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ハーレム100 作者:松宮星

冒険世界

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魔女の微笑み    【ドロテア】(※)

 地面に落ちていた『勇者の書 61――アリエル』を拾い、腕で目元を覆って天を見上げた。
 肌が焼かれるような痛みを感じる。

 カンカン照りだった。

 ギラつく太陽。
 白い雲の浮かぶ青い空。
 どこまでも続く赤茶けた褐色の大地。
 遠くに背の低い木々が見えた。が、周囲に民家はない。日陰もなく、乾いた大地に、強い日差しが降り注いでいるだけだった。

「あち〜 この世界、真夏?」
 リーズとアナベラが荷物の中から、サッサとフードマントを取り出す。旅慣れてるだけあって、用意がいい。

 こんな痛いほどの日差しを浴びていたら、日焼けして真っ赤にひぶくれそうだ。
 オレのマントは背装備だ。フードはついてない。仕方ないんで、外して頭から被った。

 ジョゼは雨除け用のコートを被り、サラは魔術師の衣装のフードを目深にかぶり直した。
 修道女のマリーちゃんは、全身真っ黒だ。布が熱を吸収して、よけい暑いんじゃないかな。

 霧雨を感じた。
 空気中の水分に潜んでついて来てる水の精霊が、オレらの周囲を水蒸気で潤してくれてるんだ。
「ありがと、マーイさん」
 いいえと声が返る。姿は見えないけど。

 とりあえず、緑を目指す事にした。
「冒険世界って、南国なわけ?」
 リーズの問いに、そういうわけじゃないと答えた。

『勇者の書 61――アリエル』によると、冒険世界は、多種多様な国々が乱立する世界。たまに戦争をすることもあるけど、基本的には仲がいいらしい。
 国ごとに、地形も気候も信仰もさまざま。
 オレらが転移した場所は、たまたま暑い所だった。けど、よそは涼しかったり、寒かったりするはずだと答えておいた。

「どーせなら、女がいっぱいいるとこに転移しろよ。女どころか、犬っころ一匹いねーじゃん」
 リーズがブツブツ文句を言う。
「何処に出現するかは、この世界の神様がお決めになる事だ。崖っぷちに出て、嵐の海の中に落っこちなかっただけマシだろ?」
「嵐の海のがマシ。このくそ暑い中、歩く方が地獄だよ」
 いっぺん落ちてから言えよ、そーいうセリフは! ……と叫びたかったものの、幻想世界のアレは語りたくない過去だ。とりあえず黙っておいた。

「精霊使ってどーにかなんない? 移動速度あげるとかさー 氷の精霊で冷気ビュービューとか」
 ああ、そうか。
 風の精霊に頼み、オレらの周囲を結界で包んでもらう。
 風の精霊は風から風に渡れる。行った事のある場所か、知覚できる範囲しか跳べないんで長距離移動は無理だ。
 けど、風に乗ってあっという間に木々のある所まで行き着けた。
 オリーブ畑だ。延々と続いている。

「冷気は?」
 と、聞いてきたリーズに、
「ここまで来れば村も近そうだし、必要ないだろ」
 と、答えた。
 正直……その程度のお願いでグラキエス様を呼び出したくない。今、グラキエス様はむちゃくちゃ機嫌が悪い。オレが精霊達を下僕扱いしたからだ。
 ニノンを殺せと命じたオレが悪いんだ。時間をかけて、きっちり謝らねば。

 文句を言ったわりに、リーズはさほど辛そうじゃない。
 けろっとした顔で、ジョゼやサラに水を飲めと促してる。
 お師匠様が居ないんで、『異次元倉庫』も利用できなくなった。着替えや道具、それに非常食料や水は各自が携帯している。オレらの世界から持って来られた物は、さほど多くない。水を惜しむ気持ちも働きやすい。
 けど、水の精霊やマリーちゃんが一緒なんだ、水は生み出せる。節約の必要はない。
 具合が悪くなる前にちゃんと飲んどけよと、うるさいぐらいにリーズが言う。

 リーズはまだ十四だが、旅慣れてるし常識がある。オレよか、しっかりしている。


 今朝、冒険世界に旅立つ前に、リーズがオレに剣袋をくれた。飾り気のない黒くて地味〜な袋だ。
 旅の間、剣を袋の中にしまっておけとリーズは言った。
 けど、袋の中に入れとくんじゃ、袋の紐を解かなきゃ剣は抜けない。とっさの時に戦えない。
 そう文句を言うと、リーズはチッと舌うちをした。
『キンキラ剣をみせびらかして歩く気かよ? あっという間に()られるぜ』
 ドワーフのケリーさんが鍛えてくれたオレの剣は、非常に豪華だ。伴侶達の美しさを表す宝石が柄と鞘に十二もついてるし、柄頭のドラゴンや鞘の模様も美麗。見た目だけでも、充分に盗賊に狙われやすい。その上、魔法剣なんだ。剣身もキラキラ輝いていて、振ると軌跡がしばらく光る。
『袋被せときゃ、安全だ。あんたがお宝持ってるたぁ、ふつーの盗賊は思わねーもん。いいか? お宝持ってるからって、ビビるなよ。不自然な態度とってると、目ェつけられかねねえ。木剣を持ってるとでも思いな』
 いざって時に使いなと、ナイフまで貸してくれた。
 今、オレは腰に袋入りの剣とナイフを差している。


 炎天下を歩く事に文句を言ったのも、ジョゼやサラ、それに黒ずくめのマリーちゃんの体力を気づかったからだろう。
 見習うべき……だな。
 グラキエス様に嘲笑されてもいい。みんなの体力を維持する為に、冷風を送ってもらおう。
 そう思った時、
「村があるよー」
 アナベラの明るい声がした。
 アナベラが顔を向けてる方角を見ても、延々とオリーブ畑が続いているようにしか見えないが……

「とりあえず、精霊ひっこめな。透明化でもいいけど。あ〜 でも、」
 リーズがオレの顔を覗き込んで、ジーッと見る。顔はかわいいんだ。ライトブラウンのショートヘアーは柔らかそう。大きなヘーゼルの瞳は小鹿のように愛らしい。
「冒険世界ってのは、精霊支配者けっこう居るの?」
「わからない。でも、精霊支配者が王様の国もあった。国によるんじゃないかな?」
「へー じゃ、尊敬されるか恐れられるかは国次第か。ま、いーや。一応、ひっこめといて。精霊支配者がいい目みられそーな国だったら、偉そうなお貴族様っぽく振舞ってくれ。実力者の方が、便宜図ってもらいやすいからさ」
 はあ。
「んじゃ、斥候するわ。アナベラ、ちょいとだけ遅れてついて来て」
「はーい」
 リーズが背の荷物をポーンと相棒に投げ渡し、走って行く。すげぇ速い。

「さすが一流の盗賊ね」
 その背を見送りながら、サラがポツリとつぶやく。激しく同意。素早いし、頭の回転が速い。
「見習いたいです……」
 水筒を口に運びながら、ジョゼがため息をつく。貴族令嬢のジョゼに、炎天下の移動は辛かったか。
「いい子だよ、リーズは」
 えへへと笑ってアナベラが相棒の後を追う。フードマントで太腿あたりまでを覆ってるから、ビキニアーマーも今は隠れている。村に行っても露出狂で捕まることはないだろう……多分。

《おにーさん、あたし、透明化するわ》
 薄緑色のベールでスレンダーな体を覆った風の精霊が言う。
《グラキエスを呼び出す? なら、彼女も透明化してあげるわよぉん》
 オレはサラとジョゼとマリーちゃんを見渡した。
「……そうしようかな」
《素直が一番》
 アウラさんがケラケラ笑う。
《つまんない用事だろーが、必要なら精霊を使いなさいね。遠慮される方が、あたし達的にがっかりなんだから》
 氷のグラキエス様を呼び出した。
 見事な巻き毛もドレスも、青みがかった白。グラキエス様は眉をひそめ、ツーンとオレから顔をそむけた。
《この程度の日差しでダウン? 軟弱ですこと》
 文句を言いながらも、グラキエス様はオレ達を冷気に包みこんでくれた。
《でも、(わたくし)を頼ったことだけは誉めてさしあげますわ。私はとても有能ですのよ、些事から大規模な戦闘までこなせますもの。私を崇め称えるのでしたら、これからも力を貸してあげてもよろしくってよ》
 そっぽを向いたままグラキエス様がおっしゃる。
 オレは感謝の気持ちを伝え、頭を下げた。


 村人は、オレらを歓迎してくれた。
 オレが精霊支配者だからだ。
 白い石造りの村。村長の家で、オレらはご馳走をふるまわれた。

 先行したリーズとアナベラは、オレの従者役を演じていた。
『その方が都合がいいの。村人から話の裏の裏を聞きだしやすいしね。オレは従僕で、アナベラは奴隷剣士ね』
 建物の中なんで、アナベラはフードマントを外していた。大事なとこをほんのちょびっとだけしか隠さないビキニアーマー姿は、オレの趣味って事にされたようだ。
『あんたと格闘家のねーちゃんは、精霊支配者とその女房。ふんぞりかえってろ。下々の者とは口きくな。村長との会話は魔術師と僧侶のねーちゃんに任せとけ』

 完全に仕切られてる……

 歓迎には、むろん理由がある。
 オレらが訪れた村……というか、この地方一帯は数百年もの間、邪悪な魔女ドロテアに支配されている。
 毎年、収穫物の上納を要求し、払えなきゃ村人を奴隷にさらう。
 魔女のせいで、この地方はずっと貧しいのだとか。

 魔女ドロテアを退治して欲しいと村長は願った。

『裏とった。魔女がいるのは本当。村人をさらうってか、悩殺して虜にしちまうらしい。連れ去られるのは、若い男ばっか。むちむちの超色っぽいねーちゃんらしいぜ。今までも軍隊とか旅の剣士が魔女退治に行って、誰一人帰ってないんだってさ。恐ろしく強いって評判。伴侶にしちゃえば?』
 リーズがこっそりと耳打ちしてきた。
 刺客を返り討ちにするのもドロテアには娯楽らしく、刺客を送った村は一回上納を免除される。だから、この辺の村の奴は、積極的に魔女に刺客を送る。魔女を倒してもらえればラッキー、オレらが負けても年貢免除でラッキーなわけだ。
 短時間でそんな情報をよく聞き出せるもんだ、感心する。


 現在の冒険世界の地図や他国情報を求めた。が、村長達は近隣の村と少し離れた自国の街しか知らなかった。自分達の生活圏以外に関心がないようだ。
 たいした情報収集はできなかったが、仕方が無い。
 村人の前でアウラさんを呼び出し、わざと派手な旋風を起こしてもらって移動魔法でオレらは消えた。
 魔女が住む城のある方角は教えてもらったんで、何度か風を渡ってそこまで行き着いた。

 褐色の乾燥した大地に、突如、深い緑の森が現れる。
 上空から見た。湖すらある豊かな森だった。森中央部に、カラフルな赤黄緑の塔のある綺麗な城が見えた。
 森に魔法防御がかかってるとのことで、直接は城まで行けなかった。
 アウラさんに森の側に下ろしてもらい、樹木茂る森へと足を踏み入れ……





 気がついたら、オレ一人だけ豪華な部屋の中に居た。

「ドロテアの城にようこそ」
 目の前の女性が笑う。
 いかにも魔女という笑い方で。

 とんがり帽子、黒いロングドレス。でもって、側に箒がある。
 どう見ても、魔女。

 赤いマニキュアに彩られた鋭い爪、大きな赤い口、かぎ鼻、ぎょろりとした眼、太い眉、皺とアバタだらけの肌、真っ白なボサボサの髪……
 どー見ても、魔女だけど!

 魔女のばーさんじゃん!

 超色っぽいおねーさんは? いずこ?

「あなたが……魔女ドロテアですか?」

「そんながっかりした顔しなさんな。心の広いあたしでも、気を悪くするよ」
 バアさんは、イヒヒと笑った。
「あたしのこと、何って聞いて来たんだい、精霊使いの坊や」
 精霊使いの坊や……
 オレが精霊支配者だってバレてるし。
「若い村人を悩殺する、恐ろしく強くって美人な魔女」

「美女に会えるって期待してきたのかい? 困ってる村人を救いにじゃなくって?」
 バアさんが面白そうにオレを見る。

「会ってから、決めようと思ってました」
 オレは正直に言った。
「あなたが本当に邪悪な魔女なら、退治もありでしたが……」
 邪悪な存在なら退治される。オレじゃなくって『マッハな方』付きのマリーちゃんに。そう思ってた。
「あなたの退治を依頼してきた村、上納に困ってるって話だけど、見た感じ普通の村でした。飢えて死ぬってほどには切羽つまってなかった。あなたに刺客を送ってもおとがめなしみたいだし……」

「実はいいバアさんかもしれない? けどね、坊や。あたしが男を誘惑するのは本当だよ。つまんない奴は一夜でポイだけどさ、気に入った男はずっと囲ってる。この城には、あたしの男が今は十七人いるのさ」
 十七人も?

「あたしはね……若い男が大好きなんだよ。若者のほとばしるような荒々しい精気……そいつをつまみ食いするのが生きがいなのさ」
 イヒヒと笑いながら、魔女のバアさんが一歩前に踏み出す。

「年貢なんざ、ただの口実……あたしゃ、男が欲しいからここらを統べてる。外敵から守ってあげるんだ。ご褒美もらって当然だろ?」
 一生、閉じ込めてるわけじゃない、長くて十年、男盛りを過ぎたらちゃ〜んと帰してると魔女は笑う。奉公した年月分の報酬もあげてね、と。

「あんたも、試してあげる。その若さで六体も精霊を支配してるなんてたいしたもんだ。腰のも魔法剣だろ? 見かけによらず、いい男だ。楽しめそうだ」
 む。
 オレの精霊が六体?
 袋の中の剣を魔法剣って見破ってるし、魔法的な装備を魔力で感じ取れるのかな? 魔女だから。
 精霊との契約の証は、六体分しか付けてない。
 けど、オレにはあと二体精霊がいる。炎のティーナと水のマーイさん。

「……オレの仲間は何処だ?」
 後ずさりながら尋ねた。
 魔女のバアさんがイヒヒと笑う。
「迷いの森の中さ。城に招くのは男だけ。女なんざいらないもの」
「迷いの森?」
「迷路の森さ。けど、安心おし。あたしは優しい女だ。城に行くのをあきらめた女は、外に出してやるもの。あんたの仲間は……今は頑張ってるけど、何日もつかねえ」
 バアさんが嫌らしい声で笑う。

 ティーナは、ぬいぐまと一緒にサラに抱っこされている。
 けど、マーイさんは空気中の水分に潜んでオレについて来てる。側に居るはずだ。

 腰の剣袋の紐を解いた。が、柄に手をかけたところで動きは止まってしまった。
 ペンダント、ブローチ、ブレスレット、腰のベルト。精霊達との契約の証がそこにある事は意識できる。けど、呼び出そうという気にならない。
 バアさんが近づいて来る。
 オレの戦意を封じてやがるんだ。敵対行為ができない。
 余裕な態度なわけだ。
 今までの刺客も全部、戦う事すらできず、男はバアさんの虜に、女は森の中に閉じ込められたんだろう。

 けど、オレにはマーイさんが居る。
 オレが危険になったら、自由意思で攻撃する許可は与えてある。

 だが、さっきから気配がしない。
 サラ達の所に置いてきぼりか?
 嫌な予感……

 粉っぽい甘い香りがした。
 皺だらけのバアさんの顔が近づいて来る。

 うひぃってな気分なのに……
 心臓がやたらドクドクしてきた。

 鼻につく甘い香り。

 バアさんの目が妖しく光る。

 魅了の魔法……?

 胸がキュンと鳴った。

 自分の掌を爪で傷つけたり、唇を噛んだり、何とか正気を保とうと抵抗する。

 このバアさん強そうだけど……
 すごい魔女っぽいけど……

 萌えたくない。

 初めてがバアさんととかありえねー!
 ヨリミツの誘いだって断ったのに!

 やっちゃったら……
 このバアさんが最愛の人に……なるの?

『魔王戦が終わるまで、最愛の方を選ぶのはお控えなさいませ』
 霊能者カンザキ ヤチヨさんの言葉が頭の中で何度も甦る。
『チュド〜ンなさりたくなければ……』
 なさりたくないし、最愛の方がコレじゃ嫌です!

 ピンチ! ピンチ! ピンチ!

 マーイさん、マーイさん、マーイさん……
 あああ、ピンチなのに助けてくれない。
 今、居ないの、マーイさん?
「この城の中に精霊は入れない。結界が張ってあるのさ。ここじゃ、あんたの力もかたなしさ」
 えぇぇ!

 バアさんのシワシワの手がオレの胸に触れてくる。

 ざわっとした。
 悪寒にも似ていたが……

 バアさんの手に撫でられると、背筋が痺れた。
 掌の動きに合わせ、ゾクゾクっと体がのけぞった。

 熱い息が漏れ、体温が上昇する。
 体がジンジンする。
 すごい……
 気持ちいい……

 テクニシャン!

 バアさんなのに!

 ぎょろぎょろの眼の皺だらけの顔を見ると、気分は下降。
 けど、触れられると体がカッカする。
 オレのハートはキュンキュ……

 いやいやいやいや!

「おや」
 バアさんの手が、ぴたりと止まる。

「あんたのコレ……」
 バアさんがオレの胸のポケットに手をつっこむ。

 その時だった……
 オレの胸から光が広がり、妖艶な美女が現れたのは。

 黒の長髪、まつげの長い黒く大きな瞳、高い鼻、厚い唇。すらりとした手足、薄絹をまとった体は、豊満な胸とお尻のナイスバディ。
 とても美しい女性だった。
 けど、人間じゃない。腕が十八本もある。

《この者は私の伴侶。同胞よ。私に報いてくれるのであれば、この者に助力を》

 オレは、胸元から光っているモノを取り出した。
 親指サイズの小箱。
『魔界を旅する間、お守りとなります。私と思って、肌身離さず身につけてください。中を覗いては嫌よ』と書かれた手紙と一緒にイザベルさんから贈られたお守りだ。

 親指と二の指にはさんでいた小箱が、くしゃっと潰れ、砂のように崩れ落ちていった。
 伝言(メッセージ)箱だったようだ。伝言箱は、伝えるべき相手を認識し、吹き込まれた内容を伝えたら消滅する魔法道具(マジック・アイテム)だ。

「ドゥルガー様……」
 バアさんのつぶやきが耳に入る。
 ドゥルガー様?
 天界でオレが伴侶にした女神様? 輪廻世界の?
 今の幻が?

「ドゥルガー様の伴侶とは、誠でござりますか?」
 バアさんの口調が改まった。
 オレは頷いた。
「一応、伴侶ってことで仲間になってもらってます」

 バアさんが、急にハラハラと泣きだす。
「おお。嬉しや。やはり、アスラの王はデーヴァごときに滅ぼされておらなんだか。名と力と命を奪われ無に帰したと噂を耳にしていたが……」
 ん?
 アスラとデーヴァ?
 名と力と命を奪われた?
 むぅ……
 そうだ……昔、イザベルさんは輪廻世界の神様だったんだ。ドゥルガー様に負けて名と力と命を奪われたけど、きゃぴりん女神に魂だけ助けられたって話だった。
 名を奪われたわけだから……
 現在、輪廻世界にいらっしゃるドゥルガー様はいわば二代目。
 イザベルさんこそが本当のドゥルガー様。バアさんが言ってる『ドゥルガー様』は、イザベルさんの事なのか。

「輪廻世界のアスラ神族ですか?」
 バアさんがオレに対し恭しく頭を下げる。
「ドゥルガー様の配下、アスラ八大将軍の一人にございました。なれど、名はお許しください。この世界に住まわせていただく代償として、ここの神に捧げましたゆえ」

 バアさんが、オレへとにじり寄って来る。
「して、我らの王はいずこに?」
 知っていることを全部話した。
 イザベルさんは、今、オレらの世界で占い師をしている。
 百人の伴侶と共に戦うオレをサポートしてくれてる。
 現ドゥルガー様に会った時、昔の力を少し返してもらったけど、輪廻世界に戻るつもりはない。記憶を保持したまま、オレらの世界で転生を繰り返してくつもりである、と。

「帰還のご意志はまったくない?」
 バアさんが、悲しそうに頭を垂れる。
「デーヴァとの戦いに敗れた我らは、死か追放の憂き目にあっておるというのに……神である事を忘れ、魔界に堕ちた者も数多く……散り散りとなったアスラを救い、束ねてはくださらぬのか……」

 バアさんがキッ! と、オレを見る。
「そちらの世界に参れば、王に拝謁かなうのでありますな?」
「たぶん……」

「ならば、私も旦那様の伴侶の末端に……。我らが王と愛しき旦那様の為、この世界での仲間探しにご助力いたしますゆえ」
「え、でも……」
 オレは謝った。
「ごめんなさい。無理です。オレ、おばあさんじゃ萌えないんで、伴侶枠には……」

「は?」
 バアさんはオレを見て、それからオホホホと華やかに笑った。
「申し訳ございませぬ、老婆の姿でしたな。この姿は変化にございます。気に入った男にしか見せぬ、私の本当の姿をお見せしましょう」

 バアさんの姿がゆらりと揺れる。

 髪の色が白から、つややかな光沢のある黒へと変わる。
 皺もアバタも全て消え、肌はトビ色でつるつるに。
 顔がどんどん若返り……
 眉骨が出た印象的な目元、ぱっちりとしたまつ毛の青い瞳、高い鼻、笑みの似合う真っ赤な唇。迫力のある美女の顔となる。
 大人の色香というか、色気むんむん。
 更に体も……
 猫背だった背がしゃんとし、踝まであった黒のロングドレスがどんどん短くどんどん過激に。肩の出た超ミニ丈のドレス、黒のストッキングに黒のピンヒールブーツ。
 重力の影響でほんのちょっとだけ下降ぎみだけど、胸は爆乳! お尻もどか〜ん。
 超セクシーな衣装にふさわしいボンキュッボンの体が、くねっと腰をひねる。
 衣装からこぼれそうな、胸とお尻を強調するかのように……
 ド迫力……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと二十八〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 そんなわけで……
 イザベルさんの昔の部下を仲間とした。

 魔王が目覚めるのは、二十八日後だ。

 超セクシー熟女の案内で、良い仲間が見つかればいいが……


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№072)

名前     ドロテア(本名は違うが、名乗れない)
所属世界   冒険世界(本当は、輪廻世界)
種族     アスラ神族
職業     魔女
特徴     イザベルさんの昔の部下。
       デーヴァ神族との戦いに敗れ、
       冒険世界に追放された。
       昔に比べると力は弱くなったものの、
       南国の一地方の支配者となっていた。
       若い男と×××するのが好き。
戦闘方法   魔女の力。
年齢     数百歳?
容姿     黒髪、青い瞳。色っぽくって、
       むっちりとした体の熟女。
口癖    『旦那様』
好きなもの  若い男の精気。
嫌いなもの  女。
勇者に一言 『私も旦那様の伴侶の末端に……』
挿絵(By みてみん)
+注意+
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