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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 遠足当日の朝の天気は快晴。しっかり食べて、いざ出発。
 毎年恒例のつらい遠足だけど、今年の私は少し違う。疲れない歩き方というのを教えてもらったのだ!
 私はいつも、少しでも前に進みたいと歩幅を大きくとっていた。しかし山登りやハイキングでは歩幅を小さくするのが疲れないコツだったのだ!
 そんなの先に教えておいてくれよ!毎年私がどれだけ苦しい思いをしていたか…。
 歩き方のコツのほかに、久々にステッパーを引っ張り出して足も鍛えてきた。もうあんなぐだぐだな私とはおさらばだ!

 まぁ結論から言えば相変わらずの後方グループだったけど、それでもハイキングコースが今までより難易度が低かったのか、わりと楽しく歩けた。小さい歩幅とステッパーも効いていたと思う。
 毎年これくらいの余裕が欲しいものだなぁ。親切な私は、ぐだぐだ仲間達にもしっかり小さい歩幅を伝授した。
 でもさ、本当は私達より軟弱で運動神経の悪い子達もいるんだよ?ただそういう子達はすぐにリタイアして、別ルートで車移動させてもらったり、麓でのんびりお茶でも飲んで待っていたりするのだ。それってちょっとずるくない?
 本当は私だってリタイアしたい!でも小心者の私はリタイアのタイミングがわからないのだ。そしていつもタイミングを見つけられないまま、ずるずると登るはめになっていた。貧血でも起こせばリタイアできるのに、歩いているぶん妙に血行が良くなっちゃって、こんな時に限って立ちくらみも起こしやしない。
 今回も何人かリタイア組がいて、優雅な車移動をしていた。その中には私達のグループの子も数人いたりするけど。たとえば私と同じピヴォワーヌメンバーである、麿眉が似合いそうな平安御公家顔の萩小路(はぎのこうじ)芙由子(ふゆこ)様とかね。
 芙由子様は私達のグループが最大派閥だから所属しているけど、ちょっと毛色が違うんだよなぁ。顔のせいもあるのかもしれないけど、浮世離れしているというか…。
 桜ちゃんは“和風”だけど、芙由子様は“和”だ。洋服より十二単が似合いそう。

「麗華様、ほら海が見えますわ」
「本当。きれいねぇ」

 おしゃべりをする余裕もある今年の私。素晴らしい。毎年これくらいの余裕があればいいんだけどなぁ。
 っていうか、遠足の行先が山にならなければそもそも問題ないんだけど。今年だってせっかく場所が鎌倉なら、銭を洗ったりわらび餅食べたりプリン食べたりしたかったよ。
 今度誰かと一緒に観光で来たいなぁ・


 ハイキングが終わって昼食のためにホテルに着くと、まず制服に着替えだ。
 あぁやっとジャージが脱げる。私はジャージが似合わない。出来れば外ではあまり着ていたくないのだ。
 身だしなみを整え昼食を食べるホールに入ると、クラスごとに席が設けられていた。メニューは海の幸がメインのコース料理。運動したあとは食事が進むわぁ。お、この鎌倉野菜の冷製スープおいしい。
 しかしふと見ると外部生達は食事そっちのけで、頭を寄せ合っている。そうか、これから余興をしないといけないから、それどころじゃないのか。本当に大変だ。

 メイン料理が終わった頃から、1組からの余興が始まった。
 やはり定番の合唱だったけど、トップバッターだったのもあり、少し声が震えていた。そりゃそうだろうな。私、心の底から外部生じゃなくて良かったよ…。
 その後は合奏や手品もあった。私達のクラスの子達もピアノのほかにタンバリンなどを持って、頑張って歌っていた。練習した甲斐もあり、身内びいきじゃないけど上手だったと思うよ。
 合奏組ではひとり、髪を振り乱しながらバイオリンを演奏していた男子がいたけど、彼は入学する学校を間違えたのではないかしら?
 そして若葉ちゃんのクラスの番がやってきた。

 若葉ちゃんのクラスは、江の島に伝わる伝説『天女と五頭龍』の寸劇をやった。
 この話は、昔、鎌倉の湖に棲む五つの頭を持つ恐ろしい龍が、天変地異を引き起こし、子供達を生贄に取り、村人達を苦しめていたが、ある時天女が舞い降りて、そのあまりの美しさに龍が求婚をすると、悪行を重ねる龍に嫁ぐことはできないと断られ、改心して善龍になるという内容だ。
 五頭龍役の男子は龍のお面を被り、黒の布を体に巻いて龍を演出。天女役の女子も頭に冠を被って白い布を纏ってそれらしくしていた。ほかの生徒もナレーションや村人や子供の役をやっていた。
 若葉ちゃんは長い棒に括りつけられた青い布を動かしての、海の役だった。
「ざざーん、ざざーん」と若葉ちゃんは、荒れ狂う海、凪いだ海を青い布を動かして熱演していた。
 ……いや、若葉ちゃん、素晴らしいよ、輝いてるよ。誰も見ていないのに、パタパタパタパタと布を細かく動かし続けるその生真面目さ。時々疲れた腕を片方ずつ下ろして振りつつも、最後まで海役をやり通した若葉ちゃん、さすがだよ。
 もしかして若葉ちゃん、すでに苛められてるのかな?って勘繰っちゃったけど、江の島役の子もいたから、ただの私の杞憂のようだ。島よりは海のほうが、まだいいよね?

 私達のクラスの外部生達が、余興が終わると私と佐富君の元にお礼にやってきた。

「いろいろ助けてもらってありがとうございました」
「ありがとうございました、麗華様」

 私は場所を確保してあげたくらいだけど、佐富君は一緒に練習に参加して、タンバリンやマラカスも借りられるから使った方がいいなどのアドバイスをしてあげていたらしい。佐富君は面倒見がいいんだな。

「とても上手でしたわ。練習の成果が出ていましたわね」

 外部生達は嬉しそうな顔をしていた。今回のことで、彼らには仲間意識が芽生えたようだ。でもあまり外部生達だけでくっついてるのは良くないので、程々にね。

 今年の余興大賞は寸劇をやった若葉ちゃんのクラスだった。
 賞品に全員分の学食の食事券が贈られた。若葉ちゃんは目を輝かせていた。うちの学食は高いから、庶民にはなかなか手が出ないもんね。良かったね。若葉ちゃんにおすすめメニューを教えてあげたいなぁ。

 この余興以来、私は生駒(いこま)さんというひとりの外部生の子とも仲良くなれた。
 友達ひとりゲット?
 ただ生駒さんは、私のことを妙に憧れの目で見てくるのがちょっと困る。頭の中で勝手なイメージを作り上げないでねー。
 キラキラした目で尊敬してくれる生駒さん。小心者の私は、生駒さんの期待を裏切らない為に、彼女の前ではなるべくボロを出さないように心がけようと思った。
 生駒さん、そんなに私のこの髪型が気に入ったのなら、貴女も一緒に巻いてみませんか?
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