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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 真凛先生の力を借りて、なんとか期末テストを乗り切った。でも手応えはあまりなし。試験勉強中にこれはダメだなと思ったので、塾の夏期講習の申し込みをした。
 意志薄弱な私は、ひとりで勉強するのは向いていないみたいだ。家には誘惑がありすぎる。解けない問題があるとつい、気分転換にニードルフェルトでもちょっとやっちゃおうかなとか、部屋の模様替えをしちゃおうかなとか、ほかのことをしたくなっちゃうのだ。
 塾の雰囲気に合えば、そのまま二学期からも通おう。だから先生、補習だけは勘弁してください…。


 期末テスト最終日。テストは午前中で終わったのでそのまま帰って着替える。今日はこれから行きたいところがあるのだ。
 それは郵便局。タンス貯金をしたお金を預けに行くのだ。それと同時に切手を買う。
 私の小さな趣味は切手集めだ。可愛い切手をちょこちょこ買うのがひそかな楽しみ。手紙を送る相手はいないけどね。
 アニメやキャラクターものが特にお気に入りだ。有名なロボットアニメや絵本のキャラクターなどもあって、見てるだけで楽しい。
 その中にはロココの女王の切手もあった。もちろん買った。誰かに送る時のために何枚か余分に買った。今のところ誰にも送る予定はないけれど。
 縦ロールの私が縦ロールの切手を買うのは、えっコスプレ?!って思われたらどうしようって結構恥ずかしかったけど、一番のお気に入り切手になったので、勇気を出して買ってよかった。
 この切手を貼って誰かに手紙送りたいなぁ。葵ちゃんなら笑って受け取ってくれそうだけど、今度送ってみようかなー。

 着ていく服は私の持っている服の中でも比較的ラフな感じの、胸の下にリボンの切り替えの付いたフェミニンなワンピースにした。今日は郵便局のほかにも寄りたいところがあるから、あまりお嬢様すぎない服がいい。
 実は今日はお昼にお蕎麦屋さんに行ってみたいと思っているのだ。
 ひとりでお蕎麦屋さんに行くのは初めてなので、あまり目立つ格好はしていきたくない。
 あ~おなか空いた。なに食べようかな~。


 複合ビルの中のチェーン系のお蕎麦屋さんに入ってみた。メニューを見るといろいろあって迷っちゃう。山菜そばもいいけど冷たいおそばもいいな。う~ん、しかしやっぱりここは天ぷらそばだわ!
 エビが2本も入っていてとってもおいしい。うん、これにして良かった。ネギがいっぱい入っているから血液がサラサラになるね。
 あまりにおいしかったので、つゆも最後までしっかり飲んだ。あー、満足満足!


 ちょっと食休みしてから近くにある規模の大きい郵便局に向かう。
 受付が混んでいたので先に番号札を取ってから、切手を見に行く。動物や古典も好きなんだよな~。和歌シリーズのどれかを買っちゃおうかな。
 可愛い動物の切手を見つけたので、今回はそれを選んだ。今度またふみの日に来よう。
 楽しい気分で貯金窓口のほうに行くと、順番はまだずいぶん先のようだった。混んでいるので座る席もなさそうだ。まぁ仕方がない。私は若いから立っているのもそれ程苦じゃないし。
 そう思っていたのに、サラリーマンの男の人が席を譲ってくれた。なんて紳士なんだ!
 日本もレディーファーストが定着してきたのだなぁ。ありがとう、見ず知らずのジェントルマンよ。私は笑顔でお礼をいって、座らせていただいた。
 こういう小さな親切を受けると、気分がほっこりしてなんだかとっても幸せな気分になるね。
 あーしかし、さっき食べた天ぷらそばがまだちょっと苦しいな。つゆも最後まで飲み切っちゃったからな。
 おなかを無意識にさすっていたら、隣に座っていたおばさんが「何ヶ月?」と聞いてきた。
 何ヶ月ってなにが?

「?」
「まだ5ヶ月くらいかしら?いい子が生まれるといいわねぇ」
「……」

 …………え?
 まさか……、まさか私、妊婦さんと間違えられてる?!
 なんで?!おなかをさすってたから?!
 違う!おなかがポンポコリンだからだ!!

「……私、妊婦さんじゃありません」
「え?」
「おなかに赤ちゃんなんていません……」

 おなかに力をこめてグッと引っ込める。たいして引っ込まなかったけど。

「あ、あら、ごめんなさい」

 おばさんは気まずそうに目を泳がせると、席を移動した。
 はっ!もしかして!と後ろを振り向くと、先程のジェントルサラリーマンがサッと顔を逸らした。あんたもか!
 あれはレディーファーストではなく、妊婦さんへの労りか!

 なんてこった…。
 どうやら私のおなかには、知らない間に子が宿っていたらしい。そのうち大天使が受胎告知にやってくるに違いない。脂肪の国の神の子よ、早く生まれてくるがよい。でないと、この聖母麗華のおなかがいつまで経ってもポンポコリンのままになってしまう。

 ……なんてね。現実を直視しなくっちゃ。これはただのデブ化が引き起こした悲劇なのだと。
 そしてもうひとつ、受け入れがたいことがある。
 それは、もしかして私って老けてるの?妊婦さんでもおかしくない年齢だと納得されるくらいに?ということだ。
 太ったうえに老けちゃった。
 あぁ、ここは蛍光灯が眩しいな。眩しすぎて目に涙が……。
 私を中心としたこの局地的な気まずい空気。窓口の順番は当分来ない──。


 涙をこらえて家路に着くと、部屋に籠って無言でフラフープを一心不乱に回した。
 腹筋をした。V字バランスをした。具合が悪くなった。
 次の日から私はランチも野菜中心にした。「夏バテかしら、少し食欲がなくて…」とサラダメインだ。一緒に食事をしている子達が「まぁ大変」などと言っていたけど、絶対気づいている…。
 ピヴォワーヌのサロンでも紅茶のみだ。今日はブルーベリーのタルトがあるのか。でも食べない!
 みなさんにいろいろなお菓子を勧められるが、「食欲がなくて…」で断る。見ちゃダメだ。
 そこへ通りすがりの円城が、フッと笑って「頑張ってね」と言ってきた。こいつも気づいたか。黙れ、余計なことを言うな。私は今、おなかが空いて気が立っているのだから。


 桜ちゃんに苦しい胸の内をメールしたら、「座禅と滝行どっちがいい?」と返ってきた。
 桜ちゃんがいうには、まず最初にダイエットが続かないこの私の、自分に甘い軟弱な精神を見つめ直すべきらしい。一理あるね。確かに私は他人に厳しく自分に甘い。
 こうして私は夏休みに、桜ちゃんと座禅に行くことになってしまった。
 でも桜ちゃん、私目をつぶると3分で寝ちゃうけど大丈夫かな?
 そしてなぜか、お母様からは断食を勧められた。私は夏休みにお母様と断食にも行くことになってしまった。
 どうやら今年の夏休みは、肥満解消修行の夏になるようだ。今度こそ第3の目が開くか?!
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