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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 とうとうこの日がやってきた。
 本当に主人公はこの学院にやってくるのだろうか。
 ドキドキする。これからの3年間で私の人生が決まるんだ。頑張るぞ!


 高等科の入学式は、散りかけの桜が舞い散る4月のある晴れた日に行われた。
 講堂の中をきょろきょろと見回してみたけど、それらしき姿はない。
 高等科からの外部生は約100人程度入ってくるので、ここで見つけるのは難しそうだ。
 おとなしく式典に臨む。
 在校生代表の挨拶は、高等科でも生徒会長の友柄先輩だ。しばらく見ない間に物凄く大人っぽくなったなぁ。笑いながらお菓子食べていた中学生の時とは全然違う。
 やっぱりかっこいいなぁなどと考えていたら、次の新入生代表の挨拶に鏑木が立った。
 鏑木が壇上に上がると、式場が一瞬ざわっとした。確かに鏑木は目鼻立ちの整った見惚れるほどの顔貌だから、驚くのもしかたがない。黒髪で少しきつめの冷たいその顔は、まるでしなやかな黒豹みたいだ。内部生はともかく、耐性のない外部生には衝撃だろう。
 こういう時の鏑木のカリスマオーラというのは、確かに凄い。これだけの注目を集めながらもその視線をはねかえし、全く緊張も動揺も見せない堂々とした立ち振る舞いは、私も思わず尊敬してしまう。でも中身は騎馬戦馬鹿なんだけどねー。
 そんな鏑木ショックもあった入学式が終わり、渡されたクラス表を見ながら教室へ移動する。
 最初に自分の名前を確認したあとは、もちろん彼女の名前を探す。私のクラスにはいないな。1組から順番に見ていく。えーっと…、あった!

 高道若葉(たかみちわかば)

 ……本当にいた。
 若葉ちゃん。『君は僕のdolce』の主人公で、皇帝と紆余曲折の末に結ばれるヒロイン。この先の私の人生を左右する重要な女の子。
 どこにいる?見たい。若葉ちゃんの姿を確認したい。
 しかし新入生は速やかに教室に移動しなければいけないので、ほかのクラスに行く余裕はない。
 しょうがない、これから確認するチャンスはいくらでもあるんだから。今は諦めよう。
 私は自分のクラスにおとなしく向かった。

 新しいクラスでは、緊張した顔をしてひとりで席に座っている外部生達と、仲の良い子達で集まって同じクラスになれた喜びにはしゃぐ内部生達にくっきり分かれていた。

「あっ、麗華様!」
「麗華様ごきげんよう。同じクラスになれましたわね!」

 私は同じグループの子達を中心とした、女子の輪に迎え入れられた。

「ごきげんよう、みなさん。同じクラスになれて良かったわ。1年間どうぞよろしくね」
「ごきげんよう、麗華様。私も麗華様と同じクラスで安心しましたわ」
「麗華様、ごきげんよう」

 みんなと笑顔で挨拶をする。数人の外部生がこちらをちらちら見ていた。その中にはどこかで見た覚えのある顔もあったので、たぶん上流階級に所属する人間だろう。特待生枠はそれほど大きくはないので、それ以外の外部生は上流階級とは言えなくても、瑞鸞の学費を支払うことのできる程度の家の子達だ。本物の庶民は案外少ない。そして若葉ちゃんはその少ない庶民のひとりだ。
 今頃若葉ちゃん、カルチャーショックを受けているだろうなぁ。今まで通っていた公立学校とのあまりの差に。私も初等科に入った時に驚いたもんね。でもこれから学内の施設を案内されたらさらにショックを受けるだろうな。


 教室に新しい担任が入ってきて全員が席に着くと、自己紹介が始まった。

「吉祥院麗華です。みなさま1年間よろしくお願いいたしますね」

 私の番が回ってきたので無難な挨拶をして終わらせようとしたら、何人かが拍手をした。
 ちょっ、やめてよ!
 拍手をした子達に悪気は全くないのはわかっているけど、それはない!
 ほら、外部生がぎょっとした顔してるし!こいつはやばいって顔してるし!
 やばくないよ~。私そんなに怖い子じゃないよ~。要注意人物じゃないよ~。
 その後は先生からクラス委員の指名があった。女子は薄々覚悟はしていたけどやっぱり私だった。え~っ、今年こそピヴォワーヌらしく雑用とは縁のない生活をしたかったのに。
 クラス委員を出来そうな女子はほかにもいたのでお断りしちゃおうと思ったけど、先生の断らないよね、やってくれるよねという目に押し切られて、結局引き受けてしまった。うえ~、大変そう。
 一緒にクラス委員をやるのは、中等科から瑞鸞に入学してきた男子だった。
 それ以外の各委員会や係を決めたり校内の案内は明日のHR以降ということで、今日はこれで解散となった。


 結局今日は若葉ちゃんの姿を見ることは出来なかったな。
 マンガの若葉ちゃんは元気な女の子だったけど、本物はどんな子なんだろう。
 しかし若葉ちゃんが本当に入学してきたということは、もはや一刻の猶予もならない。
 私は家に帰るとお父様に「不正、よくない」と繰り返し諭した。お父様は言っている意味がわからないととぼけていたけど、お願いだから本当のことを言って。
 今の私に鏑木と若葉ちゃんの恋を邪魔する気は毛頭ないけど、お父様が不正を働いていたら、ほかの誰かに告発されるかもしれないじゃないか。
 あぁお父様じゃ埒が明かない。お兄様にもしっかり言っておかないと!



 次の日は朝から委員会や係を決めることから始まった。
 そういえば去年、小坊主が「円城君は学院に慣れない外部生に、委員会や係を勧めてあげたんだよ」とか言ってたな。それを真似してみようか。
 でもいきなりやらせるのは酷かな。準委員的なお手伝いとして参加させたほうがいいのかな。
 とりあえず「今年から瑞鸞に入学した方も、ぜひ積極的に立候補してくださいね」と水を向けてみた。
 それでもなかなか手を挙げる外部生はいなかった。う~ん、しょうがないか。
 結局は内部生を中心に決まってしまったけど、これから少しずつ参加してもらおう。

 その後は学院内の案内だ。先生を先頭にクラス委員が続き、その後ろにクラスメートが並んだ。
 高等科の校舎は人数が増えたぶん中等科よりも広くて設備も増えていたけど、大体は似たようなつくりだった。おかげで私達内部生は割とリラックスして見学していたけど、外部生の子達はひとつひとつに驚いて戸惑っていた。まぁそうだろうな。
 次に行ったのは食堂だった。ここも中等科よりも広いな。メニューは中等科より増えているのかしら?
 あ!そういえばこの食堂で、若葉ちゃんがピヴォワーヌ専用席に座ろうとしてトラブルになったんだ。どうしよう、今ここで外部生達にも注意しておいたほうがいいのかな。でもそれにはまず、ピヴォワーヌの説明からしないといけないし、私が大っぴらにピヴォワーヌの特権を言うのもな。後で誰かにこっそり言ってもらおうか。
 中等科の時はどうだったんだっけ。いつの間にか外部生の間でも暗黙の了解みたいになってたけど。

 それからもいろいろと回り、そろそろ校内見学も終わりに差し掛かった頃、やってきたのは生徒会室だった。

「おー、今度は吉祥院さんのクラスかぁ。どうぞ、入って」

 部屋の中には生徒会長の友柄先輩をはじめ役員の方々が待っていて、ひとりひとり自己紹介をしてくれた。

「吉祥院さん、ピヴォワーヌなのにまたクラス委員やってるの?もういっそ生徒会に入っちゃいなよ」

 そう言って友柄先輩は快活に笑った。

「私などとても無理ですわ」
「だよね、ピヴォワーヌだもんね。あぁ、外部組の子達、ピヴォワーヌっていうのは瑞鸞で特別待遇されているグループのことね。細かいことは内部組に聞いてみて。ちなみにこの吉祥院さんが付けている赤い花のバッチがメンバーの証だから、このバッチ付けている人間には注意するようにね」

 友柄先輩、説明してくれたのはいいけど、その言い方だとまるで私に注意するようにって言ってるようにも聞こえますけど?!
 友柄先輩の彼女だってピヴォワーヌじゃないですか。香澄様に言いつけちゃうぞ。
 ほら、益々私を見る外部生の目が怯えたようになっちゃったじゃないか…。

「学院内で困ったことがあったら、生徒会になんでも言って。でも君たちのクラスには吉祥院さんがいるから平気かな。彼女は面倒見がいいからね。わからないことは吉祥院さんに聞くといいよ。この子凄くいい子だから」

 きゃう~んっ!友柄せんぱーい!やっぱり大好きですぅっ!


 素敵な素敵な友柄先輩達とお別れして廊下を歩いていると、別のクラスの集団が向こうからやってきた。
 ──その時私の横を、確かに見覚えのある顔が通り過ぎた。

 若葉ちゃん!

 初めて見た若葉ちゃんは、私の知っている若葉ちゃんそのものだった。
 相変わらず、髪がちょっとはねてた。好奇心いっぱいの目をしていた。あの子は確かに本物の若葉ちゃんだ。
 うわーっ、なんか感動。
 その後何度も振り返って若葉ちゃんの後ろ姿を見ていたら、隣を歩いていた新委員長に心配されてしまった。おっと入学早々失敗、失敗。私、不審者じゃないよ~。



 昨日は若葉ちゃんの名前だけだったけど、今日本人を見たらにわかに実感が湧いてきた。
 私はもう一度お父様に「天罰覿面」という四字熟語の意味を懇々と説いた。
 やはり後ろ暗いところがあるのか、お父様が書斎に閉じこもってしまったので、駄目押しで書斎の前で「お天道様はお見通しですよー」と言っていたら、帰ってきたお兄様に無言でリビングに連行され、「2年間経営にも携わってきてそんな事実はなかったから、変な心配はしなくていい」と怒られてしまった。
 本当ですか、お兄様。信じていいんですね?
「娘にあらぬ疑いをかけられて、お父さんは落ち込んでいる」とお兄様に言われてしまったので、お父様に悪いことをしたなと少し反省した。
 わかりました。お父様を、お兄様の言葉を信じることにしましょう。家族ですからね。


 ……でもやっぱり一応時々は、お父様にお天道様=私が見ているんだぞということを教えてあげようかな。ほら、念のためにね。
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