今年も変わらず、この季節は来た。
暑苦しくて、無駄にやる気のあるアイツ等は泣き喚いて五月蝿くて。でも、この季節の行事は面倒ながらも面白くて。長い休みなんてものもあったりして、結構良いところが多かったりする気がする。
それで、今も結構楽しかったりする。
「覚悟ぉ〜っ」
「それ持ってくるなっ。走るな、近づくなぁ〜っ」
「うっはっはっ」
「…………参戦」
「参戦せんでいいから、まじ、来んな〜っ」
日も良い感じに降りた今、私の家では例の部活の先輩が互いを花火で燃やそうと奮闘している。まぁ、家と神社の母屋が燃えなければ良いが…。なんて。
このどんちゃん騒ぎが始まったのは、他でもない。我が『万屋部』の部長が行き成り言ってきたのだ。今日の終業式の後に。
『今日は、終業式だし、夏休みだし、ンなわけでぇ揺奈の家に行こう』
何か適当にご飯作って皆で食べながら、花火すると言う肝心な部分が抜けているわけだが、いつもの事で、両手に花火セット(特大二つ)とバーベキュー用の食材を大量に持ってきたことには驚かなかったが、家について早々倉庫をあさり出したのには流石に驚いた。
で、速効でバーベキューの用意して始まった、やたら騒がしい何の意味もないお祭り。
ぶっちょと十夜は、相変わらず凄い勢いで走り回って(両手花火装備)じゃれあってるし、誇雅は適当に参戦しては戻ってきてカカとご飯食べてるし、知捺さんは段々キレつつあるし…。なんかもう、てんでバラバラな先輩たちが楽しそうなもんで、ゆう兄までこのお祭り騒ぎに参戦して咳き込んで笑ってるし。…大丈夫かな。肺炎起こすなよ。お母さんとお父さんは笑ってるしかないみたいな様子だし。怒られんのかな。私は…。
「ヨゥ、助けて。燃える!俺、燃やされる!」
肉を食べていた自分に、ぶっちょが叫んだ。一時考えて、
「盛大に燃やされちゃって下さい。ぶっちょ」
と言い放つことにした。
「ぅがぁっ」
向こうの方で助けを求められてもねぇ。なにせ、両手にロケット花火装備じゃ助けようにも無理あるし。見捨てるほかないだろう。その場で固まってうな垂れられても知らない。私には関係ない。
小さいキャンプ用のテーブルの上に、大量にお母さんと握ったおにぎりの一つを掴む。塩加減が丁度良い。
「見捨てられてやんのぉ」
「うっせぇ。ちな…………」
「黙れ。この馬鹿共が!人様の家で暴れすぎだっ。馬鹿も対外にしておけ!」
「怒ったぁ。知捺が怒ったっ」
「燃やすぞ、貴様等」
かなりテンションが上がっているせいで、いつもなら知捺さんの怒号一発で黙るのに黙らない。それどころかバカにしている。凄い、やばいぞ。知捺さん、本気で二人を燃やしかねない。
「ぁ。知捺、キレちゃいましたね」
「笑って言いますか」
知捺さんの隻眼が目が光った。
鬼が今、私の神社に光臨された。
「燃え死ね!即刻灰となれっ」
目にも留まらぬ速さで、ロケット花火二本に火を点け、走る。
「ふぎゃぁ〜」
ぶっちょと十夜が今まで以上に早い速度で走り逃げる。それを、凄い威圧感と殺気をぶちまけながら、知捺が追う。あと少しで、二人とも燃えるか、殴られるな。
「ぁ、揺奈さん。お肉が焼けましたよ?食べます?あと、誇雅。食べますか?」
「食べます。ありがとうございます」
「………いる」
無表情でカカからお皿を受け取り、野菜とお肉をバランスよく食べている様に見える。全くもって片寄りが無い。おにぎりも、結構食べたのかな。減ってる。
誇雅先輩、無言で凄い食べるな。何気に大食いだったんだ。
「いいぇ〜。それより、すいませんね?騒いじゃって。…誇雅、あまり食べるとお腹壊しますよ?」
一つ頷いて、皿を置いたがすぐに手にとって食べ始めた。どうも平気らしい。
「あ〜。自分の所は気にしなくて良いですよ」
「そそ。大丈夫、大丈夫。つか、面白い部活だよな〜」
「つかさ、ゆう兄は体調大丈夫なわけ?」
「へーき。全然余裕だし。なっ。リョク」
カカの膝の上に乗っかって居る、我が家の全身真っ黒の猫が一声鳴いた。
ゆう兄に撫でられてご機嫌らしい。いや、カカの膝の上だからか?でもコイツ、メスだったよな。
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ。いだぁぃ〜」
「いでぇ。まじでいでぇえぇっ。離してぇ」
「許すか。馬鹿共がッ!反省しろっ」
「反省しましたぁ」
「したぁ」
「嘘を吐け!してない事なんぞお見通しだっ」
渾身の力で二人の耳を引っ張り上げる。
「あだだだだだだだだ」
「やだぁあぁぁぁ」
だが、ふとその力を弱めて、代わりに片手に持っていた花火を見つめて、二人を一瞥した。そして、
「鼻燃やしてみようか」
あろう事か、ロケット花火を二人の顔面に突きつけた。
『ぎゃああぁっぁぁぁぁぁぁああぁあぁ』
あぁ。もぅ、知捺さん。二人をどつき回すの止めて下さい。怖いです。そして見ててとても痛いです。
鬼の形相で二人の頭に拳をねじ込ませるかのように、どついている。あぁ。確実にあれ痛いだろうな。手套と良い勝負かも。片手の花火が更に恐怖感を強めている。
「誇雅先輩、アレには参加しないんですか」
「……したく、ないょ」
ま、そりゃそうか。
「あぁっ。翠、それ俺が食べようとっ」
「へっ。早い者勝ち〜」
「寄こせぇ。食わせろぉ」
「やだねぇ」
花火が線香花火を残し無くなった所で、ようやくまともにご飯を食べだした二人だが、相変わらずこの調子。知捺さんはすでに第二噴火寸前だ。あぁ、怖い。
「十夜、少しは野菜も食べませんか?体に良くないですよ?」
「えぇ〜。肉だけでい…」
「野菜食えっ」
「ぅぎゃんっ」
知捺さんが、一瞬で肉大盛りの皿と野菜大盛りの皿とを変えた。お見事っ。
「返せよぉ。ちぃなつぅう」
「五月蝿い。黙れ。話しかけんな。燃やすぞ」
「……あり難く食べさせて頂きます。はぃ」
「フンッ」
肉を見つめながら、知捺さんの視線に怯えながら、大盛りの野菜を黙々と食べ始めた十夜。少し可哀相と思うが、自分の分のお肉が無くなるのはいただけない。
「知捺、それ…頂戴……?」
「…相変わらずよく食べるね」
「育ち盛り…ですから、ね」
すんなりと誇雅先輩に肉大盛りの皿を手渡した。それを、受け取った誇雅先輩が嬉しげに食べ始めた。いつも無表情なのに、今はほんの少しだけ笑っているように見える。っと言っても、そんなに変わらないが。でも、どうしてだろうか。こうも美味しそうに食べられると、自分も食べたくなってきた。
「誇雅先輩、少しそれくれませんか?」
「良い…ょ。ヨゥは、細いから……一杯、食べなきゃ……死ぬよ」
「サラリと怖いこと言わないで下さいよ」
やはり無表情で、次々に肉を皿に入れてくる。って、ちょっと待って。皿に入っている肉多くない?十夜はどれだけ肉を取っていたんだろうか。
「ヨゥの、兄貴さんも……どうぞ。お肉を食べて、丈夫…な体に」
「おぉ。ありがとぅなっ」
私ほどではないが、肉を皿に入れていく。やはりと言うか、例の如く無表情で、ただ黙々と。
「おぉ〜ぃ。良いんだぁ?」
言葉抜けの意味不明で理解不能で解読不明な言葉をぶっちょが叫んだ。
お肉を半分噛んだまま、声のする方を見るとぶっちょの後ろが花火よりも凄まじい事になっているではないか。
火柱が上がっている。
「わぁ〜。キャンプファイヤー?」
ゆう兄が笑いながら言う。
「なんで、そんなに火を噴いているんだ?!智弥、お前何したっ」
「あらぁ〜」
「すげねぇな。おぃ。どぅなってんだ?」
「俺、なんにもしてねぇってが、熱ッ」
お肉と野菜が真っ黒になりながら、凄い燃えている。ぶっちょの後ろで凄い火を噴いている。わぁ、めがっさ綺麗な火柱。
「じゃなぁ〜ぃっ。水っ。水っ」
「親父っ、ホースなかったか?!」
「向こうに出っぱなしのはずだぞっ。水撒きようのやつが」
「わ、私、取ってくる!」
慌てて走る。確かに境内の隅っこの方に水道があって、ホースもくっついている。おぉ。なんと運が良い。って自分が片づけをサボって出しっぱなしにしていただけか。
「あった、あった」
勢い良く栓を回して、ホースの先端を掴んで元居た場所まで走る。
「どぃてぇ〜っ」
思いっきり、ホースの口を摘んで水をぶっ掛けた。が、目標が違った。
水を被ったのは、火柱ではなく、
「……」
「……」
その前に立っていた、ぶっちょの顔面だった。
一瞬、その場が凍った。
「すいません…」
「ありきたりだな…」
「ごめんなさい…」
「水、冷たいな…」
火柱は、数分後完全に消えた。
バーベキューは強制終了。
網が完全に消失。
食材はそんなに残っていなかったので、別に良い。
…かな?
「肉、食べたりねぇ〜」
十夜が、うめく。勿論、ぶっちょを睨みながら。
まぁ、睨まれている本人は、気付かぬ振りをしているみたいだが。
「つか、駄目になってしまったな」
「すいません。本当にっ」
「いいって。網がなくなっただけだし」
ゆう兄が笑って言う。にしても、カカも一々誤らなくても良いのに。律儀と言うかなんと言うか。ぶっちょ、悪びれた様子もなく笑ってるし。
「スイカのおかわりは、いかが?」
一応、適当に突っ込んでおこうかと思った矢先、奥に行っていたお母さんがスイカを乗せたお盆を持って、戻ってきた。
「お袋ぉ〜。俺いる〜」
手を振りながらゆう兄が呼ぶ。
「あんた、食べすぎよ。皆は?」
「下さいっ」
「俺もぉ〜」
「はいはぃ。よく食べるね〜」
驚きを含んだ笑顔で、お母さんがスイカの乗っているお盆を渡した。ちなみに、ゆう兄はスイカをもらえなかった。
「揺奈、由胡、はぃ。これ」
『?』
二人同時に振り返ると、お父さんが立っており、何かを差し出してきている。
反射的にそれを受け取ったが、瞬間。自分が手に取った物が何なのかを理解した途端に、表情が一変した。
「さぁ、良い月が出ていることだ。練習ついでに二、三曲」
意気揚々に、何かを言っている。
自分等兄弟の変貌振りに、先輩たちが不思議そうな視線を送ってくる。
「何だ?それ」
「ヨゥ?」
言葉が出てこない。どうも、ゆう兄も同じらしい。
そぅ。自分等が手にしている物は、慣れ親しんだもの。
「お父さん…?」
「何だ?」
「マジで?」
「お父さんは、冗談が嫌いだ」
「……ぇ?俺、この格好で舞うのか?」
自分が持っているのは、我が家の家宝のでもある自分愛用の竜笛。
『竜輝』
ゆう兄が持っているのは、どうも練習用みたいだが
『扇』
だ。古典舞踊とかで使う、扇子より大きい奴だ。
「やらなかったら、明日の稽古………」
お父さんが、不気味に笑う。
練習の時間と量を増やす気でいるみたいだ。
「わかったよ。やる」
竜輝を収めている、細長い包みを解き始める。解き終わったところで、座り直し正座。そして、精神統一の為に目を瞑った。
「しゃぁない」
ゆう兄が、ため息混じりに立ち上がった。縁側から降りてある程度進んだその場で適当に背伸びをし始めた。
「なにすんだ?」
「お?ぉお?おぉおお?」
「…繊葉……馬鹿、丸出し」
「だってよぉ」
「まぁ、見ていて御覧なさい」
『……?』
あぁ。横でごちゃごちゃ五月蝿い。お父さんは、何を思って竜輝を渡してきたんだ?あれか?嫌がらせか?練習とか絶対嘘だ。結果的には、確実に明日の稽古は長引くはず。
スッと目を開くと、ゆう兄がこっちを見ていた。準備はもう良いらしい。一つ頷くと、頷き返してきた。そのまま、動きを見ていると、持っていた扇をゆっくりと目前に構えた。
曲の指示と、始まりの合図。
再び目を瞑り、竜輝を構え息を深く出来るだけ多く吸い込んだ。
竜輝が、啼いた。
砂利の上を滑る足の音と、竜輝の澄んだ音が小さく、しかし広くこの場所に響いた。
「すげぇ…」
十夜が、呟いた。そのまま口が半開きになったままだ。
「……………良い、音」
「そぅ、ですね」
「らしい、音だな」
「高海らしい?」
「あぁ。そんな気がする。詳しくないけど」
「笛には詳しくない?」
「そぅ。つか、兄さん綺麗だぁ」
言葉抜け連続を知捺さんが正したのにも拘らず、本人は気付いた風でもなくゆう兄の動きに見入っていた。
「これで、少しは気持ちも落ち着くんじゃないだろうかね…」
「お父さん、賑やかで良かったじゃないですか」
「危なっかしい…」
「あらあら」
遠くで、小さく笑う二人の姿が見えた。
今年も変わらずにこの季節は巡ってきた。
空が高く、痛いほどに輝いていて、外に出れば自分の肌が焼けていく事を実感する。
蝉が啼き喚いて、五月蝿いけれど何と無く清々しく思えて、お祭りが近いコトを思い出す。
夜の帳が下りた頃、空に一輪の花が咲いては散っていく。
あの戦いの果てに、自分が掴んだモノは定かではないが、確かに今ここにある日常は前よりも大切に思えてしょうがない。
先輩たちのどよめきがふと耳の中に入ってきた。
目を開ければ、滑ったのかその場に倒れているゆう兄の姿。
「……」
無視して、竜輝に息を吹き込む。
皆で笑う、その声が愛おしくてならなかった。
†終幕† |