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マスコット転生

シーフさんの日常

作者: とど

マスコットのおまけ。シーフさん視点です。


「シーフさんがいい」



 その一言で俺の平和は崩れ去ることになった。







 俺が勇者一行に加わった理由は簡単なことだ。ただお互いの利害が一致しただけ。

 向こうは神殿などのダンジョンのトラップを見破るシーフを仲間にしたかった。俺は単純に勇者一行と一緒なら難関の神殿を攻略して儲けられると考えたからだ。


 他の同行者もそれぞれ自分の目的の為に旅に同行しているだけであり、互いに干渉しないことが暗黙の了解だった。




 初めてリルルを見た時は、もさもさした子熊みたいなやつだなーというのが第一印象。次に旅に同行すると決まった時は正直言って足手纏いになるなと思った。

 精霊魔法を使えるのは確かに便利だが、こいつは自分で戦うこともできない上、最初の頃は敵の気配を察知して上手く隠れることさえできずに魔物から狙われてしまった時もあった。


 だが、リルルが一行に加わってからというもの、パーティの今までずっとぎすぎすしていた雰囲気が徐々に良くなっていくのを感じた。今まで各々勝手に戦っていた戦闘は戦うことの出来ないリルルを守る為に連携を駆使するようになった。リルルを中心置くことで俺達の仲は保たれるようになっていったのだ。


 野営でも小さな生き物がちょこちょこ動いて手伝いをしている所を見ると、疲れてイライラしてた心も和むものだ。



 最初は動物が、丁寧な言葉を話すのにとても違和感を感じていたが、慣れてくるとそれも愛嬌に見えてくるから不思議なものである。


 他の三人が構いまくる所為か、旅の中盤からリルルは気が付くと俺の側にいるようになっていた。毛繕い中に頭をもふもふ撫でても、嫌がられないのは俺だけだ。そのおかげであいつらからかなり睨まれることになったのだが、自分に一番懐いていると思うと余計に可愛く思える。



 だから結局リルルがうちに住むことも許可してしまったのだ。



 リルルが浚われた時は酷かったなー。

 俺も旅に同行している以上、それなりに強くなったとは思ったが、あの3人は桁違いだった。助けに来たはずなのに、逆にリルルを含め浚われていた精霊に怯えられる結果となってしまったのだ。山賊の返り血を浴びた勇者は、俺でも怖かった。


 その後ついでとばかりに訪れた魔王城。

 あの光景は今思い出しても可哀想になってくる。

さすがに魔王を前にして隠れる場所などないので、俺はリルルを守ることに徹していたのだが、そんなことはまるで必要ないかのように、魔王は剣を鞘からも抜かせてもらえず、三人に袋叩きにされた。


 一方リルルはそんな修羅になった三人を見て、俺の腕にしがみつきながらぶるぶる震えていた。






 俺達はその後魔王城から帰還すると、王に謁見することとなった。

 俺達には報奨金が、そして勇者にはそれに加えて領土の一つが与えられることとなった。そんなもの貰っても困るだろうと思っていたのだが、何故か本人が喜んでいるので不信に見ていると、


「リルル達がいた森が欲しいです!」


 と力強く宣言した。

 しかしそれは敢え無く却下されてしまった。王曰く、あの森は精霊達の住まうとても神聖なもので、この国の管理下にあるわけではないとのことである。


 その代わりと言って森に隣接する領地を与えられると言われ、勇者は渋々頷く。

 おい、舌打ちするな。聞こえてるぞ。



 それからというもの、勇者は日々森と領地を行き来し……というか、かなりの頻度で森にいることが増えた。それでも領主の仕事はきちんとこなしているというハイスペックの無駄遣いである。

 リルルの仲間も勇者を英雄と尊敬し歓迎ムードなので、あいつは調子に乗って遠慮なくもふもふしている。


 ……節操がないやつだ、リルルと同じ種族ならなんでもいいのか。


 時々、あいつは遠く離れた俺の家にも遊びに来る。

 勇者は家に来るたびにリルルに自分の領地に来ないかと勧誘する。そしてリルルに断られると、今度は俺に引っ越しを提案してくるのだ。


 冗談じゃない。今の距離でもこんなにリルルに会いにくるというのに、あいつの領地で暮らしたらどうなるか目に見えている。旅に出ていた時はあまり気にする暇がなかったが、正直一日に何度も会いたいやつではない。

 第一、折角リルルも周りの住民に慣れてきたのだ。今から引っ越すなどありえない。

初めは俺のフードに隠れて様子を窺っていたリルルが、最近では俺の肩に乗って話掛けられると嬉しそうに答えている。精霊などという珍しい生き物に興味津々だったやつらも、今はリルルを微笑ましげに見守ってくれている。







「リルルちゃん、今からでも私の家に住まない?」

「神殿に来れば、家事とかしなくても好きに遊んでていいんですよ」


 魔法使いと神官はというと、こいつらもちょくちょく家に来る。

 というか、俺が家に帰ると勝手に寛いでやがった。リルルはぱたぱたと走りまわり、そんな彼女達にお茶を出してもてなしている。

 聞けばいきなり鍵が開いて入ってきたらしい。シーフの家の合鍵を作るとは只者ではない。いや確かに只者ではないのだが。

 シーフとしてのプライドが傷付けられた。


 リルルは魔法使い達の誘いの言葉にふるふると首を振ると、俺の元へやってきて服を掴む。

 お前だけだよ俺の味方は。


「シーフさん友達いないから……1人だと可哀想です」


 ……前言撤回したい。








 リルルがうちに来て災難ばかり、というわけでもない。

 野営の時は神官がやっていたので気づかなかったのだが、リルルは料理ができるのだ。初めは鍋をひっくり返さないかとか、火傷しないかと心配して見ていたのだが、以外にも器用に包丁を扱い、迷いのない手付きで料理を作っていく。正直俺が作るよりも美味かった。


「おかえりなさいシーフさん!」


 さらにリルルに留守番を頼むと、家に帰った時に嬉しそうにトコトコと駆け寄ってくるのだ!

 ……だんだん勇者たちのことを言えなくなってきたな、と思いながら俺はリルルを抱き上げる。




 リルルがうちに来てから一番の収穫は、今まで精霊魔法で封印されて進むことができなかったダンジョンを攻略できるようになったことだ。

 古代に作られたと言われる地下のダンジョンの多くは、精霊魔法で封印された場所が存在する。封印を解かなくても奥へ進める所もあれば、入り口から閉ざされている場所もある。

普通の冒険者は精霊を味方にできることはまずないので、そういう封印を解くと今まで誰も訪れたことのない秘境や、珍しいアイテムが発見できることが多い。



 ここで問題となるのが、またリルルなのである。

 勇者たちの旅に着いていくまでは、俺は基本的に一人で行動することが多かった。身軽さを生かして通常では通れないような道を行く。その時、魔法使いなど……あんまり鈍くさいやつがいると邪魔なのだ。

というわけでリルルがいると逆に通れなくなるところがあるのだ。

 ましてリルルは戦えない。守りながら戦うとなると、シーフの俺一人だと非常に苦しいものだ。そういうわけで結局こうなってしまうのである。



「リルル、疲れてないか?」

「リルルちゃん今度は私が運んであげる」

「抜けがけ禁止です! リルルちゃん、こっちにおいで」


 いつものパーティである。というか勇者、お前は領主なんだから来るなよ。

 さすがにしばらく行動を共にしていたので、戦闘などは非常にやりやすい。誰がどう動けば良いのか自然と体が覚えているのだ。


「宝箱!」


 道中にあった小さな宝箱を見つけて、リルルが一目散に駆け寄る。嬉しそうに中に入っていた装飾品を見せてくる姿にパーティ全員の表情が緩んでしまう。



 ……しかし、大変なのは道中の会話である。



「リルルちゃん、一番好きなのは誰?」

「え、勿論シー」

「神官さんって言おうとしたのね?」

「違うわよ、しっかり者の魔法使いさんって言おうとしたんだよね、リルルちゃん」

「そんな訳あるか、シーフより百倍頼りになる勇者様って言おうとしたんだよな!」



 神官はともかく、後の二人は無理がありすぎるだろう。というか勇者、俺を引き合いに出すな。

 リルルが困ったようにこちらをちらちら見てくるが、あえてスルーした。


 こいつらと居ると精神的に疲れるんだ。たまには休ませてくれ。







 ある日、家に帰ると駆け寄ってきたリルルが耳に見慣れないリボンをつけていた。

 リボンは赤のグラデーションでよく見ると細かく装飾が入っている。シーフとしての目から見ても、なかなか良い値が付く代物だろう。


「シーフさんおかえりなさい」

「ただいま、そのリボンどうしたんだ?」

「魔法使いさんに貰いました!」


 リルルは嬉しそうにそう言って、しきりにそのリボンを触っている。

 リルルも女の子だからなあ、そういうものが欲しかったのか。魔法使いにしては気の利くことをするなと、リルルの頭を撫でながら思った。




 後日、そのリボンに位置情報探知魔法がかけられていることを知って、先日の魔法使いへの評価を変更せざるを得なかった。



「リルル、お前もう逃げられないぞ」

「?」


 何も分かっていないのは果たして幸か不幸か。





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