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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 今年の遠足は鎌倉だ。
 場所を聞いて、とうとう都会だ!山登りとはおさらばだ!と喜んだのもつかの間、やっぱりハイキングだった。鎌倉にもハイキングコースなんてあったのね…。
 しかしまぁ、それは多少は覚悟していたからいい。問題は昼食だ。
 午前中いっぱいかけてハイキングをした後は、鎌倉のホテルに戻って宴会場を貸し切っての学年全員での昼食会だ。海の幸をふんだんに使った料理が出るらしい。それはいい。問題はそのあとだ。
 その昼食時に、外部生がクラスごとに余興をやるのが瑞鸞高等科の毎年の恒例なのだ。一種の洗礼みたいなものだね。
 しかし余興!約300人の前でやる余興って、どんだけきつい罰ゲームだよ。
 余興の話を聞いて、私のクラスの外部生達は真っ青になった。そりゃそうだろうなぁ。
 過去の余興例をリサーチしてきたところ、ほとんどが合唱や合奏、、時々ダンスや手品、変わったものだと全員で和歌や俳句を詠むといったものがあったらしい。
 その話を聞いてから、外部生達は休み時間のたびに固まって話し合いをしている。まずはなにをするかを決めるところからだもんね。

「適当に歌を歌って終わりでいいんじゃない?」
「何を歌うの?この人数で大勢いるホールに響き渡るほどの歌声が出るかしら」
「手品こそ見えないのでは?」

 う~ん、あまり決まっていなさそう。
 クラス委員である私と佐富君は、彼らに声をかけた。

「どうかしら?何をやるか決まりまして?」

 外部生達は困った顔で首を横にふった。

「毎年、ほとんどの方々が歌や楽器演奏のようですよ」
「合奏は遠足に楽器を持っていくのが大変で…」
「ピアノとギターくらいは貸していただけるそうだけど。あとはマイクもあるし、スクリーンもあるから、手品のような細かいことも出来るみたいですわ」
「そうなんですか!」

 選択肢が広がったようだ。

「ちなみに今までで一番盛り上がった余興ってなんですか?」
「私が聞いた話では、声楽に自信のある生徒が熱唱した“誰も寝てはならぬ”だそうよ。瑞鸞の三大テノールと呼ばれて拍手喝采だったとか。あまりの評判に、その後の年からミニオペラをやる方々も増えたんですって」
「オペラ…」
「三大テノール…。でも独唱の場合、ほかの生徒達はどうしてたんですか?」
「照明や音響係をやったみたい」
「全員でやらなくても、ひとりが芸を披露するというパターンでもいいんですね」
「でもそれで、誰か一人に押し付けるようなことになるのは良くないので、基本は全員ですわね。その中に一芸に秀でた方がいらっしゃる場合のみということだわ」
「一芸…」

 外部生達は顔を見合わせた。どうやらこのクラスの外部生には、残念ながらそういった芸達者な生徒はいないようだ。全員が少しがっかりとした顔をしていた。

「ダンスも人気らしいけど、ハイキングの疲れがどれくらい残っているかで、出来が変わるらしいよ」

 佐富君もアドバイスをした。
 確かにな~。私だったら散々歩いた後にコサックダンスなんて踊れない。

「ダンスといっても本格的なものから、ピアノの伴奏に合わせてワルツを踊るようなものまで、いろいろあるけど」
「俺、ワルツなんて踊ったことない……」
「俺も…。ダンスなんて精々フォークダンスくらいしか…」

 フォークダンスか。余興でオクラホマミキサーとか、ちょっと笑っちゃうかも。あ、マイムマイムのほうが盛り上がるかもよ?
 全員一致でフォークダンスは却下になった。
 そして散々悩んだ結果、無難な合唱に決定した。


 さっそく放課後を使っての練習になったが、ほかのクラスも考えることはほとんど同じなので、ピアノの奪い合いだ。合唱にしろ合奏にしろ、ピアノはなにかと重宝するね。
 高等科の音楽室だけでは足りないので、私は学院に掛け合って中等科の音楽室の使用許可をもらってきた。

「凄いですね。中等科の音楽室まで借りてこられるなんて。あの、それもやっぱりピヴォワーヌの力、なのでしょうか?」

 外部生の女子が遠慮がちに聞いてきた。
 うーん、どうだろうなぁ。ただ私は先生方に、この私にクラス委員を引き受けさせたんだから、これくらい融通してくれますよねぇ?という空気を出して、お願いしただけだ。うん、あくまでもお願いだ。

「学院が生徒達に協力的だったってことじゃないかしら?」

 私はにっこり微笑んだ。
 そんな疑わしい目で見ないで~。

 合唱曲は、私はゴスペルを推したんだけど「声量がないので無理です…」と断られてしまった。そうかな~、瑞鸞の三大テノールの例もあるし、頑張れば出せるんじゃない?きっと受けると思ったんだけど。
 結局、これまた無難な曲目に決まってしまった。まぁ私も好きな曲だからいいけど。
 外部生達に音楽室の鍵の管理をしっかりお願いして、私はピヴォワーヌのサロンに向かった。一応帰る時にもう一度様子を見に行っておこう。
 そしてその途中の廊下で、桂木少年に出会った。

「あっ!なんでお前が中等科にいるんだよ!」

 私は廊下の前後左右を確認した。ふむ、誰もいないな。よし。

「痛ってーっ!」

 私は先輩への口の利き方のなっていない後輩を、梅干しの刑に処した。
 手加減なしで思いっきりやったから、さぞや痛かったであろう。身長が同じくらいなので、すぐに引き剥がされてしまったが。

「なにすんだ!この暴力女!」
「先輩に対してその口の利き方はなんですの?可哀想に、少しおつむが悪くていらっしゃるのね。では今日から貴方のことを鳥男君と呼びましょう。アホウドリの鳥男君です」
「ふざけんな!」
「あら、お気に召しません?では礼儀をきちんと身に着けたら、人間に昇格させてあげますわ。それではごきげんよう、鳥男君」

 ホッホッホッと笑ってそのまま行き過ぎようとしたら、アホウドリの鳥男君が「円城さんはお前なんか相手にしないんだからな!」という、すっとぼけたことを叫んだので、引き返した。

「な、なんだよ」

 鳥男が上半身のガードを固めたので、私は脛を蹴った。

「痛ってーー!!」

 そうだろう、痛いだろう。弁慶すら泣くくらいだからな。

「本当に頭の悪い鳥ですわねぇ。心配しなくても、私は円城様になんの感情も抱いておりませんわ。貴方の恋の邪魔はいたしませんよ。同性愛は世間ではまだまだ理解されにくいようですが、まぁ想うのは自由ですからね。精々お頑張りあそばせ」
「ち、違っ」

 おほほほほ、聞こえませーん。
 私はそのまま残念なおつむの後輩を放置してその場を去った。


 その後各クラスでも、連日外部生達が余興の練習に励んでいた。
 一度廊下で、若葉ちゃんが妙な布をかぶって走る姿を目撃したけど、えっ、まさかの仮装大賞?!
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