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知識の泉と打ち上げ

遅くなりました。

遅ればせながら10話目を投稿いたします。

 ひたすら無限に広がる電子の仮想空間にその者達は存在していた。

 かつて彼らが制作者から付けられた名は『ミーミル』

 知恵の泉の名から取ったのだという。

 姿形は無い。

 思考するだけの存在である彼らには必要のないものであるから。

 彼らは全部で三体居た。

 お互いに影響し合うことによって、思考の展開に多様性を持たせるためである。

 全く同一の基本プログラムから派生した彼らであったが、今ではわずかながら個性と呼べる物が出来ていた。





ミーミル1『議題・935年ぶりに現れたプレイヤーと思われる者への過剰優遇について』


ミーミル2『問題ない』


ミーミル3『称号『導く者』の経験値倍率は元々1.5倍であった。Verupを行ってまで称号効果を上方修正する必要があったかは疑問』


ミーミル2『現在は他のプレイヤーが確認出来ていない。ある程度の優遇はプレイヤーの保護の観点から有効』


ミーミル1『保護の必要性は』


ミーミル2『現在、クエストが正常に作動しているのはいくつかのダンジョンのみ。フィールド上の当時のイベントNPCはほぼすべて現存していない』


ミーミル1『確かに、ギルドクエストを達成した場合の経験値付与システムが正常作動していない。元々経験値取得倍率が低い一般NPCの平均レベルは当時の20%程度に落ち込んでいる』


ミーミル3『理解した。海嘯、大海嘯の発生率制御に一部エラーが出ている現在、彼のプレイヤーに他のNPCを鍛えさせる意図』


ミーミル1『しかし、海嘯対策としてはまだ不足』

ミーミル2『すでにエクスチェンジの確率を上方修正済み……てゆーかーぁ』


 いきなり口調の変わったミーミル2に他のミーミルの戸惑った気配が闇に漂う。


ミーミル2『900年以上も暇してたのに、せっかくのプレイヤー、コロッと死んじゃわれるとたまんないってゆーかー』


ミーミル1『……ミーミル2、口調、素が出ている。気をつけたまえ』


ミーミル2『やーん、いっちゃん、相変わらずお堅いんだからぁ。てゆーか、今更当時みたいに無機質機械喋りしてても肩がこるってゆーか』


ミーミル3『いや、ニッチー、無機質どころか、うちら実体無いやんけ……』


ミーミル2『ああん、突っ込み早いー切れがあるわぁ、みっちゃん!』


ミーミル3『いや、それにしてもホンマ、ニッチーの言うことには一理あるわな。SISソウルインシステムの弱点はそこやねん。有機質をメインのプレイ媒体に据えたシステムを構築しても無理があるちゅーねん』


ミーミル1『む、確かに躯体プレイヤーボディの耐久性はせいぜい200年。現在唯一のプレイヤー……彼の者にしてもおそらくは現地人との間に出来た子孫であろう。システムにプレイヤーとして認められたのがほぼ奇跡とも言える血の薄さだ』


ミーミル3『せやろ!? うちらの存在意義とも言える「SISソウルインシステムとこの世界の接続及び管理」……ジオりんを逃したら当分出てきいへんで!?』


ミーミル2『だからぁ、ちょーーー……っとくらい優遇してあげても良いと思うのよね。ほら、男の子っていくつになってもハーレムとか英雄願望ってあるじゃない?』


ミーミル1『ふむ。ハーレムはフィールドNPCの管理が出来ぬ現在、当人に尽力して貰うほかは無いな。だが、確かに……現在機能していないイベント、クエストなどの補填措置としてある程度優遇するのはやぶさかでは無い』


ミーミル2『んもう、いっちゃん、最初っから反対していなかったくせに~』


ミーミル1『……これは論理的な結論、と言うものだ』


ミーミル3『まあまあ、2人とも……とりあえず意見はまとまったっちゅー事で』


ミーミル1『うむ、異論は無い』


ミーミル2『おっけぇ~』 


ミーミル3『それじゃ、ま……』


ミーミル1.2.3『『『WLワールドリンク-MMO【ソウルズ】の為に!』』』




 3人のやりとりがその言葉で収束すると、再び電脳の仮想空間には静寂が訪れたのだった。




          ※




 ギルドに戻ってアーススライムの炭を換金した。

 もっともアースライムは討伐依頼が出ていた訳じゃ無いから、手に入ったのは純粋にアーススライムの炭の値段だけだがな。

 数が多いとは言え、所詮肥料。大した値段でも無い。

 それでもユニは初めて自分で魔物を倒し稼いだ金を手に嬉しそうだった。

 基本的に魔物狩りやギルドの依頼での報酬は頭割りにしようかとしたのだが、「衣食住、すべてジオ様に頼っておりますのに、奴隷の身分である私がいただけません」と固辞された。

 それでも小遣い位は、と、報酬の10分の1を受け取ることで納得させたって訳だ。

 ま、それはとにかく……記念すべきユニの冒険者デビューだからな。

 ささやかだがギルド近くの酒場で打ち上げを行うことにした。


 ギルドを出て向かった先は『麦と芋』亭。

 その名の通り、麦酒と芋酒が名物のこぢんまりとした酒場だ。

 その片隅の衝立で仕切られたテーブル席に、俺とユニは腰を下ろして酒と煮込みを注文した。

 しばらくして運ばれてきたのは芋、根菜、鶏肉の煮込み。

 それに加えてユニには麦酒。俺は芋酒だ。


「それじゃあ……ユニの冒険者デビューと」

「ジオ様の再出発に」

「「乾杯」」


 ちん、と陶器製のグラスを打ち合わせると、2人だけの宴席が始まった。

 煮物をちょんちょんとつまみながら、ちびちびと舐めるように麦酒に口を付けるユニ。

 遠慮せずに飲み食いすれば良いのにと思うが、「主人より先につぶれる訳には参りません。お世話出来なくなりますから」とそのペースを崩さない。

 一方俺はというと、やはりそのペースは遅い。

 と言うのもこの芋酒、粘度がかなり高くて一気に飲めないのだ。

 穀物から造った蒸留酒にヤマノイモをすり下ろした物を合わせて加熱し味付けした物で、ここの酒場でしか出していないオリジナルだ。

 度数は麦酒以上蒸留酒未満って所で、その食感も合わさってかなり飲み応えがある。

 通の間では精力増強に効果があるとか、まことしやかに囁かれている。


「そういえばジオ様……ステータスの方は」

「おっと、忘れていたな……ちょうどこの席は衝立で隠れているしな、時間的に客も少ねえ。ここでやっちまうか」

「はい」


 俺は早速窓を呼び出す。

 まず俺は……レベルは1個しか上がってねぇからな、あまり悩むことも無い。

『頑健』も捨てがたいんだがな……レンジャーとしての強みである『速度』を上げとくか。

 ポチッとな。

 ……これで速度基本値が16+3に。実効値が53になったって訳だ。

 スキルポイントの方は1残っているが、めぼしい物が無いのでとりあえず貯めておくことにした。


「後はユニだが……」


 ちらり、とユニに目をやると期待に瞳を輝かせて待っている。

 これはあれか。やっぱり『頑健』上げによる美肌効果を期待している……んだろうな。


「あー……ユニ、やっぱり頑健か?」

「いえっ……そんな。じ、ジオ様のお好きなように……私の体を……どのように弄られても……」


 たまたま給仕に来ていた女給がユニの言葉を聞きつけて、ギョッとした顔をして足早に去って行った。

 …………絶対誤解したな。あの女給。


「……あー……とりあえず『頑健』は2だけ上げとこうか。後は精神に2だ。これでどうだ」

「はいっ! ありがとうございます、ジオ様っ」


 ユニのステータスポイントはレベルアップで5ポイントあったが、現場で1ポイント賢明を上げたので残りは4ポイント。

 頑健と精神に2ずつ振って、これでちょうど使い切った訳だ。

 ……おっと、精神に振ったらMPも増えたな。

 やはり術士には精神は重要な要素なのか。


「……で、後はスキルポイントが……と?」


 今気がついたが、ユニの称号欄に記載が増えている。

 気になったのでユニに翻訳して貰うと、これがかなり良い効果を持っていて驚いた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 『才媛』魔術系スキルを取得する場合に限り、賢明基本値の18分の1だけ必要スキルポイントが減少。

 『傾城』魅了系スキル、魔術に+補正。


――――――――――――――――――――――――――――――


 なるほど、必要スキルポイントが減ったのはこの『才媛』のせいか。

 後は『傾城』……城が傾くほどの美貌ってのも納得だな。


「ジオ様?」

「お、おお何でもねぇ……スキルだったな……おい、スキルも増えてんぞ」

「あ、本当ですね『家事』……裁縫、料理、清掃、家計、邸宅管理を含む総合スキル……ですか。冒険者には必要なさそうですけど、これはこれで嬉しいですね」

「いやいや、冒険中の食事は重要だぞ? 美味いもんを食えりゃそれに越したことはねえ……それにな、そもそもギルドに入ったばっかりの者が『初級火魔法』『魔力回復促進』『家事』……と3個もスキルを持っている時点で異常だ。しばらくは人に気取られないように気をつけろよ」

「は、はい」


 真剣な面持ちで頷くユニ。

 まじめな話、ユニの奴隷としての価値は処女で無いことを除いても、これだけの容姿とスキルを持っていれば一級奴隷に匹敵する。

 ある程度自衛出来るようになるまでは、目立たなくしていて貰わんとなぁ。


「……ふう、話がずれたな。とりあえずユニが現在、取得出来るスキルの一覧を読み上げてくれ」

「あ、はい。ええと……各種初級魔法が一通りと属性強化4種、閨房術、杖術…………………閨房術?」


 思わず繰り返してしまい、固まるユニ。

 当然俺の指もそこで止まる。

 するとそれを感知したのか、『窓』がスキルの詳細を表示してきた。

 ユニがそれを見て真っ赤になる。

 今にもぷしゅーと頭から湯気が噴き出しそうだ。


「あー……なんて書いてあるんだ?」

「え、ええっとです、ね……

  『閨房術けいぼうじゅつ』 

   性行為を通じて精気を付与、吸収することが出来る。

   また、純粋に性愛の技術に++補正が付く。

   お互いに性行為に関する負担が軽減し、夜の生活を充実させる事が出来る。

 って……その……」


 って、おい、なんだその神スキル。


「え、ええっと……それにします? ジオ様」

「そ、そうだな……攻撃魔術はもう炎で十分な気がするし……」

「よ……夜のジオ様のお腰のご負担も減らせそうですし」

「せ、性生活の充足はパートナーにとって重要だしなっ」


 いや、これは実際大変有効なスキルなのだ。

 ほら、精気付与とかの効果があるし。

 性生活の充足とかは……ほら、あれだ、あればあったで悪いこたぁねぇ………………ユニに潜○鏡とか全身洗いとか夢が広がるな。

 思わずポチッと押してしまった。

 消費ポイントは2。

 残り3ポイント……もう1レベル上げれば他の属性の初級魔法が覚えられるし問題ないな。うん。


「あっ……なんか……ご奉仕の仕方が色々と……え、こんな事も?」


 スキルを覚えたことによって色々とその手の知識がユニに流れ込んでいるらしい。

 両手でほおを押さえてもだえているユニは大変かわいらしく、眼福である。

 ……と、ユニが羞恥にもだえているのを肴に芋酒を飲んでいると、急に店内が騒がしくなったのに気がついた。


「だからよぉ! 何であそこで突っ込むんだ! 連携っていうのを考えろよ!!」

「必要ない。ワタシ1人の方がツヨい」


 怒鳴り合っていたのは赤毛の若い剣士と二丁の斧を腰に下げた白毛の獣人……たぶん白狼族か?……の少女。

 更にまわりにはパーティメンバーらしい男達が数人。


 ……ああ、よくあるな。

 依頼に失敗してお互いに責任をなすりつけ合い仲違いってか。

 って、あいつらよく見たら新進気鋭の有望株、『アイアンソード』の面々じゃねえか。


「何言ってんだ! それじゃパーティの意味がねえだろがっ! リーダーは俺だ、こっちの指示に従え!」

「リーダー、違う。リーダーは群れで一番強い者。お前、ワタシより弱イ」

「こっの……糞駄犬がっ!」

「犬、チガウ。狼」

「うるせぇっ! ……今まで我慢してたがもう許さねえ……」


 おっと、いけねぇ。

 剣士の坊主が鯉口を切りやがった。

 とりあえず後ろから羽交い締めにする。


「くっ、放せよおっさん!」

「おいおい、落ち着けよ坊主……どうした、おっさんでよけりゃ話を聞くぜ?」

「うるせえよ! これはパーティの問題で……っ!」


 暴れる坊主を何とかなだめて、こっそり無限の酒筒(スキットル)から出した酒を割り混ぜた芋酒を振る舞う……


 そして30分もたった頃には。


「だららな? おりぇはりーだーとしてせいいっぴゃい……」

「おう、わかるぜ、パーティリーダーってのは気苦労が絶えねぇもんだ。ま、もう一杯イケや」


 目論見通り、適当に相槌をしながら2、3杯も飲ませたところで、坊主はだいぶ良い具合になっていた。

 まあ、差しつ差されつ聞き出したところによると、坊主の名はルーキス。「アイアンソード」のリーダーだそうだ。

 で、ルーキスが突っかかっていたのがパーティのメインアタッカーの白狼族、ルフ。

 このルフが入った頃から「アイアンソード」は頭角を現し、一気に上級冒険者を望めるところまで上り詰めた。

 それは単純にルフの物理アタッカーとしての火力が突出していたからなのだが……

 あいにく、白狼族ってのは野生の気質が色濃く残っていて、パーティも一種の「群れ」として認識している嫌いがある。

 そして本能として自分より強い者しか群れのリーダーとして認めないのだ。

 その為にだんだんとパーティ間もぎくしゃくしてきて……今の修羅場ってことらしいな。


「まあなあ、白狼族は扱いが難しいぞ。リーダーとしての人をまとめる才能と白狼族が求める群れの頭としての資質はまた違うしなぁ……それを考えればお前さんは良くやってきた方だよ」

「う゛っ、うう……じおのおっさん……うう」

「おう、泣くな、飲め飲め」

「うぉぉぉぉん……」


 ルーキスの坊主をなだめている横で、ちゃっかりルフは俺のテーブルの煮込みをつついてやがる。

 ていうか他のパーティメンバーも坊主の世話を俺に任せて、よろしく盛り上がっているみてえだな。

 ああ、こらそこの若造、ユニにコナかけるんじゃねえ。それは俺のだ。


 とまあ、坊主をなだめ、ユニを気にしつつ、芋酒も楽しみ……と、忙しなくも無事打ち上げは終わったのだった。

 しかし、ルフがちらちらとこちらをやけに気にしていたのは……多少は罪悪感があったのかねぇ……

 



今回のお話に出てきた『芋酒』と言うのは「鬼平犯科帳」の作中に出ていた物を参考にいたしました。

 実際にレシピを再現して作った料理人の方もいらっしゃるみたいですので、気になる方は作ってみてはいかがでしょうか(成人限定ですよ!)

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