挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
38/289

38

 6月は修学旅行だ。
 瑞鸞のような超お金持ち小学校なら、行先は絶対海外だと思っていたら、まさかの京都、奈良。
 フツーだ…。
 まぁ、泊まる宿や食事は普通の小学校の修学旅行とはレベルが違ったけど。
 京野菜をふんだんに使った京料理や、湯豆腐懐石を食べて、高級老舗旅館でくつろぐ。
 小学生相手に渋すぎる。
 しかしこんな高級旅館、羽目を外して枕投げなんて始めて障子に穴でも開けられたら大変だ。
 しっかり目を光らせておく。

 よりによって修学旅行がある年に、学級委員なんて引き受けるんじゃなかった。
 集合時間に遅れる生徒を探して呼びに行ったり、添乗員さんの説明中にしゃべっている生徒を注意したり、いろいろと面倒くさい。
 でも私のクラスはまだいい。鏑木や円城のようなやっかいな生徒がいないから、それでもおとなしいものだ。
 女子は最初から私に協力的で、点呼をサポートしてくれたり、消灯時間を守ってくれたりと、ほかのクラスの委員より全然楽をさせてもらっている。
 委員長も男子をなんとか纏めて頑張っているし。時々はしゃぎすぎて委員長に止められない男子は、“吉祥院麗華と、そのお友達のみなさん”で囲み、笑顔の圧力で黙らせる。
 私のクラスは概ね平和だ。
 きっと先生はこれを見越して私を副委員長にしたんだろうなぁ。私より真面目で学級委員経験もある女子がほかにいるのに、指名してきたんだから。
 まぁ、それで修学旅行がトラブルなく楽しく進むなら、利用されてもいいか。
 ほかのクラスの学級委員達は大変そうだもんね。

 鏑木、円城にまとわりついて騒ぐ女子達を、学級委員達は注意しきれないみたいだ。
 円城はまだ自分で騒がないように注意したりしてるけど、鏑木はノーリアクションなので無法地帯だ。
 食事も勝手に席を移動したり、あんた達本当に良家のお嬢様か?と言いたくなるような子達もいる。
 学級委員じゃ止められないので、担任が注意して渋々元の席に戻ったり。
 なんかギスギスしてるな~。
 小さい頃はまだ、ふたりにきゃあきゃあ騒ぐ女の子達も可愛く思えたけど、だんだん大きくなっていくにつれ、面倒なタイプも出てきたりして、なかなか要注意だ。
 もう少し大きくなったら、派手な成金お嬢様になりそうだなって子達は、私達のグループとは微妙に反目し始めてるし。

 あぁ、別のクラスで良かったな~、なんて他人事のように思っていたら、鏑木のクラスの学級委員達から、助けてください!という視線をヒシヒシと感じた。

 気づかなかったことにした。
 いや、だってほかのクラスにまでしゃしゃり出てくるって、どんだけ仕切りたがりだよって普通思うよ?
 私は、私のクラスのことで精いっぱ…
「吉祥院さん。あの、3組の学級委員がSOS出してるみたいだけど…」

 そんな余計な報告はいりませんよ、委員長。

「気のせいではありません?」
「いや~、あの目は切実っぽいけど。もうすぐ消灯時間なのに、部屋に戻らず騒いでいるし」
「でもほかのクラスのことですから」
「そうだけど。旅館の人達も困ってそうだよ」

 それは、申し訳ないと思ってる。
 だいたい、侘び寂びなんて理解できない小学生の修学旅行に、こんな風情のある老舗旅館を使うほうがおかしい。

「では委員長が行ったらいかが?」
「……それは無理って、わかって言ってるよね?」

 まぁね。
 女子の集団は怖いもんね。でも私だって怖いよ。
 あれ、鏑木と別のクラスの女子も混じってるじゃん。そっちの学級委員も止められないのか。
 怖いよなー。でもなー、同じ学級委員として、苦労もわかるし。
 しょうがない。

 私は鏑木と同じクラスでも、普段から比較的節度を持って騒いでいる菊乃ちゃんの元に行った。

「菊乃さん」
「あ、麗華様」
「ずいぶんと騒がしいのね。もうすぐ消灯時間なのに」
「そうなんですよね。あの子達、鏑木様の迷惑も考えずに…」

 菊乃ちゃんが仏頂面で答える。

「そうね。ここのお宿は鏑木様のお母様のお気に入りで、京都に行かれた時は常宿にしているのに、あんなに騒いで宿の方に迷惑をかけたと知ったら、鏑木様のお母様もどうお思いになるかしら?」

 これは愛羅様情報。

「えっ、鏑木様のお母様の常宿?!」

 私と菊乃ちゃんの会話が聞こえていた子達がちらっとこちらを見た。

「菊乃さんはしっかりしているから大丈夫だけど、ご自分のお気に入りの宿に迷惑をかけた生徒として、鏑木様のお母様に嫌われないように、菊乃さん達は気をつけてね。鏑木様のお母様は躾に厳しい方とうかがっているわ」

 私達の会話を盗み聞いていた子達が、少しずつ静かになった。

「あぁもう消灯時間ね。みなさんおやすみなさい」
「おやすみなさい、麗華様」
「おやすみなさい、麗華様」

 とりあえず、このくらいでいいだろう。
 直接注意するのは、あまりに角が立ちすぎる。敵は作りたくない。
 やりすぎると、いい子ぶりっ子と嫌われてしまう。
 っていうか、鏑木が自分で注意しなよ!自分のお母さんのお気に入りの宿なんだよ?
 ま、縁がなくても騒いじゃダメなんだけどさ。
 いつものように我関せずの状態で遠くを見てるけど、どうせ頭の中は優理絵様へのお土産は何にしようかとか、そんなことしか考えていないに違いない。
 これはもう、愛羅様経由で優理絵様にチクッて、ガツンと言ってもらうしかないな。


 昼間は神社仏閣巡りとお土産選び。
 女子達は縁結びの神社が一番のお目当て。なんといっても恋する相手がすぐ近くにいるんだから、神様へのお願いも真剣になるというものだ。
 鏑木と同じクラスの菊乃ちゃんは、祈る時に「今あの柳の下に立っているのが鏑木雅哉様です!どうかお願いします!」ときっちり縁を結びたい相手を神様に紹介したらしい。
 それ以外に恋みくじや縁結びのお守りを買ったりと、少ない滞在時間でみんな大忙しだ。
 縁結び神社なんて女の子だけが楽しい場所だと思っていたら、結構男子も真剣に恋みくじを引いたりしていて、ちょっと驚いた。
 委員長まで真剣に引いていた。相手は誰だ。

 私もみんなと一緒に恋みくじを引いた。末吉だった。ビミョー…。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ