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ハーレム100 作者:松宮星

勇者世界

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凄腕盗賊のお値段  【リーズ】(※)

「あなた方は、騙されているんです」
 馬車の中で、今日もセリアは絶好調だった。

「あの女は言葉巧みにお客の不安をあおり、自分に依存させ、宝石を売りさばく悪徳霊能者です。宝石商とつるんでいるのでしょう」
 セリアは、イザベルさんは詐欺師なのだと言い張っている。

「もう一度言います、あの女の言いなりに仲間を増やすのは反対です。あの女にとって都合がいい、無能者を紹介されかねません」
「イザベルさんはそんな人じゃない!」サラが強い口調で否定する。
「第一、勇者が敗北したらこの世は終わりよ。自分の為にも、最善の人物を紹介してくれるはずだわ」

「あの女が有能と思い込んでいるだけかもしれません。仲間にする人間の技量は、精確に見極めなくては。魔王に『百万ダメージ』以上を与えられる人間のみを仲間に加えるのです。無能者は要りません」
「う」
 そこで、サラは、黙りこむ。
 今のは……サラにはきついよな。今日もオレは目隠ししてるから何も見えないけど、鼻の頭を赤くしてうつむいているんだろう、きっと。

「わかったよ、セリアさん」
 オレは強い口調で言った。
「仲間候補には、みんなが先に会ってくれ。みんなが反対するような人なら、オレは対面しないから」
「それが無難ですね」と、セリア。

「それから、まだ成長しきっていない人を仲間にしたとしても、それは、オレのせいだ。オレに萌えられたら、その人は、即、仲間入り。その人の意志に関わりなく、だ」
「そうですね」
「この先、そんな事があっても、仲間の技量を責めないで、やさしく迎えてやって。その人は、全然、悪くないんだから。馬鹿なオレはいくら責めていいからさ」
「了解しました」と、セリア。

 ん?
 ちょっと汗ばんだ柔らかい手が、膝の上のオレの左手を包み込む。
 隣に座ってるジョゼの右手だ。
 ジョゼの手が、オレの手を軽く握ってくれる。何があってもオレの味方だ、と言うように。

「ありがと……」
 オレの右耳の側で、聞き取れるか聞き取れないかの小さな囁き声がする。
 サラめ。鼻の頭は真っ赤なんだろうな。


 馬車が止まった。
 イザベルさんの占いの館の前に到着したのだろう。

 ジョゼがオレの手を取る。目隠しをしたオレを、外へと連れて行ってくれる。

 昨日、来た時は夜だったけど、今は昼前だ。
 ざわざわと街の音がする。
 物売りの叫び声。女性達の会話。荷馬車の音。
 そんな音がどんどん小さくなってゆく。表通りから横道に入ったようだ。占いの館は狭い通りにあるっぽい。

 しばらく歩くと、オレの体にドンと軽い衝撃が走る。

「ごめんよ〜」
 子供の声?
 子供がぶつかってきたのかな?

「あ! 痛たたたたッ! 何しやがる、このアマ!」

 ん?

 オレのすぐそばで、ジタバタと地面を蹴る音がする。

「離せ! 離しやがれ!」
 子供が叫んでいる。

「だ〜め。返して」
 アナベラの声だ。

「返すぅ? 何をさ?」
「盗みはだめだよー 犯罪だよー」

「ぎゃああああ、やめろ! 返す! 返すから、やめて!」

「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! もう許して、痛いよぉ〜」

 一体、何がどうなってるんだ?
 オレは、ちょっとだけ目隠しをズラした。

 ビキニ戦士のアナベラが、十二才ぐらいの子供を左腕だけで背後から締めつけていた。
 汚れたシャツとズボンの、痩せた子供だ。半泣きになっている。

「おねーちゃん、出すから、手をゆるめて」
「ちょっとだけだよー」

 子供がシャツの胸元から、珊瑚(コーラル)のペンダントと金袋を取り出した。
 どっかで見たような……
 あ。
 オレのじゃん。

「ちぇっ、おマヌケな貴族がいると思ったのに……素っ裸の奴隷のねーちゃんが護衛だなんて、サギくせえ」
「すっぱだかじゃないよー アーマーつけてるよー」
「ンな鎧あるかッ! 貴族に変なカッコーさせられて! あんた、バカだろ!」
「バカ? おねーさんに失礼だぞ、きみー」

 アナベラにギューと締められて、子供がぎゃ〜〜と悲鳴をあげる。

「スリですね!」
 メガネの奥から、蔑みの目でセリアが子供を見下す。
「警備兵につきだしましょう」

 子供の顔色が変わる。

「いや、いいよ」
 子供の服は汚れているし、髪の毛はボサボサ。目ばっかり大きくって、痩せてるし。
「アナベラのおかげで何も盗られなかったんだ。離してやろうよ」

「犯罪者を見逃すんですか?」と、セリアがおっかない顔でオレを睨む。
「犯罪は未然に防がれたんだよ」
「防がれてません! 窃盗は行われました! 盗難品を奪い返しただけです!」
「だけど、実際、被害にはあってないだろ?」
「ここで何の咎めもなく放つのは、単なる偽善です。この子供は、あなたの甘さを嘲笑いながら、別所で犯罪を犯すに決まっています」
「決めつけるのはよくないよ。反省して、もう二度としないかもしれないじゃないか」
 セリアは一瞬、喉をつまらせ、それから声を張り上げた。
「馬鹿ですか、あなたは!」
「ねえ、セリアさん。オレは良いって言ってるんだよ」
「ささいな悪の芽でも見逃せば、巨大な悪を生み出します。いいですか、犯罪者というものは再犯を繰り返しやすく」

「うるさい!」
 オレは声を荒げた。

「盗られたオレが良いって言ってるんだ! しつこいぞ!」
 セリアが目を丸めてオレを見つめる。オレが怒るなど想像もしてなかったって顔だ。

「オレはいいとこの坊ちゃんだったし、お師匠様に引き取られてからだって大事にされてきた! あんただって貴族だ! その日の暮らしに困った事なんか、一度もない! そんなオレらが、この子の将来を奪っていいわけないだろ!」

 セリアが茫然とオレを見つめ、それからうつむいた。

 ジョゼは、オレの言っている事は正しいと言うように頷いてくれた。
 サラはオレににこやかな笑顔を向けていた。が、オレの視線に気づくと鼻の頭を染めてそっぽを向いた。『た、たまには格好いい事、言うなって、ちょ、ちょっと感心しただけだし』とか、もごもご言ってた。
 お師匠様は、いつも通りの無表情。

「オレの物、取り返してくれてありがとう、アナベラ」
「どーいたしましてー」
 ビキニ戦士は、えへへと笑った。

「そいつ、離してやってくれないか?」
「うん、いいよー」
 アナベラは明るい笑顔だ。

「そー言うと思ってたー 勇者さま、女の子にやさしーもん」

 へ?

 女の子……?

 女の子なの……?

 オレは、アナベラにつかまっているスリの子供を、あらためて見つめた。
 ライトブラウンのショートヘアー、痩せて汚れてはいるけれどもかわいらしい顔、大きなヘーゼルの瞳は小鹿のようだ。
 こんなかわいい女の子がスリだなんて。

 きっと……
 両親が病死して……
 ひどいオジさんにひきとられて……
 虐待されて逃げ出して……
 男の子のふりをして、街をさまよい……
 だけど、何処にも居場所がなくって……
 おなかがすいてどーしようもなく……
 それで、スリを……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと九十三〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


「馬鹿が……」
 お師匠様が額に手をあて、頭を左右に振った。

 あ?

 あれ?

 オレ、今、この子に萌えちゃったの?

 仲間にしちゃった?

 同情しただけなのに!


 オレは再び目隠し勇者になった。

『これ以上、事故で、仲間を増やすなよ』と、お師匠様には釘を刺された。

「あ〜あ、勇者らしくなったって感心したのに、損したな」
 サラが、刺々しい口調で言う。
「女の子だから助けたのね」

「ちがう! 男と思ってたよ!」
「へー そうぉ? でも、萌えて仲間にしたのよね?」
「萌えたけど、萌えたわけじゃないッ!」

 意味不明。だけど、本当に、そうなんだ。
 気の毒だと思った。
 相手に心を傾けた。
 それだけだ。
 愛とか恋とか、そういう感情はなかったんだ。

 ジョゼに手をひかれたオレは、占いの館のイザベルさんの占い部屋に連れて行かれた。みんなも、スリの子供も一緒だ。

「いらっしゃぁ〜い、勇者さま、賢者さま、お仲間のみなさま。あら、リーズ、あなたも一緒なの?」

 リーズ?

 ここにはオレらしか居ないんで、目隠しは取っていい事になった。

 テーブルのとこに、イザベルさんが座っている。
 スリの子供が、顔を布でゴシゴシと拭いていた。
 子供の背後にはアナベラ。逃がさない為かな?

「強い大きな星に惹かれちゃったわけね。うふふ。勇者さまの側のかわいらしい星……一つは、あなただったのね」

「イザベルさん、この子と知りあいなんですか?」

「ええ。この子のお父さんは、ちょっとした有名人なの。私の顧客の一人よ」
 お父さん……?
 両親は病死したんじゃ……?
 ああ、それはオレの想像だっけ。

「ったく、わけわかんねえ」
 子供がテーブルに布と化粧落としの瓶を置く。イザベルさんに借りたモノのようだ。
 あれ? やつれた感じがなくなった。
 細いことは細い。けど、肌は日焼けしてるし、顔はイキイキしてる。健康そうだ。

「この男についていかなきゃいけない気がする。逃げようって気にもならねえ。どーいう事?」
 子供の質問に、イザベルさんが笑みで答える。
「あなたは、運命の星に出会ったのよ。その巨大な星と共に戦うのが、あなたの宿命……」
「うさんくさいお告げはいらねえ。真実だけ教えてくれ」

「リーズ、あなたは勇者さまの仲間になったの。魔王戦が終わるまで、あなたに自由はない。勇者さまの為に働かなければいけなくなったのよ」

 リーズと呼ばれた少女が、眉をしかめ、オレをジロリと睨む。

「あんたが勇者なわけ?」
「ああ、勇者ジャンだ」

「オレを何日、拘束する気?」
「魔王戦は九十五日後だ。その日に、一緒に戦ってもらう」

「九十五日後ね……今日も含めると九十六日もオレを拘束するわけだ」
 リーズがニッと笑う。何つうか……ふてぶてしい表情だ。

「オレ、一流なんだ。高いぜ?」
「へ?」

「そうだな……日当は一万にまけてやる。その代り食事と宿代はあんた持ち。仕事の分け前は、七三でどう?」

「七三?」

「お宝の分配だよ。あんた七でオレ様が三。冒険途中で宝箱との出会いもあるだろ?」

 リーズが胸元に手をあてた。

「大盗賊ギデオンの跡取り娘を抱えるんだぜ? それ相応のモノ、払ってもらわなきゃな」

 大盗賊ギデオンの跡取り娘……?

「その子が優秀なのは本当よ」
 うふふとイザベルさんが笑う。

「お父さんのギデオンに仕込まれたから、錠前破りはお手のものだし、スリの腕もなかなか。ダガーで戦っても強いわ。軽業師みたいに身軽だから、お貴族様の御屋敷にも難なく忍びこめる。若いけど、超一流の盗賊よ」

「完全に犯罪者じゃないですか!」と、叫んだのはセリアだった。
「警備兵につきだすべきだったんです!」

 リーズは、そんなセリアをフンと鼻で笑った。
「もう遅いよ。オレ達仲間だろ、メガネのおねーちゃん。お貴族さまなんだっけ? オレが牢屋に入ったら、勇者様が困るぜ。九十五日後に戦力が減っちゃうもん」

 セリアが唇を噛みしめて黙る。
 黙る代わりにオレを睨む。
『見た目に騙されて、犯罪者を仲間にして! 本当にあなたは馬鹿ですね!』と、その目は主張していた。
 しょうがないじゃん、萌えちゃったんだから……

「盗賊は、仲間にいれば心強いジョブだ」
 と、お師匠様。
「その素早さを生かして情報を集めてもらってもよいし、勇者や仲間達の装備を探す旅に出てもらってもいい。盗賊がいれば我々の旅は楽になるだろう」

「お。わかってんじゃん、おねーちゃん」
 リーズは明るく笑って、お師匠様の背中をバンバン叩いた。

 う。

 さすがに……
 周囲の空気が凍る。

 おまえ、賢者様にその態度は……

 オレはごくりと唾を飲み込んだ。

 お師匠様はいつもと同じ無表情で、リーズを見つめる。

「だが、おまえやイザベルが言うほど、優秀なのか疑問ではある。おまえはアナベラに捕まったしな」

「捕まったのは、生まれて初めてだよ!」
 リーズが声を荒げ、背後を指さす。そこにはアナベラがいる。

「あのバカ女、バカだけど、ハンパなくすごいよ! 刹那のスリ技を見切って、神速のオレ様を捕まえたんだから!」

「もー おねえさんに、バカバカうるさいぞ、きみー」
 アナベラにぎゅっとされ、リーズは悲鳴をあげた。リーズは小柄だから、アナベラのぷるんぷるんの胸がリーズの頭の上に……あぁぁ……

「けなしてない! ほめたんだよ! あんた、超一流の戦士だって!」

「え? そうなの?」
 アナベラがパッと手を離す。嬉しそうに、えへへと笑って。

「きみ、口わるいけど、いい子だねー」

 つかまれてた体をさすりながら、リーズは不審なまなざしをアナベラに向ける。

「あんたさ……何で、そんなカッコーしてんの? 勇者にむりやり着させられてるわけ?」
 いやいやいやいや! 断じて、違う! オレのせいじゃない!

「ちがうよー 有名になりたいからだよー」
 アナベラが、ニコーと笑う。
「ビキニアーマーのおかげで、勇者仲間になれたんだー えへへ。イザベルさんの言うとーりにしてよかったー」

「な、わけねーだろ!」
「そんなわけないでしょ!」
 二つの声がハモる。

「あんた、この占い女にだまされてるんだよ!」
「あなた、この占い師に騙されているんです!」

 ほぼ同時に叫んだ二人は、顔を見合わせ、フンと反対方向を向いた、
 仲が悪いな、リーズとセリア。
 気は合ってるけど。





 そんなわけで、オレはリーズを雇わなきゃいけなくなった。
 報酬は魔王討伐後って言ったら、『駄目。あんた、魔王戦で死ぬかもしれない。とりはぐれるのはヤだから、その前にちょうだい』って言われた。
 ちくしょー。
 おばあ様に頼むってジョゼが言ってくれたけど、断った。あのバアさんに払ってもらうのは筋違いだ。

 で、これから、リーズも連れて、イザベルさんの案内で仲間候補の二人に会いに行く。


 魔王が目覚めるのは、九十五日後だ。
 今日の分も含めた日当分が九十六万ゴールドか……
 どーしよう。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№007)

名前 リーズ
所属世界   勇者世界
種族     人間
職業     盗賊
特徴     ボーイッシュ。明るくて生意気。
       男言葉。一人称は『オレ』。
       大盗賊ギデオンの跡取り娘。
       スリも錠前破りも泥棒も一流だそうだ。
       捕まった事はなかったのに、
       アナベラに捕まった。
戦闘方法   ダガー
年齢     十四
容姿     ライトブラウンのショートヘアー
       ヘーゼルの瞳(緑がかった茶色・淡褐色)
       小柄で細いけど、日焼けしてて健康そう。
口癖    『バカだろ!』
      『あんた、だまされてるんだよ!』
好きなもの  お金
嫌いなもの  警備兵
勇者に一言 『オレ、一流なんだ。高いぜ』
挿絵(By みてみん)
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