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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 あの後、私は帰宅すると若葉ちゃんに電話をした。話したいことや聞きたいことが色々あったのだ。

「今日は滝行に行ったんでしょ。お疲れ様~」
「私は見学していただけだけどね」

 私が今日あった出来事を話すと、若葉ちゃんは興味深く聞いてくれた。好奇心旺盛な若葉ちゃんは「なんだか面白そう。私もやってみたいなぁ」と笑って言った。それ芙由子様が聞いたら本気にとられて連れて行かれちゃうぞ。

「ところで生駒さんのバイトはどう?本人は一生懸命やっているみたいだけど」
「うん。すごく頑張っているよ。お客さんがいない時はゆっくりしていていいのに、サボっちゃいけないと思うのか、布巾を持ってずーっとあちこち拭いて回っているよ。最初はいらっしゃいませや、ありがとうございましたって言うのも緊張して声が小さかったけど、慣れたらスムーズに言えるようになったしね」
「そうなんだ。若葉ちゃんの家のご迷惑になっていないなら良かった」
「うん、大丈夫だよ。それにね、この話は生駒さんから聞いているかな。生駒さんは結局、自分がやったことを両親に話したみたいでね。初日に生駒さんと一緒に生駒さんのお父さんとお母さんも来て、娘が申し訳ありませんでしたって謝罪と弁償金を払ってくれたんだよ」
「そうだったの?!」

 それは聞いていなかった。自分の悪事を親にカミングアウトするのって相当勇気がいるよね。特に同級生に裏で嫌がらせをしていたなんて卑劣な行為を話すのは。生駒さん、本当に心から反省して罪を償いたいと思っていたんだなぁ。

「それでね、弁償までしてもらっちゃったから、初日でもうバイトをしてもらう理由がなくなっちゃったんだよねぇ」
「う~ん、言われてみれば確かにそうなるのかな。でも今回のバイトは弁償をしてもらうことより、働いてお金を稼ぐことの大変さを知ってもらうってことが主旨だったし」
「そうなんだよ。だから私が親御さんにまで謝ってもらったし、初日だったけどバイトはいいよって言ったら、生駒さんも約束だから最後までやりますって言って、生駒さんの両親にもよろしくお願いしますって言われちゃって」
「へぇ~、そんなことがあったんだぁ」
「うん。麗華様とも約束しましたから!って言っていたよ。そこに一番力が入ってた。慕われているねぇ、吉祥院さん」
「ははは…」
「それで本人がそこまで言うならって、当初の予定通りバイトはしてもらうことになったんだけど、期間は短くすることにしたんだ。生駒さんだって勉強とかあるだろうしさ。数日やってもらってそれで終わりにすることにしたの。だからあと来てもらっても1,2回かな。あまり長くやってもらうと、色々ばれる恐れがあることもわかったし…」
「あっ、そうだった!生駒さんから聞いたんだけど、鏑木様が来店してニアミスしたんでしょ!」

 そうだよ。今日電話をしたのは、それが一番聞きたかったからなんだよ!

「あ、聞いた?そうなんだよ。私はその時いなかったんだけど、帰ってきたら生駒さんが顔を真っ赤にして、か、鏑木様が…っ!って店の中でバタバタしてたの。どういうことって追求してくる目が怖かったなぁ」
「大変だったね…」
「いえいえ」

 私に話す時も興奮していたもんなぁ。

「吉祥院さんが鏑木君と会っちゃうかもよって言っていたのが、まさか初日で当たるとは、さすがに思わなかったよ。すごいね吉祥院さん。占い師の才能あるかもよ」

 笑いごとじゃないよ、若葉ちゃん。私はその話を聞いて色んな意味で一瞬冷や汗が出たよ。

「ペナルティは別のことにすれば良かったわね…」
「あはは。それは後の祭りってことで」
「ねぇ。生駒さんのバイトが終わったら、私も若葉ちゃんの家に遊びに行ってもいいかな?」
「もちろんだよ、大歓迎!寛太達も会いたがってるよ」
「コロちゃんに?」
「コロちゃんに」

 私達はあはは~と笑い合った。

「私も寛太君達に会いたいなぁ」

 寛太君は私のお菓子作りの師匠だからね。
 私達はそれから高道家の皆さんの近況やお互いの学院生活などをおしゃべりしてから電話を切った。





 次の日の放課後、芙由子様に寂しいと言われてしまったのでピヴォワーヌのサロンに少し顔を出した後で、私は珍しく自分から鏑木を小会議室に呼び出した。

「なんだよ、話って」
「鏑木様。この前の休日に高道さんのお店に行きましたね」

 ずばり聞いてやると、鏑木がギョッとした顔をした。

「なんで知っている。あっ!お前もしや、俺のストーカーか?!」

 本物のストーカーにストーカー呼ばわりされたくない!
 鏑木は両手で自分を守るように抱きしめて、「うわぁ…」と私を不審者のように見ながら後ずさった。

「違います!」
「じゃあなんで知っているんだよ」

 バイトの生駒さんから聞いたとは言えないので。

「私のお庭番からの報告です」
「…え、お前それギャグで言ってんの?」

 真顔で問い返され、私は言ったことを後悔した。

「…偶然、高道さんのお店の近くで鏑木様を見かけたという話を耳にしたので、もしかして行ったのではないかと推測したんです」
「ふぅん」

 鏑木は半信半疑の様子で私に胡散臭そうな視線を向ける。だから私は鏑木のストーカーなんかしないから。

「アポなし訪問はやめてくださいと前に忠告しましたよね」

 アポイントだけは必ず取ってくれ。このままじゃ私が若葉ちゃんの家に遊びに行った時に会っちゃうリスクが高すぎる。

「…ケーキを買いに行くだけなのに、アポイントなんか取る必要はないだろうが」
「本当にケーキだけが目当てですか?」
「……」
「ご自宅からは遠いのに、代わりの者に買いに行かせるでもなく、鏑木家のご子息がご自分でわざわざ買いに行かれるなんて、ねぇ」
「…クラスも違う。学校でも一緒にいられる時間が少ない。だったら休日に会いに行くしかないだろうが」
「うわぁ、開き直りですか」
「うるさい」

 鏑木が悔しそうな顔をした。
 ケーキを口実にしているのはとっくの昔にばれているんだから、今更隠してもしょうがないのに。

「相手にも都合というものがあるのですから、事前連絡をしないと迷惑をかける可能性だってあるじゃないですか。不在の場合だったあるんだし。それで?突然行って会えたんですか?」
「会えなかった…」

 知っているけどね。

「ほらそうでしょう。甘党の鏑木様が高道さんの家のケーキを食べたいと言うのも本当なのでしょうけど、一番の目的は高道さんに会うことなのでしょう?だったらそんな口実を使ったりせず、会いたければきちんとデートに誘うとかすればいいじゃないですか」
「…誘ってる。誘ってるけど3回に1回ぐらいしか予定が合わないんだ」
「えっ、そんなに頻繁に誘っているの?!」

 鏑木が私の把握してないところでかなりアグレッシブに動いてた!
 思わず驚きの声をあげた私に、きまりが悪そうに鏑木は目を逸らした。

「3回に2回も断られていたんですかぁ…。それって脈がないんじゃ…」
「高道は忙しくて3回に1回ぐらいしか空いている日がないんだ」
「ふ~ん」

 まぁ、みんな鏑木みたいに暇じゃないからねぇ。

「高道は吉祥院みたいに暇じゃないんだ」

 鏑木雅哉を心の中でタコ殴り。

「せめて帰り道が一緒だったら良かったんだが生憎方向が違うし、なにより俺は車で高道は電車だからな。俺が方向が違っても送ると言っても、高道が悪いと言って遠慮する」

 そりゃあそうだろうなぁ。瑞鸞の内部生なら普通の感覚なんだけど、若葉ちゃんは違うからねぇ。一緒に遊びに行った帰りにそのまま送ってもらうとかならいいけど、下校時に別方向の人に毎日車で送ってもらうのは心苦しいと思うだろうな。

「…あの辺りに完成間近の新築マンションが建つんだよな」
「は?」
「俺も社会勉強のために一人暮らしをしてもいいかもしれないな…」

 えっ、若葉ちゃんに近づくために近所にマンションを買って引っ越す気?!それもう言い訳のしようがないストーカーじゃん!怖い、怖い!

「絶対にやめてください。そんなことをしたら高道さんに全速力で逃げられますよ!」
「一人暮らしを考えていた時に、高道の家の近くに偶然良さそうな物件を見つけただけだ…」
「そんな言い訳が通用しますか。では考えてみてください。通学距離にも問題がなく、実家で何不自由なく暮らしている私が、いきなり鏑木様のご自宅近くのマンションに越して来たら…」
「弁護士に相談するな」

 ほら見ろぉ。っていうか引っ越しただけで弁護士案件にするって、私のことをまだ鏑木のストーカーだと思っているでしょ?!

「そこまでやるなら、潔く告白しちゃえばいいのに」
「“一生忍んで思い死することこそ恋の本意なれ”と先人も言っている…」

 それ、恋愛ぼっち村の村訓。こいつ、入村許可も出していないのに、勝手に裏山に家を建てて住みついてやがるな。不法入村者め。

「それって一生告白しないって言っているんですか」
「…タイミングを計っているんだ」
「要するに勇気がないんですね」
「うるさい」

 まぁ、デートの誘いを3回に2回も断られている現状じゃあねぇ。

「それに今は水崎の動向も気になる」
「生徒会長ですか…?」
「ああ。俺が誘ったけど高道の予定が合わなくて断られた日に、水崎が先に高道と約束をしていた時があったんだ」
「あら~」
「俺の見立てでは、あいつも高道に気があるんじゃないかと踏んでいる」
「なるほど」

 若葉ちゃんの気持ちはわからないけど、同志当て馬はそうだろうねぇ。だって原作からして当て馬キャラだったし。

「お前、水崎の情報を何か持っていないか」
「…日本のお城が好きらしいですよ」
「いらねぇよ。そんな情報」

 口が悪いなぁ。通販に詳しくて実は密かに分冊百科を買っているって、レア情報だと思うけど?
 すると鏑木がなにかに気がついたように腕時計で現在の時間を確かめた。

「あぁ悪い。今日は吉祥院の無駄話に付き合ってやれる時間がない。優理絵と食事に行く約束があるんだ」

 はぁっ?!なにそれ。その言い方じゃまるで私のほうが鏑木にかまってもらいたがっているみたいに聞こえるじゃないか!

「ちょっと待っ…!」
「あー、わかった、わかった。今度な」

 なにその大人のあしらい。ムカつく!
 いそいそと帰り支度をした鏑木は、私の制止を無視して「じゃあな」と部屋を出て行った。
 二度とヤツの恋愛相談になんて乗ってやるもんか!




 なにが優理絵様と食事だ。若葉ちゃんを好きだと言いながら初恋の優理絵様と嬉しそうに食事に行くって、なんだか不誠実に思えませんこと?奥様。
 不法入村者のくせに。村八分にしてやると心の中で悪態をつきながら迎えの車の待つ駐車場に行くと、吉祥院家の車の傍に小さな人影があった。
 え、あれはもしかして…。

「雪野君…?」

 私の声に顔を上げた天使は、私の姿を見つけると、

「麗華お姉さん…!」
「うわっ」

 駆け寄ってきた雪野君は、飛び付くようにそのまま私に抱きついた。
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