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ハーレム100 作者:松宮星

勇者の一番長い日

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呪われた北

 今まで会議は、オレの部屋でやってきた。異世界から還って来たらその場で会議が普通だった。

 けど、今日はセリアの部屋でやる。

 アナベラの案内で、オレはセリアの部屋に行った。もうみんな集まっていた。長テーブルを囲って座っている。
 いつも通りの態度をとる者、不安そうな顔の者、申し訳なさそうな視線を向ける者。
 皆、オレを気づかっていた。
 見ればわかる。

「取り乱して、すまなかった。だいぶ落ち着いたよ。もう絶対みっともない真似はしない……」
 そこまで言ってから、断言したら嘘になると気づいた。
 んで、付けくわえた。
「そう誓いたいけど、正直、自信が無い。カーッとしたら、またやっちまうかもしれない。そん時は、昨日みたいに止めてもらえると助かる」
 扉の前でオレは全員を見渡し、頭を下げた。
「ありがとう……それから、暴れてすまなかった。女性を殴るなんて、勇者として最低だった。そこは、ものすごく反省している。許してくれ」

「男ならいいのかね?」
 シャルルが、わざとらしく笑った。
「君はポワエルデュー侯爵家嫡子に対し、無礼を働いたんだ。極刑ものだよ」
 セリフこそ脅しっぽいが、声は明るい。
 オレの反応が見たいんだろう。オレがまともになったのかどうか……勇者として使い物になるかどうか、試してるわけだ。
 本音丸出しで大暴れした後だ。お貴族様相手にいつもの芝居をするのも面倒くさく思えた。
「おまえなんか、顔が歪もうが気にしない」
 オレも明るい声で、顎をしゃくって挑発に応えた。
「オレはおまえが大嫌いだ。ずーと言うのを我慢してたけど、初対面からいけ好かなかった。ジョゼの婚約者(ヅラ)すんじゃねーよ、お貴族野郎。オレは、おまえのおにーちゃんになんかなりたくねーんだ」

「奇遇だね、ジャン君。私も君が大嫌いだよ。無能者の分際で勇者位におさまってる君がね。だが、まあ、勇者は勇者だ。諦めたよ」
 お貴族様は金の髪をかきあげた。さっきより身なりを整えてるけど、髪のセットはかなり手抜きだ。
 お師匠様の呪をどうにかしようと、こいつもマリーちゃんも徹夜してくれた。けど、そんな苦労はおくびにも出さない。
「君は勇者で、私は王国の臣民だ。私にはポワエルデュー侯爵家の力があり、君にはない優れた能力がある。魔王を倒すまでは、有能なこの私が君を補佐しよう」
「ありがとよ、お貴族様。けど、恩着せがましく言うのはやめてくれ。オレに協力するのは臣民の義務だろうが」
 シャルルは肩をすくめた。
「前より正直になったね……結構な事だ。君のうすら寒い敬語にはうんざりしていたんだ。願い事がある時は遠慮なく言いたまえ、私の矜持にかけてかなえてみせよう」
「ンじゃ、そのキザったらしい口調を直してくれ。聞いてると鳥肌が立つ」
「それは無理だ。生まれつきなのでね」
 ハハハとシャルルが笑う。やっぱムカつくわ、こいつ。いいヤツだけど。


 ジョゼに抱きついているニーナのもとへと行った。大きな目を見開いてオレを見ている白い幽霊。髪も、顔も、体も、全てが白く半透明だ。ちっちゃなニーナにオレは謝った。
「ごめんよ、怖い思いをさせちゃって……怒りで目の前が真っ赤になっちゃってさ……ニーナちゃんやみんなの声が聞こえてたのに、ちゃんと聞けなかった」
《おにーちゃん……いっぱい血を流してた》
「……そう見えた?」
 ニーナは頷いた。
《あのおねーちゃんの血と、おにーちゃんの血。心の中で、おにーちゃん、何度もあのおねーちゃんに剣を刺して、おにーちゃんの胸がキズだらけになってった……》
 ニーナが悲しそうに、オレの胸を見る。
《いたそう……》
「うん。まだ痛い」
 オレは偽らずに答えた。
「けど、魔王に負けるのは嫌だから、泣くのはやめた。オレはこの世界やお師匠様を守りたい。それに、ニーナちゃんとの約束もある。頑張って神様からご褒美をもらわなくっちゃな」
《おにーちゃん、しゃがんで》
 言われた通りにしたら、頭をナデナデされた。
《いいこ、いいこ》
 ニーナが、一生懸命にオレの頭を撫でてくれる。
《いい子にしてれば、いいことがあるよ……ニーナもいっしょにいてあげる……》
 笑みが漏れた。
「ありがとう、ニーナちゃん」

 ジョゼはニーナの肩を抱いていた。
 目が合うと、オレにほわっと優しく微笑みかけてきた。いつも通りの顔。
 オレがあんな大暴れをしたんだ、ジョゼは不安のあまり泣いているんじゃないかと思ったんだが……
 そんな素振りはない。そうだったんだとしても、オレに乱れた姿は見せない。
 オレを元気づけようと微笑むだけだ。
 オレの頭の中じゃ、ジョゼはずっと小さなジョゼだった。けど、今のジョゼは……なんとなくベルナ母さんに似ているように思えた。

「勇者様」
 しゃがんでたんで、視線が低かった。最初に目に入ったのは、ニーハイの深緑色のソックスだった。
 それから、すらりとした太もも、薄緑色のチュニックへと視線はあがり、最後にはカトリーヌの顔にいきついた。いつになく神妙な表情をしている。
「ごめんなさい」
 カトリーヌは、薄い唇をきゅっと噛みしめた。
 鋭利な刃物のような美貌が、今日はなんとも弱々しく見える。
「全て私の責任。ろくにニノンのことを調べなかった私が悪いの」
 目尻のあがったきつい瞳までが、しゅんとしている。
「何をされてもいいわ。それだけの事を私はした……でも、お願い、他の人は責めないでくれる? リーズもアナベラさんもマリー様もサラさんもジョゼさんも、私の為に力添えしてくれただけだから。あ、セリアさんの再従弟(またいとこ)も、そうだった」

「わかってる。誰も責める気はない」
 オレは立ち上がった。
「誰も、だ。カトリーヌも、だ」

「なんで……?」
 けげんそうに女狩人が眉をしかめる。
「そりゃ、痛いのも辛いのも嫌よ。でも、私、あなたから大切な賢者様を奪っちゃったのよ? 憎いでしょ? いいのよ、遠慮なんかしなくて」
 カトリーヌは、うなだれた。
「本音で話しましょ、勇者様。昨日のあなたの叫び声……耳にこびりついて離れないの。私はあなたから愛する者を奪った……魔王戦でもしもの事があれば、あなたはもう二度と賢者様に会えない……謝って許されるような事じゃないわ……」

「昨日なら、やったかもな。ブチ切れてたから。殴るどころか、カトリーヌを殺そうとしたかも……。けど、もうそんな馬鹿なことをする気はないよ」
 カトリーヌの方がやや背が低い。お師匠様ほどには、視線はぴったりと重ならない。
「あのニノンってシャーマン戦士、どうあってもオレを殺したかったんだろ? なら、カトリーヌから紹介してもらえなかったら、他の手を使ってオレの前に現れたろう。カトリーヌも事故に遭ったようなもんだ。気にすることない」

「なに、それ?」
 カトリーヌが不機嫌そうにオレを見る。
「そんなんで許しちゃうの、あなた? バッカじゃないの? いい? 事故じゃないの。私、故意にあなたに会わせたの。積極的に犯罪に加担したのよ?」
「騙されてだろ? だから、いいよ、もうこの事は」
「よくないわよ! ぶん殴って、けっ飛ばしてよ! そうされて当然なんだから、私は!」

「オレに悪いと思うんなら」
 意外と責任感が強かったんだなあ、カトリーヌ。事務仕事はサボったくせに。
「仲間集めや魔王戦で頑張ってくれればいいよ。それで充分だ」
「なんで、許せちゃうのよ、あなたは!」
 なんでって……

「カトリーヌ、もの凄く反省してるじゃないか。それ以上、苦しむ必要はない」
「でも!」
「それに、カトリーヌは伴侶って事で仲間になってもらってるんだ。大事な女性なんだ、大切にして当たり前だろ?」

「な?」
 カトリーヌの激していた顔が……急にカーッと赤くなった。

「あなた、それ……無自覚?」
 へ?
「天然タラシだったわけ……?」
 は?
 カトリーヌがキッ! とオレを睨む。
「もう嫌! あなた、本当にパパそっくり! 口先だけなんだから! 善人面して、あっちにもこっちにも愛想よくして! 女の敵だわ!」
 なんだよ、それ! なんで、逆ギレ?
 フンと横を向く時、カトリーヌは小さな声でポツリとつぶやいた、『ありがとう』と。

 側を通ったら、リーズまで『悪かった』って言うし。
 ルネさんも『たいへんな事になってたのも知らず発明に没頭してました、すみません』と謝ってきた。ルネさんはロボットアーマー姿だ。自宅から飛んで来てくれたんだろう。
 謝る必要ないのに。みんな、オレに気を使いすぎ。
 つーか、オレが悪いのか。みんなに心配かけないよう気をつけよう。

 ()いてたんで、サラの隣に腰かけた。
 普通の顔色。具合は悪くなさそうだが……
「倒れたんだって?」
「ちょっと血が下がっただけよ。寝て食べたから、もう平気」
「ごめん……その、いろいろと悪かった」
「別に。プッツンした人間の言葉なんか、ぜ〜んぶ聞き流してたもの。どってことないわ」
 サラがジロッとオレを睨む。
「安心して。よく覚えてないから、みっともないあんたの事は誰にも話してない。あんたが秘密にしたいことは、バレてないわよ」
 秘密……究極魔法のことだよな……みんなには内緒にしておいてくれたのか。
「サンキュウ、サラ。やっぱ、おまえ男前。格好よすぎ」
「……それ、女の子への誉め言葉になってない」
 サラがツンと顔をそむける。拗ねたような顔が可愛い。

「会議の前に、お願いがございます」
 メガネのフレームを押し上げながら、セリアが言う。
「少々頼みごとがしたいのです。勇者様、風の精霊を呼び出していただけますか?」
 ドキッとした。
 隣の席のサラが、風のペンダントをテーブルの上に置く。セリアと相談済みで準備してたようだ。
 オレは風のペンダントへと手を伸ばした。やっちまった事はもう取り返しがつかない。逃げずに責任をとる。それが男ってもんだ。
「アウラさん……出てきてくれ」

 ぶわっと風が広がり、薄緑色のベールが風をはらみふくらむ。何重にもベールをまとった、風の精霊がテーブルの上の空中に出現した。
 短い緑の髪も風に舞っている。風の精霊がオレを見る。
《ご用でございましょうか、ご主人様》
 しもべモードの時のしゃべりだ。真面目そうな顔。あくまで下僕として、風の精霊がオレと対する。
 オレは席を立ち、精霊に対し深々と頭を下げた。
「すまない。オレはやっちゃいけない事をした。オレは主人じゃなくて友人だって言ってたくせに、みんなに殺人を命じた。友人にそんな事を命じるなんて、おかしい。オレは心のどっかで、みんなをオレの所有物だと……家来か何かだと思ってたんだ。許してくれ」
 精霊から答えは無い。オレは謝罪を続けた。
「アウラさんが望むなら、しもべ契約は解除する。だが、申し訳ないけど、魔王戦だけは協力してくれ。魔王への一撃を頼む。それから、ごめん、図々しいけど、あともう一つ。セリアさんが何か頼みごとがあるんだそうだ。最後にそれも聞いてもらえないだろうか?」

《お顔をあげていただけますか?》
 その言葉に従うと、すぐ近くに精霊の綺麗な顔があった。その右手があがり……
 精霊の中指がオレの額をはじいた。
 オレを見て、精霊がケラケラ笑う。
《今回は大目に見てあげるわよ、おにーさん》
 切れ長の瞳を細め、アウラさんが親しげな顔をつくってくれる。 
《事情が事情だしね。きっちり謝ってくれたから、許してあ・げ・る》
「……ありがとう。みんなにも謝るよ」
《それぞれに謝りなさいよ。全員まとめていっぺんにとか、やっちゃ駄目だからね》
「うん。そうする……ありがとう」
《気にしないで。あたし達、お友達でしょ? どん底の友人を見捨てたりしないわよ》
「ありがとう……」
 もうこの言葉しか言えなかった……

《で、あたしへの頼みごとって?》
 アウラさんはセリアへと顔を向け、《おっけぇ〜》と言って姿を消した。セリアの心を読んで、どっかへ移動したようだ。

「今後の事は、風の精霊が戻ってから話し合いましょう。先に、勇者様のお命を狙ったシャーマン戦士についてお伝えします。まずは、彼女の出身村についてです。北の村『カタギリ ユキヤ』で彼女は、双子の姉ヴェラと共に生まれ育ちました」

「『カタギリ ユキヤ』?」
 英雄界やジパング界の人名っぽい名前。
「初代村長は二十八代目勇者様……『エリートコース』様です」

 二十八代目勇者は、英雄世界からこの世界に来て賢者になった変わり種だ。
 次の二十九代目は、二十八代目の実弟の『キンニク バカ』。
 二十八、二十九代目は兄弟勇者だ。
 エリート・サラリーマンだった意地悪な兄と、力自慢で真面目な弟。笑える兄弟愛ものだ。二人の書は面白いから、何度も読み直してる。
 二人とも、書の勇者名が本名ではない。それは知っていた。『勇者の書』に勇者名を記すのは賢者の役目。兄は間違った名前を賢者に記され、ず〜とそれを不満に思ってたんだ。で、自分が賢者になってから、ニ十九代目の弟の書にわざと変な名前を書いてやったという……

「『カタギリ ユキヤ』ってのが二十八代目の本名?」
「そのようです。ニノンがそう言っていました」
「もと賢者が、北に村をつくったのか?」
「いいえ。賢者就任中から村づくりを始められたようです。賢者として勇者を指導しつつ、空いた時間で北に住む人間達の為に村づくりをしておられたのです」
 賢者は移動魔法を使える。行き来はたいへんじゃなかっただろうが……
「なんで?」
「二十八代目勇者様の従者の一人、女戦士が北出身でした。その方と二十八代目様は恋愛関係だったそうです」
 ニノンに聞いて私も初めて知ったのですが、と女学者が微笑を浮かべる。
 ああ……
 そういうことか。
 恋人の為に勇者世界に残り、恋人の故郷がひどい有様だったから助けようとしたのか。

 魔王の誕生と共に、北の荒れ地に魔王城が出現する。魔王が百日の眠りに入る城だ。
 決まって同じ位置に現れるんで、魔王城が立つ場所は『呪われた北』と呼ばれている。
 監視の為の要塞が近くにあるものの王国の人間は『呪われた北』を忌み地として嫌い、近寄らない。
 なので北は、土地を捨てた農民、犯罪者、異端者、政治犯の逃げ場になっていた。北に逃げ込んだ者は死んだものとみなされ、追手がかからなくなる。
 けど、モンスターや野獣だらけだし、土地はやせている。北に暮らすのはたいへん厳しいんだと聞いたことがある。

「二十八代目様は知的な方で、学者と深い親交を結ばれました。魔王戦に五人も学者を伴ったのはあの方だけ……正しい手順さえ踏めば誰にでも使用が可能となる古代技法を高く評価し、あの方は自らも会得なさったのです」
 古代技法は、呪文が長い上に、呪文に合わせて複雑な動作をしなきゃいけない。呼吸や瞬きのタイミングまで制限されるんだ。完全に覚えるのは至難の業のはず。学者でもないのに古代技法が使えるようになったってことは、すっげぇ記憶力がいい人だったわけだ。
「二十八代目様は、北の人間にさまざまな古代技法をお教えになったのだそうです。しかし、二十八代目様が村と関われたのはほんの六年のことで……二十八代目様の加護を失った村人達は手探りで古代技法を研究し、魔法や邪法すらも取り入れてアレンジし、技法を使用可能なものとしていったのです。その為、北のシャーマニズム技法は、たいへん独特なものとなっています。私達に伝わる技法や魔法とは似て非なるものなのです」

「どうして、二十八代目は北への援助をやめたんだ?」
「お亡くなりになったからです。賢者を退かれて数か月後のこと。勇者時代から『ガン』というたいへん重い病にかかっておられたそうです」
 不老不死の体を失って死んだってことか。賢者となる決心をしたのも、もしかしたら病のせいもあったのかもな。
 けど、賢者は痛い、熱い、寒いを感じる。感覚は普通だし、賢者になった時の肉体が不老不死化するわけだから……余命数カ月の重い症状だったんなら、生き続けるのは痛くて苦しかったんじゃないかな?
 それでも、生きた。北の人間の暮らしをよくしようとした。
 好きな女の為……か。

「ニノンは二十八代目様の子孫。村長の娘で、双子の姉ヴェラと共に厳しいシャーマン修行をつんでいたようです。村の守り手となる為に。そんな彼女らが、ある日『呪われた北』のすぐそばで、全身血だらけの少年を見つけました。体のあちこちにひどい裂傷があり、気を失っていたそうです。放っておけば、間違いなくモンスターか獣の餌食でした」
 セリアがメガネをかけ直す。

「その時、彼女達は気づかなかったのです、その者が転移者とは……。北に逃れて来た同胞と思い、村の側の小屋まで連れ帰ったのです。その小屋は旅人や客人の宿泊場なのだそうです。そこで、彼女達は怪我を負った少年を手厚く看護した」

 セリアが静かに瞼を閉じた。
「二十七日後に、その者が魔王化するとは露も知らずに」
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