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銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
最終部 最終章「銀月の狼と人獣の王たち」
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最終部 最終章 第一一話(2)『救世三騎』

 姿が変わったわけではない。

 鎧の形状も、ほとんど変わってはいない。

 けれども明らかに違っていた。


 一番の違いは、体毛に幾何学模様が浮かんでいる事だろう。


 それはさながら、何か霊的な加護が与えられたかのようにも見える。もしくは生きながら神霊と化したような神々しさを、見る者に感じさせた。



 霊神融合(コーザリア)



 異なる二つの魂を融合させ、爆発的な力を生み出すというもの。古獣覇王牙団アルタートゥム・ジーク・ファング団長のオリヴィアのみに許された、禁忌の(わざ)


「まさか、これって」


 イーリオが驚きで目を見張りながら、声に出す。


天の山(ヒミンビョルグ)の核――つまり生物としての天の山(ヒミンビョルグ)の本体とディザイロウの魂を、霊神融合(コーザリア)で一つにした」


 ディザイロウは異能の全てをカンヘルに奪われ、力なきに等しい。

 これは、その代わりになる力なのか。


「ディザイロウに与えられた、最後の力だ」

「最後……?」


 膝をついた姿のオリヴィアだが、命が尽きかけているようには見えない。だが、明らかに何かが失われつつあるのは分かった。それは生命力とでも言うべき、命の総量なのだろう。


「安心しろ。ドグやダークのように死んだ者同士の融合ではないから、霊神融合(コーザリア)が切れてもディザイロウそのものが消えたりはしない。だが霊神融合(コーザリア)の効力が切れれば、当然だが天の山(ヒミンビョルグ)の魂と共に、その力も消える。つまりドグとダークがこの世にいられる残りの時間も含め、その力のある内に決着をつけるんだ」

天の山(ヒミンビョルグ)と、魂が融合した――」

「力そのものがどういうものかは、鎧化(ガルアン)すれば自ずと分かるだろう」


 膝をついた姿勢から、ゆっくりとその場に腰を下ろすオリヴィア。


 そして彼女はドグに向かって「こっちに来い」と告げた。


「ああ? 遺言でもしようってのか? 今更どういうつもりだよ」

「ちょっ……師匠、それはいくらなんでも……」

「うっせえ」


 オリヴィアを拒絶しているのは、ドグの魂ではなくカイゼルン。だがいくらカイゼルンが拒否しようとも、この体の主体はドグにある。


 だから言葉とは真逆に、愛憎半ばそのものでドグがオリヴィアの側へと近付いていった。

 跪けと手振りをするオリヴィア。顔を顰めながら、渋々なのか従順なのか分からない様子で、ドグが従う。


 ドグの額に指を置き、しばらくしてオリヴィアがそれを放した。


 すると、ドグの全身から目に見えない気迫のようなものが立ち昇り出した。髪の毛も逆立つように震え、一瞬だが両目も血走る。


「ダーク……。お前を押さえつけていた封印を解いた」

「てめえ……」


 何が何だか分からないイーリオ達に、レレケ=レンアームの背にあるロッテが説明した。


「ダーク――カイゼルン・ベルはオリヴィアの産んだ子供だ。人造魂魄が産んでもそれはただの人間。遺伝子のように何かが伝わる事はない――そのはずだったんだが、何故かダークには、アルタートゥムの持つ〝力〟が先天的に備わっていたんだよ。だがその力はボク様達と違い、非常に不安定でそれに加えて危険でな。だからオリヴィアは、ダークの〝力〟を封印し、普通の人間として生きられるよう、あいつを〝調整〟したんだ」

「人造魂魄の〝力〟……それって一体――?」

「エポスの場合だと、本人が死んでも別の魂と肉体に憑依し、次々に生まれ変わるというのがその能力だ。永遠の魂の力だな。ボク様達アルタートゥムは個々でそれぞれ違うが、ダークの場合はL.E.C.T.(レクト)、または鎧獣(ガルー)との順応性の高さだ。普通の人間のように訓練や修行など必要としない。L.E.C.T.(レクト)に最適化された魂であり、潜在能力以上の力さえ引き出せるのが、あいつなんだよ」


 簡単に言えば、超科学による人造の最強騎士、といったところか。

 それの何が危険なのかすぐには分かりかねたが、ようは人造生物との親和性が異常に高い副作用で、暴走してしまうらしいのだ。狂戦士(バーサーカー)のように。


「だがオリヴィアは、ダークの魂に刻まれていたあいつの封印を解いた。前のダークにそれをしたら非常に危険になるんだが、霊神融合(コーザリア)によってドグの魂と融合した今なら、不安定な力も制御可能になるだろう」


 それを聞いていたのか、それとも本人には分かっていたのか。

 ドグ=ダークがオリヴィアを睨みつける。


「こんな事で、俺様があんたを許すと思うなよ」


 目を閉じたオリヴィアが、微笑みを浮かべた。


「分かっている。さあ、敵もこれ以上待ってはくれまい。オレの事は今までそうしてきたように、もう忘れろ」

「言われんでも」


 立ち上がり、背を向けるドグ。

 カイゼルンの魂に共鳴しているだけに、ドグの魂は複雑な思いにかられていた。記憶さえも、ドグとカイゼルンで混ざっていたから。


 ドグとジルニードルが、イーリオとディザイロウに並んだ。

 そこへロッテがレレケに向かって、一度鎧化(ガルアン)を解けと言った。


「え、どういう――」

「いいから一度解除しておけ。こういうのはな、儀式なんだよ。ケレン味というかな。とにかくお前も一度、鎧化(ガルアン)を解除しろ。お前達三人の姿を、オリヴィアの目に焼き付けておくためにな」


 目に焼き付けるという言葉が含むものに、複雑な思いを抱くレレケ。わずかに逡巡する彼女だったが、ジョルト=アリオンの「大丈夫、俺が守るから」と言った言葉が後押しになり、躊躇いながらもレレケが武装を一度解いた。



 イーリオ〝カイゼルン〟・ヴェクセルバルグ。


 ドグ〝カイゼルン〟・ヴォイト。


 レナーテ〝レレケ〟・フォッケンシュタイナー。


 そして彼らが守る――シャルロッタ。


 はじまりの四名。


 運命は彼らからはじまり、今、その四人で幕が引かれようとしていた――。



「イーリオ、お前とディザイロウの力で、黒騎士としてのヘルの全てを打ち砕け」


 その背に、オリヴィアが最期の言葉を贈る。


「ドグ、奴がディザイロウから奪ったこの世を貫く力を、ジルニードルの牙で斬り裂け」


 次にドグ。「言われなくても」と、小さく呟いていた。


「レレケ、奴が奪った聖女シエルとその力を、レンアームの持つ全ての術で封じるんだ」


 レレケがはい、と返す。


「シャルロッタ――」


 そして最後に、オリヴィアは彼女を見つめた。


「力はなくとも、シエルがいなくても、お前はお前だ。座標の巫女であろうとそうでなかろうと、それもお前だ。だからお前は、この三人のために祈れ。想いなどでは何も変えられなくとも、それを感じ取る心があれば、それは願いとなり希望となり、導きの(しるべ)となるだろう。それを為すお前が、本当の意味での〝聖女〟だ」

「はい」


 オリヴィアの手を取るシャルロッタ。

 その瞬間、彼女の姿が砂のように光の粒となって消えていく。ゆっくりと、しかし痕跡すらも残そうとさせぬかのように。


「オリヴィア様!」


 シャルロッタの悲痛な声に、ドグの肩が僅かに震えた。しかし彼は振り向かない。

 前を見るのがドグであったし、振り返らないのがカイゼルンだから。


 オリヴィアの消滅と共に、彼女のサーベルタイガー〝イオルムガンド〟も消えていった。


 これで千年前から生きるアルタートゥムの姿は、完全に消え去った。ロッテがまだいるが、人でない魂と機械の姿である以上、まだいると言えるのかどうか。



 イーリオ、ドグ、レレケ。



 三人が、暗黒の人竜神を睨んだ。憎悪や敵意ではない。似た感情かもしれないが、彼らの胸に去来する思いは、やはりそれとは異なっていた。


 決して相容れぬ敵――。


 仮に分かり合えたとしても、それでも決定的に袂を分ち、どちらかがどちらかを消さねばならない同士。


 人はそれを、宿命であり宿敵と呼ぶのだろう。


 イーリオが、ドグが、レレケが――三人が互いを見る。

 視線を交わし、頷く。



白化(アルベド)



 光を伴う、三つの白煙。


 神の力の顕現。


 唯一人間近で見ていたジョルトが、息を呑む。




 レレケ=レンアーム。


 ライオンとライガーの混合種(ハイブリット)・リリガーの鎧獣術士(ガルーヘクス)

 神の翼をその背に宿した、この世で最高位の神域の大術士。

 自らを魔術師と嘯いていたレレケが、本物の魔術師――いや、大魔導士となった姿。




 ドグ=ジルニードル。


 〝ジャイアント・サーベルタイガー〟とも呼ばれる、大剣牙虎(マカイロドゥス)鎧獣騎士(ガルーリッター)

 人から神の騎士となったドグと、神人の子として生を受けた最強騎士カイゼルン・ベル。二人の魂が合わさった、もう一人の〝カイゼルン〟。

 最後にして最強の神の騎士。

 もう一人の〝竜殺し〟。




 イーリオ=ディザイロウ。


 この世ならざる獣・霊狼(スピリットウルフ)鎧獣騎士(ガルーリッター)

 原初の三騎である月の狼(マーナガルム)を超越した神なる獣。

 銀月の狼。

 神の鳥〝天の山(ヒミンビョルグ)〟をその身に宿した、最終形態。

 特にディザイロウは他の二騎と異なり、唯一外見上の大きな変化があった。

 変化と言ってもタテガミのような首周りや巨大な尻尾、それに一本角の冠や柄頭で合わさった双刀など、輪郭(シルエット)的には以前とさして変わったようには見えない。

 違いというのはさっきも述べた、体毛に浮き出た幾何学模様。

 アルタートゥムの団長オリヴィアの駆っていたイオルムガンドのものと、酷似していた。まるでその幾何学模様こそが、神の刻印でもあるかのように。



 そのディザイロウを鎧化(ガルアン)した瞬間、イーリオは見た目ではなく内在する力が全く別になっているのを瞬時に理解し、その全てを己のものとした。

 一瞬で新たな異能をものにするなど有り得ないのだが、アルタートゥム達による訓練と身体改造により、今のイーリオはかつてないほどディザイロウに順応した存在へと変貌していたのだろう。

 まさにディザイロウのためだけの騎士であり、この世で最もディザイロウと適合しているのが、イーリオなのだ。


「これが……霊神融合(コーザリア)によるもの……。天の山(ヒミンビョルグ)の力……」


 自身の四肢を確かめるように見つめ、イーリオは人狼騎士となった己の手の平を、何度も握っては開く。

 最後に残ったアルタートゥムのロッテが、そんなイーリオに向かって言い添える。


「そうだ。霊狼(スピリットウルフ)となったディザイロウが鎧獣(ガルー)を超えた人造生物なのは言うまでもないが、今のディザイロウはそれすらも超越している。いや、鎧獣(ガルー)原型(オリジナル)である〝原初の三騎〟のL.E.C.T.(レクト)よりも高位の獣になったと言っていいかもしれん。まさに〝鎧となって纏う獣〟の到達点。真鎧獣(ヴァールガルー)とでも呼ぶべき存在になったのだ」


 千年前、破滅の竜を撃ち破ったという〝原初の三騎〟。

 イーリオ達三人は、その称号を受け継いだ者達である。

 それは、異世界の侵略を断ち切る最後の希望。

 いや、原初の三騎でもなく、新たな三騎だった。

 言うなれば――



 救世の三騎。



 だが、救うべき世界とは、どちらにとっての世を指すのか。


 そう言わんばかりに気炎を吐くのは、暗黒色の闇の輝き。



 竜黒騎士ヘル=カンヘル。



「何が真鎧獣(ヴァールガルー)だ。霊神融合(コーザリア)だ」


 言葉面だけだと罵りにも聞こえるが、そこに含まれているのは怒りでも焦りでもなかった。むしろ声は落ち着き、冷静な響きさえある。

 最も濃く出ていたのは、嘲弄の色であろう。


「俺のイーリオが、まだ俺のために何かを見せてくれると思い待っていてやったが……そんなくだらない紛いものの力に縋るとはな」


 天の山(ヒミンビョルグ)に攻撃をした後、ヘルがイーリオ達に何もしなかったのは、単に様子を伺っていたから――。


 事実なら、侮り甚だしいというか愚かな行い以外の何ものでもなかった。


 この三騎が三騎として整うまでに素早く猛攻をかけていたら、もっとヘルに有利であったろうに、何故それをしなかったのか。

 だが唯一人、イーリオだけはその理由が分かる気がしていた。本人ですら気付かぬ、ヘルの本質を。



 それは、彼が黒騎士だから。



 己の欲望と目的のため、あらゆる手を尽くす冷徹さを持っているのに、時としてそれを凌駕する本性が、蛇のように首をもたげる。

 それがヘル。

 そしてヘルの本性とは、騎士である事。


 出会いの最初もそうだった。

 あの雪の降る、ゴートの国境での事。

 第二次クルテェトニク会戦の時も、ゴートの帝都でイーリオを助けた時も、その後同じ帝都でエポスの一人と戦った時も同様。


 全てにおいて、もっと効率の良い、上手いやり方があったはず。だが回りくどいというか無骨な手段で、彼はイーリオの行動に介入してきた。


 それこそが、ヘルを敵なのか味方なのか、どちらであるのかをイーリオに迷わせる原因となったのだ。

 だが本性を知った今なら分かる。


 ある意味、黒騎士ヘルは愛弟子に接するのに近い感情でいたに違いないと。


 弟子でなくば、我が子と言ってもいいかもしれない。


 ならばイーリオの最後の足掻きに対し、余計な横槍を入れないのは当然だろう。弟子や子の成長を見守ると考えれば。

 イーリオを否定し嘲るのすら、教えを諭すという意味においてむしろ「らしい」とさえ思える。


「先ほどアルタートゥムの団長ばらが言っていたな。我がカンヘルには、ディザイロウの三つの力、率いる力、立ち向かう力、繋ぐ力があると。そこに聖女シエルの魂を吸収した、聖女の術もある。そしてオプス神より受け継ぎ、更に強力となった竜の神(ヤム・ナハル)としての力も。加えて、我が魂の依代であるのは、イーリオ、お前の最大の宿敵であったファウスト。その天才騎士の体と魂も俺のものとなっている。それにあと一つ、忘れておらんか?」


 ヘル=カンヘルが、人竜の腰に吊るしていた巨大な曲刀を引き抜いた。


「我が率いる力と繋ぐ力で生み出した、暗黒の軍勢の存在を」


 十騎士が戦っている、歴代三獣王の複製体。


 各戦場を制圧しつつある、黒騎士レラジェの複製体。


 暗黒にして虚無の軍団。


「貴様らが俺に消されるのと、この王都が鏖殺され新たな楽園の苗床になるのと――どちらが先だろうな」


 天の山(ヒミンビョルグ)に融合したとて、今のディザイロウに千疋狼(タウゼントヴォルフ)の力はなくなっている。つまり連合軍の騎士達に、もう霊狼の加護を与える事は出来ないのだ。それどころか、シエルも魂ごと奪われてしまった。それは神色鉄(ゴットファルベメタル)の加護も完全に失われたという事。


 いくら救世の三騎士が単体で強力でも、王都が蹂躙され尽くされてはどうしようもない。

 仮にカンヘルを倒せたとしても、誰一人いなくなった場所で、勝利を謳うというのか。


 だったら、皆が命を奪われる前に、ヘルを倒すしかない――。


 そう、イーリオが口にしようとしたが。


「うっせえ真っ黒クロスケだぜ」


 不敵な声は、ドグ。声に滲むのは、カイゼルン・ベル。


「おい、レレケ」

「はい?」

「〝転送〟は使えるか? ヤベぇくらい広域の規模のヤツをよ」


 声をかけられたレレケが一瞬きょとんとなるも、返したのは背部ユニットのロッテだった。


「可能だ」

「だったら頼むぜ。口で説明すんのも面倒だから、今からイメージする俺様の思考を読んでくれ。そんで〝こいつ〟を運んだ後、俺様の声も戦場全部に繋いでくれたら助かる」

「――分かった」


 何の事なのか。何をするというのか。

 イーリオも分からなかったが、ドグは躊躇う事なくその場で身構え、号令を出す。




「〝創大(アルファ)――百武フンデルト〟」




 サーベルタイガーの左腕が、横に向かって薙ぎ払われた。すると彼らの目の前の大地に、夥しい数の武装が突き刺さる。


「――!」


 前・百獣王の騎獣ヴィングトールの獣能(フィーツァー)


「レレケ!」


 名を呼ばれ、即座にレレケ=レンアームが演舞を見せた。




神力獣理術(ゴッターシュパイエン)――〝天路大回廊(ルフト・ブリュッケ)〟」




 光のライオンがレンアームから吐き出され、それが巨大な魔法陣を空と大地に描く。いや、幾何学模様の図形というべきか。


 それが大地に突き刺さった武具を光で包み込んだかと思えば――その全てが一瞬で消え去った。

 何が――と思う間もなく、ドグは「レレケ」と再度呼んだ。


 術式による、戦場全てへの通話の要請。

 補助なしでそれを為し得るのは、ロッテと一体化したレレケ=レンアームのみ。


「あー、おいてめえら、聞こえてるか。俺様の声が」


 ドグの声に、各地の戦場にいる騎士達が呆然となる。その一瞬前に、突如自分達の目の前に武器があらわれた事も含めて。


「俺様は六代目百獣王のカイゼルン・ベルだ」


 耳にした全員が、更に呆気に取られる。

 正確にはカイゼルンではないのだが、そこを省略したのがいかにもカイゼルンらしいと言えるだろう。


「何で俺様の声がしてんだとか、細けえ事はこの際一旦置いとけ。ま、偉大で有り難すぎる俺様が、情けねえてめえらを助けるために、天国からちょっと戻ったとでも思っときゃいい。それより、今てめえらの前に送ったその武器を手に取れ。そいつは俺様の獣能(フィーツァー)で作った、特別製の武器だ」


 剣もあれば、槍もあるし、斧に鉾にと様々な武器群。

 それのいくつかは、獣王十騎士に。

 そして覇獣騎士団(ジークビースツ)総長のクラウスや、同じく覇獣騎士団(ジークビースツ)のギルベルトに。

 またはイーリオの父であるゴート帝国のムスタや帝国六騎士のソーラなど――まだ生きている名うての騎士達の目の前にあった。


「そいつはな、ただの武器じゃねえ」


 ムスタが曲剣を手に取る。

 ソーラが薙刀グレイブを掴む。

 それぞれ、己の持つのと同じ種類の武器。


「持った奴は一時的に前の俺様ぐらい――つまり百獣王と同等の能力だな。そいつが与えられるっつう、イカした代物だ」


 どの鎧獣騎士(ガルーリッター)もその武器を手にした途端、とんでもない力で総身が満たされた。

 かつてない高揚感。初めて覚える無双の万能感。


「そいつを使って、目の前のクソったれ真っ黒野郎どもを、てめえらで何とかしろ」


 一方的な思念通話に対して聞き返す事など出来るはずもないに、思わず誰もが、何だってと言いそうになった。或いは口にした者もいた。

 それもそうだろう。

 何せカイゼルンと名乗る声は、あの黒騎士の軍を、自分たちの手で倒せと言ったのだから。


「仮にも俺様と同じ戦場に立つ騎士なら、そのニセモノ真っ黒クソ虫を退治するぐらいはやってみせろって事だ。わぁったな、てめえら。以上だ」


 返事など待つ間もなく、一方的に通話を切るドグ。

 態度も行いもカイゼルンそのもの。ふてぶてしいにもほどがあろう。


 ただ、カイゼルン・ベルそのものとは違っている事が一つ。

 通話の後――転送せずに残した両刃付きの籠手を手に取ると、それをドグは、ジョルト=アリオンに投げて渡したのだ。


「そいつでシャーリーを守ってくれ」


 やはり彼は、ドグでありカイゼルン。

 混ざり合って混乱しそうだが、人格が二つあるのとは根本的に違うようだ。別々の人間が一人に統合されているような、奇妙だが落ち着いた、何とも言えない佇まいを感じさせた。


「さ、これで真っ黒野郎の戯言は本当にタワゴトになったってわけだ。どうだ?」


 すでに勝ち誇ったような態度で、ドグ=ジルニードルはディザイロウの肩に手を置く。


「ドグ……」

「今のおめえが前のおめえと違うみてえに、俺様とジルニードルも前とは違う。おめえの手が届かねえとこは、俺様がどうにかしてやる。それが弟子にとっての師匠であり、相棒ってもんだろ」


 後顧の憂いをなくしたイーリオ達に対し、暗黒の人竜は怒気もあらわに体を震わせていた。


「そんな玩具おもちゃのような武器程度で俺の軍をどうにかするだと? 良かろう。まずは貴様達からだ。俺の愛したイーリオを俺が消す事で、本当の幕引きとしてやる!」


 巨大な曲剣を突きつける竜の神。


 対峙する運命の三騎。


 この世の全てをかけた最後の戦いが、開始の合図もなくはじまった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




挿絵(By みてみん)

★最後の三人

 イーリオ、ドグ、レレケ。

 物語最初の三人にして、最後の三人。

 原初の三騎〝三賢紋〟を受け継いだ〝救世の三騎〟。

 ドグはカイゼルン・ベルとの魂魄融合によるため、髪の色が金髪になっている。

 つまりこの三人は三人のようで四人でもある。

 



挿絵(By みてみん)

☆救世の三騎

 ディザイロウ、ジルニードル、レイドーンの三騎。

 神霊の人狼、神の騎士のサーベルタイガー、神力の大魔導師。

 ジルニードル以外は外見に変化あり。

 ディザイロウは霊神融合(コーザリア)により体毛に幾何学模様が浮かんでいる。

 レンアームは背中にロッテの魂魄が入った飛行補助装置(フライト・ユニット)を背負い、天の衣(ヘルム)と呼ばれるマントがなくなっている。




挿絵(By みてみん)

★〝暗黒の創生神〟黒騎士ヘル

 ファウストの肉体をカンヘルの力で再構成し、魂を乗っ取って受肉した黒騎士ヘルの姿。

 その肉体は竜人(ドラグーン)のものとも融合した、まさに人を超えた超人類。

 更にオプス女神の全ての権能も有している、究極の〝ヒト〟。

 画像は戦闘形態の姿。

 尻尾はカンヘルとの融合を強化する接合器となる。




挿絵(By みてみん)

☆〝次元竜神〟〝竜の神(ヤム・ナハル)〟カンヘル

 蘇ったヘルの装竜騎神(ドラケニュート)

 暗黒の破滅の竜。

 大型獣脚類の恐竜ドラゴン、サウロファガナクスの装竜騎神(ドラケニュート)

 カンヘルの全機能と能力に、ディザイロウの三つの異能、そしてシエルの聖女の力も持っている。

 また、星の城(ステルンボルグ)とも結合(リンク)しているため、多層世界の力も行使出来る。




挿絵(By みてみん)

 大きさ比較。

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