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ハーレム100 作者:松宮星

冒険世界

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裏 冒険世界へ (※)

「勇者様達が旅をなさっている間に、七代目様、三十九代目様、七十八代目様の書と魔法陣を研究しておりましたが……」
 暗い顔でセリアが言う。
「三十九代目様の書より行ける精霊界とジパング界、そして七十八代目様のエスエフ界は……裏世界が存在するのかどうかすら判明していません」

「冒険世界の裏は、研究しなかったの?」
「はい。六十一代目様の書は勇者様達と共に冒険世界へ行っていましたし、」
 セリアが部屋の隅に広がった魔法絹布を掌で指す。
「絹布に魔法陣模様が完成するのは勇者様達が帰還した後なのです。それまでは朧げに輪郭が浮かぶぐらいで、呪模様は読めません。書が手元になく魔法陣すらわからなかったので、冒険世界についてはまだ何も調査をしておりません」
 そうなのか……

「ですが……幸いな事に、英雄世界の裏世界への呪文はほぼ推測できています。少々、確認が必要ですが、今日中に英雄世界の裏に赴く事は可能です」

 英雄世界の裏か……英雄世界の人間は戦闘力がめちゃくちゃ低かった……裏世界も、あまり有望な世界ではないだろうとセリアは推測していた。
 精霊界、エスエフ界、冒険世界、ジパング界の裏世界を優先して研究する。英雄世界の裏世界に行くのは最後の最後。他の裏世界への道がわからなかった場合のみって話だったが……
 他の異世界への行き方がわからないんじゃ、仕方がないか。

「必ず残り二世界への行き方を見つけてみせます。私達の手元にある『勇者の書』はたったの四冊。裏世界に行くしか、託宣をかなえる方法はありません。必ず成し遂げてみせます……ですが、申し訳ありませんが、もう少しだけお時間をください」
 セリアが、深々とオレに頭を下げる。
 そんな責任を感じなくていいのに。セリアのせいだけじゃない。犬耳カチューシャにぴったりで、真面目で思いつめる性格だ。

「わかった、英雄世界の裏に行こう。時間もないし、呪文の確認が終わり次第、」
「待って、勇者さま……その道を選んではいけないわ」
 イザベルさんだ。まじめな顔で、テーブルの上の水晶玉を撫でている。

「その道を進んでは……あなたの未来は閉ざされる。託宣をかなえる(すべ)を失うわ……十二の世界に行けない事になる……」
 え?

「なにを言うんですか、あなたは!」と、セリア。

「あなたがその道を進めば……おびただしい死者が……。あなたのせいで、数えきれないほど多くの命が消える……」

「やめてください! この場で、そんな不穏な嘘を! 非常識です!」
 怒鳴り始めたセリアを、横からシャルルが押さえる。

 イザベルさんは水晶を見つめ、静かに言葉を続けた。
「今すぐ……『勇者の書』を集めて……私の目の前に……」

「『勇者の書』は、現在、別室で一流の学者様達が研究中です。勇者様の為にみなさま、異世界への道を探っておられるのです。それを軽々しく」
「静かにしたまえ、セリア。イザベルさんは『勇者の仲間』として最善の助言をしておられるんだ。君も『勇者の仲間』ならば何をすべきかわかるはずだ。全て、未来と勇者の為ではないのか?」
 セリアがハッと目を見開き、またいとこを見る。
「勇者様の為……」
「そう、ジャン君の為だ。今、百一代目勇者は苦境にある。どんな状況下においても活路を見出すのが、学者の使命。愚策にしか見えぬ手であろうとも、検討すべきではないか?」
 お貴族様がフッと笑った。
「従僕に書を運ばせる。いいね?」
 セリアは、占いの類は全て嫌いだ。イザベルさんの事も詐欺師だと決めつけていた。
 けれども……
 唇をきゅっと結び、セリアは小さく頷きを返した。


 丸い水晶珠を撫でるイザベルさんの前に、『勇者の書 7――ヤマダ ホーリーナイト』『勇者の書 39――カガミ マサタカ』『勇者の書 61――アリエル』『勇者の書 78――ウィリアム』が並べられる。
 しばらく水晶珠を撫でてから、イザベルさんは厳かに告げた。

「『勇者の書 61――アリエル』……その裏だけが生ある未来……」
 冒険世界の裏に行かなきゃ、死ぬってことか?

「まだ星の輝きが足りない……まだ時が満ちていないのね……明日の朝、そう、朝だわ。日の光がこの部屋に漏れ入る時……二つの世界がつながるわ……」
 イザベルさんが苦しそうに息を乱す。
「魔と光……光の邂逅……闇を祓えるのは、あなたの……」

 そこで、イザベルさんがガクッと頭をゆらす。水晶珠の上につっぷしたんだ。
《おねーちゃん!》
 移動魔法で側に寄ったニーナが、イザベルさんの背中を撫で撫でする。心霊治療をしてるんだろう。魔法や古代技法とは別種の癒しだそうだ。
 マリーちゃんも走り寄り、いつものアレな治癒魔法を唱えた。

「ありがとう……ニーナちゃん、マリーさま。大丈夫よ……」
 水晶玉から顔をあげたイザベルさんは、少しやつれているように見えた。顔色も悪いような。綺麗にお化粧をしてるんで気づかなかったけど……もしかして具合が悪い?
 イザベルさんが、うふふと笑う。
「まだちょっと旅の疲れが抜けていないの。それだけよ。いやーねぇ、年かしら」

「だから、言ったではありませんか、無理はするなと」
 学者が女占い師を睨む。
「なにごとも、健康な体があってこそです。暗躍なさりたいのだとしても、まずは体を休めるべきです。倒れられても迷惑ですから、しばらくオランジュ邸で静養なさってください」
 ツーンとそっぽを向くセリア。
 イザベルさんは、楽しそうに笑った。
「ありがとう、セリアさん」

「一つだけ確認させてください」
 澄ました顔のまま、セリアが尋ねる。
「明日の朝、冒険世界の裏に勇者様は行けるのですね?」
「……その時を逃さなければね」
「『その時』があなたにはわかるのですね?」
「ええ。水晶が私に告げてくれるわ」
「了解しました」

 セリアがオレへと顔を向ける。
「勇者様。旅立ちを明日の朝に延ばしていただけますか? 占い師のたわごとなど聞き流すべきかと存じますが、この女も仲間として勇者さまの為に助言したようですし……実験してみたいのです」
 実験か。
「この女が指定した時間に、『魔法陣反転の法』を唱えてみます。それで冒険世界の裏へ行けなければ、勇者様は英雄世界の裏へ向かう。それでいかがでしょうか?」

「うん」
 オレは頷いた。
「大丈夫。行けるよ。イザベルさんの占いは、絶対当たるし」

「あら〜 嬉しいお言葉。ご信頼はありがたいけれど、私、伝言箱で外したばかりよ?」
 肩をすくめるイザベルさんに、オレはかぶりを振った。
「ちょっと遅れただけです。イザベルさんの占いは、必ずオレを助けてくれる。信じています」


 オレは冒険世界のことを語り、勇者の剣についてわかった事も話した。
 マスターオブNINJAロビンとの対戦の時、オレ自身の攻撃は814ダメしかなかったのに、追加効果に75万ダメが付いた。
 オレの剣は、仲間一人につき一万ダメージが追加される剣だったんだ。百人集めれば100万ダメージがおまけにつくのだと。
 ニーナは《すっごい、おにーちゃん》と無邪気に喜んでくれる。
 しかし……
 セリアは眉をひそめ、首を傾げた。
「それだけ……ですか?」とか言うし。
「おまけで100万だよ? すごくない?」
「凄いです。しかし、勇者様はドワーフの鍛冶師に1億ダメージの剣を望まれたのでしょう?」
 う。
「1億が無理でも、4999万9999ダメージ以上を希望、ともかく大ダメージ、ともかく強い剣と、ご希望でしたよね?」
「……無茶を承知でふっかけただけだ」
「はい。いかな魔法鍛冶師とて、不可能を可能にはできないでしょう。物理的限界はあるはずです。しかし、気になるのです」
「なにが?」
「アシュリン様が、その剣を『どっか〜ん』な剣だとおっしゃったからです。100万ダメージ追加程度の剣を、ドラゴンの女王様が『どっか〜ん』とお認めになるでしょうか?」
 む。
「実戦でお使いになって、よくお調べになってください。まだ秘められた力があるように思えます」
 あるのかなあ?
 あったらいいが。

 こっちの世界に残ってたみんなの話も聞いた。

 帰って来たばっかのパメラさんの話は、留守番組も初めて聞くそうだ。
「あたし、お師さまの故郷に行ってたの……卵をいただいたの……」
 ケモ耳と獣帽子のおかげで会話は成り立つ。でも、パメラさんがちゃんと話せるのはニーナぐらいで、他の者に対してはやっぱり怯えた瞳を向けていた。
「村に伝わる一番強い仔……心が通い合ったから……あたしのモノになってくれた。でも、ずっと夢を見たいみたいで……」

「一人前になった獣使いには、卵か幼獣が与えられるの。正しくは獣の方が主人を選ぶらしいんだけど……どうやるのかまでは知らないわ」
 パメラさんの言葉不足を、幼馴染のカトリーヌが補う。
「で、パメラは獣使いの村一番の卵と仲良くなったわけ。でも、卵に孵る気がないから困っているのよ。そうよね?」
 カトリーヌの問いに、ドラゴンのきぐるみがコクンと頷きを返す。さすが幼馴染、通じ合っている。
「普通に温めるんじゃ駄目なの?」と、サラ。
「モンスターの卵を鶏卵と一緒にしないで。魔力やら目に見えない力で目覚める事もあれば、生肉を食べて起きる事もあるわ。何を欲しがるかは、卵次第」
 卵のまま生肉を喰うのかよ。
「次の次の世界が、勇者様が行く十番目の異世界よね。女神様のお言葉によれば、パメラが魔王戦で使えるペットがそこで手に入るわけだし……卵を持ってけば向こうで孵るのかもね」

 女友達の情報を全部シャルルに渡したので、カトリーヌは新たな仲間候補を探してナンパに励んでいるらしい。

 ポチ2号にこの世界を見せる為、ニーナはアンヌばあさんと一緒に馬車で出かけたりしていたようだ。

 ルネさんは、武器開発に励んでいるらしい。睡眠時間を削って開発に没頭してたみたいだ。
「開発は順調です! 環境に優しい大ダメージの武器が、続々誕生……の予定です! 近日中には必ず!」

 即席絵画製造機械『撮れルンです君』を手に持って見せた。
「これ、凄くいい。ものすごく気に入ったよ、ルネさん」
「おお! 『撮れルンです君』に注目なさるなんて、さすが勇者様。お目が、高い!」
「あと三枚で終わりなんだけど、」
「十二枚撮りの内、九枚も使ってくださったんですか! 嬉しいです!」
「撮る絵って追加できる?」
「あ〜 フィルムの追加は無理ですね。使い捨てタイプの機械なので」
「じゃさ、『撮れルンです君』ってもう一台ある?」
「ないでーす。これが、試作品なので」

 三枚残してきて良かった……

「『撮れルンです君Ⅱ』をご希望ですか? どんな構造だったか忘れてしまったので、一回バラしてチェックしてからになりますが、」
「あ、いや、いいよ」
 ルネさんは、寝る間も惜しんで武器開発をしてるんだ。新しい機械が欲しいなんて、わがままは言えない。

 けど、今は……
 ちょっとだけわがままを言わせてもらう。

「残り三枚の内の一枚を、ここに居るみんなで撮らないか? 全員が揃ってるなんてめったにないし、撮ろうぜ」

 そんな悠長な事をしている暇はありませんと文句を言ったセリアも、『旅のお守りに欲しいんだよ』と強く言って黙らせた。

 オレと伴侶達。それにシャルロットちゃんと、おまけのシャルルで絵を作った。撮影係はエクレール。
 お花をつけてるニーナはともかく、他のメンバーはケモ耳か獣帽子かきぐるみだ。笑える。
 ウサ耳がジョゼ・マリーちゃん・イザベルさん、タレ犬耳がアナベラとリーズ、ネコ耳がシャルロットちゃんとシャルル。
 クマ耳はサラだけ、犬耳はセリアだけ、狐耳はカトリーヌだけだ。
 オレがドラゴン帽子で、ルネさんがピンクのロバ帽子。で、パメラさんはドラゴンのきぐるみだ。

 現実を切り取ったような絵の出来に、みんなもびっくりする。
「これは素晴らしい。画期的な発明ですね。魔王戦後、この発明を商品化しませんか? いくらでも出資しますよ」
 シャルルの絶賛に対し、ルネさんは「あんま誉めないでください、恥ずかしいです。よその世界にあるものを真似ただけなのでー」と、機械の腕でヘルメットを掻いていた。

 残り二枚。

「ニーナちゃん。アンヌばあさんは、いま居るのか?」
《ううん。アンヌは、お外でお仕事。夜には帰るって》
「そうか……じゃ、一枚をニーナちゃんにあげるから、バアさんが帰ったらニーナちゃんとバアさんとソワで一枚作りなよ」
《え?》
「大好きなものと一緒の絵だ。なんなら、クマさん一家も入れてさ」

《おにーちゃんは?》
 ニーナの白い目が、オレをジッと見る。
《あたし、おにーちゃんも大好きだよ。いっしょがいい》

「ごめん。オレ、アンヌばあさんとは対面禁止だから」
 バアさんに萌えかけた前科があるんだ。萌えて伴侶にしたらヤバイ。バアさんを魔王戦で戦わせるとか、無茶すぎる。
「絵には入れないけど、オレ、ニーナちゃんとはずっと一緒に居るから」
 魔王戦の後も、オレはニーナと一緒だ。約束したんだ。死んじまったら一緒に神様のもとへ行く、生き延びたら神様からのご褒美でニーナの昇天を待ってもらうって。
「今日は、バアさんとソワと絵を作っておいでよ」
《うん……》
「おそろいの髪飾りの三人。仲良しでいいよな」
《うん》
 しょんぼりしかけていたニーナが、口元に笑みを浮かべる。
 堅物のバアさんも、ニーナの頼みなら嫌とは言えまい。ピンクローズの髪飾りをつけるんだろうな。

「エクレール。後で、ニーナの絵も撮ってあげてくれ」
《わかったー》
「夜だと光が足りないかな? ルーチェさんも呼んどくか」
《うん。その方がいい》
『写せルンです君』で複製を作っていた雷の精霊が、オレの心を読んで明るく聞いてくる。
《ね、ね、ね。その一枚は、どうするのー? あたしが撮ろうか?》
「いや、いいよ。オレが撮る」


 次の異世界に行くのも、今回と同じメンバー。ジョゼ、サラ、マリーちゃん、アナベラ、リーズ。
 そう決まって、会議は終了した。

 ルネさんはエクレールからのメカのお土産を喜んで受け取り、自宅に飛んで帰った。
 サラとジョゼは、それぞれ修行に行った。
 セリア達は、裏世界研究チームと合流。去り際にセリアはオレに耳打ちをした、『勇者様のご希望にそう形で、ニノンはある場所に軟禁しています。修道女に話相手になってもらっております』と。ありがとう、と気持ちを伝えた。
 具合があまり良くないイザベルさんには、マリーちゃんとニーナがつきそうようだ。

 仲間達と別れ、オレは隣室に向かった。

 ちょうど誰もいなかった。
 けど、窓枠も壁も壊れたまんまだから、修理をしに左官が来そうだ。あんま時間はかけてられない。

 深呼吸をしてから、お師匠様と向かい合った。

 両手を広げ、髪を乱しているお師匠様。
 オレをかばおうと飛び出したその姿のまま、石化してしまっている。

『撮れルンです君』を構え、お師匠様の絵を作った。
 どうしても、この一枚が欲しかったんだ……

挿絵(By みてみん)





 翌朝、オレは『勇者の書 61――アリエル』を魔法絹布の上に逆さに置いた。

 共に旅立つ予定の仲間は、荷物を背負って背後に控えている。

『ルネ ぐれーと・でらっくすⅡ』も貰った。
 ルネさんは武器開発に忙しいので、見送りには来てない。今朝、ルネさんの助手がお使いでデカい革袋を届けてくれただけだ。
『ルネ ぐれーと・でらっくすⅡ』は、エクレールに預けた。これからの旅、エクレールには常に出っぱなしになってもらう。で、オレの冒険の場面場面に合わせ、ここでこれが役に立つ! とエクレールが判断した物を渡してもらう事にした。エクレールなら、オレよりルネさんの発明品に理解も愛もある。これからの旅に、ルネさんの発明品が有効活用できるだろう……たぶん。

 ゆっくりとセリアが近づいて来る。
 少し離れた所から、イザベルさん、カトリーヌ、パメラさん、ニーナ、シャルル、シャルロットちゃんがオレらを見守っている。
 旅立つオレらは外したけど、残留組はケモ耳をつけている。シッポまでつけてるのは、馬鹿男とカトリーヌだけだ。狐の尻尾のもふもふをパメラさんが喜ぶんで、カトリーヌは嬉々として装着しているみたいだ。
 ニーナは、ソワからもらったピンクローズの髪飾りで装い、ピンクのクマを抱っこしている。

 さて……
 旅立つ準備は万端だ。
 けど、肝心の呪文がわからない。

 高名な学者達に交じって、セリアとお貴族様とシャルロットちゃんは徹夜で呪文研究をしてくれたんだが……
 当初の見込み通り、行き方がわかったのは英雄世界の裏だけだ。
 これから行く予定の冒険世界はむろん、精霊界もエスエフ界もジパング界も裏世界の存在すら確認できていないという……

「……時が満ちるわ。セリアさん、魔法陣反転の法を……」
 テーブルで丸い水晶を撫でているイザベルさん。
 セリアが一瞬だけオレを見る。半信半疑……って顔だ。だが、セリアは呼吸を整え、迷いを断つかのように表情をひきしめた。
 聞き取りづらい声でブツブツと何かをつぶやき、手や足や首や体を動かしだす。曲芸(アクロバット)的な動きはないが、落ち着きが無く絶えず動いている。体のひねり方も何段階もあるようだし、呼吸や瞬きまで制限される。古代技法は、使用までがすごく大変そうだ。
「……  様と子と聖霊の御力によりて、奇跡を与え給え。魔法陣反転の法!」
 六十一代目勇者の書の下から、明るい光が広がり始めた。
 魔法絹布に刻むべき魔法陣に、古代技法の力が作用しているのだろう。

 後は呪文を唱えりゃいいんだが……

 セリアとオレ、仲間達の視線がイザベルさんへと向かう。
 イザベルさんは目を半ば閉じ、うっとりと水晶を見つめていた。
「もうすぐよ……すぐにいけるわ。……ああ……いいわ……そのまま……動かないで……う〜ん、だめぇ。せっかちは嫌……はぁん、あともうちょっと、そのまま……」
 声を聞いてるだけで、ドキドキしてくるぞ。

 別室で研究中のじいさん方が、裏への呪文をつきとめるのかねえ。

「『魔法陣反転の法』の効果時間は、十分ほどです」
 首をかしげ、セリアが魔法絹布から広がる光を見つめていた。
「一応試してみましたが……何も起きないようでしたら、現在の技の効果が切れ次第、七代目様の書を用いて英雄世界の裏へ赴きください」

 何か聞こえた……ような気がした。

 小さな声……
 歌?
 かわいらしい声で、誰かが歌っている……
 女の子だ。

 書の下から声がしている?

「……それよ、勇者さま。それが待っていた呪文。その声に唱和して」

 聞こえる声が震えている……
 一生懸命に音をつむいでいる。

 オレはその声の後を追いかけ始めた。

 全然、声は似てないけど……
 お師匠様の呪文の後に必死に続いたのを思い出す。

「これは……召喚魔法……? 裏世界から誰かが召喚をかけている……?」
 茫然とつぶやくセリア。

「セリア、下がれ。側に居ては、巻き込まれるぞ」
 シャルルの警告。
 セリアは、急いで魔法絹布の前から走り去った。

 書の下に魔法陣が生まれ、魔法絹布から広がる光がまばゆいばかりのものとなる。


 魔王が目覚めるのは、二十日後だ。


 聞こえるのは、女の子の声だけとなった。

 召喚の呪文を唱え終えた女の子が、泣きじゃくりながら願いを口にする。

『どうぞ、私達の世界をお救いください、勇者さま……』

 その声を聞きながらオレは……魔法陣を通って仲間達と共に冒険世界の裏へと旅立って行った……
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