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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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70 委員長 / 小坊主

 吉祥院さんとは初等科の5年生の時に、初めて同じクラスになった。
 女子の中でも特に目立つ子なので、クラスが違っても存在はよく知っていた。
 あのピヴォワーヌのメンバーで吉祥院家のご令嬢。お姫様みたいな髪型をして、きれいだけど少し怖くて近寄りがたい。第一印象はそんな感じだった。周りを固めている友達がいると、さらに迫力が増すし。
 そんな吉祥院さんと、なぜか6年生の時に学級委員を一緒にやることになってしまった。
 普通はピヴォワーヌの人が委員なんて滅多にやらないんだけど。しかもあの吉祥院さんなのに。
 でも確か、5年の時には運動会の実行委員をやってたっけ。あの時も意外だと思ったな。
 吉祥院さんと一緒にやる学級委員は最初少し不安だった。吉祥院さんのグループは、鏑木君と円城君以外の男子への当たりがきついし。
 でも予想に反して吉祥院さんはしっかりと副委員長の仕事をこなしてくれた。特に女子を纏める力が絶大なので、なにかとスムーズだ。
 普段提出物をすぐ忘れる男子生徒も、吉祥院さんが出てくると慌てて次の日に持ってきてくれる。凄い。別に脅してるわけじゃないのに、あの無言のプレッシャー。
 思わず御大登場と声を掛けたくなった。

 そんな吉祥院さんだけど、用事があって声をかけると割と普通に話してくれた。
 あの外見だし、言葉遣いも典型的な瑞鸞お嬢様だけど、しゃべると案外気さく?
 雑用も頼むとほいほい平気でやってくれる。もしかして断れないタイプ?
 本当は去年と同じように本田さんと委員をやりたかったんだけど、修学旅行のある今年は、吉祥院さんが副委員長で良かったのかもしれないな。

 本田さん。本田美波留さんは僕の好きな人だ。
 去年一緒に学級委員をやった時から好きになったんだけど、勇気がなくてなかなか話しかけられない。
 修学旅行で行った縁結び神社のおみくじでは大吉だったんだけどな。
 吉祥院さんなら相談に乗ってくれるだろうか。卒業の記念にサイン帳にもメッセージを書いてもらいたいんだけど。
 そんな話を吉祥院さんにしたら、快く引き受けてくれた。
 それ以来、僕は吉祥院さんにたびたび恋の相談をするようになった。


 中等科に進学して僕はまた吉祥院さんと同じクラスになった。そしてまた一緒にクラス委員をやることになった。
 今はもう吉祥院さんへの苦手意識は全くないので、平気でいろいろ話せる。相変わらず見た目は近寄りがたいけど。
 ただ良く見ていると、時々イメージが崩れる瞬間があるんだ。
 ある時、昼休みに吉祥院さん達が中庭を歩いていた。僕は偶然そこに通りかかったんだけど、その瞬間、吉祥院さんの頭に鳩の糞が直撃した!

「きゃあっ、麗華様!」
「麗華様に鳩の糞が!」

 周りの子達が「すぐに保健室に!」「大丈夫、すぐに落ちますわ。気を確かに!」と、呆然とする吉祥院さんを隠すようにすぐに運び去って行った。
 あれだけ何人もいたのに、吉祥院さんにだけ直撃するって…。
 ちらっと見えた吉祥院さんの半分白目をむいた顔が忘れらない。
 そういえば初等科の修学旅行でも鹿に囲まれていたな。動物と縁があるのかもしれない。
 その日、吉祥院さんは早退した。


 そんな吉祥院さんが恋をした。
 相手は3年の生徒会長だ。本人は隠しているつもりみたいだけど、僕にはすぐにわかった。
 だって生徒会への用事は僕が頼まれたものでも、横から奪い取って行くんだもん。
 生徒会室から戻ってくる時は、ひとりでブツブツ呟きながら笑っているし。
 ダメだ、吉祥院さん!その姿を誰かに見られたら、変な人だと思われちゃうよ!
 僕は「吉祥院さん、なにか良いことでもあった?なんだか楽しそうだから」と遠回しに教えてあげた。吉祥院さんは「あらやだ」と両手で顔を押さえていた。それからは独り言もひとり笑いもしていなさそうだ。良かった。
 でも生徒会長かぁ。ああいうカリスマタイプが好きなのかな。

 吉祥院さんの恋はなかなか上手くいっていないようだ。僕も本田さんと全然進展していないから、気持ちはよくわかるよ!
 そうしたら、吉祥院さんから東京にある縁結びの神社を教えてもらった。
 男がひとりで行くのは恥ずかしいけど、せっかく吉祥院さんが教えてくれたから、行ってみることにした。

「吉祥院さん、行ってきたよ。おみくじも引いたんだ」
「あら、そうですの。で、おみくじの結果は?」
「うん、残念ながら中吉だった」
「へー…」
「吉祥院さんも引いたんだよね。どうだった?」
「……吉、でしたわね」
「あ、そうなんだ。それは残念だったね」
「……」

 吉だからそんな変な顔してるのかな?そりゃあ、あまり良い結果とは言えないけど。
 吉祥院さんはチッとこっそり舌打ちをしていた。女の子がそんなことしたら良くないよ。


 しばらくすると吉祥院さんの生徒会詣でがピタリとなくなった。あれ?おかしいなと思って、「最近、生徒会室に行かないね」と聞いてみたら、鬼気迫る顔で「知っていますか、委員長。初恋というのは実らないんですよ~。実らないんですよ~、委員長」と、呪いをかけるように僕に迫ってきた。怖いよ、吉祥院さん!
 吉祥院さんは去り際にくるりと振り向き、にやりと笑った。
 悪霊退散!
 僕は家に帰って、その日から本田さんにむけた詩を書き始めた。僕の詩で、悪い気を祓ってみせる!


 そんな吉祥院さんだけど、毎年秋になると必ず「月見の季節ですね~」と物思いにふける。
 さすがは腐っても吉祥院麗華。風流なんだな。
 ちょっと変わったところもある人だけど、時々カップルを恨みがましい目で見てる人だけど、お人好しでたまに間抜けな吉祥院さんのことが僕は結構好きだ。

 でも彼もよく吉祥院さんを観察してるよな。鳩の糞事件の時も見ていて、口元が笑ってたし。


♦♢♦♢♦


 円城君は僕の憧れだ。
 笑顔でさらりとすべてをこなし、必死で勉強しているように見えないのに、成績は常にトップクラス。
 鏑木君の絶対王者のカリスマ性よりも、円城君の優しい雰囲気のほうが僕は好きだな。
 鏑木君は黙っているだけで周りの人間を従わせる空気を持っている。勉強もスポーツも出来て、家柄も財力も申し分ない、完璧な人。時々、黙って窓の外を見ている姿なんて、僕達よりずっと大人に見える。そこが僕には怖くて近寄りにくいんだけど。
 その点円城君は誰とでも笑顔で話してくれるので、近寄りやすい。


 僕が1年の時、円城君と同じクラスになった。僕はクラス委員長になって内部生と外部生の溝や、円城君目当ての女子達に四苦八苦していた。
 その時、「大丈夫?」とフォローしてくれたのが円城君だ。円城君を好きな女子達が騒ぎすぎると、傷つけないように優しく注意したり、外部生にも早く学院に馴染むようにと、委員会や係を勧めてあげてたりした。
 あのさりげない心遣い!僕と一緒にクラス委員をやっていた本田さんもうっとりしていた。


 その円城君が、3年になってあの鏑木君と同じクラスのクラス委員をやることに不安を覚えていた僕に、吉祥院さんを副にするよう薦めてくれた。
 吉祥院さんといえば、女子の鏑木君ともいえる人じゃないか!
 いつも女子の友人達に囲まれて、静かに微笑んでいる、敵に回しちゃいけない女子ナンバーワンだ。
 鏑木君が皇帝なら、吉祥院さんは女帝だ。怖すぎる。
 しかしそんな吉祥院さんが副委員長をやってくれることになった。さすがだ、円城君。あの吉祥院さんを説得できるなんて。
 怖いと思っていた吉祥院さんは思ってたよりは話しやすい人だった。でもやっぱり少し緊張するけどね。特に後ろにいる女子達の圧力が…。


 その女帝吉祥院さんに反旗を翻す集団が現れた。蔓花さん達だ。
 ふたつのグループは火花を散らしあっていたが、当の吉祥院さんは余裕の笑みを浮かべているだけで、まるで相手にしない。
 たまに副委員長として注意をするけど、言う事を聞かない蔓花さん達に「だったらいいわ」とすぐに引いてしまう。
 僕としてはもっとしっかり注意すればいいのにと思ったけど。でもあの吉祥院さんのことだ。なにか考えがあるのかもしれない。
 ふたつの女子グループの対立で、教室には殺伐とした空気が流れていた。それを気にもしていなさそうなのは、鏑木君と吉祥院さんくらいだ。さすがだなぁ。格が違う。
 でもいつかなにかが起きる予感がしていた。なぜなら吉祥院さんの目が笑っていなかったから。


 そしてその日は突然やってきた。
 朝から扇子を持った吉祥院さんは迫力満点だった。なんか内側から得体のしれないオーラが滲み出ていた。
 放課後、吉祥院さんは微笑みながら、ゆっくりと側近達を従え教室を出て行った。
 残っていたクラスメート達は「とうとう山が動くか!?」「女神カーリーの降臨だ!」などと興奮して騒いでいた。
 でも怖いので野次馬に行く勇気はみんななかった。
 次の日、蔓花さん達は教室に来なかった。ほかのクラスの友達に聞いても、蔓花グループが妙におとなしいと言っていた。
 どうやら決着は吉祥院さんの圧勝だったらしい。
 それをこっそり見ていた勇者が、「女王様が怒りの鉄槌をくだした。女王様には絶対逆らっちゃいけない!」と震えながら教えてくれた。
 そしてあの女子に冷たい鏑木君が、吉祥院さんに親しげに頭をコツンとしたと、女子達は大騒ぎだ。しかも円城君とも仲がいいなんて!
 やっぱり僕らとは世界が違うし、敵に回したら1番怖い人なんだ。
 5組のクラス委員長にその話をしたら、「あの人はただの面白い人だよ」と言っていたけど…。
 円城君も「吉祥院さんは楽しい人だ」と言っていたし、僕も先入観を捨てて見たほうがいいのかな。


 でも面白いところなんて特になかった。
 修学旅行で誰もが一口でギブアップした青いケーキを笑顔で完食し、その後最終日までずっと具合が悪そうだったり、夢の国のアトラクションでなぜかひとりだけずぶ濡れになって友達に励まされていたりしていたくらいだ。
 あ、一度ホテルの廊下で片足立ちをしていたから、どうしたのか聞いたら「ヨガの立木のポーズです」と言われた。女神カーリーだからヨガなのかな?
「ホタルのポーズやワシのポーズもお薦めですよ。どうですご一緒に」と言われたけど、丁重にお断りした。
 立木のポーズの吉祥院さんは、同室の風見さんに発見され、すぐに部屋に連れ戻されていた。

 やっぱり吉祥院さんのような凄い人は、僕ら凡人には理解できないのかもしれない。

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