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ハーレム100 作者:松宮星

勇者世界

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獣達のアイドル   【パメラ】(※※)

「さ、勇者さま……恥ずかしがっては駄目……脱いで……」
 イザベルさんが、俺のシャツの襟に手をかける。
 オレは、かぶりを振った。
「駄目です、イザベルさん、勘弁してください」
「逃がさないわ……」
 甘いかすれ声が耳元でする。背筋がぞくぞくした。 
「ぜんぶ、私に任せて……」

 そして、オレは……
 全てを、イザベルさんに委ねてしまった。

「うふふ。素敵よ、勇者さま、うっとりしちゃう……」
 はあ。

「ほーんと、素敵ね、うっとりするわ」
 ケラケラとサラが笑う。
 リーズは、腹を抱えて爆笑している。
「お、お兄様……とても、かわいいです……」
 いいよ、ジョゼ、慰めてくれなくても……

 にあってるよーと、アナベラがえへへと笑う。
 セリアは口元を押さえ、ぷぷぷと笑いを堪えていた。
 お師匠様は、いつもの無表情だ。

 オレは仲間達のなまあたたかな視線を背後から浴びながら、建物の奥へと進んで行った。
 人払いをしてある、との事なので目隠しはせずにすんだ。

 一定の間隔で、檻やら干し草の山やら木箱が並ぶ、倉庫のような部屋。
 濃い生き物の匂いに満ちている。
 その一番奥に居る人こそ、オレが仲間にすべき女性……獣使いパメラさんだ。

 この獣使い屋の中で、パメラさんは若手だ。使役モンスターによる警備・宅配・工事・ショーといった、外での仕事経験は、まだ無い。
 だが、先輩獣使いは言っていた。『どんな獣にも、一目で好かれるんだ。お師さまのヒュドラまで、あいつにメロメロなんだぜ。ま、才能はあるよ』と。
 ヒュドラのような大型強力モンスターを使役できる人なら、是非、味方に欲しい。

 パメラさんは、双頭の巨大狼の檻の前にたたずみ、モンスターに何ごとかを囁いていた。
 オレの接近に気づき、振り返る。

 はっとするほど美しい顔が、そこにはあった。
 衣装より漏れる、赤みの少ないブロンド。
 澄みきったグレーの瞳。眉も鼻も唇も頬も完璧で、神像のように美しい。人間の理想美のような顔だ。

 だが、しかし……
 オレの萌えツボは反応しなかった。
 ものすごく綺麗な顔なのに……

 綺麗なんだけど……
 いや、綺麗だからこそ、これは、ちょっと……

 パメラさんが、オレをジッと見つめる。
 赤ん坊か動物みたいな目だ。穢れたところが全くない。人間っぽくない。

 その顔に、パッと笑みが浮かぶ。
 出逢えた事を喜ぶように、幸せそうに、とろけるように微笑んだのだ。
「かわいい……」
 頬を染め、彼女がうっとりとオレを見つめる……
 ズッキン! と、衝撃が走った。


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと九十一〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 嘘……
 オレ、萌えちゃったのか……
 絶対、無理だと思ってたのに……

「顔が良ければ、どうにかなるのだな」
 と、お師匠様。どうにもならないと思ってました、オレ……

 パメラさんが、駆け寄ってくる。
「かわいい! かわいい! かわいい!」
 そして、オレをぎゅっと抱きしめる。

 もこもこ、した。

 パメラさんがオレに頬ずりをする。

 もふもふ、した。

 そんなわけで……
 ピンクのロバのきぐるみを着たオレは、緑色のモコモコのきぐるみにしばらく抱き締められてしまった。


「ドラゴンよ。あたし、ドラゴンになってるの」
 パメラさんが、オレにニコニコと笑いかける。
 全身を覆う、緑色のきぐるみ。巨大な口の部分が上下に開き、上顎と下顎にはさまれる形で、パメラさんの完璧な美貌がひょっこり現れているのだ。

挿絵(By みてみん)

「強そうでしょ?」
 いえ、かわいいです。
「がお〜」
 パメラさんが低い声をつくり、吠える。
 か、かわいいです……

「……何故、そんな格好をなさっているのですか?」
 と、セリアが尋ねる。ここに来たみんなが抱いている疑問だろう。先輩獣使いはシャツにズボン、粗い毛皮のチョッキ。普通の姿だったのに。

 だが、パメラさんはびくっと身をすくませただけで、答えない。
「聞こえませんでしたか? もう一度、お尋ねします。何故、ドラゴンのきぐるみを着ているんです?」
 パメラさんが、更にぎゅっとオレに抱きついてくる。
 もこもこ。
 きぐるみを着てなきゃ、幸せな状況なのに……

「セリアさん、そんな格好で話しかけては駄目。パメラさんを怖がらせるだけだわ」と、イザベルさん。
「パメラさん、人間が苦手なの。話しかけるのなら獣にならなくっちゃ」
 へ?

「きぐるみはもうないから、これを使いましょう」
 と、イザベルさんが右手をオレらに見せる。
 そこには、パックンパックンと口が開閉する、うす紫の蛇がくっついていた。
「腕人形『スネちゃん』。パメラさんのお友達なの」
『スネちゃん』は、大きな黒のボタンの目の、かわいい紫蛇だ。

「こんにちは、パメラさん」と、腕人形付きイザベルさん。
 パメラさんが、おどおどと、そちらへと視線を向ける。
「こんにちは……」
 オレに対してより、明らかに低いテンションだ。

 腕人形の口をパクパクさせながら、イザベルさんが尋ねる。 
「お願いなの。ドラゴンのきぐるみを着ている理由を、ロバさんに教えてあげて」
 腕人形に目線を向け、パメラさんが小さく頷く。

「一流の獣使いになりたいから……」
 ん?
「どういうこと?」
 オレの疑問に、パメラさんが答える。

「あたし、みんなから愛されてるの」
「『みんな』っていうのは、モンスターや獣のことよ」と、イザベルさんがパメラさんの言葉不足を補う。

「みんな、あたしを可愛がってくれる……人間嫌いの仔も……暴れん坊な仔も……あたしには、キスしてくれる。抱っこしてくれる。でも……そんな愛され方、おかしい」
 パメラさんは、重いため息をついた。

「あたし、獣使いなのに……」
 そして、悲しそうに瞳を伏せる。

「主人として、支配してあげなきゃいけないのに……みんな、あたしを守ろうとするんだもん……産まれたばっかの子供みたいに扱うの、大切にしようとするの……」

 顔をあげ、パメラさんがオレへと微笑む。
「だから、ドラゴンになったの」
 え?

「私がそう助言したのよ」と、イザベルさん。
「ドラゴンは最強の生き物、モンスターの頂点に立つ存在ですもの。威厳あふれる主人を目指すなら、ドラゴンになりなさい、ってね」
 イザベルさんにではなく、腕人形の蛇に対し、パメラさんは頷く。

「あんた、この占い女にだまされてるんだよ!」
「あなた、この占い師に騙されているんです!」
 あいかわらず綺麗にハモるリーズとセリア。
 パメラさんは二人に対して、何の反応もみせない。

「で、ドラゴンのきぐるみ、効果ありました?」
 て、聞いてみたら、パメラさんは首をしばらくかしげ、それから小さな声で言った。
「かわいいって……みんな、褒めてくれる」
 駄目じゃん。

「占い師さんが、旅に出れば……一流の獣使いになれるって……今朝、連絡をくれたから、あたし……」
 ドラゴンのきぐるみの人が、すがるようにオレを見つめる。
「強くなりたい……連れてってくれる?」
 あどけない子供のような目だ。
 オレの胸がキュンキュン鳴った。
 モンスターがパメラさんを守りたがるのもわかるなー 何つぅか、ちっちゃな雛みたいで、ほっとけない感じなんだよ、この人。

「あなたは、もうオレの仲間です。一緒に旅をしましょう。オレもあなたが強くなるお手伝いをします」
 パメラさんの顔が輝く。萎れていた花が開いたようだ。美しい笑みに、オレのハートは更にキュンキュン鳴った。
「ありがとう! 大好きよ!」
 おぉぉ! 役得!
「ロバさん!」

 ですよねー。ピンクのロバですよねー。
 中の人など、居ない!
 うううう……

「質問します。あなた、ヒュドラにも愛されているそうですが、魔王戦で使役できますか? それとも、もっと強いモンスターを操れます?」
 セリアに尋ねられても、パメラさんは答えない。オレにしがみついてくるだけだ。

「だから、駄目よ、セリアさん。この子、人間が相手だと、怖くって話せないのよ」
 うふふと笑いながらイザベルさんが、セリアに蛇の腕人形を譲る。
「『スネちゃん』つけて。ちゃんと口をパクパクさせるのよ」
「え〜?」
 ひきつった顔で、セリアが手渡された紫の腕人形を見る。
「わ、私が、これを、ですか?」

「腕人形は嫌? あっちがいい?」
 イザベルさんがオレを指さす。
「セリアさん着る? ピンクのロバ、貸そうか?」
 セリアはメガネが外れそうな勢いで大きくかぶりを振り、スネちゃんを右手に装着した。
「腕人形をお借りします!」

「えっと……」
 右の掌を開いたり、閉じたり。
 蛇の口をパクパクさせる、セリアの頬は赤い。
「質問します……魔王戦で、どんなモンスターを使ってくれるんですか? ヒュドラですか?」

「頼めば、ヒュドちゃんも戦ってくれると、思う……」
 蛇の腕人形に対し、パメラさんが答える。
「でも、あの仔、お師さまの仔だから……」

「頼みづらいってわけね」
 イザベルさんの言葉にパメラさんは反応しない。今は、蛇の腕人形をつけていないからか。
 この女性(ヒト)、モンスターや動物としか話せないんだな。
 人間が話す場合、きぐるみか蛇の腕人形の助けがなきゃ駄目なのか。
……オレも『ロバさん』より、『スネちゃん』のが良かったなあ……

「我々は間もなく、幻想世界へ行く」
 と、お師匠様。
「魔法生物が生きている世界だ。ドラゴンもいる。おまえも共に来い。おまえの支配を望む獣と出会えるかもしれん」

 パメラさんが、ジーッとお師匠様を見つめる。
 白銀の髪、スミレ色の瞳。無表情だが作りもののように美しいお師匠様を、人間離れした綺麗なパメラさんが見つめる。

 そして、パメラさんは……
 お師匠様に対し、破顔した。
 童女のように、かわいらしく微笑んだのだ。

「行きたい……連れてって……」
「うむ。幻想世界へはおまえも伴おう」

 オレから離れ、パメラさんは満面の笑みでお師匠様に抱きついた。スリスリした。
 お師匠様が、ドラゴンのきぐるみに懐かれてる……

「何で会話できるんですか?」
 右手にスネちゃんをつけたままのセリアが、お師匠様に尋ねる。
 お師匠様は腕人形もつけてなきゃ、きぐるみも着ていない。

「連帯感からではないか?」
 お師匠様がイザベルさんに尋ねる。
「この者、人間が相手でも、師匠や兄弟子達は例外なのだろ?」

「ええ、同じ獣使いとは会話できています」と、イザベルさん。
「この子、兄弟子に連れられて私の占いの館に来たんです。スネちゃんは、その時、兄弟子の方からプレゼントされたんです」

「賢者様が、獣使い?」
 サラが不思議そうに尋ねる。お師匠様は賢者専用の白銀のローブをまとっている。そうは見えないと言いたそうな顔だ。

「賢者になる前は竜騎士だったのだ」
 お師匠様は無表情なまま、懐かしむような口調で語った。
「幻想世界で出会ったドラゴンと共に、魔王に挑んだのだ」

「へー そうだったんですか。最強の生き物を使役なさってたんですね」
 サラに対し、静かにお師匠様はかぶりを振った。
「使役していたわけではない。仲間だったのだ」

「そのドラゴンは、今は……」
 と、言いかけたサラをオレは肘でこづいた。
 何よ! って睨んできた幼馴染に、オレは目で合図を送った。

 サラは口元に手をあてて黙った。
 触れてはマズい話題なのだと、わかってくれたようだ。


 お師匠様の相棒フォーサイスは、魔王戦で死んだ。
 お師匠様の記した『勇者の書』には、魔王戦までは記されていないが……
 オレは知っている……





 リーズにルネさんにパメラさん、一日で三人が仲間に加わった。

 リーズの親父さんから旅に出る許可をもらう為、リーズとイザベルさんが一行から離れた。

 パメラさんは、お師匠様に夢中だ。ピンクのロバさんは圏外になってしまった。ちょっとだけ寂しい。
 少し話をしたい、とお師匠様はパメラさんの元に残り、他の者は馬車でオランジュ伯爵家に戻った。

 魔王が目覚めるのは、九十五日後だ。
 その時、オレは……
 死にたくないし、仲間の誰も失いたくない。
 そう思った。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№009)

名前 パメラ
所属世界   勇者世界
種族     人間
職業     獣使い
特徴     イザベルさんの顧客の一人。
       一流の獣使いを目指している。
       動物・モンスター達から必ず愛される。が、
       可愛がられてしまい、主人とは認められない。
       権威ある獣使いになりたいと相談して、
       ドラゴンのきぐるみを着るようすすめられる。
       気が弱い。人間と会話できない。
       彼女と会話するには『ロバさん』か
      『スネちゃん』の助けが必要。
       お師匠様とは普通に話せる。 
戦闘方法   獣をけしかける(はず)
年齢     二十
容姿     赤みの少ないブロンド、グレーの瞳
       ドラゴンのきぐるみ
       俺よりちょっと背が高い
口癖    『がお〜』『かわいい!』
好きなもの  モンスター
嫌いなもの  人間(嫌いというより苦手)   
勇者に一言 『………』
挿絵(By みてみん)
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