そっくりな首飾り、肘までの手袋、ブーツも全てテカテカ黒光りする革。どれもこれも色っぽいデザイン。
 だが、しかし……
 胸よりおなかのが大きい。ぷるんとしたおなかに対し、胸はブラいらずのぺったんこ。頭は大きく、ほっぺはふっくら、おめめは大きくて愛らしくって……
 どう見ても幼女。
 六才ぐらい? もうちょっと上? けど、そんなもん。

 ちっちゃな子がセクシーな黒革下着を着て、悪ぶったセリフを言うって……反則なぐらい、かわいいんですけど!

「オホホホ。キョウがキサマの……」
 高笑いをした後、そこまで言いかけ、女の子は喉をつまらせる。
「えっと……キョウがキサマの……メイ? えっと〜 う〜んと……」
 もじもじと体を動かし、女の子が首をかしげる。
「キサマの……あの……」

『マッハな方』が両腕を組み、神官に対し顎をしゃくってみせる。
「帰れ」

「ああ〜ん! まって、ちょっとまって! えっとね、オホホで、キョウがキサマので……えっと、えっと……メイ……?」
 がんばれ!
 あともうちょい! 命日じゃない?
「メイニ? じゃない、メイデ? ……メイロ? そっか、メイロだ! メイロだよね?」
 小首をかしげて聞く幼児に対し、『マッハな方』はフンと荒い鼻息で応える。
「『今日がきさまの迷路』? 意味がわからんぞ、ちびガキ」
「う」
「歯を磨いて寝ろ」
 女の子は顔をくしゃくしゃにして、大口をあける。ふぃ〜んと、べそをかき始める

 あ〜あ、泣かしちゃった。

 かわいそうに……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十七〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あ。

 ああああ……
 やっちゃった!

 同情で鐘を鳴らさないでよ、神様!

「もういいもん!」
 ピーピー泣きながら、女の子が髪に手をかける。
「ユイショただしいアクのナノリなんかしないもん!」

 女の子がリボン代わりにしていたコウモリの髪飾りを外した瞬間……

 キーンと耳をつんざく音がして……

「な?」
 闇が、雪崩のように襲い来る。
 敵を阻むものが無い。
『マッハな方』の聖なる防御壁も、ソワの結界も全て消えている。

 強化魔法を消された?

 ティーナが炎そのものになって、周囲の敵を祓う。オレを飲みこもうとする闇を全て焼きつくそうと、宙を走る。

 リーズが『悪霊あっちいけ棒 改・改』を闇に向ける。騎士見習いのバジルも神聖魔法を使う。だが、闇はひるまない。邪悪な性質を帯びていない純然たる闇なのだ。しかし、それは、敵意をもってオレ達を包み込もうとしている。

「くっ!」
『マッハな方』の足元には、星を象った模様が現れていた。それは足元から天に向かい鈍い光を放っていた。
「しまった!」

 光に包まれながら『マッハな方』が、オレを見る。
 マリーを頼む……その口はそう言ったのではないかと思う。

 だが、光が消える瞬間、そこに居たのは光の使徒ではなかった。
 苦しそうに喉をおさえる、可憐な少女……
 いつも優しく微笑み、オレを励まし続けてくれた心清らかな女の子だった。

「マリーさん!」

 走り、手を伸ばした。

 けれども、オレの手は何もつかめない。

 光は消えた。
 内側に居た女の子を伴って。

「ダメ! 勇者さま!」
 オレを左手一本で抱え、アナベラが後退する。大波のように押し寄せて来る闇を避けて。

《撤退! 移動するわ!》
 アウラさんが風の力で、移動魔法を使った。

 別の空間に渡る時、一瞬だけ見えた。
 紫色のバケモノの上の幼児。
 その側の宙に、黒衣の女性が浮かんでいた。空中浮遊魔法だ。
 かなり距離は開いていた。が、精霊の目は見たいものを人間よりもはっきりと捉えられる。
 マーイさんの目を通して、女を見た。

 黒の総髪、高い鼻、切れ長の瞳、白い肌。
 整った顔立ちではあったが、見ただけでぞっとした。
 つりあげた口の端を歪め、女は笑っていた。
 悪魔のような顔で。


……魔王が目覚めるのは十八日後だ。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№083)

名前     モード
所属世界   裏冒険世界
種族     闇の鬼
職業     暗黒神官
特徴     暗黒神に仕える神官。
       年齢のわりには、
       いろいろがんばっていた。
       後頭部につけていたコウモリの
       髪飾りで全ての強化魔法を消し去った。
戦闘方法   不明
年齢     六才? もうちょっと上かも。
容姿     黒髪、黒い目。
       ビキニに、首輪、手袋、ブーツ。
       全部、黒。セクシー路線だが、
       幼児なんで……
口癖    『〜もん』
好きなもの  格好いい悪に徹すること……だろう
嫌いなもの  いじわるな大人
勇者に一言  無し。
挿絵(By みてみん)
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