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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 お嬢様にはお嬢様のお付き合いというものがある。

 私を含め、お嬢様たちはたくさんの習い事をしている。その習い事には発表会が伴うものも多いのだ。
 はっきり言って、子供の演奏や踊りなんて身内以外興味のある人なんていないだろう。しかし身内だけでは客席が埋まらず、格好もつかないので、子供のいる上流階級の家では社交も兼ね、お互い持ちつ持たれつで観に行き合うのだ。
 今日は、そんな関係のひとりが出るバイオリンの発表会だった。

 一緒に観に来たお母様は、いまだに私にバイオリンを習わせる夢を諦めきれないらしく、これを機に始めてみたら?などと言っている。
 お断りします。
 お母様の強い薦めで一度体験教室にも行ったけど、バイオリンの弦を押さえる指の腹が痛かった。摩擦で指紋が消えそうだ。軟弱な私は、これはちょっと無理かなって思ってしまったのだ。
 同じくお母様の薦めたフルートも、前世の小学校でクラスごとのリコーダーの合奏発表会があった時、最後の最後で私は「プピーッ」というとんでもない音を出してしまい、合奏を台無しにしてしまったという悪夢の記憶があり、管楽器は軽くトラウマなのだ。
 全員で教室に戻ったあと、「あの音出したヤツ一体誰だよ!」と犯人捜しが始まった時は、本当に恐ろしかった。
 私も、え~知らな~いという顔をしておいたが、内心、心臓がバクバクだった。気づいていたであろう隣の子達の口が堅くて本当に命拾いした。
 なので音楽系はピアノだけで勘弁して欲しい。


 発表会も終わり、私達は花束を渡す為にロビーに出た。
 待っている間に、なんとなく辺りを見回していると、意外な人物がいた。

「秋澤君?」

 秋澤君が私と同じように花束を持って、少し離れたところに立っていた。
 お母様に友達がいたからと断って、私は秋澤君の元へ行った。

「秋澤君?こんなところでどうなさったの?」
「えっ、吉祥院さん?!」

 振り向いた秋澤君は私の姿を見てびっくりしていた。

「吉祥院さんがなんでここに?えっと僕は幼馴染が今日の発表会に出演してるから観に来たんだけど、吉祥院さんは?」
「私も似たようなものですわ。お友達が出てましたの」

 私達が話していると、秋澤君のお母様らしき方と、私のお母様がやってきた。

「麗華さん、お友達の方?」
「あ、お母様。秋澤君です。瑞鸞の同級生で、塾も同じですのよ」
「初めまして、秋澤匠です」

 お母様は相手が瑞鸞の生徒とわかって、にっこり笑った。
 私も秋澤君のお母様にご挨拶した。
 お互いの母親が挨拶をしている間に、私達はさきほどの話の続きをした。

「幼馴染って、確かバレンタインにチョコをくれるっていう」
「あ、そうだよ。よく覚えてたねぇ。家が近所で小さい頃から家族で仲がいいんだ。同い年だけど妹みたいなんだ」
「妹ですか」
「うん、昔っから僕の後をくっついてきて、幼稚園も一緒だったんだ。別々の小学校に通う事になった時は泣いちゃって大変だったよ。今日も絶対見に来てって言われちゃってさー」

 秋澤君、それって…。

 するとその時、発表会に出演していた子達とその家族が、ロビーにぞろぞろと出てきた。

「匠!」

 長い黒髪の和風美少女が、秋澤君の名前を呼びながらこちらに小走りにやってきた。

「あぁ桜子、お疲れ様!演奏上手だったよ」

 秋澤君はその女の子を笑顔で迎えた。
 女の子は秋澤君に褒められて、嬉しそうに頬を赤らめて笑ったが、隣に立つ私を見て戸惑った顔をした。

「匠、この人誰?」
「あぁ、こちらは吉祥院さん。瑞鸞の同級生で、塾で同じクラスなんだ。学校のクラスは違うんだけどね」

 ね、と私に無邪気に笑いかける秋澤君。
 それを見て、ムッとした顔をする幼馴染ちゃん。

「それでこっちが今話してた幼馴染の蕗丘桜子(ふきおかさくらこ)
「吉祥院麗華です。初めまして」
「…蕗丘桜子です」

 あきらかに私に良い感情を抱いていなさそうな表情だ。
 あぁ、これは確定だな。

「匠、まさか一緒に来たの?」
「ううん違うよ。吉祥院さんのお友達も今日の発表会に出てたんだって。さっき偶然会ったんだよ。ね、吉祥院さん」

 また秋澤君が私に笑いかけると、幼馴染の蕗丘さんの表情が益々険しくなる。
 あ、睨まれた。

「匠に女の子の友達がいるなんて、聞いてなかった。いつも話に出てくるのは男の子の名前ばかりだったのに」
「そうだっけ?まぁ基本的に、塾でしか話さないから」
「仲、いいの?」
「え~、どうだろう?仲、悪くはないよね?」
「え?えぇ、そうですわね」
 蕗丘さんは、悲しそうに秋澤君を見つめた。


 なんという事だ。
 秋澤君をあなどっていた。私と同じく、恋愛には縁のない普通の小学生だと思っていたのに。
 まさか、恋愛物の王道、“幼馴染とのじれじれな恋”という、とんでもない隠し玉を持っていたなんて!!
 私と同じ浮いた話が全くない仲間だと思っていた秋澤君は、そもそも私とは立っている土俵が違ったらしい。
 幼馴染から毎年バレンタインにチョコをもらっていると言われた時点で、気づくべきだった。義理チョコでも友チョコでもない、大本命チョコだった。
 そんな強力な恋愛カードを何一つ持っていない私と一緒にして考えてたなんて、秋澤君にはスライディング土下座で謝罪したい。

 秋澤君は蕗丘さんの機嫌が悪い理由がわからないらしく、暢気に「どうしたの?」なんて言っている。
 王道だ。王道の”鈍感な幼馴染”だ。
 秋澤君、君が遠い人に思えるよ…。

 蕗丘さんからしたら今の私は、小さい頃から好きだった幼馴染のそばにいきなり出てきた、悪役ライバルキャラだ。
『君は僕のdolce』の主人公すらまだ登場していないのに、なぜ全く関係ないところで当て馬にならないといけない。
 小学生にしてドロドロはごめんだ。

 私を招待してくれたお嬢様仲間がロビーに現れたので、これ幸いと撤退することにする。

「お母様、エミリ様がいらしたわ。お花を渡さないと」
「あら、そうね。では秋澤様、またお会いできる日を楽しみにしていますわ。私たちはこれで。お先に失礼いたします」
「失礼いたします。ごきげんよう、秋澤君、蕗丘さん」
「こちらこそ、お会いできて光栄でしたわ。ごきげんよう」
「吉祥院さん、また塾でね」
「…ごきげんよう」

 背中に刺さる、蕗丘さんの視線が痛い。


 外に出ると雪が降っていた。
 道理で寒いわけだ。






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