クエスト・鉱山深く潜む者(5)
感想欄で展開の大半を読んでいる人が複数居て思わずorz
あたい達はおっちゃんの声を背中に巨人の後ろを必死で駆け抜けた。
階段は……見えた! あと20メートル位か?
「はっ……はっ……階段だ、急ぐよっ……!」
「はっ、はぁっ」
「ま、まってよぉ! コーラル姉ぇ!」
「泣き言を言う前に足を動かしな!」
普段ならこんな距離何でも無い。
伊達に普段から野山を駆けまわって食料調達している訳じゃないんだ。
だけど、今ばかりは、わずか20メートルが永遠とも思える距離に思えて仕方なかった。
「あと少しだ、がんばれ!」
やんちゃなルーグはともかく、気の弱いイルルカは恐怖で足が上手く動かないらしい。
あたいが階段に足を掛けたときには、まだ10メートルほど遅れていた。
「よっしゃ! 到着っ!」
「ルーグ、ちっと待ってな……3人一緒に登らないと危ない」
ルーグが1人先走って登ろうとするのを制する。
ばっか、登った先に魔物が居たらどうすんだ。
そうこうしている内にイルルカも階段までたどり着いた。
よし、後は階段を上って『脱出の翼』を使えば……
「ギ、ギィ……キシャアァァァァ!」
「て、おい、こんな時に魔物かよ!」
いきなり響いた奇声に目をやると、迷宮の壁を崩して巨大な螻蛄が這い出てくる所だった。
……コイツは……『バグモール』ってやつか。
ちぇ、おっちゃんから借りた小弓はあっても、矢が無いんじゃどうにもならねぇ。
これは逃げの一手だな。
「急ぐんだ! 速く階段を上れ!」
ルーグとイルルカを上階に押し上げると同時に、拾った小石を魔物めがけて投擲する。
ジオのおっちゃんのおかげで覚えた『飛び道具補正・中級』のおかげでヤツの右目に命中する。
「キシャ、キシャァァアア!!」
よっしゃ、怯んだみたいだ。
今のうちに階段に……
「キシュルルルルルッ!!」
ドンッ
……て、あれ?
背中が熱くなって……
なんだこりゃぁ!? 血がいっぱいぃぃぃ!?
腹からでっかいトゲが突き出てんぞ……そりゃ血も出るよな……
て、そか、背中から刺さって貫通してんのか……
あの螻蛄野郎……トゲを飛ばせるのかよ……聞いて、ねぇ……
……あいつらだけでも無事に逃げれた、かな……
「コーラル! あきらめんな!」
「コーラル姉!」
あ、ばか、何戻って来てんだよ。
あたいの両手を持って……ああ、階段の上に引き上げようとしてんのか。
もう、無理だって。
腹に穴が開いてんだぞ……お前らだけでも……って意外と力あるね、あんた達。
どうやらあたいを引きずって49階に上がったみたいだ。
火事場の馬鹿力ってヤツかしらん。
螻蛄野郎も階層を越えて追っては来ないみたいで一安心って所だね。
「ふぃ……さて、と。悪いなコーラル、ちっと触るぞ」
って、おい、ルーグ、人が死にかけてるってのにどこ触ってやがる。
かっ、勝手に乳揉むんじゃねえ!……て、あ、ばか。
「あ、ひっ……んっ」
下は、そこはもっとダメぇ。
「コ、コーラル、変な声出してんじゃねえよ。てか、もう怪我治ってんだろが。自分で『脱出の翼』だせよ」
て、ああ、なんだ、そか、あたいが持ってた『脱出の翼』探してんのか。
でも怪我が治っているって……何言ってんだ、腹にあんな大穴が開いて……開いて……無いな。
「ジオのおっちゃんから貰っただろ? お守りの人形。コーラルの分のアレがさ、さっき輝きだして……あっという間に傷跡も無い位に治っちまったよ」
……気休めの冗談かと思ったらマジだったのかよ。
んなモンぽんぽんと気軽にくれるんじゃねえよ。
どうやって借りを返せば良いのか分からねぇじゃんか。
……こうなりゃ体しかねぇか?
「くっそ、ジオのオッサン……帰ってきたら体でも何でも使って絶対借りを返してやるからな! 死なないで帰って来いよ!」
思わず唸るようにそうつぶやくと、ルーグのヤツがあきれたようにため息をつきやがった。
「はぁ……体でもって……お前の、か?」
……悪いかよ。
こんなんでもあたいだってぴちぴちの処女だぞ?
……いや、使っちまった魔法具の価値には全然届かないのは分かってるけどよ。
「……あ、あたいの貧弱な体じゃ足りないかもだけどな……」
「わ、わたしも! 私もからだでお礼する!」
ありゃ、イルルカもその気になっちまったか。
まあな、オッサンと言えどあれだけやられりゃ惚れもするわなぁ。
「い、イルルカ!? あ、い、いや、ちょっと待とうか。な? そ、そもそもおっちゃんはユニの姉さんを侍らしていることから鑑みるに幼女趣味の気はねえと思うぞ……」
慌ててイルルカを制するルーグ。
「って、おい。あたいん時とずいぶん態度が違うじゃねぇか?」
「え、いや、そんな事は無いって」
「ふーん、なるほどルーグはイルルカがねぇ~?」
「ち、ちげーしっ! 何とも思ってねぇし!」
「? ねえ、ルーグが私をって……なに?」
「なんでもっ! なんでもねぇって! それより、ほら、さっさと帰ろうぜ!」
あ、露骨に話そらせやがった。
まあいいか。確かに今はそれどころじゃ無いしね。
その件は後できっちり尋問してやろう。
「それでは、と」
あたいは懐の奥深くにしっかりと仕舞い込んでいた『脱出の翼』を取り出すと、地面に垂直に突き刺した。
するとそこから光が迸り、あっという間に転移の魔法陣が完成する。
そして次の瞬間。
あたい達3人の姿は魔法陣に吸い込まれ、迷宮から地上へと転移したのだった。
※
あー、参ったね。
こりゃあ明らかに決定力不足だわ。
ガキ共を逃がした後、俺は巨人相手にあらゆる手段を模索してみた。
それこそ、3人による同時一点攻撃やら無限の酒筒による打撃力のドーピングやら。
精霊に近い存在である古代巨人相手に、効かないとは思ったが一縷の望みを掛けて、銀の毒までをも使ってみたが、それらのダメージを上回る再生能力の前にはどうにもならなかった。
逆にじわじわと向こうはダメージを与えてくる。
薬のある間は『パーティ自動回復』で何とかなるだろうが、逆に言えばこのままじゃジリ貧って事だ。
「ぎゃんっ!」
「ルフ! 大丈夫か!」
ち、目をちっと離した隙にルフが巨人の一撃を食らっちまったか。
まだ動けはするみたいだが……これでほぼ手持ちの薬は尽きた、か。
「ジオ様っ、私が巨人の気を引きますっ……その隙に」
「あー、却下だ却下。お前には金かけてんだ、そうそうほっぽり出して行けるかよ」
ユニが悲壮な表情で囮となることを提案するが、勿論却下だ。ばかたれ。
「でもっ……このままじゃ……」
「確かにこの……おっと……ままじゃまずいがねっ……あらよっと」
『俊足』を自分に、『挑発』を巨人にかけ直しながら、巨人の踏みつけをぎりぎりで回避する。
「まあ、何となく何とかなりそうな気はするんだ。俺の予想が正しければな」
「何とか……ですか?」
「それジオの予感カ?」
まあ、予感つうか……予想?
ガキ共が無事に地上に戻ればたぶん……
『サブクエスト〔子ども達を救出せよ〕が達成されました。サブクエスト達成報酬が送られます』
おっと、噂をすれば影ってか。『窓』の声が俺達3人の脳裏に響き渡る。
よっしゃ、ナイスなタイミングだ……こいつを待っていた!
『〔2000ジット〕を入手しました』
『〔中級回復薬〕10本を入手しました』
「ジオ、またあの声聞こえタ!」
「ジオ様、これを待っていたのですね!」
ま、そういうこったが……ち、まずいな。
決定力の不足を補える報酬じゃねえぞ。
くそ、後は一か八か……『エクスチェンジ』に全部ぶっ込んでやるしかねえか!
「賭け事の女神様よ、後で一杯おごるから、ここは一発頼むぜ!!」
プラチナコース2回分……まとめてぶっ込んだらぁ!!
早速『エクスチェンジ』の窓を開いてプラチナコースを選択しようとするが、そこに大量の土石が降り注ぐ。
巨人が大地の精霊力を操って作り出したそれは、大地の上級魔法『岩嵐』に匹敵する規模だ。
そして『窓』の操作に気を取られていた俺は、それを完全に避けきることが出来なかった。
「うっ、ぐっ!」
息の詰まるような衝撃と痛みを受け、数メートルほど吹っ飛ばされる。
痛ってえ……くそ、左腕とあばらをやられたか。
『ウぅWハW……メぇシぃウーマぁぁあああ!』
「ジオ様!」
「ジオ!」
俺に止めを刺そうと拳を振りかざした巨人にルフが特攻、その気を引いている間にユニが俺に対してなにやら術を行使する。
「『念動』!!」
こいつは中級無属性魔法の一種、『念動』か。
俺の体が一瞬ふわりと浮いて、巨人の攻撃圏内から脱出する。
ふぃ、助かったぜ。
傷の方も『窓』内に薬が追加されたせいか、再び『パーティ自動回復』が発動している。
1分もしないうちに最低限の動きは出来るようになるだろう。
その間だけ二人に何とかして持たして貰わなきゃならんが……薬もあるし何とかなるだろう。
そしてその間についでに『エクスチェンジ』もな。
「今度こそ! プラチナコース2回分だ! 当たりやがれ!!」
気合いと念を込めて『窓』のスタートボタンを押す。
すると窓の中でルーレットのような物が、ルルルルルルル……と音を発して回り始める。
そしてしばらく回り続けた後、それはゆっくりと動きを止め……かと思えばひときわ派手な光が乱舞し、荘厳なファンファーレが鳴り響いた。
そして……俺の目の前に二つの奇妙な物体を生み出した。
『UR装備、〔天乃鳴弓〕が当たりました。おめでとうございます!!』
『SR装備〔減衰無効の護符〕が当たりました。おめでとうございます!』
「……こいつぁ……」
俺の目の前には、神聖な霊気を内包していることが俺でも分かる壮麗な長弓と、漆黒の宝石を中心に配置した、掌に乗るほどの大きさの護符が浮かんでいた。
俺はそれらをひっつかむと、一旦『アイテムうぃんど』にぶっ込んで、ざっとそれらの装備の効果を確認する。
『天乃鳴弓』
神代の力を今に伝える最高峰の弓。その弦の音は破邪の力を持ち、霊体、精霊、悪魔、非実体系に特効。また、そこから放たれる矢は常に高速振動する霊気を纏うことによって対象の防御力を50%無視してダメージを与えることが出来る。
『減衰無効の護符』
多段攻撃におけるダメージの減衰効果を一日10回まで無効に出来る護符。
高等古代語混じりのその説明を、俺は全部理解出来た訳じゃない。
ないが……その二品がとてつもない神器クラスの逸品だと言うことは分かった。
くそったれ、愛してるぜ、賭け事の女神様よ! 狙い通り過ぎて怖い位だ!
俺は素早く『窓』の『装備品』欄から、たった今突っ込んだそれらを選択する。
すると、コンポジットボウが一瞬で消え去り、代わりに天乃鳴弓が両手に、減衰無効の護符が首元に出現した。
「これでダメならどうにもならん。頼んだぜ、天乃鳴弓!」
俺は天乃鳴弓をぎりぎりと引き絞ると、それに併せてルフが巨人の動きを牽制し、ユニが『柔化』を巨人の頭部に向けて発動する。
こっちの意図を無言の内に汲んだ最高のアシストだ。
そして――俺が最後の一撃に選んだのは『アローレイン』。
これに『弱点看破』『弓術(特級)』『無限の酒筒』のブースト効果が上乗せされる。
更に『天乃鳴弓』の力と『減衰無効の護符』が、おそらくダメージを通しやすくするだろう。
俺は渾身の気合いとCPを込めて、巨人の頭部に向けて『アローレイン』を放った。
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
放たれた矢は、いつもとは違い、美しい真っ白な光を纏って、薄暗い迷宮の中に何本もの白い軌跡を描く。
『ムぅダムぅダムぅダムぅダムぅダムぅダムぅダムぅダァああァぁっ! あ? アひゃ?』
放たれた矢を迎撃しようと振り回された巨人の腕を、さくっと貫通して、白い軌跡は巨人の弱点である頭部に殺到、その内部の核までも一瞬のうちに打ち砕き蹂躙する。
て、おい、強えな!?
『あ、アりぇ? モぉレぇぇ、オワこぉぉぉン!?!?』
巨人――太古の神の血を引くと言われた大地の『古代巨人』は、その言葉を最後に爆散したのだった。
……最後まで何言ってんのかよく分からねぇままだったな……
「ジオ様っ! ご無事で!」
「じお、強かっタぞ!」
満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくるユニとルフを両手に抱き留めてやる。
ついでにワシャワシャと二人の頭を撫でて健闘を称える。
「いや、何とかなったな……」
「流石ジオ様です……あ、ん、そこ……」
「わふん!? くぅん……じお、顎の下もお願イぃ……」
あ、いかん、二人とも蕩けちまった。
『神の手』はコントロール出来るようにしないといかんなぁ。
ま、そこら辺は宿に帰ってからじっくりとねっぷりとユニを相手にな。
うむ。これは必要な検証だから仕方ないな。
『迷宮の主、『古代巨人(地)』第一形態が討伐されたため、第二形態、『精霊巨人(地)』戦へと移行します』
あ? 一体何を言っ…………
俺は『窓』の言葉に、思わず倒したはずの巨人の方へと振り向いたのだが、そこで俺の意識はぷっつりと途切れた。
それは黄色い光を放つ非実体の姿を以てよみがえった、『古代巨人』……いや、『精霊巨人』の強烈無比な一撃を頭部に喰らったからだった。
次で鉱山編は終わりかな。
そんでもってエンディングもあとちょい。