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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 廊下で委員長に会ったので、腕を掴んで端に引っ張って行った。

「えっ、どうしたの吉祥院さん」
「委員長、もしや貴方、ポエムだけではなく自作のラブソングなどは作ってはいませんよね?」
「えぇっ!どうしてそれを?!」

 やっぱり作ってるのか!
 委員長の病は、依然加速付きで進行中。なんという残念なお知らせ。

「まぁ、それが委員長の趣味だと言うのなら仕方ありません。しかしですね、それを決して相手に聴かせて告白しようなどと考えてはいけませんよ。はっ!まさか委員長のことですから、学園祭で発表するなんてことを考えているのでは?!」
「いやいや、さすがに僕もそれはまずいとわかっているから」

 おぉっ!成長したんですね?委員長。

「ちなみにどんな曲なのですか?」
「…秘密」

 委員長は頬を赤らめた。乙女め。

「…女の子はやっぱり、自分のために作られた曲をいきなりプレゼントされても困るよね?」
「そうですわねー。全員がとは言いませんけど。嬉しさよりも驚きのほうが先なのでは?」
「そうかぁ…」

 委員長は少し項垂れた。聴かせたいのか。
 これは学園祭前にもう一度確認をしたほうがいいかもしれないな。血迷って歌いだす可能性もなくはない。

「でも妙な自作のラブソングを贈られるより、彼女のために既存の曲を弾くほうが女の子の受けはよさそうですよ」
「そうなんだ」
「ええ。この間、とある方がそれはもう見事にピアノで愛の曲を奏でていらっしゃいましてね、女の子達はうっとりです。恥ずかしながら私も少しときめいてしまいました。そのあまりの意外性に。委員長、ギャップ萌えですわ、ギャップ萌え」
「ギャップ萌え…。吉祥院さんもそんな言葉知ってるんだね。でもギャップか。僕が楽器を弾くのはギャップになるかな」
「真面目な委員長が情熱的な愛の曲を奏でる。充分ギャップがあるでしょう。しかし選曲を間違えないように」
「たとえばどんな曲?やっぱりさ、海にちなんだ曲がいいよね?それとピアノでいいと思う?」
「いいですわねぇ、ピアノ」
「問題は聴かせるチャンスが…」

「委員長、どうしたんだ?大丈夫か?!」

 私達が廊下の端でこそこそと話し合っていると、そこへ少し急いだ様子で同志当て馬が現れた。

「あ、水崎君。僕になにか用?」
「いや。委員長こそなにかあったんじゃないか?こんなところに呼び出されて」

 呼び出す?人も通る廊下の端ですが?

「呼び出すって、僕達はただ話していただけだよ」
「しかし…」

 同志当て馬は委員長を心配そうに見ている。さりげなく私達の間に割り込んで。
 ねぇ、あんたの中で私はどれだけ危険人物扱いなんだよ。

「…えーっとさ、よくわからないけど、たぶん吉祥院さんは水崎君の考えているような人じゃないと思うよ?吉祥院さんが僕になにかするなんてありえないし。それに吉祥院さんは僕の恋愛の師匠だからね」
「恋愛の師匠?」
「うん。初等科時代からのね。いつもいろいろアドバイスをもらってるんだ」

 委員長は照れくさそうに髪をいじった。乙女め。

「恋愛の師匠ねぇ。そのわりには浮いた話なんて聞いたことないけど」

 おいこら、同志当て馬。ケンカ売ってるのか。あんただって副村長のくせに。
 …いや、同志が女子生徒達からモテてるのは知っているけどね。でも私だって、女神とか言われてるみたいだし?

「それより委員長、好きな子がいたのか」
「ええっ!やだなぁ、水崎君、内緒にしておいてくれよ?」

 乙女、照れ照れ。
 乙女が中学2年の時に放った爆弾ポエムの衝撃は、どうやら世間ではすっかり風化しているらしい。良かったね。でも私は一生忘れないよ?

「だったら俺も協力しようか?」
「えっ本当?」

 委員長が同志の提案に乗りそうになっているので、慌てて腕を引っ張る。

「ダメよ、委員長!」
「え、なんで?」

 同志当て馬を放置して、こそこそ密談。

「ふたりの間を取り持つなんて言って協力してくれた友達を、片思いの相手が逆に好きになっちゃうなんてパターンはよくある話じゃないですか。しかも水崎君はモテ男子ですよ。ダメです。とても危険ですわ」
「確かに」
「ヘタしたら彼女から水崎君が好きなの、なんて相談を持ちかけられたりして…」
「うわぁ、最悪だそれ。でもありえそ~」
「でしょう?」

 密談終了。

「せっかくだけど水崎君、協力はいいや。僕は今まで通り吉祥院さんに相談するから」

 委員長、手を止まれポーズにしてお断り。同志当て馬はまたもや私を疑わしげな目で見る。

「本当に恋愛の話なんだな?委員長、脅かされてるなんてことはないんだな?」
「えーっ、ないよ!」

 私、そこまで悪いイメージ持たれるほど、同志当て馬になにかしたか?

「吉祥院さんからは、本当にいいアドバイスをいつももらってるんだ。恋愛成就の神社を教えてもらったりね」
「…たいしたアドバイスじゃないな、それ」
「そんなことないよ。ご利益あったし」

 えっ、ご利益ですと?!

「ちょっと、委員長。ご利益ってなんですの?」

 再び腕を掴む。こそこそ。

「修学旅行でね、一緒にパークを回れたんだ。ふたりだけじゃなくてみんな一緒にだったけど。楽しかったなぁ」

 あぁ、私がマーライオンに変身しそうになってた時か。そういえばあったな、そんなこと。いいね~、修学旅行で素敵な思い出作れて。私、なんにもなかったよ。

「まぁとにかく、吉祥院さんとは別に揉めてたわけじゃないから、水崎君が心配することはなにもないよ」
「…そうか」

 なんでそんなに私が疑われなきゃいけないのか。これは話し合う必要があるかもしれない。

「水崎君、少しお話があるのですけど」
「なんだ」

 委員長にはふたりにして欲しいと頼むと、委員長が逆に私を大丈夫?と心配したので、同志が戸惑った顔をしていた。ほら見ろ、委員長にとっては、私よりあんたの方が危険人物に思われてるんだよ!
 委員長が心配しながらもその場を去ってくれたので、私は話を切り出した。

「ねぇ水崎君。なんで私の印象がそんなに悪いのかしら。私、水崎君に何もした覚えはありませんけど」
「俺にはな」

 俺には?

「あんた中3の時、蔓花を脅しただろう。自分に逆らったら潰すって。それだけの力を自分は持ってるって。俺、それを偶然見たんだよ」

 扇子振り回したあの時かーーー!!

 あの時は放課後の廊下で、人も少なくなっていたけど皆無ってわけじゃなかったし、見てた人間が何人かいても不思議じゃない。そのひとりが同志当て馬だったのか。
 確かに、あれはイメージ悪すぎるな…。

「蔓花は自業自得な面もあった。でも俺は権力を使って他人を脅すような人間は許せない。それが学院を牛耳るピヴォワーヌのやり方だとしてもな。だから俺はあんたからほかの生徒を守るよ」

 うお~っ、私ってば物凄い悪役認定されてる。
 でもあれを見られちゃったら、それも仕方ないのかもしれないなぁ…。弁解の余地なしだよ。

「…まぁあれには事情があったのですけどね。でも理由はわかりました」
「話はそれだけか。じゃあ俺行くから」
「ええ」


 天知る地知る我知る人知る。狸に懇々と諭していたことわざが、そのまま私に跳ね返ってきた。これぞ狸ブーメラン。

 この悪印象を払拭するのは難しそうだな~。そして扇子ぺちぺちは、私の恥ずかしい過去なので、なるべく早く忘れてもらいたいんだけど…。
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