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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 帰ってきたよ、ニッポーーン!
 はぁ~、ヨーロッパはいつ行っても街並みも美しくて、物も人も雰囲気があっておしゃれで、毎日凄く楽しかったけど、やっぱり日本が一番落ち着くわ~。紅茶より緑茶、パンより白米。家に帰ってまず最初にやったことは、梅鮭茶漬けを食べること!ふぃ~っ、日本の味だわ~。
 瑞鸞高等科の修学旅行は授業日数になるべく影響が出ないように、ゴールデンウィークにぶつけられている。お父様達もその間に旅行に出かけていたけど、私が帰国する日に間に合うように帰ってきてくれていた。リビングで大量のお土産を並べて、お互いの旅行話。もちろんお兄様もね!

「修学旅行は楽しかったかい?」
「ええ、とっても!お父様達は?」
「楽しかったけど、少し疲れたなぁ」
「貴方はゴルフばかりしていたからよ」

 お母様は旅行先で受けたらしいエステでお肌ツヤツヤだけど、お父様はちょっとぐったり?お兄様は大学時代のお友達と北海道に行ってたんだって。私の大好きなお菓子をたくさんお土産に買ってきてくれていて、嬉しいっ!とうきびチョコは、食べ始めたら止まらないのよ~。
 旅行中は全くホームシックになんてならなかったけど、約10日ぶりに家族の顔を見たら、なんだかやけに嬉しくてベタベタくっついてテンション高めでおしゃべりしまくっちゃった。えへへ。実は寂しかったのかな?お父様のぽんぽこ狸腹すら愛しく感じてしまうなんて、ホームシックって恐ろしいね。
 お兄様、見て見て。お兄様にいっぱいお土産買ってきたのよ!あ~、楽しい。あ~、幸せ。


 ──しかし私は旅先に、大切なものを失くしてきていたのを忘れてはいけない。それは白毫。
 ローマでの最後の夜に喪失に気づき大いに狼狽え、次の日の朝にはすっかり忘れていたけれど、幸運の印である宝毛が抜け落ちてしまった影響は、確実に、ジワジワと私に忍び寄っていた。
 そしてそれはまず自室の隅にあった。
 去年のクリスマスにプレゼント交換でもらった、多肉植物ホヤカーリーのラブラブハートが腐っていた。目にも色鮮やかな緑色をしていたホヤカーリーが、茶色く変わり果てた姿になっていたのだ。
 どうやら長期間家を空けるので、枯れないように水をたっぷりあげ過ぎたのが良くなかったみたいだ。私が渡欧している間の日本は気温が低かったのも追い打ちをかけたか。ごめんよ、ホヤちゃん!私を許して!
 植物は話しかけると成長が早いというから、毎日話しかけていたホヤちゃん。恋愛ぼっち村村長としての愚痴を毎日聞いてくれていたホヤちゃん。栄養剤をあげてもムリかな。心なしか変な臭いがしている気がするし…。
 せっかくくれた北澤君に申し訳ない。半年もしないうちに腐らせたなんて絶対に言えない。あぁ、罪悪感…。
 ハートの形から恋が叶う植物なんて言われて、ラブラブハートと呼ばれているホヤカーリー。私だって「今年こそ素敵な恋ができますように」とホヤちゃんにお願いしていた。今のところ効き目は皆無だったけどね。でもそんな恋愛成就の植物を腐らせてしまったことは、不吉以外の何物でもない。不安だ。ホヤちゃん、恨まないでね。迷わず成仏してください。


 そして修学旅行から帰って最初の登校日の朝。私はクルルルルゥという、うるさい鳴き声と羽音に起こされた。
 とってもとっても嫌な予感を抱きつつも、そっとバルコニーのカーテンを開けると、そこには二羽の鳩が!
 朝から天敵の鳩!追い出さなきゃ!窓を開けて部屋に入って来られたら怖いので、窓ガラスをドンドン叩いて私の存在をヤツらに知らせる。狙い通り、二羽の鳩は飛び去った。良かった…。
 もう、爽やかな朝が台無しだ。あいつら、私の部屋のバルコニーに、糞なんかしていないでしょうね。鳩が近くにいないのを確認してから、窓を開けた。糞はなさそうだけど…。ふと見るとバルコニーの端にある室外機の下に、なぜか小枝がたくさん落ちていた。なにこれ?…って

「うわあああああっっ!」

 奥に丸くて白い物体がある!これって、まさか卵?!鳩に卵産みつけられてる!しかも2個もあるよ!
 なんてことだ。あいつらはつがいだったんだ。私がいない間にこれ幸いと巣を作り、卵を産んでいたんだ。どうしよう。卵なんて自分じゃ怖くて処分できない。やだ、今この瞬間にも孵化したらどうしよう!
 とりあえず私は適当に着替えて、人を呼びに行った。お願いします、小心者の私の代わりになんとかしてください…。
 部屋に来てくれたお手伝いさんは、鳩の巣を見て驚いた。

「麗華お嬢様がいらっしゃらない間に、空気の入れ替えだけはさせていただいていたのですけど、室外機の下まで見ておりませんでした。申し訳ありません」
「ううん。見えにくい場所に巧妙に作ってあるんだもの。しかたないわ」

 元々私の部屋には駄菓子とかへそくりとか、他人に見られたくないものがいろいろあるので、普段から自分がいない間の部屋の掃除は最小限にとどめてもらっているのだ。そのかわり、ロボット掃除機が大活躍している。文明の利器って素晴らしい。たま~にベッドの裏にケサランパサランが住んでいるのを発見することもあるけれどね。

「先日窓拭きをした時には見当たらなかったんですけどねぇ」
「じゃあつい最近なのかしら」

 旅行前は鳴き声も羽音もしなかったもんね。これはやっぱり白毫の守りがなくなったせいか…!

「あっ!鳩がまた来てる!手摺りにとまってる!」
「こら!あっちに行きなさいっ!」

 お手伝いさんが威嚇して追い払ってくれたけど、巣がある限り何度でもやってくるに違いない。なんといったってここには卵もあるんだし。

「どうしたの、朝から」
「お兄様!」

 騒がしかったのか、お兄様が開きっぱなしだった私の部屋のドアの前に立っていた。

「お兄様、聞いて!バルコニーに鳩の巣があるの!しかも卵まで!」

 私はお兄様に鳩の巣、及び卵について訴えた。

「鳩の巣?あぁ、本当だ」

 お手伝いさんが「私が近くの公園にでも捨ててきましょうか」と言ってくれた。ありがとう!そうしてくれますかっ?
 しかしそれにお兄様が異を唱えた。

「野鳥の卵は鳥獣保護法で勝手に処分してはいけないと定められているよ」
「ええええっっ!」

 じゃあどうすればいいの?!卵が孵ったら、それこそ家族で永住されちゃうよ!鳩の帰巣本能をなめちゃいけないよ!私の部屋のバルコニーが常宿にされるなんて!鳩の終の棲家にされるなんて、そんなの困る!

「私、鳩とルームシェアなんて出来ないわ、お兄様!」

 私は涙ながらに訴えた。

「…保健所に連絡しなさい」

 おおっ!さすがお兄様!なんて頼りになるの!
 お手伝いさんが朝一で保健所に連絡してくれると言ってくれたのでおまかせする。はぁ、これでひとまず問題解決、かな?

「ありがとう、お兄様。朝からごめんなさい」
「いや。麗華が家に帰ってきたなぁと、しみじみ実感するよ…」

 お兄様はなんとも言えない笑顔で、私の頭を軽くポンポンと叩いた。


 鳩の巣のショックで傷ついた私の繊細な神経を心配してか、学院にはお兄様が車で送ってくれた。わ~い。スーツ姿で運転するお兄様、素敵っ!

「でも今朝は驚きましたわ。まさか私の部屋に鳩が巣を作るなんて」
「そうだね」

 上空からの糞攻撃にとどまらず、とうとう本陣にまで攻めてくるとは。おのれ鳩め!しかもつがい。鳩の分際でこれみよがしにラブラブしおって。でもしょうがない。春だし。

「春は繁殖期ですものね。これが過ぎれば一安心かしら」
「生憎、鳩は1年中発情期だから年に数回卵を産むよ」
「えええっ!」

 なにそれ!初耳なんですけど?!

「麗華、運転中は危ないから腕を掴まないようにね」
「ごめんなさい」

 1年中発情期だと!なんて節操のない!許し難し、鳩め。さすが天敵。鳩は恋愛謳歌村の村鳥だったのだ!

「じゃあ今回、巣と卵を撤去しても、近いうちにまた産みつけられる可能性があるのですね?!」

 冗談じゃないぞ。ひとんちのバルコニーでいちゃいちゃするなんて許さないわよ!

「ちゃんと鳩避け対策を施すように言っておいたから、心配しなくていいよ」
「お兄様ぁっ!」
「麗華、運転中は危ないから腕を掴まないようにね」
「ごめんなさい」

 鳩避け対策ってあれかしら。ネットとかCDとか?それとも罠でも仕掛けるのかな。

「そうだわ、お兄様。伊万里様にもお土産を買ってきたので、お渡ししたいの。近々いらっしゃるご予定はあるかしら」
「宅配便で送りつけてやればいいよ」

 え~っ、日頃伊万里様には数々のプレゼントをいただいているから、感謝の気持ちを込めて自分で渡したいのに。宅配便って味気なくない?バレンタインの時には生ものだから利用したけどさぁ。
 不満そうな私を横目で見て、お兄様は「一応伝えておくよ」と言ってくれた。お願いね、お兄様!



 登校すると、学院には修学旅行をきっかけにした、恋愛謳歌村への体験入村者達の姿があちこちにあった。忌々しい…。
 前世でも思ったけど、よく聞く修学旅行ロマンスというのは、一体どこで生まれているのだ。不可解。

「ごきげんよう、麗華様。今修学旅行の話をしていたところなんですよ?」
「ごきげんよう、皆さん」

 私が教室に入ると、すでに登校していた何人かの友達が固まっておしゃべりをしていた。私も旅行の思い出語りた~い。交ぜて交ぜて。

「楽しかったですわよねぇ、修学旅行。今はどこの国のお話をしていたの?」
「それが…。麗華様、実はローマで鏑木様と高道さんが一緒にカフェから出てくる姿を目撃したという噂が流れているんですけど…」
「えっ!」

 なんてこった。あれほど周りに注意して行動しろと言ったのに見つかるなんて!

「それ、本当に鏑木様達だったの?見間違いの可能性もあるんじゃないかしら」
「でも鏑木様を見間違えるなんてあるでしょうか」

 …あのバカは無駄に目立つからな。
 皇帝ローマデートの噂はあっという間に広まった。そのお店はローマでもティラミスがおいしいと評判の有名店で、お店から仲良く出てきたふたりはそのままタクシーに乗って去って行ったという。
 鏑木には聞きに行けないので、皆は若葉ちゃんに確かめに行った。詰め寄られた若葉ちゃんは目を白黒させながら「偶然会って…」とかなんとかごまかしたらしいけど、じゃあなんで一緒のタクシーに乗ったんだって言われてつじつまが合わなくなったらしい。結局スイーツ巡りをしていたことまではバレなかったけど、ローマである程度の時間をふたりで過ごしたということはバレてしまった。
 あぁっ、帰国早々厄介事の予感大!

 帰宅すると、私の部屋のバルコニーには薔薇の花が咲き乱れていた。手摺りには蔓薔薇が巻きついていて、とっても可愛い。これぞ乙女のバルコニー。おぉ、うららもあるね。
 でも一体どうしたのかと思ったら、鳩は薔薇の香りが嫌いだってことで、鳩の巣と卵を撤去してもらったあと、庭師さんに来てもらってセッティングしてもらったんだって。確かに吉祥院家の邸宅のバルコニーに、CDをぶら下げて鳩避けネットを張るわけにはいかないもんねぇ、見栄え的に。
 しかし私は緑の手ならぬ茶色の手を持つ女。サボテンすら枯らす私の部屋の薔薇が、いつまで持つかしら…?
 どうか神様、明日は鳩がきていませんように。
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