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ハーレム100 作者:松宮星

冒険世界

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いつも心に太陽を  【ヘレーン】(※)

 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと二十一〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 魔法の絨毯の上から、オレは見とれた。
 大きなトカゲの頭部に騎乗した、女性に。

 綺麗な子だ。
 黒い斑点のある毛皮のビキニで、こぼれそうなほど大きな胸とお尻を包んでいる。腰がきゅっとしまってるのもセクシー。
 なかなかのボンキュッボン。
 それでいて、顔は丸く目尻がさがっていて、童顔。あどけない感じがするところが、実に愛らしい。
 野生的な毛皮のビキニ姿なのに、色はものすごく白く、ブロンドの癖のある長髪。
 シンプルなデザインだけど、ふんだんに宝石を使ったティアラ・首飾り・腕輪も彼女の美しさを一層際立たせている。

《こんにちは〜♪》
 ニコニコ笑顔の女の子が笑い、オレらに手を振る。
 魔神ナディンから、叔母さまとして紹介された神様なんだが……溌剌としたその外見は、ナディンよりも若いように見えた。
《ヘレーンの庭にようこそ〜》

 オレ達は今……広大な空間に居た。
 地下のはずだ。
 しかし、穴を下っているうちに、唐突に周囲がまぶしくなり……
 気がつけば、広々とした野原に居た。
 見上げれば、青い空。白い雲と何故か太陽まである。
 空には鳥の群れが飛び、ずんぐりとした木の森では大トカゲがのんびりと草を食べている。
 遠くには、山や湖も見えるし……

《ここはヘレーン叔母さまの支配領域。亜空間なのよぉ》
 亜空間?
《大昔の地表を、地下に魔法で再現したのぉ。あの太陽もお空も、み〜んな魔法。地上とは逆転してるけどぉ、ちゃんと昼夜も四季もあるのよぉ》
 へー
《大災害で滅びるはずだった恐竜たちの避難場所として、叔母さまはここを産み出したのよぉ》

《大事なお友だちだから、いっしょに暮らそうと思っただけ〜》
 大きな生き物……恐竜というのか? それに乗っている女の子が騎乗獣を撫で撫でしながら、オレらへと話しかける。
《よかったら、私の自慢のお庭を見学してって。お昼ぐらい食べてくでしょ? 他じゃ絶対食べられない珍味を、ご馳走するわよ♪》

《ヘレーン叔母さまぁ、ごめんなさい。勇者くん達は急ぎ旅なのぉ。二十二日後が魔王戦で、まだ二十一人も仲間を探すのよぉ。時間がないのぉ。もう、もとの世界に還らないとぉ》

《あら〜 残念、ティラノ君にお肉をわけてもらったのに〜》
 心底残念そうにそう言ってから、ヘレーン女神がサラ似の魔神に尋ねる。
《でも、ナディンちゃんは、ゆっくりできるでしょ? プレシオのシオちゃん、覚えてる? 曾々孫が産まれてね》
《ごめんなさい、叔母さま。あたしぃ、まだ魔神だからぁ……》
 魔神に堕とされたナディンは、ランプに呪縛されている。今も髪の先が、銀の魔法のランプに繋がっているんだ。
《勇者くんの氷の精霊さんのお願いを聞き届けたら、勇者くん達と別れて次のご主人様に仕えに行かないとぉ……1万まで残り8970もあるしぃ》

 しょんぼりしているナディンと、悲しそうなヘレーン神。
 所有者は、ランプの精を次の主人に譲るのがルール。グラキエス様に次の主人をヘレーン様に指名してもらえば、ナディンもしばらくはここでゆっくりできるよな。

 北国でサンドラと氷の戦闘(バトル)中のグラキエス様を呼び寄せて三つのお願いをしてもらったら、やる事は終わる。もとの世界に帰還できるようになる。

 オレは、ドロテアへと視線を向けた。
「今、外は夜なんだよな?」
 何か言いたげにナディンを睨んでいた魔女も、オレには愛想のいい顔を見せる。
「はい。日付が変わるまで、まだ二時間ございます。ご希望通り本日中にご帰還できましょう」
「けど、あれこれ帰り支度してたら、あっという間に真夜中になるよな」
「……さようにございますね」
 ドロテアが、又、チラッと魔神を見た。

 オレはサラ達を見渡した。やれやれって顔でため息をつくサラ。にこやかなマリーちゃんとアナベラ。オレに頷きを返すジョゼ。リーズは我関せずで、そっぽを向いている。
 反対してる者は居ないようだ。
 オレはナディンの叔母さんに頭を下げた。
「ヘレーン様、よろしかったら半日ほど王国に滞在させてもらえませんか? 珍しいお料理をいただき、就寝できる場をお借りできればと思います」

《もちろん! いいわよ〜 恐竜ステーキをご馳走するわ〜! あと三葉虫の姿焼と、シーラカンスのマリネも!》
 ヘレーン様は笑顔となる。けれども、
《駄目よぉ、勇者くん、急いで還らないとぉ……》
 魔神はかぶりを振り、おろおろとオレを見た。
《百人集めないと、負けちゃうんでしょぉ? ね、還って。すぐに還ってぇ。お願いっ》
 本気でオレのことを心配してくれている……ほんと、いい奴。

「急いで還ったって、向こうで寝るだけだよ」
 オレは、サラ似の魔神に微笑みかけた。
「なら、一緒に飯食って、寝て起きて、こっちで朝食……じゃないかヘレーン様の国じゃ夕食になるのかな? それを食ってから別れたい」
《でもぉ……》
「オレがそうしたいんだ。ナディンやドロテアともう少し一緒に居たい。慌ただしく還るんじゃなくって、オレたちの為に心を砕いてくれた二人ときちんとお別れがしたいんだ」

 魔神が、顔をくしゃっと歪める。
 鼻から真っ赤になるところまで、サラに似てる。

 抱きついてきたナディンを受け止め、ポンポンと背中を撫でてやった。
 やわらかな体は、女の子そのもの。
 もとの姿がハゲ・ヒゲ・ムキムキのおっさんでも、構わない。
 ナディンは、オレの大事な仲間だ。『伴侶』だ。

「さすがは、ドゥルガー様の夫! お心が広い!」
 むっちんぼよ〜んな魔女が、魔神を押しのけるようにオレに抱きついてくる。
 ドロテアにとって、オレはイザベルさんのおまけだったはずなのに……今では、それ以上に大切にされてるように感じる。
 一緒に旅したからかな。
「私はアスラ八大将軍と呼ばれた女。戦闘はむろん、知略においても使い道はございます」
 ドロテアは、横目で魔神を見た。
「旦那様のお望みとあらば、いかような事とて叶えてみせましょうぞ。くだらぬ事であろうとも、困難な事であろうとも」
「え?」
「気がかりなことがあっては、仲間探しもはかどりませぬでしょう? さ、さ、遠慮なさらず、このドロテアにご命じください。旦那様のご命令とあらば、ハゲ男とて面倒をみてやりますゆえ」

 それって……

「ナディンの一万のお願いを手伝ってくれるってこと?」
「旦那様がさようお望みでしたら……」
 ドロテアが妖艶に微笑む。媚び媚びのその顔が、今日は逞しく見える。
「ドロテアがそうしてくれるなら、是非」
「では、魔神の解放を手伝いましょう」
 ドロテア、いい奴!

《おねえさまぁ……》
 魔神が泣きぬれた顔をあげ、魔女を見つめる。

「簡単なことじゃ。まずは知り合いと眷族のもとへ回り、その後、私が適当な人間をみつくろってゆく。ランプを与える前に三つの願いを言わせ、実現に時間がかかるものや不可能なものは変更させておく」
《そんな……》
「願いごとを言うた後、ランプを私に渡すよう命じてもおく。主人指名権を委託させておけば、私が次の主人を勝手に選べるからな」
《いいの、おねえさまぁ? 8970もあるのよぉ》
 ドロテアがフンと鼻で笑う。
「私に任せるがいい。8970などすぐだ」

《ああああ! ありがとぅ! おねえさまっ!》
 ナディンが、ドロテアにも抱きつく。

「誤解するなよ、ハゲ。私は貴様なぞには、微塵も情はかけておらぬ。全ては旦那様の為じゃ」
《はいっ! おねえさまっ!》
「ハーレムの先輩として、出来の悪い後輩の面倒をみるだけのこと」
《わかってるわぁん、おねえさま!》
 ナディンの頬をポロポロと涙が伝わる。
《でも、すっごく嬉しい……おねえさまとは、一緒にまだ旅を続けられるのねぇ》
「ナヨナヨしたハゲなど、私の好みではない。共に旅をしたとて面白くもないわ。八千九百七十をさっさと終わらせて、貴様とは縁を切ってやる」
《ああああ、おねえさま……ステキっ。格好いいっ。惚れちゃいそう。あたしが男なら、絶対、ほっとかないのにぃ〜》
 男でしょ、キミは……


 グラキエス様にお戻りいただいてから、精霊達も全員呼び出し、『ルネ ぐれーと・でらっくす』の中からとっておきを出した。
 文箱ぐらいの機械だ。
 ルネさんの新作『撮れルンです君』だ。
「即席絵画製造機械。現実の一瞬を切り取ったような絵を記録として残せるんだ」
 オレが教えた英雄世界の写メを参考に、エスエフ界で立体映像機械を研究して完成させたらしい。武器開発の合間の暇つぶしで作ったというから、驚く。

 オレは『撮れルンです君』をエクレールに手渡した。開発現場に立ち会っていた雷の精霊のが、オレよりこの機械に詳しい。

 まずはオートタイマー機能で、全員集合の絵を作った。
 オレが中央だ。
 ジョゼ、サラ、マリーちゃん、アナベラ、リーズ。オレの八体の精霊と、レイとアナム。ナディンとドロテアとヘレーン様。
 岩の上に設置した機械は『カシャッ』と音を立て、それからベーと四角い絵を吐き出した。
 その緻密な出来に驚いた。
 よくできていた。絵というよりは、現実を縮小した感じ。

「うっ! アタシ、目を閉じてる!」と、サラ。
《あら? 私、はみでていますね。もっと寄らないといけませんでしたか》と、七色ビキニのルーチェさん。
《きゃぁ! なに、これぇ! もうブスぅ! あたしってば、ちょーブス!》と、大騒ぎをしたのはナディンだ。

 全員集合の絵は三枚作った。
 全員揃って良い顔の絵はできなかったけど、三枚の内どれかでそれぞれ満足のゆく顔になっていた。

 エクレールが『ルネ ぐれーと・でらっくす』の中から『写せルンです君』を取り出した。
『撮れルンです君』の姉妹機械……いや、『君』だから兄弟機械か。
『撮れルンです君』で撮った絵の複製が出来る。エクレールに、みんなの分の複製を頼んだ。
 複製段階で、画像修整もできるらしい。暗すぎる絵を明るくしたり、被写体の髪や肌の色を変えたり、シミやシワを消せるのだとか。
 せっかく現実そのままの絵が作れるのだ。いじる必要なんてないと思う。
 だが、女の子達にとっては画像修整はとても重要なことみたいだ。エクレールを囲み、ああしてくれこうしてくれとナディンや精霊達が注文をつけていた。
 みんな、もとの絵のまんまですごく可愛いのになあ。

『撮れルンです君』は十二枚撮りだ。
 実は、まだ残り九枚も絵が作れるんだが……
 三枚は残しておきたかった。

『撮れルンです君』は素晴らしい出来だ。
 けど、ルネさんの発明品は何というか……非常にあやういバランスの上に成り立っている。神かがり的なインスピレーションに基づき、何となく作られてしまう。
 エスエフ界で知識を得たし、優秀な助手がついたから、もしかしたら変わったのかもしれない。
 それに、向こうにも『撮れルンです君』があるのかも。
 だが、しかし……
 オレは確信を持っている。
 ここにある機械がちゃんと動いているからって、他のもそうだとは限らない。ルネさんの機械は、いつ爆発してもおかしくないギリギリのバランスで動いているんだ。

……ごめん、ルネさん……信用してあげられなくって。
 オレ、どうしても勇者世界の絵も欲しいんだ。向こうに三枚分は持って帰る。

 冒険世界の仲間を優先に、絵を作る事にした。撮影係はエクレール。

 ドロテアは、本人希望でオレとのツーショット。

 ナディンは、オレとマリーちゃんとドロテアと一緒に撮りたがった。

 ヘレーン様は、オレとナディンと騎乗恐竜と。

 残り三枚。

 こっちで無理に作らなくてもいいかなあとも思ったんだけど、やっぱ欲しい。
 ので、わがままを言わせてもらった。
 ジョゼとサラとオレの絵が欲しい。
「喜んで……」
 うつむき加減のジョゼ。
「しょうがないわねえ」
 鼻を赤くしながらも、サラはOKしてくれた。

 恐竜達の森を背景に、義妹と幼馴染との絵を作った。
 はにかむように笑うジョゼ。ちょっぴりツンとした顔のサラ。まぬけな顔のオレ。
 いい絵が出来た。

 ドロテアがこう言った。
「貫禄あふれるお姿の絵が欲しゅうございます。旦那様の精霊支配者としての絵を是非」
 で、精霊達との絵を作った。撮影役は、サラ。エクレールから説明を聞いて、カチコチになりながらも撮ってくれた。
 ティーナ、マーイさん、アウラさん、サブレ、グラキエス様、エクレール、ルーチェさん、ソワ。八体の精霊達。
 迫力あるみんなに押されてるだけの絵になった。貫禄なんかない。けど、見てると顔がニマニマしてくる。みんな一緒ってのがいい。

 最後の一枚をどうしようかと思っていたら、ナディンからリクエストがきた。
《勇者くんだけの絵が欲しいわぁ。勇者の剣を構えたカッコいい姿でぇ〜》

 え〜

 そんな絵、嬉しくも何ともない。
 ドロテアも欲しいと言ったが、断った。

 代わりに、魔法の絨毯で旅したメンバーの絵にしてもらった。
 ジョゼとサラとマリーちゃんとアナベラとリーズ、ドロテアとナディン。
 全員集合より、絵が大きい。
 いい感じ。
 ぷるんぷるんのぷりんぷりんも、さっきよりアップだし♪

 ナディンは九枚の絵全部の複製を貰い、大事そうに胸に抱えていた。


 食事を終えた後、ちょっとだけヘレーン様のお庭を拝見した。
 ヘレーン様の騎乗恐竜にのっけてもらって、近くを遊覧した。
 見なれぬ植物が茂る自然の中を、でっかい恐竜たちが悠然と歩いている。
 あっちには何がいる、あっちの子はどういう特徴がある、ヘレーン様が嬉々として自分の庭の生き物たちを教えてくれる。
 ティラノなんちゃらという、でっかい肉食恐竜にもでくわした。頭がでっかくて鋭い牙のある、いかにも恐ろしげな恐竜だった。
《わたしと一緒だから平気〜 襲ってこないわ〜 近寄っても大丈夫〜 あ〜、でも、足元はダメ〜 視力弱いから踏まれちゃうわ〜》

 絶滅寸前だった恐竜の為に、ヘレーン様は地下世界に彼らが住みよい世界を創造したのだと言う。

《昨日までそこに居た子がいなくなったら、さびしーでしょ? それだけの理由よ〜 ここにいるのは、私と古代の生き物たちだけ〜》
「人間は居ないんですか」
《うん》
「話相手がいないと、お寂しくないですか?」
 お庭自慢もできないだろうし。
《うん、まあ。たま〜に誰か遊びに来てくれるから〜》
「あ、そうか。大昔の世界を保ちたいから、人間は受け入れないんですね」
《そーじゃないの。置いといても、恐竜たちの餌にしかならないからよ。とはいえ、超科学文明で武装した人間に恐竜たちを狩られのもムカつくし〜 私のお庭を大事にしてくれて、恐竜たちと共存できる……そんな戦士達なら住ませてあげてもいいけど〜 いないのよね》

 何かちょっぴり思い出しかけた。
 とても大切なこと。
 けど、思い出せない。
 モヤモヤしてたら、護衛として常にオレについていてくれる水の精霊が教えてくれた。
《ご主人様……そのモヤモヤは多分、ジパング界の鬼のことと思います》
 鬼?
《鬼の護り手であったミナモトハルナは言っていました。鬼達が人と暮らせなくなったら、よその世界へ転移させたいと》

 あ。

 そうか!

『異世界からの召喚及び転移の法が、一族に伝わっております。鬼達がこの世界でいよいよたちゆかなくなりましたら異世界に転移させたいのですが、勇者様の世界の神様は異世界人を受け入れてくださいましょうか?』

 ハルナさんは、シュテン達の未来を案じていた。
 鬼とは、精霊を先祖に持つ人間。特に精霊の特徴が濃いものが『鬼』として迫害されていた。

 オレの世界のきゃぴりん女神も、異世界からの移住者を受け入れている。お師匠様が言っていた。『純血を気にする方ではない、今までも異世界人を受け入れてきた方だからおそらく大丈夫だろう』って。
 オレらの世界なら、鬼達もそれほど不自由じゃないだろう。だが、余所から大量に移住者がくれば、それなりに摩擦もある。馴染むまでたいへんそうだ。

 しかし、ここなら……他に人間は居ない。
 鬼達は己の真の姿を偽らず、自由に生きていけるんじゃないだろうか。

 オレは恐竜の女神さまに、ジパング界の鬼達の事を話した。
 兄の主神の許可は必要だが、移住希望者ならば喜んで受け入れると、ヘレーン様はおっしゃった。

 オレらの世界にしろ、冒険世界のヘレーン様の地下世界にしろ、あくまで候補地の一つだ。
 何処に転移するかは、鬼達が決める事だ。
 けど、選択肢は多い方がいい。
 魔王戦で、この世界の事をハルナさん達に伝えよう。

 蒼天に太陽が輝いていた。
 現実では、今は真夜中。
 この世界の空に浮かぶのは、偽りの太陽だ。
 だが、恵みの光を注いでくれるし、あったかいし、何より美しい。
 偽物か本物かなんて、どうでもいい……そう思った。


 ソワに闇をつくってもらい、天幕でサラ達と眠った。

 寝る前に、ナディンに三つのお願いをして欲しいとグラキエス様に頼んだ。次の主人には、叔母のヘレーン様を指名して欲しいとも。
《よろしくってよ、ジャン。その後に魔女と旅をしやすくなるように、お願いもしておいてさしあげるわ》
 精霊は人の心が読める。口にしない事まで察してくれる。
《『主人が無い時は、魔女の指示に従え』、『所有者が次の主人を決めなかった時は、魔女に指名権を与えよ』……そんなところかしら》
 オレはグラキエス様に感謝した。
 で、ふと心の中で思った。サンドラ転移神との勝負はどうなったのだろう? と。
 グラキエス様は、軽蔑のまなざしでオレを見つめた。
《愚問ですわね。この私が負けるなど、ありえませんわ》
 じゃ、グラキエス様が勝ったのか……
 グラキエス様は、更に冷たい視線をオレに向けてくださった。
《私は精霊界の精霊。殺戮が好きな外の精霊とは違いましてよ。完膚無きまでに相手を叩き伏せるような下品な真似はいたしませんわ》
 てことは……
 ひきわけ?
 実力伯仲で、勝敗つかず?
《あなたには関係のない事ですわ》
 グラキエス様が、ツーンとそっぽを向く。
《ああ、そうでしたわ、ジャン。私を六日も氷と雪の世界に置くとは、あなたにしては上出来な配慮でした。おかげで、リフレッシュできましたわ。その点だけは、誉めてさしあげてもよろしくってよ》



 目覚めた時、グラキエス様の三つのお願いは終わっていて、ナディンの主人はヘレーン様になっていた。
 グラキエス様の三つ目のお願いは『サンドラ転移神に届けものをしてもらう』だそうで。何のかんの言って、同じ氷の精霊同士、仲良くなったのかな?


 オレは『勇者の書 61――アリエル』を地面に置いた。

「ドゥルガー様によろしゅうお伝えください」
 ドロテアが、オレに色っぽく微笑む。

《勇者くん、聖女ちゃん、みなさん、どうぞお元気でぇ〜》
 笑顔で見送ろうとしてるんだろうけど、ナディンはひどくゆがんだ顔をしていた。ちょっとつっつくと、わんわん泣きそうな顔だ。

「魔王戦で〜 また、お会いしましょ〜ね〜」
 マリーちゃんが手を振ると、ナディンは口元を押さえ懸命に頭を縦に振っていた。泣きだす寸前の甥の背を、ヘレーン様がそっと抱きしめる。


 オレは帰還の呪文を唱え始めた。
 今までオレと共に呪文を唱えてくれた女性(ヒト)の姿を心に浮かべながら。


 魔王が目覚めるのは、二十一日後だ。


 書を中心に、魔法陣が浮かび上がる。
 もう少ししたら魔法陣は白くまばゆく輝きだす。まず本を飲みこみ、それからオレ、次に背後の仲間達をもとの世界へと運ぶのだ。


 八日間でさまざまな場所を旅し、八人の仲間を増やした。
 真夏のオリーブ畑、吹雪の北国、灼熱の砂漠、仙人のお店、マスターオブNINJAのいる国、情熱のダンスの国、獣達の王国、地下世界……
 冒険世界の者が協力してくれなきゃ全ては回れなかったろうし、ジョゼ達の支えがなきゃオレはまだ落ち込んでいたろう。

 オレが旅できたのは、仲間達のおかげだ。

 一人一人を心に浮かべながら、オレは……
 冒険世界に別れを告げ、ジョゼ達と共に、もとの世界へと還っていった……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№079)

名前     ヘレーン
所属世界   冒険世界
種族     神族
職業     恐竜の女神?
特徴     ナディンの叔母。
       太古の生き物を地下世界に棲ませている。
戦闘方法   恐竜に騎乗して戦うのかな?
年齢     きっと数万歳。
容姿     丸顔で目尻が下がった童顔。
       けど、なかなかのボンキュッボン。
       黒い斑点のある毛皮のビキニで、こぼれそうな
       ほど大きな胸とお尻を包んでいる。
       色はものすごく白く、ブロンドの癖のある長髪。
口癖    『自慢のお庭』
好きなもの  恐竜・自分の庭を案内すること
嫌いなもの  大好きなものが滅びること
勇者に一言 『私の自慢のお庭を見学してって』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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