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ハーレム100 作者:松宮星

勇者の一番長い日

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冒険世界へ (※)

 部屋の中に突風が吹き、セリアの側で渦巻いた風の中からオレの精霊が現れる。
《見て来たわよ》
 ふよふよと薄緑色のベールをたなびかせながら、アウラさんは宙に浮かんでいる。
《どこも開いてなかったわ。蟻が入る隙間すら無し》

「やはり、そうでしたか……調査ありがとうございました」
 アウラさんに対し会釈してから、セリアはテーブルに座る面々を見渡し真面目な顔となった。
「ゆゆしき事態となっています」

 セリアがテーブルの上に『勇者の書』を置く。
『勇者の書 7――ヤマダ ホーリーナイト』
『勇者の書 39――カガミ マサタカ』
『勇者の書 61――アリエル』
『勇者の書 78――ウィリアム』
「七代目様と三十九代目様の書は魔法陣反転の法研究の為に私が持ち歩いていたもの、六十一代目様の書は勇者様がお持ちだったものです」

 オレが『勇者の書 61――アリエル』を持っていた?
《おにーさん、賢者の館の地下で、賢者様から課題をもらったじゃない。冒険世界への転移及び帰還の呪文を推測してみろって》
 ああ……
 そういや、そうだった。エスエフ界と冒険世界のそれぞれの魔法陣を記した紙と『勇者の書 61――アリエル』を渡されて、オレはお勉強をしてたんだっけ。
 オレが導きだした答えは正解だった。
 あの時、お師匠様は笑ったんだ。いつもと同じ無表情だったけど、何となくそう見えた。
『一人前の勇者になってきたな……』
 お師匠様は嬉しそうだった……

「七十八代目様の書は、勇者様のお部屋の魔法絹布の上にありました」
 そうか……普段、お師匠様は異世界移動に使用した『勇者の書』をすぐに片づける。
 けど、昨日はエスエフ界から大荷物を抱えての帰還だった。まずルネさん家に移動して大荷物の片づけ、それから賢者の館までセリアを迎えに行った。
 ゴタゴタしてたから、『勇者の書 78――ウィリアム』を片づけるのを忘れたんだろ。
 お師匠様のことをオレは、何でも知ってて何でもできて冷静沈着な人だと思いこんでいたけど……
『賢者の書』を読んでイメージが変わった。結構いきあたりばったりで、大雑把なところがあった。うっかりミス、やりそうだ。

「六十一代目様の書は未使用ですが、七代目様の書は英雄世界、三十九代目様の書は精霊界とジパング界、七十九代目様の書はエスエフ界への道を開く為に使ったものです」
 勇者が勇者としての生を終えた時、勇者の書の裏表紙に魔法陣の模様が浮かぶ。
 その書を記した勇者の旅の跡……勇者が行った事のある世界への扉が刻まれるんだ。もっとも、賢者だけが見える魔法陣模様だが。
 三十九代目はジパング界からオレらの世界に来て、精霊界で修行を積んだ人。二世界の魔法陣が刻まれている。
 オレの書には、幻想世界、精霊界、英雄世界、ジパング界、天界、魔界、エスエフ界の魔法陣が引退後に刻まれるはずだ。

「私達の手元にあるのは、この四冊のみです。魔法陣反転の法を用いる等、工夫してあと四世界へ行くしかありません。というのも……賢者の館には今は誰も入れないからです」

 え?

「賢者の館かその周囲に移動魔法で渡ろうとすると、必ず地下室に導かれます。決戦日に魔王城へと通じる魔法陣が出現する地下室……その特殊な部屋では移動魔法は使えず、そこから上階へと通じる扉は賢者様しか開けられません」
 セリアが、アウラさんをチラリと見る。
「勇者様の風の精霊に頼み、飛行魔法で移動してもらい、賢者の館を確認して来てもらったのですが……『蟻が入る隙間すら無し』なのですね?」
《窓も扉もぜ〜んぶ閉まってたし、館の周囲には侵入者除けの防御結界が張り巡らされていたわ。蟻サイズに縮んでも中に入れないわね》

「……上階から中に入る事も不可能。つまり、賢者様が石化なさっている現在、誰も賢者の館の書庫には近づけないという事です。他の勇者の書を、私達は手にする事はできません」

 オレの託宣は、《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう。愛しき伴侶を百人、十二の世界を巡り集めよ。各々が振るえる剣は一度。異なる生き方の者のみを求めるべし》だ。
 魔王が寝てる百日の間に、勇者は『勇者の使命』を果たす。託宣をかなえる準備をしておくのだ。
 神様の託宣通りに戦わないと、魔王は倒せない……そう言われている。

 オレは十二の世界に行って、そこで一人は仲間にしなきゃいけない。
 でないと、託宣をかなえられない事になる。

「冒険世界への転移呪文を、勇者様はご存じですね?」
 セリアの問いに、頷いた。
「ならば、残りは三世界です。天界には裏世界の魔界が存在していました。同じように四冊の書にも裏世界がある可能性は高い……」
「残り三世界は裏世界へ行くんだな?」
「そうです。私達には、おそらくもう他に道はありません。異世界移動時に賢者様は、魔法絹布をご使用になってこられました」
 魔法絹布は、オレの部屋の隅に置かれている細長い布だ。
 魔法絹布の上に勇者の書を置き、魔法を唱える事で赴くべき世界の魔法陣をそこに描いてきた。一番右端にあるのが、幻想世界への魔法陣。それから、精霊界、英雄世界、ジパング界、天界、魔界、エスエフ界への魔法陣が順に並んで記されている。
「あの魔法絹布には、賢者様の特殊な魔法防御がかかっています。勇者様達が異世界に行っている間、何人たりとも魔法絹布には触れられません。他にも、さまざまな呪がかかっています。道を開けられるのは賢者様か勇者様だけ、『勇者の書』を用いねばならない等々……」
 推測なのですが、と断ってからセリアは説明を続けた。
「決戦日に、魔法陣を刻んだあの魔法絹布を魔王城に持ち込み、世界ごとに仲間を召喚してゆきます。あの魔法絹布の魔法陣は、異世界の仲間と勇者様を結ぶ絆。あの絹布の魔法陣でなければ仲間の召喚はうまくいかないのではないか……そう思うのです」

「てことは、これからも、勇者の書を用いてあの魔法絹布に魔法陣を刻んでいかなきゃいけないってことだな?」
「そうです」
 セリアはキリッと表情をひきしめた。

「勇者様は明日より冒険世界へ赴いてください。決戦の日は二十九日後。それまでに賢人・知識人を招き、各書の裏世界が存在するか、存在するのであればどのような呪文で行けるのか研究いたします。必ずあと三世界への道を見つけてみせます」
「王城、魔術師協会にも協力を呼びかける」と、シャルル。
「副院長さまにも、心話で、お願い、します〜 聖教会も、聖修道院も、勇者さまを、お手伝い、できますように〜」と、マリーちゃん。
 相談済みのようだ。オレがふぬけてる間に、話し合ってくれたんだな。
 オレも、もうぼんやりしている暇なんかない。

「精霊界の裏世界への行き方は、まだわかりません。けれども、参考にと研究した結果、とある書の裏世界の存在をつかめました」
 セリアが『勇者の書 7――ヤマダ ホーリーナイト』を手にする。
「英雄世界の裏世界への呪文は、ほぼ八割推測できました。そこがどのような世界かはわかりません。英雄世界の方々は戦闘力がたいへん低かった……あまり有望な世界ではないかもしれません。しかし、託宣を成就する為には、何処であれあと四つの異世界に勇者様は行かねばならないのです」

「優先順位はつけておくべきだろう。精霊界、エスエフ界、冒険世界、ジパング界の裏世界を優先して研究する。英雄世界の裏世界に行くのは最後の最後。他の裏世界への道がわからなかった場合のみだ」
 今日中に各種専門家に声をかけ、明日から研究を始めようとシャルルがセリアを促す。

「勇者様……冒険世界は、魔王に大ダメージを与えられる女性との出会い確率が50%の世界です。良き出会いが可能でしたら……どうぞなるべく多くの方を仲間にお加えください。裏世界は海のものとも山のものともつきません。戦闘力皆無の女性しか存在しないかもしれないのです」

「場合によっては、戦闘力ゼロの人間でも仲間に加えるんだな? オレはあと四つの世界で仲間を増やさなきゃいけないから」

「……そうです」
 セリアがぎゅっと唇を噛みしめ、それから凛々しい顔でオレを見つめた。

「勇者様と共に冒険世界に赴く仲間を千慮いたしました。回復・戦闘補助役として、マリーさん」
「はい〜」

「一流の魔術師であるサラさん」
「一流……? あ、はい! 行きます」
 セリアに『一流』と言われ、幼馴染は戸惑っていた。
 仲間になった時、サラは『魔法がまったく使えない魔術師』だった。セリアは口にこそ出さなかったが、サラを『無能者』扱いしていた。それが……

「一流の戦士で、見ただけで相手の力量を測れるアナベラさん」
「はーい」
 元気よくアナベラが右手をあげる。魅惑的な胸が、ぷるるるんと動く。ビキニアーマーは、大事なところをほんのちょっとだけしか隠していないんだ。
「アナベラが一緒……? でも、遺跡探索の旅は?」

「めぼしい遺跡の盗掘は終わったんだよ」
 答えたのはリーズだった。
「つーか、アナベラといっしょなら、あんた、元気でるだろ? メガネのおねーちゃんのサービスだよ」
 え?
 いや、まあ、その……

「四人目は、アナベラさんと息が合っているリーズ」
「は?」
 リーズが目を丸める。
「オレも行くの?」
 セリアが頷き、メガネのフレームを押し上げる。
「南、西、東の遺跡に共に調査に赴いたのです。この中の誰よりも、アナベラさんと気心が知れています。あなたがアナベラさんの側にいる方が、非常に安心だと判断いたしました」
「それって……」
 リーズがバン! と両手でテーブルを叩いた。
「異世界でも、バカのお()りをしろってことか?」
「バカ〜?」アナベラがムッと顔をしかめる。
「アナベラさんはたいへん独特なファッションをしてらっしゃいますし、思考も独特。リーズが付き添ってくれる方が万事うまくいくと思うのです」
「このバカ、オレの言うことなんか聞かねーよ! いくら言っても、すっぽんぽんなんだぜ! 異世界に連れてったら、露出狂でとっつかまるに決まってるだろーが!」
「バカ、バカ、うるさいぞ、もぉ〜」
 アナベラが横から、リーズの頭をぎゅっと抱えて黙らせる。
「おねーさんをもっとソンケーしなさい。いつも言ってるよね?」
「いたたたた! タンマ! ちょっと、タンマ!」
 リーズが抵抗する度に、ぷるんぷるんの胸が健康的に揺れ動き……
 ああああ……
 良い……
 元気でてきたかも……
 シャルルの野郎も、鼻の下をハンカチで覆っている。
 アナベラ、やっぱ最高!
 男のオアシスだ!

「そして、五人目は……」
 五人目?
 異世界に伴える仲間は四人なんじゃ……
 そう思いかけて気づいた。
 お師匠様が一緒に行かないから、転移の魔法で五人の仲間を伴えるようになったのだと。
……胸の奥がチクッと痛んだ。

「戦闘力が高く、勇者様の支えとなれる……ジョゼフィーヌさんで」
「はい……」
 ジョゼがオレに、ほわっと微笑みかけてくる。オレも笑みを返した。

 お師匠様を失って、オレは精神的に不安定だ。
 ジョゼとサラが側にいてくれるのは、心強い。
 マリーちゃんが一緒だと、癒される。
 アナベラのぷるんぷるんのぷりんぷりんは、オレに活力を与えてくれる。
 ほ〜んと、オレの為の人選だよな。巻き込まれたリーズは、ちょっと気の毒だが。

「残った者は、こちらで勇者様の為に働きましょう。ルネさんは武器開発、ニーナはバリアを張る練習及びポチ2号の情報収集の手伝い、カトリーヌさんは仲間探しです」
「仲間探し?」
 女狩人が、けげんそうに学者を見つめる。
「私にさせる気? ニノンを紹介したのは私なのに?」

「決戦日は二十九日後。勇者様は二十八日で二十九人の女性を仲間としなければいけません。しかし、裏世界に戦闘力の高い女性がいるとは限らないのです。裏世界が全てハズレだった時の為にも、この世界で優秀な仲間候補を探しておかなければいけません」
「でも……私は」
「カトリーヌさんは、たいへん女性との交友関係が広い。仲間探しに最も適した方だと私は思います」
「無茶言わないで。魔王に116万超のダメージを出せる子なんて、知らないわよ」
「勇者様には百人の仲間が必要なのです。最終日に人数が足りなければ、託宣をかなえる為だけに女性を仲間にしていただかねばなりません。そうとなっても、できるだけ戦闘力のある女性が欲しい……カトリーヌさんならば、さまざまな女性をご存じです。116万は無理でも、少しでもお強い方を勇者様にご紹介できる……そうではありませんか?」
「だけど……」

「カトリーヌさん、しばらく私の下で仕事をしませんか?」
 そう言ったのは、シャルルだった。気障ったらしい仕草で髪を掻きあげてやがる。
「ニノンの事では、私にも悔いがあります。彼女の身上調査を部下に命じていたのですが、ジャン君の帰還までにろくな報告があがらなかった。調査日数があまりにも短かった為です。ニノンの事件の再来は何としても避けたい」
「仕事って……私に何をさせたいの?」
「私の抱える諜報員に、あなたから見て『美しく、魔王戦争で戦う事が可能』な女性を全て教えてくだされば結構です。身上調査は部下にさせます。身元が確かな美しい者だけをジャン君に会わせたい……その為に協力し合いませんか?」
 シャルルがフッと笑う。爽やかな好青年を印象づける笑みってヤツだ。
「あなたと協力……?」
 カトリーヌが眉をひそめる。
「ニノンの事では、どうぞもうお心を悩ませないように。あなただけの責任ではありません。非は私にもあります。あなたは、気まぐれな春の風のような、自由でかろやかな方だ。お美しい笑みが再びお顔に戻る事を、私は切望して止みません」

 うひぃ。

 キモ!

 つーか、おまえ、相手はカトリーヌだぞ。口説くだけ無駄というか……

 女狩人はフンと鼻で笑った。
「いいわよ、協力しても。ただし、ムサい髭親父は嫌よ。会話する気にもならないわ。女諜報員を担当にしてくれる?」
「ご希望とあらば」
「ありがと」

 カトリーヌがセリアにニッと笑って見せる。
「事務仕事よりは、よっぽど私向きの仕事よね。しばらくは真面目に働くわ」
「お願いします」
「今度は半日じゃ逃げないわよ」
 セリアに対し、カトリーヌがウィンクする。だいぶ元気になったっぽいな、カトリーヌも。


 会議の後、精霊との契約の証を全て返してもらえた。
 まともになったと、信頼してもらえたようだ。有り難い。

 ポチ2号はニーナに返し、オレは部屋に帰り全ての精霊を一体づつ呼び出して謝罪した。

 ティーナ、マーイさん、サブレ、エクレール、ソワは、拍子抜けするほどあっさりとオレを許してくれた。
 お師匠様を失ってキレたオレに、えらく同情的だった。


 だが、氷のグラキエス様は違った。
 呼び出した途端、周囲に冷気を放ち、氷の礫を降らせたんだ。
 冷気を浴びてオレの頬や手は凍傷を負い、氷の礫がかすった腕や背からは生々しい血が流れた。
《精霊は精霊支配者を攻撃できませんわ。でも、やり方次第では、殺せますの。周囲への攻撃に愚かな精霊支配者が巻き込まれるだけですもの……事故を装い、殺すこともできますのよ》

 部屋の中を雪嵐が吹き荒れた。

 グラキエス様は、オレが精霊達に殺人を命じた事をめちゃくちゃ怒っていた。
(わたくし)を下僕扱いしたら、お仕置きすると警告してさしあげたのに……本当に駄目な犬。私、頭の悪い犬は嫌いでしてよ》
 土下座して、ひたすら謝った。
挿絵(By みてみん)
《氷の精霊は、下々のものにも愛の手をさしのべますの。一回だけ、目をつぶってさしあげますわ。私の懐の広さに感謝なさい》
 最後まで冷気を撒き散らしていたが、グラキエス様はブレスレットへと宿ってくれた。


 次に呼び出した光のルーチェさんは、初めて会った時の格好だった。大きい紫のリボンを頭につけたブロンドの髪、青のバルーンミニドレスを着ていた。
《グラキエスの指導を受けたようですね……まあ、彼女の怒りもわかります。昨日のあなたは、駄目な精霊支配者の典型でしたから》
 そう言いながら、ルーチェさんはすぐに怪我の治癒をしてくれた。
 感謝すると、やや目尻の下がった可愛らしい緑の瞳でルーチェさんが静かにオレを見た。
《勇者ジャン……私、あなたの為に六十五日も導き手の仕事を休むんですよ。魔王戦後に職場に復帰したら、当分休みなしです》
 ルーチェさんは可愛らしく微笑んだ。
《あなたが興味深い存在だから、付き合おうと思ったのです。つまらない駄目精霊支配者にならないでください。あなたと居て良かった、楽しい六十五日だったと思ってお別れしたいのです》
 謝ると、ルーチェさんはちょっと媚びたような、拗ねたような顔をつくった。
《最近、あなた、手抜きしてるでしょ? あなたの勇者活動を手伝ってあげてるのですから、私の趣味にもちゃんと付き合って下さい。七色ファッションの感想、毎回、しっかり頼みますよ》





 翌朝、オレはオレの部屋で『勇者の書 61――アリエル』を魔法絹布の上に置いた。
 共に旅立つ仲間、ジョゼ、サラ、マリーちゃん、アナベラ、リーズはオレの後ろに居る。
 少し離れた所から、セリア、カトリーヌ、ニーナ、シャルルがオレ達の旅立ちを見守っている。

 ルネさんは自宅だ。
 昨日の会議の後すぐに自宅に戻り、そのままずっと武器開発に集中しているようだ。
 今朝、ルネさんの助手がデカい革袋と手紙を届けてくれた。

『エスエフ界で得た知識や技術をもとに、新たな旅のお伴をつくりました! その名も『ルネ ぐれーと・でらっくす』! あらゆる危機に対処できる、発明品を詰めておきました! 勇者様、困ったなーという時にはこれです! どうぞお忘れなく!』
 手紙を書く時間も惜しいって感じのなぐり書きだ。
 けど、忙しい時間の中で、オレを励まそうと発明袋の新バージョンを準備してくれたんだ。気持ちが嬉しい。役に立つかどうかわからないが、大切に持っていこうと思った。

「勇者様、こちらのことはご心配なく。どうぞ仲間探しに専念なさってください」
「お気をつけて……ジョゼフィーヌ様、マリー様、サラさん、アナベラさん、リーズさん……と、ジャン君」
《おにーちゃん、おねーちゃん、がんばってね! またねー》
「しっかりナンパしてきてね、勇者様」

 オレは残る仲間達へと手を振ってから、宙を見つめた。

 今までは転移の時に、オレの目の前にお師匠様が居た。
 向かい合って額を合わせるのは、最初はすごく恥ずかしかった。
 接吻するみたいに顔が近かったから。
 慣れてきても、その綺麗な顔を見る度にドキドキした。
 お師匠様の息がかかると、カッカした。

 けれども、今、オレの前には誰も居ない……


 魔王が目覚めるのは、二十八日後だ。


 今朝、お師匠様のもとへ挨拶に行った。
 そん時、部屋に居たのはオレとお師匠様だけ。
 他人の目がなかったから、こっそり抱きついてもきた。

 お師匠様には、幸福な目覚めを迎えてもらいたい。
 その為に、やれる事をやっておく。
 オレはそう決めたんだ。


 オレだけの呪文でも、異世界への魔法陣は無事に開けた。


 そんなわけで、魔法陣を通って、オレは仲間達と共に冒険世界へと旅立って行った……
+注意+
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