挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
286/292

286

 翌日、璃々奈は本当に私に付いて夏休みの瑞鸞にやってきた。

「麗華さん。ランチは食堂で待ち合わせでいいわよね」
「そうね。それでいいわ」

 璃々奈の中ではランチを一緒に食べることは決定事項のようだ。本当は目的の科目の補講を受けて手芸部に顔を出したら、午後から塾の夏期講習に出席しようかとも思っていたんだけど、璃々奈は当然のように私と1日過ごすつもりでいるみたいだから、このぶんでは無理そうだな。まぁ、たまには璃々奈に付き合うのもいいか。

「そうだわ、璃々奈、ひとりで補講を受けられる?補講を受けている子達の中に話をできるお友達はいる?」

 瑞鸞の補講を受ける子は外部生を中心とした真面目な子達ばかりだから、私と同じく普段璃々奈が仲良くしている子達はいないんじゃないかな。私も経験があるからわかるんだけど、いきなり行って教室でぽつんとひとりぼっちはつらいのでは…・

「は?私を誰だと思っているのよ」
「左様でございますか…」

 尊大に鼻で笑う璃々奈。心配して損した。

「璃々奈はどの補講を受けるの?」
「この時間で受けたい教科というと、数学かしらね」
「あら、璃々奈は数学が苦手なの?」

 やはり血は争えないんだな。私と一緒だ。わかる、わかる。

「は?誰に言っているのよ。むしろ得意よ」
「左様でございますか…」

 さすが学年3位様ですね…。
 璃々奈は靴を履きかえてもすぐに教室に行く気はないようなので、私達は他の生徒の邪魔にならない昇降口の脇で休み中の家の行事や親戚の話などをした。

「あの家のおば様ったら、今度貴兄様に自分の娘とのお見合い話を持ちかける気でいるのよ。冗談じゃないわ」
「そうなの?お兄様は今のところはそういったお見合い話はすべて断っているけど、年々お見合い話は増えているのよ。仕事で忙しいお兄様を煩わせるのは、やめてあげて欲しいわ」
「そうよね!それとあの親戚の家の娘!あの人も昔から法事とかで集まる度に貴兄様に近づこうとして、厚かましいったらないわ。貴兄様の隣にいる私にもこれみよがしに嫌味を言ってくるのよ」
「璃々奈はお兄様の隣を狙う女性達と、いつもバトルしているものねぇ…」
「私のお母様から聞いたのだけどね。あの議員の娘も貴兄様を狙っているって」
「それは知っているわ。お母様が懇意にしているお茶の先生に師事しているとかで、その方を通じて観劇やお食事会のお誘いをしてくるから、こちらも無下にできないのよ」
「なにそれ。迷惑な話」
「でも私もとあるパーティーでお見かけしたことがあるのだけど、少し派手すぎて、お兄様とは合わないと思うのよねぇ」
「そうでしょ!あの人がお兄様と結婚だなんて、絶対に認められないわよねぇ!」
「だったら知ってる?最近留学先から帰国したあの方も、お兄様に近づこうとしているって…」
「やだ!あんな野心家と結婚したら、吉祥院家を乗っ取られるわよ!」

 小姑達の悪口は止まらない──。

「おっ」
「あら」

 私と璃々奈がお兄様に近づく虫退治に団結の誓いを立てていると、昇降口に同志当て馬が入ってきた。

「ごきげんよう」
「おはよう。こんなところで、なにをしているんだ?」

 正直に小姑会議をしていたとは言えないので、「ちょっと雑談を…」とお茶を濁した。
 それに対して「そうか」と返事をしながら、同志当て馬がそちらの子はというように、私の隣にいる璃々奈に目線を向けたので、

「従妹の古東璃々奈よ」

 私は璃々奈の背中に手を添えて、同志当て馬に従妹を紹介した。

「ごきげんよう、生徒会長」
「おはよう。君の噂は聞いているよ。ピヴォワーヌでもないのに、2年生で最大勢力を誇る派閥を率いているとか」
「璃々奈…」

 あんた本当になにをしでかしているのよ…。従姉妹として私はとても心配だよ。

「水崎君は今日も生徒会のお仕事?」
「あぁ。夏休み明けには生徒会長選挙があるから、今日もその準備だ」
「来期の立候補者は決まったの?」
「一応ね」

 生徒会長選挙といっても、毎年現生徒会役員の2年生の中から選ばれた立候補者が大本命で、投票前からほぼ当選者は決まっている選挙だったりするのだけどね。それでも選挙となると色々とやることがあるのだろう。

「次の生徒会長はどんな子なの?」
「ピヴォワーヌ相手にもはっきりと物が言えるヤツだよ」

 生徒会長の一番の仕事は、ピヴォワーヌとの折衝役だ。そのために、生徒会は1年かけてピヴォワーヌと渡り合える人材を育てている。

「あまりピヴォワーヌを目の敵にさせないでくださいね」
「それはこっちの台詞」

 同志当て馬が肩を竦めた。そしてため息をつくと、

「今の2年はそれほど心配はないんだけど、1年がな。血気盛んな生徒が多いだろう?来期の生徒会長は、苦労すると思う」

 それは私が昨日思ったことと同じだ。

「そこに来年入学してくるピヴォワーヌの新1年生のこともあるしな。吉祥院、今の中等科3年のピヴォワーヌメンバーはどういった生徒達だ?」
「普通だと思いますけど…」

 私の前ではどの学年のピヴォワーヌの子も、素直で可愛い後輩達だ。
 同志当て馬は私の返答にあまり納得がいかない様子で、自分が卒業した後のことを心配気にしている。

「卒業後でも、もしピヴォワーヌの後輩の目に余る行動を耳にしたら、私からも一言注意するわ」
「頼むよ」

 ピヴォワーヌは縦の繋がりがあるから、卒業しても影響力は残る。前ピヴォワーヌ会長の瑤子様のように…。

「璃々奈もピヴォワーヌの子が暴走していたら私に教えてちょうだい」
「…わかったわ」
「古東さんも、同級生のよしみとして来期の生徒会長に協力してやって欲しい」
「……」

 その頼みに、璃々奈は同志当て馬と目を合わせることなく、不愛想に無言で頷いた。うわっ、態度悪い。

「ちょっと璃々奈。ごめんなさいね、水崎君。先輩に対する礼儀を知らない従妹で…」
「いや、気にするな。じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「ええ。また今度」

 同志当て馬が去った後、私は隣の璃々奈を肘で小突いた。

「なに急に機嫌が悪くなっているのよ」
「…麗華さんがこんなに生徒会長と親しかったなんて知らなかったわ」

 ピヴォワーヌと生徒会は反目し合っているというのが、瑞鸞の常識だものね。

「同級生だもの。それにピヴォワーヌだからとか生徒会だからとかで、仲良くする人を限定しないといけないのは、つまらないじゃない」

 今は状況が許さないけど、私だって出来れば堂々と若葉ちゃんと仲良くしたい。

「ふぅん…。でもあの生徒会長の口ぶりは、ピヴォワーヌが悪と決めつけているみたい…」
「それはそもそもの生徒会の成り立ちが、ピヴォワーヌの絶対的権力から一般生徒を守る目的で作られたものだからね。それでも同…、水崎君はピヴォワーヌとの融和を模索してピヴォワーヌと生徒会の確執を取り去りたいという考えで、ずっと働いてきているのよ」
「そうなの?」
「ええ。現実には難しいのだけどね」

 同志当て馬としては、来期にその望みを託したいのだろうな。

「ふぅん。でも来期の生徒会にはピヴォワーヌとの融和なんてムリなんじゃない」
「どうして?」
「だって誰が立候補するのかは知らないけど、今の2年の生徒会役員は全員小物だもの」
「そうなんだ…」

 璃々奈に小物と切り捨てられる役員か…。これは同志当て馬の希望通りにはいかなそうだなぁ。

「残念ね」
「なんで麗華さんが残念がるのよ」
「私だって水崎君と同じ考えだもの。さっきも言った通り、ピヴォワーヌでも生徒会役員でも仲良くやれたら、学院生活も楽しくなると思うのよね」
「ふうん…」

 私の話に璃々奈は自分には関係ないという顔で適当な相槌を打つ。そりゃあ、あんたは最大派閥の長だそうだから、ピヴォワーヌも生徒会も関係なく学院生活を謳歌しているだろうけどね。

「水崎君も言っていたけど、来期の生徒会長が困っていたら璃々奈も協力してあげなさいよ」
「…気が向いたらね」
「もう。璃々奈にはわからないかもしれないけど、外部生やおとなしい子達にとっては、大変なこともあるのよ」

「わかっているわよ。私のグループには外部生の子も何人もいるんだから」

 選民意識が強そうにみえてこれでも璃々奈は親分肌らしく、慕ってくる子も多いらしい。こんなに我が儘なのに…。

「だったら、なおさら他人事じゃないじゃない」
「ふんっ。相手が誰であろうと、私の仲間に手出しなんてさせるわけがないじゃない」
「左様でございですか…」

 さすがだ、親分。懐に入れた子分の面倒はしっかりみる任侠道。
 璃々奈は初等科の受験条件のせいでピヴォワーヌに入れなかっただけで、家柄も家同士の繋がりにおいても、ピヴォワーヌメンバーと対等に口をきけるので、怖いものなしなんだろうな。そりゃ弱い子達から頼られるわ。

「あっ、もうこんな時間だわ。じゃあね。麗華さん。あとで食堂でね」
「はいはい」

 肩で風を切り威風堂々と2年生の教室に向かう璃々奈に、同級生らしき子達が次々に挨拶をしている。それに手をあげて鷹揚に返す璃々奈親分の姿を見送ると、私も補講の教室に向かった。
 来期の生徒会長にとって、一番扱いに苦労するのはピヴォワーヌメンバーじゃなく璃々奈なんじゃないかなぁ…。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ