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ハーレム100 作者:松宮星

冒険世界

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三つのおねがい   【ナディン】(※※)

《はじめまして、恥知らずな精霊界の精霊。私はサンドラ。雪と氷を統べています》
《はじめまして、殺戮がお好きな外の精霊。(わたくし)はグラキエス。氷の精霊ですが、雪も操れましてよ》

 同族に挨拶したいんじゃないかと思って呼び出したんだが……
 グラキエス様が出現した途端、サンドラとグラキエス様の間にもの凄い雪嵐が吹き荒れ始めた。

 もしかして、仲悪い……?

《そりゃそーよ。生き方が違うもの》
 風の結界を張るアウラさんが言う。
《あたし達は精霊界から外に出たいから、すすんで精霊支配者のしもべになるわ。けど、他の世界の精霊は違う。しもべとなり人間に使役されるのを、恥と考えるのよ》
 精霊界の精霊は、精霊支配者に対したいへんフレンドリーだ。
 だが、精霊界が特殊なわけで。他の世界じゃ、精霊たちは、精霊支配者と支配をかけて命がけのバトルをするのが普通なんだ。

 七色ファーのドレスを着たルーチェさんも教えてくれる。
《あのサンドラって方はグラキエスを『精霊支配者に従う情けない精霊』と見下し、グラキエスはサンドラを『血に飢えた無慈悲な精霊』と軽蔑しているのです。決して交わらない線と線ですね》

 両者、睨みあったまま動かず。
 裸な女王様と、お姫様ファッションのお嬢様な女王様。
 二体の間を、ゴーゴーと風が吹き抜ける。

 寒いのが苦手な盗賊が、更に縮こまる。アウラさんの結界内に居るし、炎のティーナが熱を発してくれてる。オレらの周囲はあったかいんだけど。
 リーズの横でも、体を震わせている者が居る。
 マリーちゃん?
 ほんわか聖女様が、右手を口元にあて、大きな目を見開いてグラキエス様達を見つめている。顔色が悪い。
 強い風に舞い散る雪を、震えながら見つめている……

「大丈夫ですか?」
 オレがそう尋ねると、マリーちゃんはビクッと体をすくませた。
「勇者さま……」
「顔色悪いですよ」
 マリーちゃんが、口元に微かに笑みを浮かべる。
「そう、ですか? ちょっと、疲れたのかも、しれませんね〜」
 む。
 またか。
 マリーちゃんは、ほわほわ、ぽよぽよで、おっとりとしていて可愛い。
 そこに居るだけで皆を癒してくれるし、仲間のことを気づかってくれる優しい女性だ。
 なのに、自分の弱味は見せたがらない。
 そんな陰がある顔をしてて、何もないわけない。

 オレから視線を外し、マリーちゃんは自分の小さな右の掌をジッと見つめる。で、ゆっくりと右手を結び、それからゆっくりと開く。時々、マリーちゃんがやっている癖だ。

 掌を見つめる顔が、せつなそうだったんで……

 オレは横から、その右手をそっと握って包み込んだ。
 マリーちゃんが、驚いてオレを見る。
 野郎が尼僧さんの手を握っちゃいけない気もする。でも、オレが落ち込んだ時、マリーちゃんは手を握って励ましてくれた。
 今はオレの番だ。

「大丈夫ですから」
 何がかはわかんないけど、とりあえずそう言っとく。
「オレもみんなも、マリーさんと一緒にいますから」

「勇者さま……」
「吹雪が苦手みたいですね。移動します」

『オレ達は別所に行きます。けど、気にせず、すっきりするまで語り合ってください。四散だけ避けてくだされば、何なさってもいいですから。もとの世界に還る時にはお知らせしますね』とオレは心の中で思った。

 思念を読み取った二体の氷の美女が、オレへと視線を向ける。
《よろしくってよ、ジャン。少しは物分かりが良くなったようですわね。躾けた甲斐がありますわ》
 これからも私の犬として精進なさいと、グラキエス様がオホホホと華やかに笑われる。
《異世界の勇者。客人を歓待しないのは、私の方針(ポリシー)に反します。仲間探しに来たのでしたね? あなたに私の信者を紹介しましょう。力のある女達です。ドロテアに居場所を伝えておきましょう》
 この地の支配者として、寛大なところを見せてくれたようだ。オレはサンドラに礼を伝えた。

 グラキエス様と雪と氷の女王は、これから戦闘(バトル)になだれこみそうだ。

 つないだ手が、ぎゅっと握られる。
「ありがとう、ございます……勇者さま」
 目が合うと、マリーちゃんが、ほわ〜と微笑む。小さな子供みたいな、あどけなさのある笑顔だ。
 オレも、聖女様に笑みを返した。


 んで、ドロテアの移動魔法でサンドラ推薦の女性達に会いに行ったんだが……
 仲間は増やせなかった。

 可愛い巫女さん、綺麗な僧侶、格好いいバイキング戦士だったんだが……
 ジョブ被りしたんだろう。
 ジパングと北方じゃ、巫女さんの見た目も神秘の力の使い方もぜんぜん違うんだがなあ。
 僧侶も既婚だし。
 バイキング戦士は名前からして、アナベラ達と違うのに。

 神様のジョブ分け基準が、わからない。

 萌えられそうな相手に、数多く会ってゆくしか手はなさそうだ。





 日が沈んでから、ドロテアの城に戻った。

 食事の席で、お色気魔女はしゅんとしていた。
「転移神の友人は、全て紹介してしまいました。ハーレムをご用意できず、誠に申し訳ありませんでした」
 ドロテアは、萌え美女をちゃんと紹介してくれた。仲間枠入りしなかったのは、オレと神様の問題だ。気にしないでくれと答えておいた。
「あああ、慈悲深い! さすがドゥルガー様の夫!」
 感激し、抱きつくドロテア。ぼよんぼよんの爆乳を、顔に押しつけてくる。
 うぉぉぉぉ……
 やっぱ、すげぇ!
「明日より、噂を頼りに世界巡りをいたしましょう。強くて美しいと評判の女は、世界各地におります。お気に召す女も、きっとおりましょう」


 部屋でそろそろ寝るかなと思ったら、扉がノックされた。
 まさか、寝室出張サービスか? ドロテアが余計な気を回した?
 おそるおそる扉を開けると、サラとジョゼが居た。

「寝る前に紅茶はどう? アタシが淹れたげる」
「あの……果物などいかがでしょうか?」
 紅茶セットにしろ果物籠にしろ、オレ用の部屋にも準備されている。紅茶も果物も口実だ。
 二人は、にこやかな笑顔だ。けど、つとめて明るくしてくれてるんだろう。
 今日は十人に萌えた。しかし、仲間にできたのは一人だけ。

 オレが落ち込んでるんじゃないかと心配し、元気づけに来てくれたわけだ。

 情けない姿も見せちゃったしなあ。
 反省しつつ、幼馴染と義妹を部屋に招き入れた。

 サラの淹れてくれた紅茶を飲みながら、三人で昔話をしたり、これからの事を話したりした。
 紫の小鳥とぬいぐまをひっこめてくれてたんで、オレもマーイさんに遠慮してもらった。久しぶりに三人だけで話した。

 ふと、今日のマリーちゃんのことが話題にのぼった。
「マリーさん? 吹雪が苦手なんでしょ? 氷界でもそうだったじゃない」
 サラにそう言われ、そうだったけ? と、オレとジョゼは首をかしげた。
 氷の精霊達との戦闘中、マリーちゃんはいつものアレな防御結界を張ってくれていた……それぐらいしか覚えてない。
「闘技場で、あんた達は前で戦ってたもの。アタシは魔法担当で、一緒に後ろに居たから」
 そうだったのか……あの頃は精霊の使い方がわからなくって、余裕なかったしな……マリーちゃんに注意を払ってなかった。
「まったく駄目ってわけじゃないんだけど、吹雪が激しくなると心が乱れるんですって。あの時は、賢者様が……」
 言いかけて、サラが口元を覆う。しまった! って顔してる。
 思わず笑っちまった。お師匠様の名前が出たぐらいじゃ、ナーバスにならないのに。
「お師匠様がなに? 何かしたの?」
 鼻の頭を赤くしながら、サラは口元から手を離した。
「……『私が居る。おまえは一人ではない』って何度か声をかけて励ましてたわ」

 お師匠様とマリーちゃんは、神様仲間だ。
 神様を降ろせる女性は、お師匠様とマリーちゃんの二人だけ。神様の紹介で知り合ったんだって、前にお師匠様は言っていたが……

 む。
 何か、ひっかかった。
 大切なことを何か忘れてるような……

 頭をひねった。が、結局、思い出すことはできなかった。





 ドロテアの魔法で『お強くお美しい』と評判の方がいるはずの所へと移動し、そこに居なかったら付近を探索して噂の主を探した。

 だが、噂ってのは、けっこうアテにならないものだ。

 お強いって噂なのに、構えからしてなってない女剣士。
 お美しいって噂なのに、個性的すぎる外見の軍人。
 一部のマニアなら喜ぶだろう、ドーンとふくよかな神官。
 昔は美しかったのかもねってな、シワクチャなバアさん呪術師。

 萌えようがない……
 萌えて仲間にできないのもがっかりだが、萌え自体がこないのも困りもの。

 冒険世界に旅立つ前、セリアに言われた。
『良き出会いが可能でしたら……どうぞなるべく多くの方を仲間にお加えください。裏世界は海のものとも山のものともつきません。戦闘力皆無の女性しか存在しないかもしれないのです』
 仲間探しをあきらめて還ったところで、次の世界への行き方は研究中かもしれない。だったら、動けなくなる。
 なら、ここで粘った方がマシだ。
 七日は頑張ってみて、日数分以上の仲間を増やしたいところだ。

「あち〜 なんで、また灼熱?」
 暑いのと寒いのが交互なんて勘弁! と、生意気盗賊が不平を漏らす。
 オレらは、今、砂漠のド真ん中に居た。
 ギラギラの太陽が照りつける砂漠は、四方が砂の海。熱さのあまり空気までゆらいでいる。

『ここらに昔の知り合いが居ります、少々お待ちを』と言ってドロテアが消えたので、その帰還を待っているのだ。
 結界はアウラさんに、涼風と水蒸気はマーイさんに任せた。アウラさんのアイデアで土のサブレに屋根つきの固い砂の壁をつくってもらったんで、直射日光は防げている。
 暑い事は暑いが、耐えられる。
 グラキエス様がいらっしゃれば冷風がいただけて更に涼しくなるんだが、まだお戻りになっていない。北国で寒い戦闘(バトル)中なのだろう。

「おまたせいたしました、旦那様!」
 移動魔法で、砂漠にドロテアが出現。
 一人だった。昔の知り合いは連れて来られなかったのか?
 急いで来たせいか黒髪が、ちょっぴり乱れている。
 魔女はお色気たっぷりに微笑んで、銀製品をオレへと捧げ持った。ティーポットに似た形。二本の槍が交差した紋章が入っている。
「昔の知り合いをじっくりねっとり説得いたしまして、譲ってもらいました。どうぞお使いください」
「なに、これ?」
「魔法のランプにございます」

 魔法のランプ?

「どんな願いでも、三つ叶えてくれる魔法道具(マジック・アイテム)です」
 おお!

「けど、どういう仕掛け?」
 願いを叶えてもらったら、悪魔に魂を奪われるとか嫌なんだけど。

「魔神が中に封じ込められておるのです。強大な力を持ったそれを、所有者が使役できるのでございます」
「魔神って、魔族?」
「いえ、神族です。この世界の主神様に反逆し敗れたもの、それが魔神にございます」
 へー
「魔神に堕とされた神族は、お仕置きにランプや壺やらに封じられるのです。ここに紋章がございましょう?」
 ランプには、二本の槍が交差した美しい紋章が刻まれている。
「この世界の主神様のお印にございます。主神様のお怒りを静める為、魔神は主神様に代わってこの世界で一万の奇跡をおこさねばならぬのです」
 一万……
「器に触れた者の願いを叶えることで、奇跡を起こせます。なれど、一人から聞ける願いは三つまで。少なくみつもっても3334人の願いをかなえねば、自由になれぬということです」

「……どんな願いでも叶えられるのか?」
 石化したお師匠様の姿が心に浮かんだ。
「うたい文句はそうです。しかし、魔神の能力にみあわぬ願いは無理です」
 む?
「主神様を侮辱する願いは無理、世界の常識を覆す願い……永久の命が欲しいだのの類も無理。又、よその世界での奇跡はノーカウントです。この世界の主神様の偉大さを広める為に、魔神に奇跡代行をさせるわけですから」
 むぅ……
 お師匠様の石化を解いて欲しいとは願えないのか……

「じゃ、その魔法のランプで何をしろと?」

「ですから、」
 ドロテアがニコニコ笑う。

「魔神を伴侶の末端に加えた上で、仲間探しを手伝わせるのです」

 へ?

「ランプに触れてみてくださいませ。願いを叶えに、魔神が現れますゆえ」
「魔神って女なの?」
「男でもあり女でもあります。所有者の望みのままに姿を変えますから」
「けど、封印される前はどっちかの性別だったんだろ?」
「まあ、そうですね」
「このランプのは、どっちだったんだ?」
「旦那様」
 ドロテアが、うっふんと笑う。
「信じる者は救われるのです」

 はい?

「この地のスケベ男神の所有ランプから、もっとも戦闘力の高い魔神のランプをいただいて来たのです。このランプこそ当たり! 中身は女! 男の姿で出てきても本当は女! そう信じておけば良いのです!」
 え〜

「この世界の外じゃ奇跡を起こせないんでしょ?」
 サラが、お色気魔女に尋ねる。
「そんな奴、魔王戦で戦えないんじゃ?」
「魔神自らの意志で異世界へ行く事はお許しくださらぬであろうが、」
 サラには愛想の無い言い方で、ドロテアが答える。
「旦那様の勇者の力で召喚されて行くのなら問題ない。この地の神様もお怒りになるまい。旦那様のお望みのままに、魔神は全力で戦えるであろう」
 なるほど。

 仲間欄に、魔神はいない。
 ランプの精もいない。
 虜囚もいない。
 しもべもいない。

 神様のジョブ被り制限に、多分ひっかからない。仲間にできるような気がする。
 だけど……もと男だったら嫌だなあ。
《そこに拘るの? あたし達も半分男みたいなもんだけど?》と、アウラさん。
 いや、精霊は最初から性別がない。だから、いい。
 けど、男が女に化けてて……それにキュンキュンきちゃうのって……アブノーマルすぎ。絶対、嫌だ。
 アウラさんがケラケラ笑う。
《だいじょーぶ。もと神様なら、肉体的に完璧な女になれるわ。性転換した男の()と思えばいいんじゃない?》
 アウラさんは、大爆笑だ。
 他人事だと思って……
 マーイさんはオレのこと心配してくれてるっぽいが、サブレまで《ご主人様……しょぼーんとなさってるお姿が、みじめったらしくてス・テ・キ。私、そっちの趣味ないのに、目覚めてしまいそう》とかうっとりして言うし。
 くそ。

「魔王が目覚めるのは、二十六日後……」
 そっぽを向いているリーズが、ポツリとつぶやく。

 ぐ。

 わかったよ!
 萌えりゃいいんだろ、萌えりゃ!
 ちくしょう!
 もと男でもとびっきりの美女に化けてもらって、萌えてやるよ!

 オレはドロテアの手から、魔法のランプを奪い取った。
「側面をこすれば魔神がでてきます」
 よぉ〜し!

 しばらくすると、ティーポットの注ぎ口みたいなところから白い煙が出てきた。
 それは、もくもくと広がり……
 上空へと広がってゆき……
 まるで入道雲のように巨大となって……

 巨大な人間となった。
 デカい……
 魔界の王よりは小さいけど、ゾゾと同じかそれ以上の大きさ。
 胸を張り、偉そうに両腕を組んでオレを見下ろしている。

《魔神ナディンにございますぅ。何なりとご命じくださいっ、ご主人様》
 魔神は、ハゲでヒゲな、筋肉ムキムキの、中東風の濃ゆいおっさんだった……

 男の娘……?

 伴侶……?

 オレは魔神を見つめた。
 何というか……頭はテカテカで、全体的に油ぎってる。
 ハゲなくせに、腕とか胸とかにびっちり毛が生えてて、ひたすら濃い。
 ぶっとい眉、ぎょろりとした眼、鷹のような鼻、ぶ厚い唇、口ヒゲ、顎ヒゲ。
 逞しい胸の筋肉が動いている。
 ぴくぴくと……
 ぴくぴく……

 無理! 無理! 無理!

 オレの体を、幼馴染と義妹が揺さぶる。
 しばらくしてようやく、ちょびっと正気に戻った。
 そうだ、変化してもらやいいんだ。
 女になってもらえば、きっと萌えられる……おそらく……どうにか……もしかしたら……

 あああああ……
 お師匠様、オレ、頑張ります!

「最初のお願いです! オレがキュンキュン萌えられる美女になってください!」
《承知っ!》

 魔神は変化した。
 いろんな美女に。
 中東風から、東国風、金髪美人に赤毛娘。ボンキュッボンからそれなり、慎み深い凹凸の少ない子までいろいろ。
 ビーズの胸当てと、太ももから足元にかけて大きな深いスリットの入ったサテンのスカート。衣装もセクシーだ。

 首が疲れると文句を言ったら、人間サイズまで縮んでくれた。

 よく見れば、どんな姿になろうとも必ず魔法のランプにつながっていた。髪や足の先などが注ぎ口みたいな所にくっついている。ランプから離れられないんだ。

 そのうち魔神は、オレの仲間達によく似た女に化け始めた。
 ジョゼ、サラ、マリーちゃん、リーズ、アナベラ、ドロテアもどきとなる。

 だが、しかし、オレの萌えツボはキュンとすらしない。

 もとがアレだったからな……美女になってくれても盛り上がらない。

《ああああ、これも、駄目ぇ? どうか、萌えてください。後生にございますぅ》
 スタイルはアナベラ、顔立ちはちょっとサラに似た感じ、黒髪ストレートな髪はジョゼそっくり、全体の雰囲気は小悪魔風の魔神。両手をすりあわせ、オレに懇願する。
 いや、まあ、かわいいんだけど……
 うぅぅ……

 魔神の目から、ポロポロと涙が落ちる。
《一つでもご主人様の願い事を叶えられないと……あたしぃ、永遠にランプから出られないんですぅ》
 え?

 魔神が、さめざめと泣く。
《143年かけて、まだ979しかお願いごと叶えてないんですぅ。ここ86年、トンチキ神のコレクションにされちゃって、誰のお願いも叶えられなかったしぃ……》
「じゃ、一万まで、まだ」
《9021も残ってるんですぅ……一生、終わらないんじゃないかって、もう気が遠くなってますぅ……どうか助けると思ってぇ、萌えてください……》
 う。
《それから残り二つ、パパーッと叶えられるお願いごとを言ってください! 是非っ!》
 ぐ。
《お願いしますっ! まだ9021もあるんですぅ……》

 うつむいた魔神の目から涙が落ち、砂地へと吸い込まれてゆく。

 かわいそうかも……

「数をこなさなきゃいけないってつらいよな……」
《わかってくださいますぅ?》
「うん。オレ、百日で萌えな彼女を百人仲間にしなきゃいけない勇者なんだ。萌えたからって必ず仲間にできるわけじゃないし……二十六日後が魔王戦で、あと27人なんだ」
《すごぉい! あともうちょっとですねっ! 頑張ってくださいっ! きっと、できますよぉ!》
「ありがとう!」
 いい奴!

 いい奴だけど……

「君さ……ほんとのとこ、男? 女?」

 魔神ははじかれたように顔をあげ、上目づかいにオレを見て、ぷぅ〜と頬をふくらませた。
《男だなんて、ひっどぉ〜い。あたし、女なのにぃ!》
挿絵(By みてみん)

 女……

 サラ似の魔神ちゃんが、拗ねて唇をとがらせる。頬ばかりか、鼻のてっぺんまで赤い。

 赤い鼻がキュートだった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと二十六〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 萌えた……

 萌えられた!

 よっしゃ!
 魔神ちゃんは女の子だったし、何の問題もない!

《本当ですよ〜 あたしぃ、生まれた時からぁ、心はず〜と乙女なんですからぁ》

 え?


 魔王が目覚めるのは、二十六日後だ。


 今……
 なんか聞こえたような……

 いや!
 なんも聞こえなかった!

 幻聴だ!
 絶対、そう!
 オレは、そう信じる!


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№074)

名前     ナディン
所属世界   冒険世界
種族     魔神
職業     ランプの精
特徴     もと神様。冒険世界の主神様に負け、
       罰としてランプに封じられている。
       冒険世界には封印された魔神が
       いっぱい居るらしい。
       一万の願いごとを叶えると、
       ランプから解放される。
       一人から聞けるお願いは三つまで。
戦闘方法   不明。でも、戦闘力は高い。
年齢     きっと数百歳。
容姿     今はサラ似の顔、アナベラ似の体、
       ジョゼに似た黒髪ストレートの美女。
       本当の姿も女。絶対、女。それ以外は認めない!
口癖    『どうか助けると思ってぇ、××してください……』
      『まだ××××もあるんですぅ……』
好きなもの  願いを言ってもらうこと。
嫌いなもの  お願いをしてもらえないこと。
       難しいお願いをされること。
勇者に一言 『頑張ってくださいっ! きっと、できますよぉ!』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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