挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハーレム100 作者:松宮星

裏 冒険世界

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

124/224

お姫様に愛されて  【アンジェリーヌ】(※)

 夜になると、魔は一層強くなる。
 んで、今晩は王宮に泊まる事にした。
 王妃様がオレの為に用意してくださった部屋は、三間つづきでデカくて豪華だった。
 今後の事を相談する為に、部屋に仲間達を集めた。
 知恵を貸して欲しいんで、精霊達も全員呼び出した。王宮の守護は精霊の分身が担当してるんで、問題なし。

 けど、会議よりもこれが重要とばかりに、義妹の精霊のレイがオレのもとへやって来た。
 紫の小鳥は、オレの左手の『悪霊から守るくん 改・改』を破壊させろと言う。
《あの怪音波は、危険である。我々精霊の存在基盤を揺るがす。超能力ジャマー並の凶器である》
 怪音波……マリーちゃんの歌、確かに凄いけど……
《ルネの発明品、壊すのー?》
 エクレールが不満の声をあげる。
《当然である。吾輩は四散しかけた。雷の精霊は殊に音に敏感。魔族と対峙し、又、あれが発動するなどあってはならぬ事である》
《ルネ、一生懸命、作ったんだよ、勇者さまの役に立ちたくて。……壊れちゃうのなら仕方ないけど、あたし達が壊すなんて……かわいそう》
《感情論で語るでない。貴様だとて、四散しかけたではないか》
《そうだけど……》
《百害あって一利なし。破壊する》
 エクレールが、しょぼんとする。

《一利はあります》
 光の精霊ルーチェさんが、にっこりと笑う。今回は七色お姫様ファッションだ。
《讃美歌に恐れをなし、魔族は居なくなったのでしょう? 魔族撃退には効果ありです》
 ルーチェさんが右の人差指で、オレの左手に触れた。『悪霊から守るくん 改・改』を光が包み込み、一瞬後に溶けていった。
《光の結界を張りました。これで、機械は周囲の邪悪を検知できません。魔族と対峙しても、讃美歌は流れませんよ》
 おお。
《あなたが『窓を閉ざして』と言えば一時的に結界は解け、『もっと光を』と言えば再び光の結界が張られます。必要な時に、讃美歌効果を利用してください》
 ありがとう、ルーチェさん! さすがだ! そのファッションはイマイチだけど!
 エクレールは光の精霊に感謝し、レイは『使用する前に周囲に通達せよ』とは言ったものの破壊しろとは言わなくなった。

 自分の歌声が凶器扱いされているのがわかっていないのか、マリーちゃんはいつも通りほんわか笑っていた。


「明日から、二手に分かれよう」
 会議を始め、オレは仲間達を見渡した。
 今日のオレは、長テーブルの短い方の席……いわゆるお誕生席についている。会議進行役として。
 今まではお師匠様かセリアに任せてきたが、この場に二人は居ない。なので、勇者のオレがやる。

「北西にいる光の代行者……もしかしたら、タイロン国王かもしれないが……その人を探しに行く班、それと王宮に残る班に分けたい」
 王妃様から、王宮の守護も頼まれている。
 この世界は、神聖魔法や浄化の技を使える人間が極端に少ない。現国王も神聖騎士達も居ない今、王宮は無防備。オレら全員が王宮から離れるわけにはいかない。

「捜索班は、オレ、光と闇の存在が感知できるマリーさん、それから……アナベラとリーズ」
 オレはごくっとツバを飲み込んだ。
「王宮残留班は、ジョゼとサラだ」

 信じられないと言いたそうに、ジョゼが大きく目を見開く。
 幼馴染は眉をしかめ、オレをジロリと睨んだ。
「アタシとジョゼを残す理由は?」

「精霊だ。戦力分散で、精霊も分けたい。サラは炎の精霊アナムの、ジョゼは雷の精霊レイの主人だ。二人がここに残ってくれりゃ、オレはティーナとエクレールを気楽に使える」
 それからと、言葉をつけたした。
「光の代行者が敵に囚われている可能性もある。魔法結界の中じゃなく、普通に牢屋に監禁されてるんなら、リーズの能力が役に立つ。錠前破りとか得意だろ?」
「まあね」
 生意気盗賊が、肩をすくめる。
「ついでに言うと、護衛が欲しい」
 マリーちゃんは邪悪掃討に特化した僧侶。魔には無敵だが、肉体を持った邪教信徒相手だと戦えない。
 リーズは盗賊。戦闘向きじゃない。
 でもって、オレは勇者だが、実力はしょぼい。勇者の剣のおかげで多少は強くなったものの、かよわい二人を守りきる自信は無い。
「だから、アナベラにも来てもらう。アナベラが一緒の方がリーズもやりやすいだろうしな」

「でも、お兄さま……」
 ジョゼが、すがるようにオレを見ている。その左肩には紫の小鳥が居る。
「私は……」
 一緒に行きたい、オレを一人にしたくない……そう言いたいのだろう。お師匠様を失い気弱になっていたオレを、ジョゼは慰め励ましてくれた。
 泣き虫で内気で甘えん坊だった、オレの義妹。
 十年経って再会しても、中身はあんま変わってなかった。オレとサラ以外の者とはまともに話せなかったんだが……
 今では違う。ニーナと仲良くなり、アンヌばあさんと心を通わせ、仲間達とうちとけてゆき……レイを相棒とした。
 ジョゼは、もう小さな義妹じゃない。大人の女性で……立派な格闘家だ。
「王宮が安全なわけじゃない。王妃様やお姫様を狙って、魔がわんさか押し寄せてくるかもしれないんだ」
 オレはジョゼの、ちょっと涙ぐんだようなうるんだ瞳を見つめた。
「残る方が危険かもしれない。けど、ジョゼとサラなら、王宮の人間を守り通してくれる。オレはそう信じている」
 ジョゼが、少しうつむく。オレと一緒に居たい……その希望を飲み込み、笑みをつくる。とても弱々しく、ほわっと微笑んだんだ。
「わかりました……サラさんと、レイちゃんと、アナム君と一緒に……頑張ります」

「留守番してもいいけど」
 テーブルに肘をつき、サラはぶすくれた顔でオレを見ていた。
「アタシがいないからって、フラフラと変な方に行かないでよ」
「行かねーよ」
「どーだか」
 サラが、おっかない目でオレを睨む。
「あんた、バカでエッチで流されやすいもん。さっきだって、お姫様にほだされるとこだったわよね?」
 う。
「美少女が涙を流してお願いしたら、泣き止ませたくって何でもしちゃいそう。結婚して、この世界に残るとか……」
「絶対しない!」
 オレは拳を握りしめた。
「必ず還る。還って、『カネコ アキノリ』を倒す」
 まだ疑わしそうに、サラがオレを見ている。
「さっきは、ちょっと動揺した。けど、何が大事かは見失わないよ。お師匠様が幸福な目覚めができるよう、オレはちゃんと使命を果たす」

「賢者様の為……か」
 サラが特大の溜息をつき、額に手をあてた。
 む?
 なんか、オレ、変なこと言ったか?

「魔術師のねーちゃん、安心しな。バカの監視は、オレがしてやるよ」
 リーズが、ニヤニヤ笑う。
「で? 精霊はどう分けるの?」

「マリーさんが捜索班だから、光のルーチェさんは留守番班。ティーナとエクレールは連れてく。後は、精霊達に決めてもらおうと思う」

《決めましたわ、ジャン。あなたと共に行くのは、アウラ、マーイ、ティーナ、エクレールとソワ。残るのは、私とルーチェとサブレ。それでいかが?》と、グラキエス様。
 捜索班のが、数が多いのか。
《その分、ジョゼさんのレイとサラさんのアナムが居ます。私とグラキエスとレイはベテラン精霊ですし、留守番班の方が戦力が充実しているかも》と、ルーチェさん。
《隠密活動なら、あたしは欠かせないでしょ? あと、ソワの闇の結界もかなり有効よ。内に籠れば、知覚されずに魔の中に紛れられるもの》と、アウラさん。
 闇の結界ってそういう効果もあるのか、知らなかった。昼寝の時、真っ暗にしてもらうぐらいにしか使ってなかったなあ。

《あのね、ジャン。誤解しないでね。あたしのは、邪悪な闇とは違うんだよ》
 黒髪、黒い肌、黒い服。真っ黒な闇の精霊ソワが、不安そうにオレを見ている。
《誰かを腐敗させたり、傷つけたり殺したりする為の闇じゃないの。疲れたものに安らぎを与える……そういう闇なの。だけど、闇だから魔の闇と通じちゃうだけなの。まったく性質は違うんだよ?》
 なるほど、そうなのか。
「うん。わかった」
 ソワは、しばらくオレを見つめた。オレの心を読んだんだろう、それからえへへと笑い、抱きついてきた。
《やっぱ、ジャン、大好き》
「そうか? ありがと」
 頭を撫で撫でしてあげた。撫でられるのが好きなんだ。髪の毛の触感は、ねちゃっというかねばって感じだけど、触り心地が悪いわけじゃない。泥遊びしてるみたいで、オレはソワの頭を撫で撫でするのが好きだ。
《ニーナちゃんの次に好き。大好き》
 そっか、ニーナが一番か。仲良しでいいな。

《ご主人様……ソワばかりをご偏愛なさるのですね……》
 土の精霊サブレが、何とも言えぬ熱っぽい目でオレを見ている。
《私、留守番班なのですよ……しばらくご主人様のお体に触れることすらできなくなるのに……》
 むちむちの体にまとうのは、黄色のレオタード。その体は、せつなそうに息づいている……
 あ。
 もしや、キミ……
《ご主人様の為、留守番を務めます。ですから、どうかお情けを……》
 ちょ。
 待って。
 今は人目が!
 サブレがオレの横に跪き、オレの右足に頬ずりを始める。

《踏んでください、ご主人様……このまえのように……。ご主人様の愛をこの身で確かめておきたいんです……》

 室内が、水を打ったように静かになる。
 聞こえるのは、ハアハアと熱い興奮を漏らす、サブレの息づかいだけ……

 ジョゼは、ひきつった顔。
 サラは鼻を赤くして、口をぱくぱくさせている。
 君達! 一緒に精霊界に行ったから知ってるだろ、土の精霊がどーいう性格か! 踏まれるのが好きなんだよ! イザベルさん()の土の精霊も、自分から足踏みマットになってたろう?
 土は、自分の身を削って他の生き物を養う。だから、土の精霊も『踏んで欲しい。体の中を貪って欲しい。何もかも捧げて愛するものを養いたい』とか思うわけで、決してオレの好みではなく、

「……そっか。そーいう趣味だったのか」
 とことん冷たい声で、リーズが言う。

「へー 女の人を踏むのが好きなの。変わってるね、勇者さまー」
 アナベラが無邪気な口調で言う。

「勇者さま、お相手も、熱望、なさって、おられますし〜 愛の形は、さまざまです〜 お気になさらず、どうぞ〜」
 のほほん笑顔で、マリーちゃんが言う。
 違う! 違うんです! オレはそーいう趣味があるわけではなく!

《精霊の分け方に反対意見もないみたいだしー 決定ね》
 アウラさんが意地の悪い顔で笑っている。オレの心が読めるでしょ、精霊だから。オレにそっちの趣味がないのは、わかってるよね? 何で、そんなに楽しそうなの?
《じゃ、聖女様。光の代行者の現在地の絞り込みしましょ。ここに居るとおにーさん達の邪魔になるから、聖女様のお部屋で》
「はい〜」
 へ? 行っちゃうの、マリーちゃん!

 光のルーチェさんが、やれやれって感じに溜息をつく。
《勇者ジャン。あなたが不在の間、私達は独自判断で動きますが、いざという時の為、サラさんを臨時の主人にしておきたいのですが、よろしいですか?》
「わかりました。やりやすいようにやってください」
《ありがとう。では、サラさん、ジョゼさん。別室で警備の打ち合わせをしましょう。グラキエス、あなたも一緒にお願いします》
《そうですわね》
 氷のグラキエス様が、冷たい眼差しをオレに向ける。
《流されやすくて……ほんと、ダメな犬ですこと》
 グラキエス様!

 リーズもアナベラも精霊達も居なくなり、部屋の中にサブレと二人っきりになる。
 土の精霊がうっとりとした顔で、オレを見上げてくる。
《どうぞご主人様……そのやりきれなさを、私にぶつけてくださいませ……怒りを込めて、踏んでください》

 ああああ、もう!
 踏むよ。
 踏んでやるよ。
 踏みゃいいんだろ!

 足元にうずくまるサブレのお尻のあたりを、ギューギュー踏んであげた。
 何つーか、ボランティア。
 もっと強くとねだるサブレの為に、体重をかけてギュムギュムしてあげた。

 裏冒険世界まで来て何やってんだ、オレ……





 寝入りっぱなを、水の精霊マーイさんに起こされた。マーイさんは空気中の水分に潜んで存在し、ずっとオレを護衛してくれてるんだ。
《ご主人様、侵入者です》

 急いで身を起こし、マクラの側に置いておいた勇者の剣を手に取った。

 しかし……
 二人の侵入者は、敵ではなかった。
 マーイさんが灯してくれた水色の灯りに照らされているのは、見事な金の髪の少女とそのお付きの女の子だった。

「お姫様……」
 それと、ロザリーさん。
 アンジェリーヌ姫は、膝下までの貫頭衣をまとっただけの姿。侍女のロザリーさんはドレス姿のままで、大きめの鞄を持っている。
 二人とも、マーイさんの水壁に四方を囲まれ動きを封じられている。困ったように、オレを見ている。
「どうして、ここに?」

《壁の隠し扉から侵入して来たのです》と、マーイさん。
《ご主人様用の三間つづきの部屋には、覗き穴と隠し扉があります》
 なに?
《隠し部屋には兵士も詰めています。ずっと監視されていました》

 なんで?

 華奢で可憐なお姫様。無防備に背に垂らした黄金の髪がとても綺麗だ。
 邪悪に操られているようにも、武装しているようにも見えない。

 マーイさんに頼んで、水壁は消してもらった。
「水の檻を消して下すって、ありがとうございます」
 鞘におさめたままの剣を左手に持ち、オレはお姫様と侍女さんに対した。

「なぜ、ここに?」
「王家の娘の務めを果たしに参りましたの」
 む?
「勇者様……私、不調法ですが、お気に召していただけるよう頑張りますわ」
 お姫様の目配せに頷き、侍女のロザリーさんが一歩前に進み出て、手に持っていた鞄を開き、中身をオレに見せた。
 目に入ってきたものの凄まじさに、オレはのけぞった。
「……勇者様のご嗜好に合わせ、準備いたしました。どうぞお使いください」
 お姫様は、震えながら鞄の中身へと目をくれる。
 鞭に蝋燭に縄に枷……それ以上に凄いモノが見える。
 それを、オレにどうしろと……?
「要りません」
「まあ」
 お姫様は顔をあげ、安堵の息を漏らした。
「お道具はお好きではないの? では、踏むだけのプレイなのですね。良かった。あれぐらいなら耐えられそう」
「踏むのだって、好きじゃありません」
 アレは、土の精霊の趣味です。てか、オレがサブレを踏んでたのを覗いてましたね、あなた。
「私、痛いのは苦手なのです。でも、勇者様になら何をされてもいい……そう思って参りましたの」

 ふわっと、まるで風のようにお姫様は動いた。
 オレの胸の中に飛びこんできたのだ。

「勇者様の尊い血を、どうぞ我が王家に……。今宵一晩だけ、私を勇者様の花嫁にしてくださいませ」
 お姫様がオレの胸に抱きついてくる。

「今宵だけで構いません。勇者様はお国にお戻りになられなければいけないのですもの。私、わきまえましたわ」
 布ごしに柔らかな感触が伝わる。下着つけてませんね……寝巻だから……

「……どうぞ抱いてください。勇者様との思い出をください……」
 う。
 もしかして……下も履いてません?
 寝巻の下は何も無し……なのですね。
 やば。鼻血出そう。

「お慕いしておりました、勇者様……勇者様と結ばれる日を、私、ずっと夢見ておりましたのよ」

 オレにすがりつき、抱いてくれとお姫様は懇願する。
 けれども、その体は小刻みに震えている。

 王家の娘としての義務感と、召喚勇者への熱い思い。
 頑張ってオレの寝室に来たものの、これから先のことが怖くて気が遠くなりかけているんだろう。
 体つきも細い。大人びた言葉づかいをしてるけど、まだ体ができあがっていない。

「お姫様、お幾つですか?」
「十四です」
 十四……

 お姫様の肩をそっと押して、体を離した。
「お気持ちだけ受け取っておきます。お部屋にお戻りください」

「そんな、ひどい……」
 お姫様は大きな目を見開き、傷ついた顔でオレを見つめた。
「どうして? 私がお嫌い?」
「いいえ。とても可愛らしい方だと思います」

 お姫様のお母さんも、そのご先祖様も、召喚勇者と結ばれてきた。
 王国の救い手の花嫁になるのが、この王家じゃ常識。
 ンな環境で育ちゃ当然だけど、お姫様は『勇者と結ばれる』未来に疑問を抱いていない。
 自分が呼んだ召喚勇者こそが運命の相手、と決めてかかっている。
 白馬の王子様に憧れる乙女のようなものだ。
 オレに恋しているわけじゃない。
 恋に恋する……子供なんだ。

「抱いてくださいまし。王家の娘は、召喚勇者様との間に子をなしてきました。国王になられなかった十五代目サクライ マサタカ様との間にだって……。勇者様の血を残すのが義務なのです、どうか……どうか……」
 うるうるとうるんだ瞳で、お姫様がオレを見る。
 けど、ンなことできない。
 最愛の人を選んだら、チュド~ンまっしぐらだし……
 子供にそんな事はしたくない。

「……魔王を倒す為に、オレは女色断ちの願掛けをしてるんです。」
 この嘘でいこう。
 これが一番辺り触りがない。
「あなたのお気持ちに応えたら、オレは魔王を倒せなくなる。生まれた世界を救えなくなるんです」
「勇者様……」
「許してください。オレは故郷を守りたいんです」

 お姫様は悲しそうに瞳を半ば閉じ、
「お国の為……それでは仕方ありませんわね」
 それから、艶やかに微笑んだ。
「お気持ちはわかります。私も王家の娘。国の為に生きる志は、勇者様と同じですわ」

「すみません、アンジェリーヌ様」
 お姫様が小さくかぶりを振る。
「魔王戦は二十日後でしたわね」
「はい」
「七日目にお国にお戻りになって……二十日後に魔王戦。でも、その日が過ぎれば、よろしいのですわよね? 私達の間には障害はございませんわね?」
 ん?
「その後にもう一度出逢えたら……その時には私の思いを受け止めてくださいまし」

 思いつめた顔でアンジェリーヌ姫が、迫ってくる。

「いや、でも、オレ、賢者になるので、この国の王様にはなれない……」
「尊い血がいただければ良いのです」
 可憐な乙女が、ズンズン迫って来る。
「勇者様のお子様を産ませてください。私、待ちますから。勇者様と再び出逢える日を、ずっとず〜っと待ち続けますわ」

 すごい真剣な顔。
 断ったら、泣く……どころか、死ぬとか言い出しそう。

 なので……
 一年って期限をきった。
 魔王戦後、一年の間に再会できたら、お姫様のご要望にお応えする。
 一年経っても逢えないようなら、二人の間には確かな絆が無かったってこと。別の結婚相手を探して欲しいと。

「わかりましたわ、勇者様」
 お姫様が、うっとりした顔でオレを見つめる。
「勇者様との再会の日を夢見て、神に祈りを捧げ、清廉な日々を送りますわね」
 で、お姫様は思い出したように、今はご武運をお祈りしますわとも言った。
 光の代行者をオレが連れて来られなきゃ、この世界はピンチ。
 二十日後にチュド~ンをするはめになったら、オレはあの世行き。
 魔王戦後の心配をしてる場合じゃないんだ。

 去り際にお姫様は、『私、体を鍛えておきますわ。勇者様にいっぱい踏んでいただけるように……』とか言ってた。が、いろいろ疲れたんで、否定する気力もなかった。
 壁の隠し扉を通って、お姫様と侍女は帰って行った。
 お姫様とのやりとりも全部、覗き穴から見られてたろう。
 この国でのオレの評判が気にはなったが……悩むのすら面倒くさい。
 布団を被り、オレは意地でも眠る事にした。

 日付が変わったっぽい。
 魔王が目覚めるのは十九日後だ。

 あと六日で全てを終わらせ、オレは裏冒険世界から還る。

 絶対、還る。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№082)

名前     アンジェリーヌ
所属世界   裏冒険世界
種族     人間
職業     王女
特徴     十七代目召喚勇者タイロンと
       セレスティーヌ様との間の娘。
       召喚勇者と結ばれることを
       夢見てきたんで、
       オレに夢を見ている。
       魔王戦後、一年以内に再会したら
       お姫様の希望をかなえる約束をした。
戦闘方法   戦闘は期待しない。
年齢     十四
容姿     ゴールデンブロンドの巻き毛。
       白い肌、線の細い可憐な顔。
       腰は細い。胸は、今、成長中。
口癖    『そんな、ひどい……』
      『王家の娘』
好きなもの  オレ……というか召喚勇者。
嫌いなもの  エグリゴーリ国
勇者に一言 『勇者様と結ばれる日を、私、
       ずっと夢見ておりましたのよ』
挿絵(By みてみん)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ