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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 夏休みも後半になり、毎年恒例のピヴォワーヌのサマーパーティーの時期がやってきた。
 華やかで楽しいんだけど、毎年行ってると最初の感動がなくなってしまったな。お兄様も卒業してしまったし。
 お母様は私を着飾るのが大好きなので、パーティーがあるとやたら張り切ってドレス選びに私を連れ回す。
 今年はシフォンの生地が折り重なったパウダーピンクのドレスに決まった。私としては少し可愛すぎるのではないかと思ったけど、お母様はとても気に入ったようでご機嫌だ。
 この機嫌の良い時がチャンスかと、さりげなさを装って話を振ってみた。

「ねぇお母様。夏だし私もヘアスタイルをイメージチェンジしようかと…」
「あらそれはダメよ。お母様は麗華さんのその髪型が大のお気に入りなんだもの」

 ……ですよねー。わかっていましたよ、言ってみただけです。

「お母様ね、小さい頃からジュモーのビスクドールに憧れていたの。娘をジュモーの人形のように可愛く飾り立てるのが夢だったのよ」

 いや~、ジュモーは無理があるでしょう。だってあれは金髪碧眼だもの。根本から違うぞ。良かった、金髪に染められてカラコン付けさせられなくて…。
 しかしアンティークドールみたいな子って実際にいたら怖くないか?生きた人形ってことでしょ。絶対怖いよ。そもそも私、人形って昔から凄く苦手なんだけど。
 だって精巧に出来ている人形ほど、夜中動きそうじゃない?特に日本人形…。
 吉祥院家には、私が生まれた時に買ってもらった新しいお雛様のほかに、代々伝わる古いお雛様がある。これがまた年代物のぶん、物凄い迫力なのだ。
 毎年出すたびに、あれ?こんなに目が細かったっけ?口元がニュッと笑ってたっけ?と思ってドキドキしている。なんとなく、毎年顔が違う気がするのだ。
 それにお雛様のメンテナンスをしてもらっている人形師さんが、時々髪を切っているのを知っている。……伸びているのか?怖くて絶対に聞けないけど。
 私の部屋に飾るのだけは全力で阻止しているけれど、お雛様が飾られている部屋に行くと、見られている気がして背筋がぞくぞくする。
 あのお雛様なら、夜中に徘徊してても不思議じゃない。古い物には魂が宿るっていうし。
 あ、やめよう。こんなことを考えていたら今日の夜、苦しくて目が覚めたら胸の上にお雛様が乗っているなんてことが起こるかもしれない。目が合ってニタリと笑われたら、一瞬で総白髪になりそうだ。
 …しかしジュモーか。
 仕方ない。お母様の少女趣味を叶えるために、もう少しこのロココヘアを我慢するかな。



 サマーパーティーに行くと、すでに鏑木と円城の周りには女の子達がひしめいていた。
 今年は優理絵様がホームステイで欠席なので、てっきり鏑木も来ないかと思っていたけど、そういうところはきちんとしているのね。
 私はほかの出席者と挨拶を交わしながら飲み物を片手に庭に出た。
 夕方で風も出てきたけれど、まだ少し蒸し暑い。それでも私は毎年、ここの薔薇のアーチが一番のお目当てなのだ。
 初めて参加した時には、お兄様とこの鐘を鳴らしたなぁ。懐かしい。あの時の写真は今も部屋に飾ってある。
 そのまま薔薇のアーチを見ていたら、たぶん初等科のプティの子であろう、小さな女の子と男の子が鐘の近くでうろうろしていた。あ、もしかして

「鐘を鳴らしてみたいの?」

 私が声をかけると、小さな子供達がびっくりして振り向いた。ふたりはしっかり手を繋いでいて、なんだかとっても微笑ましい。

「あの、いえ…」

 ふたりは目を見合わせてどうしようか迷っているようだ。

「私も前に鳴らしたことがあるのよ。とても楽しかったわ。大丈夫よ、私がここにいるから、ふたりで鳴らしてごらんなさい」
「…いいんですか?」
「もちろん!鐘は鳴らすためにあるのよ!」

 ふたりは一緒にロープを持つと、遠慮がちに一度鳴らした。

「あら、もっと勢いよく鳴らさないと、カランカランってきれいな音が出なくてよ?」

 私が焚き付けると、ふたりは力を込めて鳴らし始めた。私は持っていたデジカメでふたりの写真を撮った。
 その鐘の音にギャラリーが集まり始め、子供達は顔を赤くしながらも嬉しそうに笑っていた。

「もう満足した?」
「はいっ!ありがとうございました!」
「ありがとうございました」

 ふたりの後から、楽しげに鐘を鳴らす人が出てきた。なんだかデジャヴだなぁ。
 私は写真を撮ったので後日学院に届ける約束をして、ふたりと自己紹介をした。ふたりは同級生で仲良しなのだそうだ。いいなぁ、私にはそんな甘酸っぱい初等科の思い出なんて一個もないよ。
 その後少しだけおしゃべりをして、ふたりはホールに戻って行った。

「ありがとうございました麗華お姉様」

 女の子が最後に振り返り、はにかんだ笑顔でもう一度お礼を言ってくれた。
“麗華お姉様”……、素敵!!
 考えてみると、私をお姉様と呼んでくれる子はほとんどいない。たまに璃々奈がわざと呼ぶくらいだ。
 なんか感動だわ。年下の子に慕われるってあまりないから。

「こんばんは、吉祥院さん」

 私が“お姉様”の余韻に浸っていると、いつの間にか円城が隣にいた。気配に全く気づかなかった!忍びか!

「ごきげんよう円城様」

 愛想笑いで返す。こいつはなんとなく腹黒いから油断がならない。

「今日は鐘を鳴らさないの?」
「えっ」
「昔、鳴らしていたでしょう。確かお兄さんと」

 なぜ知っている!

「雅哉が羨ましそうに見ていたからね」

 なんてこった!ワルツだけではなく、あれも見られていたか!そして私の心を読むな!

「今日のドレス、とても似合っているね。断食が成功して良かったね」
「…っ、ありがとうございます」

 まだ忘れていなかったか…。けっ、嫌味ったらしい。

「あれですっかり雅哉のお母さんに気に入られたねぇ。今度は晩餐会に招待したいって言ってたよ」
「え」

 晩餐会、冗談じゃない!お茶会よりハードルが高い。

「嬉しくないんだ」
「え、いえ、光栄ですわ」

 まずい、顔に出ていたか。

「ふぅん」

 こいつの見透かすような目が苦手だ。私の周りには心眼の使い手が結構いる。

「風も出てきましたし、私、そろそろ戻りますわね」

 早足で逃げる私の後ろで、円城が笑っている気がした。
 円城って、あのお雛様みたいな得体のしれない怖さがあるな…。
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