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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 体育祭当日、私が登校すると岩室君が小声で私を隅に呼んで、昨日の夜にパックをしたので肌チェックをして欲しいと頼んできた。手の甲で感触を確かめる。うん、ぷるぷるだね。褒めてあげると嬉しそうにお礼を言って、岩室君は男子の輪の中に入って行った。一度開いた扉は、もう閉まらないのかもしれないな。


 花形競技では私はもっぱら応援係だ。友達と日焼けをしないようにテントに入って観戦する。あ、岩室君にも日焼け止めを貸してあげればよかった。
 選抜リレーでは騎馬戦に出られない鬱憤をすべてここに懸けている皇帝が、リレーメンバーを猛特訓したという噂通り、一糸乱れぬバトンの受け渡しでぶっちぎりの1位だった。なんかどこぞの軍隊のようで怖い…。

 1年の女子では蔓花さん達が活躍していた。これでまたしばらくは大きな顔をしそうだな。
 私が出る二人三脚の番が回ってきたので、入場ゲートに行ってペアの生駒さんと足を結んでいたら、同じ列に若葉ちゃんがいた。
 若葉ちゃんも二人三脚に出るのか。しかも同じ組。若葉ちゃんって運動神経良かったっけ?
 まぁ今は他人のことよりも自分達のことだ。結構練習したので、できれば1位を獲りたい。生駒さんも「麗華様、私頑張ります!」と気合十分だ。
 ピストルの合図で私と生駒さんはいっちに、いっちにと声を出しながら勢いよく走った。後ろで転ぶペアの気配がする。この組では私達が1位だ!ゴールテープが見えて勝利を確信したその時、横からあっという間に私達を追い抜いたペアが、1位を掻っ攫っていった!
 あまりの衝撃に足がもつれ、たたらを踏みながらもなんとか2位でゴールをしたら、1位の旗を持っていたのは若葉ちゃんだった。
「やったー!1位だ!」と喜ぶ若葉ちゃんの隣で、ペアの女子がまずいといった顔で慌てて若葉ちゃんをとめていた。
 若葉ちゃんは「え?なんで?」ときょとんとしていたけど、ペアの子になにやら耳打ちされた後、私のほうを見た。ん?
 そして若葉ちゃんはそのままペアの子に引っ張られ、ほかの選手達の中に紛れて行った。

「麗華様、すみません。麗華様を負けさせるなんて…」

 生駒さんが悔しそうに謝ってきた。え!そんなに責任感じなくても!

「しかたないわよ。私達より速いペアがいたんだから」
「でも…」
「次の競技を頑張りましょう?生駒さんも玉入れに出るんでしょ?」
「はい…」

 私はあまり体育祭でなにがなんでも勝ちたいと思ったことはないんだけど、ほかの人達は違うみたいだな。

 そのあと行われた大玉転がしにも若葉ちゃんは出場していて、大玉の軌道をコントロール出来ずに、隣を走っていたクラスの大玉に激突していた。その大玉の犠牲になったのはアフロディーテで、「僕の手があーーっ!僕のバイオリン生命があーーっ!」と大騒ぎされ、若葉ちゃんは必死で謝っていた。アフロディーテに絡まれている間に若葉ちゃんはビリになっていた。……合掌。


 午後の部で私が出るのは仮装リレーだ。
 私の衣装はグレーのワンピースにグレーのレギンス、頭に大きなネズミの耳を付けている。手はネズミの手袋がなかったので猫の手袋で代用。足は安全の為にスニーカーだ。しかし片手にかぼちゃ、片手にバトンは危ないのでかぼちゃのリュックを背負うことになった。シンデレラ、王子、魔法使いと比べて、私のキャラが一番ぼんやりしている気がする…。
 シンデレラのドレスを着て金髪のカツラをかぶった岩室君が、私にどうでしょうと見せに来た。ピンクの頬紅にピンクの口紅も塗っている。
 私は岩室君にグロスも持ってきているけど塗るかと聞いたら、「ぜひ!」と返事をされたのでグロスを持ってくると、身長170センチ以上、柔道部所属のゴツイ岩室君が私の前に跪いて目を閉じて唇を差し出してきた。
 え、私が塗るの?
 私の想像以上に乙女の階段を急ピッチで駆け上がっている岩室君の唇に、私はラメの入ったグロスをたっぷりと塗ってあげた。うんうん、可愛いよ。
 岩室君は鏡を見ながらこっそりあひる口をしていた。戻ってこい…。
 仮装リレーは私の番が来ると、客席が歓声からざわつきに変わった。客席を見ると気まずそうに目を逸らす人までいる。なんで?変?
 芹香ちゃんや菊乃ちゃんは「麗華様!ご立派です!」と妙な声援をくれた。
 リレーの順位は1位ではなかったけれど、私達のクラスの仮装はなかなか話題をさらったと思うのでよしとする。シンデレラも終始嬉しそうだったしね。ラメ入りグロスはプレゼントした。



 それからもいろいろな競技があった後、とうとう騎馬戦の時間がやってきた。
 私のクラスからは体格がいいからと岩室君も騎馬戦に参加している。中身は乙女なのに大丈夫か?
 人気のある騎馬がゲートから入場してくると、ギャラリーの声援がひときわ大きくなる。1年生では同志当て馬の騎馬に女子の声援が大きかった。副村長なのに、ヤツはモテる。なんだか悔しい。
 そして一番男女の声援が大きかったのは、私の初恋の君、友柄先輩だ。私も思いっ切り拍手をした。友柄先輩頑張って!
 高等科の騎馬戦は、中等科よりも迫力があった。上級生の体格と身体能力が中等科生とは全然違うせいだと思う。
 それでも同志当て馬は検討していた。上級生相手でも互角に戦いハチマキを奪っていた。同志よ!村の名誉のためにも頑張るのだ!
 乙女な岩室君は無事かしらと心配して姿を探したら、シンデレラのドレスを着て喜んでいた姿とは別人のように、うおーーっ!と雄叫びをあげて敵に突進していた。こっちも頑張れ柔道部!
 そんな中、友柄先輩の騎馬は次々に襲ってくる敵をなぎ倒し、危なげなく戦功を重ねている。友柄先輩、かっこいいーーっ!久々に私の頭に“おお運命の女神よ”が鳴り響きまくってるよ!
 友柄先輩ばかり目で追っていたら、いつの間にか岩室君の騎馬が負けていた。ごめんね見てなくて。あとで日焼けした肌に効く化粧水を貸してあげるね。
 同志当て馬は最後の数騎の中に残っていた。凄いぞ、さすが我が同志!しかし友柄先輩にロックオンされて、ずいぶん粘っていたけれどフェイントを食らった隙にハチマキを奪われてしまった。その時の友柄先輩の悪い笑顔に胸キュンです!
 ふと思い出して皇帝の様子を窺うと、皇帝は眉間にシワを寄せ、拳を固く握りしめながらジッと友柄先輩の騎馬を見つめていた。その目はとても悔しそうだった。
 ……だったら出ればよかったのに。なんで引退宣言なんてしちゃったかなぁ?バカだなぁ。
 最後は友柄先輩が同じ3年生の騎馬と戦って勝ち、今年の騎馬戦の王者となった。
 私はその雄姿に立ち上がって拍手をした。もう飛び跳ねて手も振っちゃうぞ!
 その時、友柄先輩がこちらの席を向いて、片目を瞑り笑いながら親指を立てた。えっ!私?!
 思わずきょろきょろすると、友柄先輩が私を指差した。そして私に手を振ると、そのまま仲間達と肩を抱き合いながら去って行った。

 私は幻の鼻血をプシーッと噴き出した。
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