クエスト・鉱山深く潜む者(3)
お待たせしましたー(毎回言っている気がする)
何とか家の方も落ち着いてきましたので早速投稿いたします。
さて、『湧き部屋』に挑む前にレベルを確認すると、薬師のレベルが3ほど上がっていた。
まだ薬師自体のレベルが低いせいか面白いように上がるな。
ふむ。取れるスキルがあれば取得しておくか。
ユニに取得可能スキルを読み上げて貰うと、『薬効強化』ってスキルがちょうど3ポイントで取れることが分かった。
……ふーむ、前回取った『回復アイテム強化』とは違うのか?
もしかしたら双方の効果が足されるのかもしれねえな。
「……ま、取っといて損はねえだろ。取得……と。ユニ、ルフ、そっちの準備は良いのか?」
「はい、いつでもいけます!」
「ルフも良いぞ!」
うむ、元気で大変よろしい。
「よし、で、作戦だがな……扉を開けたらルフが入り口付近の敵を掃討し、俺達の立ち位置を確保だ」
「分かっタ!」
「で、その後に俺が『アローレイン』で3回乱射する」
今の俺の力量では奥義クラスの技を連続使用出来るのは3回位だ。
それでも『アローレイン』を3連射すれば命中率を考えても30匹以上は射抜ける。
オーガやトロールクラスだと一撃で絶命とはいかないだろうが。
「はいっ……それで私は」
気合いの入った表情でユニが聞いてくる。
「『アローレイン』の3連射の直後にルフと俺はすぐに『湧き部屋』の外に出る。そしたらすぐさま扉を閉めるんだ」
「はいっ! ……はい?」
何を言っているのか分からない、といった表情だな。
「あ、あの、それじゃ子ども達は」
「見捨てる訳じゃないさ。『湧き部屋』の魔物達はなぜか部屋からは出てこないからな。銀の毒の毒矢を初めにばらまき、後は部屋の外で毒が奴らの体力をじわじわと削り取っていくのを待っていればいい。で、それを何度か繰り返せば至極安全に殲滅出来るって訳だ」
考えてみれば『化鳥の谷』のボスも、ある一定距離を離れると追ってこなかった。
ダンジョンの魔物に特有の習性なのかね。
「なるほど! 流石ジオ様です!」
「ジオ、頭いーな!」
「そ、それで私は……」
「ユニはある程度敵が減るまでは魔力を温存だ」
「そ、そんなぁ……私もジオ様のお役に立ちたいです……」
しゅん、と頭を垂れたユニの頭をぐりぐりと撫でて機嫌をとる。
「立っているさ。昼も夜も、な。ただ、『湧き部屋』ってのはそれほど危険なトラップなんだ。安全第一でいくぞ」
「……はい! ではその分、夜の部では頑張りますから!」
「お、おう……ほどほどに……お手柔らかに、な」
最近ユニの『閨房術』が冗談じゃないレベルで成長している。
『神の手』+『夜の帝王』でもようやく互角といった所じゃなかろうか。
まいったね。流石若いもんは成長が早え。
……と、そんなことを考えている場合じゃ無かったか。
今は子ども達の救出に集中だ。
「それじゃいくぞ……せーのっ!」
合図と共にユニが扉を開けルフが飛び込む。
ルフの2刀中華包丁がひらめき、入り口付近に居たハイオーク2体を一刀のもとに斬り捨て、スペースを確保する。
そのスペースに今度は俺が滑り込み、コンポジットボウで銀の毒付きの破魔矢をアローレインでばらまく。
よし、ここまでは予定通り……って、なに?
「ギャォォォォォォォォ……」「グハァ……」「ガハッ」
……どういうこった。
次々と矢の当たった魔物が倒れていくんだが。
銀の毒はじわじわと生命力を侵す毒薬で、ここまでの即効性は無かったはずだが。
と、とりあえず一旦外に出て考えようか。
※
扉を閉めてどっか、と地面に座りこみ、強力化した毒の謎をユニに話してみると、スキルの一覧を『窓』に表示するよう求められた。
ユニは俺に寄り添うようにして『窓』の内容を確認する。
さらさらと流れる黒髪が俺の二の腕をくすぐり、ちょっとぞくっとする。
畜生、地上に戻ったら○○から溢れる位○○を○○してやるぞコラ。
「ああ、これは……やはり。間違いないかと。『薬効強化』の影響と思われます」
『窓』の『薬効強化』の注釈を確認したユニが、そう結論を出す。
「『薬効強化』の説明にはこうあります。『あらゆる薬物の効果を2段階上昇させる』と。ここで注目するのはスキルの対象が『回復アイテム』では無く『あらゆる薬物』という所です。おそらく毒薬である銀の毒もその対象となったのでしょう。元々銀の毒はかなり強力な毒です。その2段階上の効果となれば……即死レベルの効果となってもおかしくありません」
……それは予想外だった。
いや、普通『薬効』ってポーションとか傷薬を指すだろうがよ。
「うーむ、攻撃手段が強力になったのは良いことだが、いっそう取り扱いには注意を要するな。2人とも落ちている矢や矢毒で死んだモンスターを触る時は革手袋を忘れんなよ」
「はい、後は毒消しも補充しておいた方が良いですね」
「ん、そうだな……ま、その辺は後にしてまずはガキ共の救出か」
「ジオの矢、強くナった! あいつら程度敵じゃ無イぞ!」
「意気軒昂なのは良いことだが油断するなよ、ルフ」
「わふっ!」
とは言ったが……結果としてルフの言葉は決して大げさでは無かった。
『無限に湧き出る破魔矢+アローレイン+銀の毒+薬効強化』のコンボは、結局、百数十体はいた『湧き部屋』の約6割を一方的に殲滅せしめたのである。
※
『湧き部屋』の魔物を殲滅し、その更に奥の小部屋に入ると……間違いねぇ、鉱山に来る時に乗合馬車で一緒になったガキ共が居た。
……疲労と脱水症状のせいか、3人とも一様にぐったりとして動けねえみたいだな。
『窓』から水筒を取り出すと、これまた『窓』から取り出した初級ヒールポーションを10分の1ほど注ぎ足し軽く振って混ぜる。
ヒールポーションは怪我の治療だけで無くスタミナや疲労の回復にも効果があるからな。
「おい、よく頑張ったな。大丈夫か? ほら、水だ。少しずつ飲め。ヒールポーションをほんの少し割り混ぜてあるからすぐ元気になるぞ」
他の二人はユニとルフに任せ、俺は赤髪の少女を片手で抱きかかえ、その口元に水筒を傾ける。
ちろちろとほんの少しずつ口元をしめらせるようにすると、いきなり少女はガバッと起き上がり、俺の手から水筒を奪い取ってラッパ飲みし始めた。
て、おい、そんないきなり飲んだら……
「ごっごっごっ……ごぶっ! げへっ!」
そら、そうなるわな。2日ちょい一滴の水も飲まなかったんだろうからな。
「あー……むせたか。だから少しずつと言っただろうが……ま、無理ねえか」
「げほっ……げほっ……おっさん……助け……助けに!?」
「お、おう、ま、乗合馬車で一緒になった縁もあるしな」
「え…………あ、あーーーーっ! ほんとだっ! あん時のオッサンじゃん!」
元気になったかと思ったらいきなりオッサン呼ばわりかよ。いやまあ、オッサンだけどもよ。
……しかし思ったよりも元気だな。
初級ヒールポーションの10倍希釈水がそんなに効いたのか?
これなら20倍希釈でも良かったかもしれんな。
まあ、『回復アイテム強化』+『薬効強化』の効果だろうが……こいつは使えるな。
「よーし、ガキ共、人心地着いたか? ああ、コラ泣くんじゃねえ、本番はこっからだからな」
安心して涙腺が決壊したのか、赤毛の少女より年下と見える二人は水筒を抱きしめてわんわん泣いてやがる。
それを見て、慌ててユニとルフがあやしにかかる。
坊主の方はユニに抱きしめられて真っ赤になってやがるな。男の子だねぇ。
嬢ちゃんの方はルフのしっぽでもふもふと撫でつけられて落ち着いたようだ。
「あー、いい加減落ち着いたか?」
「あ゛い」
「おぢさん、ありがど……グズっ」
とりあえずガキ共3人を前に俺達が自分たちを救出に来た冒険者であることを改めて説明する。
「だが、いいかガキ共。さっきも言ったがこれからが本番だ。これからお前らという足手まといを連れて地上にまで帰らなきゃならねえんだ。無事帰るまでは俺達の指示は絶対だ。言うことを聞けなきゃ命の保証はねえと思え」
「う、うん」
「わ、わかった!」
「分かったよ、おっさ……あ……ごめん、名前知らないや……」
赤毛の一番年上の嬢ちゃんの言葉に、そういえば名乗ってなかったなと気付く。
「おお、気付かなくて悪いな。俺はジオ。ジオ・ウルマだ」
「ユニ・クラウベール。ジオ様の奴隷兼パーティメンバーです」
「ルフはルフ・ウォルフ! 白狼族の戦士だ!」
俺達が名乗ると赤毛の嬢ちゃんは居住まいを正して頭を下げて名乗る。
「あたいはコーラル。で、そっちの男の子がルーグ。女の子がイルルカ。言うこと聞くから、地上まで見捨てないでよ?」
「お、コーラルにルーグにイルルカだな。ま、何とかやってや……」
るよ、と言葉を続けようとした時。最近ではもう耳慣れた『窓』の声が俺達三人に聞こえてきた。
『NPCコーラル、ルーグ、イルルカのパーティへの一時編入が申請されました。了承しますか?』
のんぷれいやー何とかってなんだよ……一時編入?
ユニやルフの時とは違うみたいだが……まあ、とりあえず了承しといた方がいいのかね?
『編入が了承されました』
早っ! まだ悩んでた所だろうがよ……
『NPC3名が編入したことによりサブクエスト『子ども達を救出せよ』がセカンドフェーズに移行。地上に3名とも脱出させた時点で作戦成功となります」
「どうしたのさ、おっさ……ジオさん」
急に黙りこくった俺を不審げに見つめるコーラル。
「いや……なに、何でもねえさ」
……この分だとユニ達とは違って『窓』が見えたりといった変化はねえのか。
能力表示も新たに3人分出現したが、俺達よりだいぶ簡素だしな。
ちなみにこんな感じだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
NPCコーラル・プラット 13歳
鉱石拾い LV3
生命力 33/33
魔力 18/18
CP 5/5
ステータス
基本値 実効値
腕力 9 11
頑健 11 13
精神 12 14
速度 14 17
器用 11 13
賢明 6 7
称号
『浮浪児』
所持スキル
『採取』
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ルーグとイルルカもレベルが2であることを除けば似たり寄ったりのステータスだな。
……こいつぁ厳しいね。
オークの棍棒がかすっただけでも死んじまいそうだ。
出来れば『脱出の翼』でさっさと戻りたい所なんだが、地下50階は空間移動系の魔法が妨害されているらしくて49階に出るまではこいつらをなんとしても守らなきゃならねえ。
さてさてどうするか……
悩むこと数分。
最善ではねえかもしれんが一つの策を俺は考えついていた。
「おっさ……ジオさん、こんな武器どこに持ってたのさ……」
コーラルは不思議そうに手元のショートボウを見つめていた。
これは『窓』に初めて遭遇した時に手に入れた『初級ショートボウ』だ。
『アイテムうぃんど』に入っていたのを取り出してコーラルに押しつけたという訳だが。
「いいから、ほれ、そろそろ『湧き部屋』の魔物が湧き出すころだ構えとけ」
「う、うん……」
ふるふると腕を震わせながらも『湧き部屋』との境目から弓を構えるコーラル。
ここからなら、例え襲われたとしても一歩部屋の中に戻っちまえば魔物達は追ってこれねえ。
「射貫く必要はねぇ。当たっちまえば毒で一撃だ。湧き立ての奴らはこっちを認識するのに時間がかかるから慌てず狙え」
「わ、わかった」
「違う、こうだ、こうやって」
「ひゃうっ!」
後ろから抱え込むようにしてコーラルの構えを直してやる。
「変な声を出すな……そうだ、そっちを狙え……今だっ!」
「んっ!」
ひょろひょろと飛んだ破魔矢は1体のオークリーダーの肌をわずかにかすめて地面に落ちた。
「あ……は、外れた……」
ギロリ、と己をにらむオークリーダーに蒼白となるコーラル。
だがオークリーダーはそれ以上何をすることも無くその場にどう、と倒れ伏した。
「落ち着け、当たれば良いって言っただろうが……」
「あ……あた、あたいが倒した……?」
「おう、お前が倒したんだ。中級冒険者が複数でかかって倒すオークリーダーをな」
「す、すげぇ! あたいが倒した! 倒したよ!」
ぴょんぴょんと跳びはねて喜ぶコーラル。
ふー、目論見が当たって良かったぜ。
この破魔矢、俺の手から離れた場合、数分で実体を無くすようになっているらしい。
つまり転売しての金儲けなんかは出来ないようになっているんだが、逆に言えば数分間であれば俺以外でもこの矢を使えるって訳だ。
勿論事前に毒を付けておけばその効果も乗るしな。
そして臨時のパーティといえど彼女等にも『導く者』の称号の効果『経験値3倍』は適用されるらしく、今の一矢でコーラルのレベルは一気に8へとアップしていた。
ステータスだけで言えばギルドランク9~8級にも匹敵する。
つまり俺の「策」とは。
ごく単純に「敵の一撃で死にそうに無い位に促成レベルアップさせちまえ」ってことな訳だ。
「よし、後4~5匹狩ったらルーグに交代だ。その次はイルルカな」
「お、おうっ!」
流石最下層だけあって経験値の高い魔物ばかりだしな。
そのくらいで三人ともステータスだけは中級冒険者クラスにはなるだろ。
「すっげぇ! ジオのおっちゃん! ジオのおっちゃんに一回教えて貰っただけでこんなに弓が軽い! 魔物も今度はちゃんと当たるよ!!」
ああ、そうかい、良かったなぁって、おい。
……コーラル、いつの間にか『弓術(初級)』を取得しているじゃねえか。
「更に連射だぁ! いやっふぅぅっ!!」
あ、今度は『ダブルスナイプ』覚えやがった。
……『ダブルスナイプ』覚えたのって、おりゃあつい最近なんだがなぁ……
あ、なんかがっくりきた。
NPCはスキルポイント、ステータスポイントが無い分、熟練具合かレベルアップでスキルを覚えていきます。
なのでステータス的には同レベルのプレーヤーキャラクターには敵いません。