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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 鏑木のファンの女の子達は授業妨害をしたり、あきらかな迷惑行為まではしない。ただ休み時間などに教室にきて騒ぐだけだ。これは去年の円城と同じ。
 ただ鏑木は円城よりも怒りの沸点が低いので、そこを見極めながらアイドルを鑑賞するように騒いでいる。
 一見、休み時間にうるさいだけなので、それを我慢すれば平和に過ごせそうなのだけど、教室の人口密度が増えるぶん、自分の座席を勝手に使われたりして不自由する子達が出てきたりしているのだ。自分の席に戻りたくても戻れない気弱な生徒達が迷惑を蒙っている。
 困った。いちいち注意していたら、物凄く口うるさい人間になるし、見て見ぬフリをするのもクラス委員として良くないし。
 去年の円城はどうだったかなぁ。私はクラス委員じゃなかったから他の生徒のことは、実はあまり気にしていなかったな。
 それに時々円城が、あまり教室に押し掛けないようにやんわり注意していたし。
 1学期の頃は本当にうるさかったけど、しばらくすると慣れもあったのかもしれないけど、それなりに調和が取れていた気がする。
 でも、あの鏑木はそんなファン管理なんて絶対しないな。
 小坊主の訴えかけるような目がつらい。無理だってば。
 だって、鏑木ファンの中には蔓花さんがいるんだから。私が言うと、角が立ちすぎるんだよ。
 あぁ、被害者生徒からの無言の訴えが…。
 しょうがない。

「蔓花さん、お話し中ごめんなさいね。その席の子が戻れないようだから、どいてくださる?」
「…ふーん。この席って誰の席かしらぁ?」

 蔓花さんが挑戦的な目で教室をぐるりと見回す。
 席の持ち主の子が目を泳がせた。

「ねぇ、この席、座っててもいい?それとも使う?」
「あ…どうぞ。私はまだ戻らないので…」

 げっ!梯子外された!
 そりゃないでしょう。貴女が無言の訴えをしてきたから、嫌々ながらも言いに来たのに。

「ですって。これでいいかしら?吉祥院さん?」

 蔓花さんがくすりと笑った。
 むかっ。でも被害者がいないんじゃ、これ以上言い返せない。

「そう。本人がそうおっしゃるなら私はかまわないわ。お邪魔してごめんなさいね」
「大変ね~、学級委員さんは」

 引き攣りそうな顔をなんとかごまかし、あくまでも余裕の笑みで退散する。
 くそぉっ、負けた!
 芹香ちゃん達が不満気な顔で出迎える。ごめんね、小心者で!
 いけない。このままじゃ蔓花さん達のグループとの派閥対決どころか、私がこのグループで下剋上されてしまうかもしれない。
 なにもかも、鏑木のせいだ!あいつがちゃんとしないから!って完全に言いがかりだけど!
 鏑木はそんな女子達の騒ぎなど全く意に介さず、男子達とスポーツの話題に興じていた。
 ひとの苦労も知らないで…。どうか神様、あいつの頭に鳩の糞が落ちますように。
 教室にパイプ椅子を用意して、テレビの観覧者席のように鏑木観覧コーナーでも作ろうかな。



 近頃の私は、コンビニで買うおやつはなるべく甘いものを避けるようにしている。
 吹き出物や太るのが怖いので。
 そのかわり、おにぎりやサンドイッチに手が伸びる。これならお菓子より栄養があって体にも悪くないしね。ただ日持ちしないのが難点。
 平日は送迎があるので毎日買うことは出来ないけど、休日や塾の合間にこっそり買って帰る。
 今時のコンビニおにぎりは、変わり種も多いな。でも私はやっぱり焼き鮭が一番だな。
 家に帰ったら面倒くさい学院のことは一切忘れるために、私は最近どうでもいいことに没頭することにしている。完全なる現実逃避だと自覚している…。
 そして今日は、コンビニおにぎりのランク付けだ。
 私としては1位焼き鮭、2位とり五目、3位明太子ってところかなぁ。あ、この前食べたオムライスってのもおいしかった。
 もぐもぐとおにぎりを食べながらそんなことをやっていたら、桜ちゃんから電話があった。

「桜ちゃん、どうしたの?突然電話なんて」
「ちょっと聞きたいことがあって。麗華、今なにか食べてる?」
「フォンダンショコラを食べてましたわ」
「夜そんなもの食べてたら太るわよ」
「…気を付けます。ところで用事はなに?」
「そうよ!匠にバレンタインのチョコを渡してた子がいたのよ!」

 バレンタイン?ずいぶん前の話だな。

「いまさらバレンタインの話なの?それで相手は誰?」
「だって今日発覚したんだもの。匠のお姉さんから聞いたの。相手は陸上部の後輩だって。麗華知ってる?」

 名前を言われたけど知らなかった。

「義理チョコじゃないかしら?」
「麗華、匠を見くびっているわね」

 いやいや、そんな。秋澤君は初等科時代はリスみたいに可愛い顔をしていたけど、中等科に上がってからは陸上部で毎日練習しているせいか、精悍になってきたと思っておりますよ。

「どんな子か調べてきて」
「う~ん。顔見てくるくらいなら。でも私も今、いろいろ大変ですし」
「なにが大変なの?」

 私はクラス委員の苦労を桜ちゃんに愚痴った。

「麗華がおとなしくしているから、嘗められているんじゃないの?ガツンと言ってやりなさいよ。それか皇帝に直訴するか」
「ええ~っ、どっちも出来ないわよ~」
「じゃあ諦めなさい」
「うっ…」

 今のところはそれほどの被害でもないし、直接対決は避けたいなぁ。

「麗華はストレスが溜まると食に逃げるから気を付けなさいよ。ヨガでもやったら?私今、家でヨガをやってるの」
「ヨガねぇ」

 ヨガってインド人がアクロバティックがポーズしているイメージしかないんだけど。

「ヨガは心を安定させる効果もあるのよ」

 え、桜ちゃん全然心安定してないじゃん。でも怖いから言わない。
 桜ちゃんお奨めのヨガDVDを教えてもらったので、とりあえず今度やってみることにする。ちょうどフラフープにも飽きてきたところだったし。
 第3の目が開くかも?


 次の日、桜ちゃんの指令通り秋澤君の陸上部の後輩とやらを見に行った。
 廊下から教室を覗いて観察した限り、小麦色の活発そうな子だった。和風美少女の桜ちゃんとは正反対のタイプだな。さて、見に来たのはいいけど、このあとどうすればいいんだ?

「麗華さん、ここでなにしているの?」

 突然後ろから声をかけられてびっくりして振り向くと、璃々奈が立っていた。

「璃々奈こそなにしているの?」
「なにってここは私のクラスですもの。もしかして私に用事でも?」

 ここって璃々奈のクラスだったのか。だったらあの子とも同じクラスってことか。

「ねぇ。あの鳥海(とりうみ)さんて子、どんな子かしら」
「どうして麗華さんがそんなことを?」
「ちょっとね」
「体育委員をやっているような、元気が取り柄みたいな子よ。私はまだそれほど仲良くないもの。貴女達は知ってる?」

 璃々奈が手下達に聞いた。
 おとなしそうな手下達は「確か陸上部です」「明るくて友達も多いです」などと答えてくれた。

「そうなの。ありがとう。それと、璃々奈と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」
「なんで麗華さんがそんなこと言うのよ!余計なこと言わないで!」

 璃々奈がちょっと赤くなった。ふん。あんたの評判が落ちると、私まで巻き添え食らうからだよ。

「それより、ちょっと…」

 璃々奈に腕をつかまれて、ふたりで手下達から離れて廊下の壁に寄った。

「最近あの蔓花先輩達が、麗華さん達より派手に行動しているけど、大丈夫なの?」

 璃々奈達にまでそう見えているのか。

「大丈夫よ。私達とは関係ない方々ですもの」
「ちゃんとしてよね。麗華さんが落ちたら私まで巻き添え食うんだから」

 同じこと考えていたか。
 なんかもう、ほとほと面倒なことになってきたなぁ。

 とりあえず璃々奈達から聞いた話をそのまま桜ちゃんに、ポチポチとメールしておいた。
 桜ちゃんからは“引き続き情報を求む”と返事がきた。
 そんなに心配しなくても、きっと義理だって。
 
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