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クエスト・鉱山深く潜む者(終)

忘れた頃にやってくるおっさん英雄記です。

 王都エル・ドラドの中心に位置する王城の謁見の間にて、俺は膝をついて頭を垂れながら、彼女・・の言葉を神妙な顔をして聞いていた。

 彼女とは、つまり……ルスタールを含めた14都市を治める女王陛下その人であったりするのだが。

 いや、ほんと、どうしてこうなったのかねぇ……


「……以上のことから、大規模迷宮の主を討伐し、海嘯の防止へ多大な貢献があったと認め、冒険者ジオ・ウルマに『弓の勇者』の称号とミスリル貨1枚……100000イットを報償として授けるものとする」


 女王陛下……アストリッド・エル・ドラド2世陛下がその手に持った王笏おうしゃくを軽く振ると、侍従が俺の目の前に銀盆をすっと差し出してきた。

 銀盆の上には緋色のビロードが敷かれ、更にその上に大ぶりの銀色に輝く硬貨が1枚置かれている。

 はぁ……これがミスリル貨ってヤツか。

 ほとんど流通のない記念硬貨みたいなもんだからな。俺も見るのは初めてだ。

 純粋な貨幣価値としても家が一軒買える位はあるが、希少価値もあって、実際の価値はそれ以上だ。

 好事家なら額面の数倍で取引するだろうな。


「ほれ、どうした。ありがたく受けとらんか」


 ミスリル貨を見つめた形のままピシリと固まった俺を、侍従が早く受け取るようにとせっつく。

 いや、無茶言わんでくれ。

 こんな王宮での作法なんざ一介の中級冒険者が知る訳無いだろうが!


「む、まずはだな、盆を左手、右手の順で受け取って……そうだ、そしたらゆっくり胸元に引く。そしてそのまま陛下に向かって軽く一礼、一歩下がって待機だ」


 ようやく俺の状況を察してくれたのか、侍従が小声で作法を指示してくれる。

 ふぅ、助かったぜ……。


「ジオと申したな。直答を許す。迷宮ダンジョンの中で何があったのか、正確な所をお主本人の口から聞きたい……私もな、一冒険者が急に英雄クラスの活躍をしたことについて色々と疑問があるのだ……少し伝え聞いた所に寄ると、実質3人で大規模迷宮を踏破しただの、死んでなお蘇っただの眉唾な話も多くてな」


 ああ、まあそうなるわな。

 仕方ねえ、腹を決めて喋るしかねえか。

 実際、あのときは俺も死んだって思ったからな……。


          ※


「ジオ様ぁ!」


 ユニの悲鳴が響く中、部分的に実体化した巨人の岩の拳が、俺の頭部を直撃した。

 まるでスローモーションのように倒れる俺の体が俯瞰ふかん状態で認識出来る。

 って、おい。幽体離脱でもしたのか。

 自分の目で自分の体を第三者のように見られるってのは滅多にない経験だね。

 しかし、こりゃやべえわ。

 の頭部からは真っ赤な血がだくだくと溢れていて、ぴくりとも動かねぇ。

 で、俺をぶっ飛ばした巨人は、と言えば……基本的には黄色く輝く霊体の体を持つ巨人だ。

 そして、両の拳と頭部だけが今までと同じように岩石で出来ている。

 精霊神だか古代神だかの血を引くと言われるだけあるってことか。  



「じぃ、お、さま」


 俺の倒れ伏した姿を見て、ぺたり、とへたり込むユニ。


「だ、大丈夫、『パーティ自動回復』が癒やしてくれる。すぐに立ち上がって……」


 ユニは俺の体の前に座り込んだまま、ぺたぺたとそれをなで回す。


「……なぜ発動しないの? 生きている限りは(・・・・・・・・・)自動的に効果が現れるはずよ? それが発動しないって事は、つまり……そ、そんな……。

 こんな事ならあの子達に『お守り人形』を渡すのでは無かった。せめてジオ様の分は確保しておくべきだったのに」


 あ、まずいな。

 このままだとユニがぶっ壊れちまう。

 てゆうか、戦闘中だろうが!

 とりあえず動け! 死んじまったら元も子ももねえぞ!!


「……信じない、信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない信じない……嘘、嘘、嘘よぉぉぉっ!」


 地面に座り込んだユニは、ただひたすら嫌々をするように首を力なく振るだけだ。


「ユニ、しっかりシろ! ジオのカタキ、取る!」


 ユニの様子を見かねたルフがユニの頬に強烈な平手打ちをかます。

 うぉ……ユニの頭が一瞬ぶれたぞ。逆に意識飛ぶんじゃねえかって位の強烈なやつだ。


「あっ、あ…………ありがとう、ルフちゃん。そう、そうね、ジオ様のカタキ……! 絶対、許さない、からっ!」


 正気付いたユニの体に尋常じゃないほどの魔力が吹き上がっていく。

 それはやがて三本の炎の槍と化して顕現した。

 ……おいおい、まさか上級火魔術の『火山槍ボルカニックランス』を同時に3本生成しやがったのか!?


「くっ……うっ……くらい、なさい!」


 ユニがその溶岩の槍を三本まとめて巨人へと放つとそれは見事に轟音を立てて巨人に着弾した。

 流石に3本まとめた『火山槍ボルカニックランス』は、輝く霊体のような巨人の本体をもわずかながら散らし、ダメージを与えたようだった。


『gigaga!!』


 先ほどまで訳の分からない言葉を喋っていた巨人は、霊体のような姿になってからは言葉とも言えない声を出すのみになってしまったようだ。

 もっともまともな言葉を発する器官が無いのだから当たり前なのか。


『ユニは『火山槍ボルカニックランス・連式』を習得しました。』


 ユニが新しい魔術を習得したことを『窓』が知らせてくる。

 どうやら今のユニの魔術は『窓』によると『火山槍ボルカニックランス・連式』という新しいスキルとして固定されたようだった。

 レベルアップにらない、修練による新魔術の習得。

 流石だな。やはりユニは魔術師としての才能が尋常じゃない……ん? 『窓』……?

 俺がこんな状態だってのにまだ使えるのか?


「……『窓』? なぜ『窓』がまだ存在するの。『窓』はジオ様に付随する物のはず……もしか、したら」


 ユニも同じ疑問を持ったらしい。

 その瞳にわずかな希望の光が宿る。


「まだ、完全にはジオ様の命は失われていないのかもしれない。

 だとしたら、地上に戻って治療師に見せればもしかして……ルフちゃん、コイツ、倒すわよ。そして皆で地上に帰りましょう」

「分かっタ。ルフもミンナ一緒が良い!」


 そして再び巨人に対峙する二人。

 ち、なのに肝心要の俺が、この様じゃ世話、ねえな。

 何とか、して、二人だけでも助ける方……法は……。


 ……あ?


 な……んだ、こりゃ……

 力が抜けて……


 意識も……くそ、結局、黄泉の国行き、かよ。


 ユニ、ルフ、すまん……お前達……だ……け……でも……


・          


 俺は、闇の中で唐突に意識を取り戻した。

 ……あー……何してたんだっけか。

 てか、なんなんだここは……?

 一面の黒。

 闇、とかじゃねえ。

 なんつーか、のっぺりとした……

 とてつもなく黒いインクで塗りつぶしたかのようなあたり一面黒の世界。


「おれぁ……確か」


 ああ……突然復活した巨人に一撃まともに食らったんだっけか。

 てこたぁ、ここは黄泉の世界か?


   ――――――――――――――――――――――――――

   システムエリアにようこそ。

   残念ながらあなたは戦闘不能とな

   ってしまいました。

   ――――――――――――――――――――――――――


 戦闘不能……そうか、やっぱり死んだのか。

 ……って、なんじゃこりゃあ!

 真っ黒な空間に白い文字でいきなり浮かび上がった高等古代語。

 そしておそらくそれを読み上げているのであろう無機質な声はあの『窓』の声にどこか似ている。

 んで、この声の主が言うにはここは『しすてむえりあ』とか言うらしいが……冥界とは違うのか?



   ――――――――――――――――――――――――――

   《ワールドリンク》-MMO【ソウ

   ルズ】には完全死亡後の無償復活手

   段はありません。

   選択肢をお選び下さい。

   1.ログアウトする《使用不可エラー

   2.遺産を引き継いでキャラクターを作り直す《使用不可エラー

   3.ゲーム内アイテム『お守り人形』を使用して復活

   4.課金復活アイテムを使用して復活《使用不可エラー

   ――――――――――――――――――――――――――


「……いや、てか、おい。使用不可ばっかりじゃねえか。選べるのは3の『お守り人形』……? 確かありゃあガキ共に渡したはずだが……」


   ――――――――――――――――――――――――――

   解:パーティが解散されていないた

   め、NPC所持のアイテムを使用し

   て復活することが可能です。

   ――――――――――――――――――――――――――


「……なんだが釈然としねえが。復活出来るってえのなら越したこたぁねえな」


 何しろあの場にはユニ達を残したまんまだ。

 黄泉の国でご対面、なんてのもぞっとしねえ。

 て、事で3番を選択、と。

 お、3番目の選択肢が光ったな。これで選択されたって事か。


   ――――――――――――――――――――――――――

   3.ゲーム内アイテム『お守り人形』

   を使用して復活が選択されました。

   なお、チュートリアル後初の戦闘不

   能のため、ゲームn……idの変更が

   可能で……ますか?

   ――――――――――――――――――――――――――


 ん、なんだ?

 急にノイズが入って聞き取りにくいな。


「あー……、なんか知らんがこっちは急いでいるんだ。良いようにやってくれ」


 こうしている間にユニ達が死んじまったら後悔しても仕切れねえ。


   ――――――――――――――――――――――――――

   了解。

   ゲームモードを『VERY EASY』

   に変更します。

   ――――――――――――――――――――――――――


 ……べりーいーじーってなんだ?

 ベリー種の実の一種か?


 ……そんな的外れな事を考えている内に再び俺の意識は薄れ。


 気が付いた時には、片腕をおかしな方向に曲げたユニと、全身血に染まったルフがまさに巨人から止めの拳を受ける寸前だったってぇ訳だ。


「っとお! 危ねぇなっ!」


 思わず反射的に二人の前に飛び出して代わりに巨人の拳を喰らう。

 なんとか頭を両腕で庇う位は出来たが、焼け石に水だよなぁ。

 く、せっかく生きかえったっつうのに、また即死かよ……?

 …………?

 なんか思った程効かねえな。

 いや、すげぇ事はすげぇんだが、俺の体をほんの一歩後退させる程度だ。

 さっき頭に受けた一撃よりよっぽど強力そうな一撃だったんだが……


『gi、gyao???!!!』

「ジオ様!?」

「ジオ、生き返っタ!」


 背後からユニ達の驚きの声が聞こえてくるが、とりあえず一旦無視だ。

『装備』から『天乃鳴弓アマノナルユミ』を選択し、威嚇のつもりで『アローレイン』を連続行使する。

 もっともこれっくらいでヤツを倒せるとは思ってねえが、何よりもユニ達を救い出す隙を作ることが重要……って、あれ?


『Giguuuuuuuu! guoaaaaaaa!!』


 雨のような矢はあっさりと巨人の全身を貫き、霊体部分は霧散し、岩石で出来た拳や頭部も砕け散る。


「……」


 あ? おい、もろすぎねぇか?

 いや、というより、アローレインの威力が尋常じゃない位に向上しているのか。

 さっき、巨人の拳を受けても碌にダメージを受けなかったことといい、どういうこったよ。

 うーん、前例もあることだし、一応、弓の先でつついて確認してみるが、完全にただの鉱石の塊に戻っているな。

 どうやら今度こそ本当に倒したらしいな。




迷宮の主(ダンジョンマスター)古代巨人エンシェントギガス(地)〕及び、『精霊巨人スピリットギガス(地)』の討伐を確認しました。討伐報酬が送られます』

『〔7000ジット〕を入手しました。』

『〔大地神の籠手(ガイアガントレット)〕を入手しました』

『隠し条件〔フルメンバー未満での迷宮の主の討伐〕達成により〔大地神の斧(ガイアアックス)〕を入手しました』

『 VERY EASYモードのため隠し条件〔NORMALモード以上での迷宮の主討伐〕が達成されませんでした』

『長期未討伐ボスモンスター(最大期間)討伐特典により、プレイヤーに〔スキルポイント15〕〔ステータスポイント15〕が付与されます。』

『VERY EASYモードのため取得経験値が1.5倍となります』

『ジョブ進化条件を満たした為、プレイヤーのジョブ〔レンジャー〕が〔神弓〕へと進化しました。』




 ん、この『窓』の声が聞こえるって事は間違いなく討伐に成功したってこった。

 いや、死にかけただけはあるねぇ。てぇした報酬だ。


「ジオ、様?」

「おっと、ユニ、無事……じゃねえな。ルフも。大概やられちまって……早いとこ地上に出て治療……ぐふっ!?」


 ユニのタックルが鳩尾みぞおちに決まり、一瞬息が詰まる。


「ジオ様……ジオ様ジオ様ジオ様ジオ様っ!」


 左腕が折れている為、右腕だけですがりついて俺の胸に顔を埋めるユニ。


「ジオ、ジオジオジオジオーーーーん、……んちゅ……ぺろぺろぺろぺろ」


 ルフに至っては俺の上半身に飛びついて、顔と言わず首と言わず、あちこちべろんべろんに舐めまくっている。


「ああ、ルフちゃんズルイ! ジオ様! 私にもキスぅ! ディープなヤツで!」

「ジオ、ルフにはいつ種付けしてくれル? 今か? いつでも良いぞ! ジオの強い子産みたイ!」


 いや、ユニ、ルフのそれはキスじゃねぇだろ。

 ルフも年頃の娘がはしたないこと言うんじゃありません。


「だからルフちゃん、ジオ様のお子様を産むのは私が先なのー!」

「ジオ、早くユニに種付けしてやれ。じゃないとルフの順番が来なイ」


 ……二人とも命に別状はないみたいだな。元気なようで何よりだ。


 はあ。


 俺はため息を一つ吐くと、がっしと二人を両脇に抱え、49階への階段へと向かったのだった。


          ※


 そして、その後無事に『脱出の翼』で地上に帰還した俺達は、真っ先に鉱山街でヒールポーションを購入。

 それを『薬効強化』と『回復アイテム強化』でブーストして自分たちの傷を治療した。

 いや、しかし、下級ポーション数本で骨折や重傷クラスの傷が治るのはコストパフォーマンスが半端ねぇな。


 とりあえずその後は、身なりを整えるのもそこそこにギルドに今回の経緯を報告した。

 何しろ新ダンジョンの発見と踏破だ。

 これはギルド員としても、この国の国民としても絶対の義務なのだ。

 何しろ魔物という脅威と無限の資源という両極端な影響をもたらす存在だからな。

 個人の裁量でどうこうして良いもんじゃねえ。

 ま、ギルドにしたって一鉱山街のギルドが判断出来ることじゃねえだろうから緊急用の通信魔具で王都に連絡するぐらいしか出来ねえだろうがな。


 そして、あれから3日程たち、体の調子も戻って来た頃、それを見計らったかのように王都エル・ドラドよりの使者が飛竜便にてルスタールギルドへと降り立った。

 用件は当然のごとく俺達3人の王都への召喚。

 面倒くせえ事になったと思ったが、これはある程度仕方ねぇ事だ。

 まあ、命まで取ろうってな話にゃならねぇだろうと、迎えの飛竜便にて王都へと向かい――

 予想外なことに、ここでこうして女王様と面つき合わせているって訳だ。はあ……。


 

最後の方はちょっと速歩だったかな。

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