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ハーレム100 作者:松宮星

裏 冒険世界

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122/224

キュンキュンキュン!【ロザリー】(※)

 頭を垂れ、額の前で両手を組み、少女が祈っている。
 ティアラをつけた金の巻き毛。まばゆいばかりに美しい、ゴールデンブロンドだ。
 ピンク色の若々しくも華やかなドレス。細い腰が強調され、大きくふくらんで広がったスカート。

 少女の頭が、ゆっくりとあがる。
 白い肌、長いまつげ、線の細い可憐な顔……

 転移したばかりのオレと彼女の視線が重なる。
 その儚なげな美しさに、心を奪われかけた時だった。

「姫様!」
 悲鳴が上がった。

 一瞬のことだった。黒い蛇のようなものが彼女に絡まり、オレの前から彼女を連れ去って行く。

 周囲が、黒い霧のようなものに包まれている。
 視界がきかない。
 ムッとするようなねっとりとした気に、胸が苦しくなる。腐敗臭のような……

 この黒い気を祓わねば……
 オレは全ての精霊を呼び出した……んだが、

「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」
 オレが何かするよりも早く、周囲に爆発的に光が広がっていった。
 闇が消え、倒れている人々と、豪奢な造りの部屋が見えた。大広間の端っこ、祭壇みたいな所にオレらは立っているようだ。どうやら召喚の祭壇のようだ。足元に魔法陣らしきものがある。

 オレの横から広がる、神々しい光。その中心に居るのは、修道尼。必殺技を放った後の正義のヒーローっぽい、ビシッ! としたポーズをとっている。
「又しても、不在か・・・困ったお方だ。ククク・・・神不在の世界では、俺への負担もマッハでデカくなってしまう」
 うは。
 来た。
「低級なる邪霊どもよ。怨念に囚われしカスどもよ。昇天を拒むきさまらに、もはや神の慈悲は無い。内なる俺の霊魂が、マッハできさまらの罪を言い渡した」
 いや、この辺の邪悪なのはぜ〜んぶ、あなたが祓いましたから。会話相手、浄化されきっちゃててもう居ませんよ〜

 突然であまりにもな出来事に、生意気盗賊が身をのけぞらせて逃げていた。そうか、『マッハな方』が憑いたマリーちゃんを見るの、初めてだったか。普段ほんわかだから、豹変した時のギャップがデカいんだよな。
 相棒のアナベラの方は、ぜんぜん動揺してない。戦士らしく、剣を抜いて周囲を警戒している。

「マリーの下僕どもよ。ザコ退治と人命救助は、任せた。南のデカブツは、俺が貰う」
 言いたい事だけ言って、マリーちゃんは窓へと走り、ひらりと飛び降りる。落ちてった。何階だ、ここは?
 とりあえず、オレは剣袋の紐を解いた。いつでも勇者の剣を抜けるように。

 室内を見渡した。
 中は惨憺たるありさまだ。
 激しい戦闘が行われたのだろう、きらびやかな室内のさまざまなものが壊れ、あっちこっちに人が倒れている。貴族や召使いに護衛兵達。衣服や床が血で染まっているところもあった。
 ざっと見て五十人は倒れているようだったが、さっきのピンクのドレスの美少女は居ない。
 連れ去られたのだろうか。
 マリーちゃんが倒しに行った南のデカブツって奴にか……?
 部屋の反対側のつきあたり、金箔されたテカテカの大きな扉を見つめた。他に出入り口はない。外に連れ出されたんじゃなきゃ、あの扉の先だろう。

「ルーチェさん、負傷者の治癒を頼む」
《了解です、勇者ジャン》
 光の精霊が、倒れた人々の治癒を始める。だが、虹色ストライプの修道尼僧服は、さすがに神聖さの欠片もない。それは趣味が悪いです、と心の中ではっきり思っておいた。
「アタシも手当を手伝うわ」
 幼馴染の魔法使いが、床に倒れた者のもとへと走る。サラは、治癒魔法は初級しか使えない。けど、怪我人だらけだったんで、ほっとけなかったんだろう。
《アタシも治癒ができるよ》
 申し出てくれた闇の精霊ソワも残し、オレは他の仲間達と共に扉へと向かった。

 扉を開けた途端、もの凄い勢いで何かが飛びこんできた。が、オレにぶつかる前にそれは押し戻されていった。扉の先は真っ暗だ。闇の世界だ。
 オレの前に空気の膜がある。風の精霊の結界だ。
《あたしはここに残るわ。負傷者はこの部屋に運んで。この部屋には魔は一匹たりとも、入りこませないから》
 体に何重も薄緑色のベールを巻きつけたアウラさんが、ニッと笑う。
《ティーナ。『他に被害を及ばさず、ピンポイントで敵だけを狙う』の。建物も人間も傷つけちゃ、ダメ。できる?》
《おっけー》
《じゃ、先導。おにーさんの為の道を開くのよ》
 ベテラン精霊の指示に、炎の精霊が動く。炎そのものの姿となって、宙を駆ける。ティーナの浄化の炎に燃やされ、充満していた闇が後退してゆく。

 ひたすらゴージャスで広い廊下だ。肖像画を飾った大理石の柱と大きな窓が交互に並んでいる。天井にも宗教画っぽい絵。
 しかし、ここも戦場だったようだ。
 いたるところに、人が倒れている。誰のものともわからない血に染まった絵画もある。
 オレは氷のグラキエス様に尋ねた。
「負傷者の運搬、誰に頼むのが効率いいです?」
 ベテラン精霊は、残っている水・土・雷の精霊をチロリと見つめた。
(わたくし)が指示を出します。サブレを貸しなさい、ジャン》
「お願いします」
《マーイ、ぶきっちょなあなたでもジャン一人ならば守れますわよね? ジャンに同化して精霊の力を貸しなさい》
《はい》
《エクレール、あなたはジャンの周囲の警護。それと、発明家の発明を有効利用なさい》
《はーい》

 グラキエス様とサブレに負傷者の回収を頼み、オレらは更に先へと進んだ。
 派手な廊下の先は、階段だけがある薄暗い小部屋へとつながった。その部屋にも階段にも、点々と負傷者が居る。
 サブレが怪我人を次々に拾っては砂状の結界に包み、移動魔法で運んでゆく。グラキエス様は人体を乱暴に扱わないよう指示し、出血のひどい人間の傷口を一時的にふさいでいた。
 階段の先は大きな部屋。三階建の建物が丸ごと入っちゃいそうなほど、天井がひたすら高い。礼拝堂のようだ。そこの主祭壇の裏から出たようだ。隠し扉か。
 室内に充満していた黒い気と、ティーナの炎が戦っている。果敢に燃え続けているが、黒の気があまりにも多すぎてほとんど祓いきれていない。

 新たな獲物を見つけ、闇がオレらへと突進する。
 雷の精霊エクレールが、雷の結界を張る。敵を切り裂く雷の防御壁。しかし、闇の気が多すぎるのか、襲いくる全てを攻撃しきれない。エクレールの結界をくぐりぬけ、礫のような気が侵入してくる。

 マーイさんがオレを中心に、更に水の結界を張る。

 だが、まだ黒の気は消しきれない。

 わずかに漏れ入ってくるものを、アナベラが剣で叩き斬る。
 目にも止まらぬ早さの礫を見切って、大きな両手剣を振るっている。
 勇者(アイ)が170万とか180万とか……馬鹿馬鹿しいほどにデカい攻撃値を計測する。

 アナベラと背を合わせる形で立っている義妹も、かけ声と共に拳や蹴りで礫を叩き落とす。雷の精霊レイを同化させた義妹からは、ゆらゆらと紫の気が広がっている。
 計測値は、こちらも凄い。110〜150万。

 オレは腰の勇者の剣を抜いた。
 刃まで輝いてんだ。浄化の光だろう、きっと。
 試しに、宙を切ってみた。
 ケリーさんの鍛えてくれた魔法剣は、刃が雪のように白く輝き、軌跡までもがキラキラ光る。
 光の軌跡に当たった礫が、光に飲まれるように消える。
 14万ダメージ+追加効果79万ダメージ。
 この闇、防御力が低い。刃じゃなく、残光だけで14万とか景気よすぎ。

 弱っちいんでも、数は半端なく多い。
 ティーナが燃やしても燃やしても、闇は周囲に満ちたままだ。
 精霊にも能力の限界はある。ティーナ本人が持っている炎、そしてこの世界から吸収できる炎系物質が尽きれば、ティーナは形を保てなくなる。
 このままじゃ前に進めないどころか、徐々にこっちが追い込まれてゆく。

「手はねーのかよ?」
 苛立たしげに、盗賊が言う。盗掘で手に入れた魔法の小剣は抜いていない。邪悪用武器じゃなのかもしれない。

「エクレール、なんか無い? 役に立ちそうな物」
《あるよー》

 雷の結界を張りながら、陽気な精霊が明るい声をあげる。
《困ったなーという時には、これ! 『ルネ ぐれーと・でらっくすⅡ』〜》
 オレの目の前の宙に水晶付きの杖と腕輪が現れる。ルネさんの発明袋から出したものだろうが……どっかで見たような?

《『悪霊あっちいけ棒 改・改』と『悪霊から守るくん 改・改』〜》

 はい?

 悪霊ノワールに対しまったく無力だった棍棒と腕輪、その改良バージョンを魔界で十才のオレが使ってたが。
「又、作り直したの、ルネさん?」
 武器開発に忙しいくせに。
《より良いアイデアが浮かんだら即改良が、ルネのモットー〜 そん時、作り直さないと、何をどー直すんだったか忘れちゃうんだってー》
 なるほど。思いつきと、その場の勢いで作ってるもんな。

 改バージョンは魔界じゃ役に立ったようだ。改改は何処がどー変わったかは知らないが、多分、役に立つだろう……おそらく。
「リーズ、装備して」
「へ? オレ?」
 かわいらしい目をいっそう丸め、リーズが宙に浮かぶ棍棒と腕輪を見る。

「あんたのだろ?」
「オレには必要ない。精霊がいるし、邪悪へのダメージ一・二倍のサークレットもある」
「オレだっていらねーよ。ヤバいの来たら、よけるし。いいアイテムはあんたつけろよ。あんた死んだら、オレらの世界おしまいなんだぜ?」

「今のオレには武器がある」
 ドワーフのケリーさんが鍛えてくれたのは、魔法剣だ。柄頭はドラゴン。額にはアメジスト、そして大きく開いた口はファントムクリスタルをくわえている。
「リーズもオレの仲間……大事な伴侶だ。大切な人を失ってから後悔なんて、もう嫌なんだ。それで邪悪な気を祓えるはずだ。使ってくれ」

「キモ」
 リーズが顔中をしかめる。ひどく気持ち悪そうに舌を出している。
「真顔でくっさいセリフ言うなよ、キザなお貴族さまじゃあるまいし」
 む。
「山分けしよーぜ。オレは棍棒を取る。あんたは、腕輪ね」

 そう言って、リーズは『悪霊あっちいけ棒 改・改』を握った。
 その瞬間、杖頭の水晶から光が生まれた。
《改改は、スイッチ入らず。持つだけで、光が生まれるのー》
 ほー。
《先っぽの飾りは、聖教会で清められた水晶ー 聖なる水晶を通すから、灯りが邪悪へのダメージになるんだってー》

「へー」
 先端の光を向けるだけで、迫りくる礫が消え、その先の闇も消えてゆく。光が当たるだけで、闇が浄化されているんだ。
「便利じゃん。これ。やるなー 発明家のねーちゃん」
 たま〜に役立つもん作るんだよ、ルネさんは。
 リーズがブンブン手を振りまわして光の向きを変え、闇を祓ってゆく。
 オレらの周囲に、闇は近づけなくなった。
 いい感じ。
 前に進めそうだ。
 闇が晴れてきたんで、視界がきいてきた。やっぱ、ここも怪我人がいっぱいだ。早くサブレ達に回収してもらって、ルーチェさん達に治療してもらわなきゃ。

 オレは残っていた腕輪を手に取った。『悪霊から守るくん 改』からは讃美歌が流れたが、これは?
《やっぱ讃美歌機能つき〜 そっちの改改も、スイッチ入らず。はめると、センサーで人体の熱を感知するのー》
 ほほう。
《『転んでぶつけても、大丈夫! 外すか、内部の邪悪検知器が安全と判断するまで、決して讃美歌は止まりません』だってー》

 オレは、アメジストの腕輪をつけている左手に『悪霊から守るくん 改・改』をつけた。

 発明品の腕輪から、オルガンの音楽と神をたたえる歌……讃美歌が流れ始めた。

 それは、まさに……
 神の国へと誘われる音楽だった……


「………」


 はっ。

 頭が真っ白になっていた。

 てか、両耳を手でふさぐと、音が更にデカくなる! 左腕に腕輪をしてるからか!

 オレの周囲は閑散としている。
 あれほど充満していた邪悪な気は、礼拝堂から消えた。潮が引くように、サーッと逃げ出していったんだ。
 すごい威力だ、『悪霊から守るくん 改・改』!
 素晴らし過ぎて、怪我人達までも立ちあがって走り去って行った。重傷そうな人、多かったのに!
 仲間達も居ない。闇を追いかけてった。というか、追いかけるのを口実に、逃げ出した。

 なにが凄いって……
 オルガンに合わせ、綺麗な声が流れているんだが……
 音程が合ってないというか、抑揚がない。ず〜と同じ調子で歌い続けている。
 けど、それだけなら、いい。まだ我慢できる。
 しかし、リズムが合わなさすぎ。ものすご〜く、ゆっくりと自分のペースで歌ってるもんだから、どんどん歌詞が遅れていく。なのに、そのまんま一言一句漏らさず歌おうとしてるもんだから、雪だるま式に歌詞が遅れていって、まったく音楽に噛み合わず……
 更に、ときどき声が裏返るわ、ボリュームがめちゃくちゃだわ、息つぎ変だわ、聞き取りづらいわ……

 ひどすぎ!

 声が愛らしいだけに、破壊力抜群だよ、マリーちゃん!

《聖女様の歌声なら、邪悪へのダメージがグレードアップするだろうって……このまえ、聖女様の歌をルネが録音してたんだけど……》
 エクレールの姿がゆらぐ。人型変化が微妙に崩れ出している。
《ごめん! あたし、これ無理! 音には敏感なの!》
 ついに、エクレールも逃げた。離れた所から護衛すると言って。
「止めてから行け!」
 腕輪をひっこぬこうとしたんだが、腕にすいついたように取れない。
 叩いても止まらない!
 壁に打ち付けても!

 たまらず走り出した。
 礼拝堂の先は、広い庭園。

 そこを、むちゃくちゃに駆けた。

 逃げても、逃げても、マリーちゃんの歌声がついてくる。

 何つってたっけ、エクレール……

『外すか、内部の邪悪検知器が安全と判断するまで、決して讃美歌は止まりません』だったな……

 て、ことは……
 この辺の邪悪を全部片づければ、止まるわけだ。

 前方に黒い塊。
 マリーちゃんの神聖な歌声に恐れをなし、後退中。だが、逃がすなんて不確実。全部消滅させて、この発明品を止める。

 ぶっ倒す!

 突進し、勇者の剣を抜いた。
 キンキラ剣のまぶしさが、頭痛をひどくする。斬った後に残る光の軌跡も頭痛を倍増させる。
 100万を越えた派手なダメージ数値が出る。105万ダメと追加効果が158万……
 あああ、もう! 頭いたい!
 次、次、次!

 オレがキョロキョロと辺りを見渡すと、消えつつある闇の中からポロッと女の子が出てきた。
 気を失っている。
 闇に捕まっていたのだろうか
 肩までのブラウンの巻き毛の、可愛い子だ。クリーム色の清楚なドレス、髪にはドレスと同じ色の花を模した愛らしい髪飾り。
 女の子の目が微かに開く。焦点の定まらない目。目の前に居るのが誰だかわからないだろうに、その子はせつなそうに望みを口にした。
「助けて……」
 あああ……小声なのに、頭にズキンと響く。
 けど、ここは我慢。
 オレ、勇者だし。
「もう大丈夫……君は助かったよ」
 何とか笑顔をつくった。聖女様の調子はずれな歌のせいで、頭はガンガン痛んでるけど。マリーちゃん、そこはド、そこはレ。あああああ。
「いいえ」
 と、女の子が弱々しく言葉を続ける。
「私は、いいんです……どうか、アンジェリーヌ様を……お助け、くださ……おねがい……」

 苦しい息の中、必死にそこまで伝え、女の子はがくっと意識を失った。

 胸がキュンとした。
 魔にさらわれ、自分の命すら危なかったというのに、他の人の心配をしているなんて……
 とても、いい子だ。
 可愛いし。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと二十〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 う。
 うわぁ……
 やっちゃった。
 この子、どう見ても非戦闘員……

 いや。けど、今はそれどころじゃない。オレは勇者だ。
「しっかりして! 大丈夫か?」
 腕に抱き、体を揺さぶった。
 女の子の目が、ふっと開く。
「意識をしっかり保って! キミの名前は?」
「ロザリー。……アンジェリーヌ様付きの、侍女……」
 又、意識を失ってしまう。
「待って! そのアンジェリーヌ様は何処に? やっぱ、さらわれたの?」
 女の子の顔は真っ白だ。脂汗まで浮かんでいる。どーしよう、今、精霊達が側にいないのに。
 おろおろしてたら、内側から声が聞こえた。
《あの……ご主人様が側を離れれば、失神しなくなるのでは……?》
 水の精霊マーイさんの声。
《……讃美歌が聞くに堪えず、気を失っているのかと》
 そうか……
 オレの左手の腕輪からは、マリーちゃんの素晴らしい歌声が流れっぱなしだ。
 オレは侍女さんをその場にそっと横たわらせ、庭を走った。あてはないから、適当に。

 歌声の凄まじさに意識が遠のきかけるが、その度にちゃんと覚醒する。マーイさんが回復魔法をかけてくれてたから、オレ、気を失わないで走ってられたのか……
「一緒にいてくれたんだね、マーイさん、ありがとう」
 みんな、マリーちゃんの歌に恐れをなして逃げたのに。
《私はご主人様の護衛ですから……常にお側に……》と、マーイさん。
「マリーちゃんの歌、平気なの?」
《はい。聴覚を断ってますから》
 ズルい!
 あれ? けど、会話が成り立ってるぞ? 聴覚を断ってるのに、オレの声が聞こえてるの?
《いいえ。音声ではなく、ご主人様の心を読んでお話しています》
 そっか。精霊は人の心が読めるもんな。
《よろしければ、ご主人様。しばらく水で耳栓をいたしましょうか? 他の音も聞こえなくなってしまいますが……》

 耳栓を頼んだのは、言うまでもない。

 目の前に黒闇。
 闇を全部葬りゃ、腕輪の讃美歌も止まる。
 まだ回復しきってないが、讃美歌が聞こえなくなったんで体力はだいぶ回復した。戦える。
 オレは勇者の剣で、闇を斬り裂いた。
 101万ダメージか。この世界の闇は、防御力が低い。魔王『カネコ アキノリ』相手にはこれほど景気のいい数値は出ないだろうな。

 む?

 むむぅ?

 オレは、左手で目元をゴシゴシした。
 目がおかしい。
 追加効果の数字が変だった。見間違えたっぽい。
《ご主人様の攻撃ダメージは101万、追加効果は160万。ご主人様は、勇者眼でそのように知覚しておられました》
 音声ではなく、心に直接、マーイさんの声が届く。

 へ?

 追加効果160万ダメージ?

 オレの魔法剣は、伴侶一人につき一万ダメージの追加効果だろ?
 さっき仲間を増やしちゃったから、仲間の数は80。追加ダメは80万のはず。

 160万なんて、倍じゃん!
 何で?

《侍女を助ける時も、剣ダメは105万、追加効果は158万でしたよ》

 嘘ぉ〜ん!

 黒闇の塊から、又、ポロッと人が出てくる。
 ショックで固まっていたオレは、つい……
 出て来た女性をまともに見てしまった。

 何というか……
 奇抜な格好だった。
 豪奢な羽根飾りをつけた頭がバケツみたいにでかい。ものすごく高く結いあげ髪は、白っぽい金髪。つーか、白くするために粉をまぶしてる。
 変てこりんな髪形のわりに、顔はものすごく綺麗だ。彫りの深い顔立ち、気品あふれる唇。右頬につけているハート型のつけぼくろが、何ともセクシー。
 青いドレスもたいへん豪華で、レースがふんだんに使われている。腰がきゅっとしぼられてて、胸がものすごく強調されるデザインだ。
 細い首を飾る、目もくらむような宝石。
 それ以上に目をくらませるのが、バイーンと大きな二つの山と谷間……胸元にも黒いハートのつけぼくろがある……
 胸に注目されたくて、つけぼくろか!
 えっちだ。
 豊満な胸のつけぼくろが、妖しく媚びるようにオレを誘っていた……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十九〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あ。

 黒闇の塊から、またまたポロッと人が。
 ティアラをつけた、ゴールデンブロンドの巻き毛。ピンク色のドレス。

 最初に出逢った子だ。
 良かった、無事だったのか!
 怪我もしてなさそうだ。
 とてもとても可憐で美しい顔は、眠っているように穏やかだ。
 まるで眠り姫のように……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと十八〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 ちょっ!
 何で萌える、オレ!
 ホッとしただけじゃん!

《ご主人様……》
 途方に暮れたようなマーイさんの声。

 オレだって、途方に暮れてるよ!
 三人ともふわふわドレス。
 どー見ても、非戦闘員!

 オレの馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!

 三名分、借金が追加だっ!

 魔王が目覚めるのは、二十日後だってのに〜!


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№080)

名前     ロザリー
所属世界   裏冒険世界
種族     人間
職業     アンジェリーヌ様付き侍女
特徴     忠義心にあふれるけなげな子。
戦闘方法   期待しちゃ悪い……
年齢     十五〜十八ぐらい。
容姿     清楚な美少女。肩までのブラウンの巻き毛。
       クリーム色の清楚なドレス。
       髪にはドレスと同じ色の花の髪飾り。
口癖     不明
好きなもの  アンジェリーヌ様
嫌いなもの 『悪霊から守るくん 改・改』
勇者に一言 『アンジェリーヌ様を……お助け、くださ……』
挿絵(By みてみん)
№081と082は次回以降。
+注意+
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