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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 疲れた…。
 鏑木の想像以上の庶民感覚と恋愛スキルのなさに私は頭を抱えた。
 あれからサロンに戻っても、鏑木は私に素敵な告白シチュエーションについて語ってきた。ろくでもないアイデアが湯水のように溢れてくる。さすがに若葉ちゃんの名前を出してくることはなかったが、思いつくすべてのアイデアが大袈裟、かつ非現実的。これはダメだ。とりあえず告白はまだやめておこうという結論になった。まずはこのバカに庶民感覚を覚えさせないと。うわぁ、道のりは厳しそう…。

「吉祥院さん、雅哉の参謀になったんだって?」
「はぁ?!」

 人目もあるし、あまりに鬱陶しいので、シチュエーションではなく告白の言葉を考えてこいと鏑木に課題を出して追っ払い、私がぐったりとしてお茶を飲んでいると、今度は円城が楽しそうに笑いながらやってきて、私に話し掛けてきた。

「なんですか、参謀って」
「うん?雅哉が言ってたよ。このたび吉祥院さんを参謀に迎えることにしたって」

 なんだよ、それ!参謀ってさ、部下じゃん。私が鏑木の部下!なんということだ、弟子の分際で!

「その役割は、私には荷が重すぎるようですわ。ご親友の円城様にあとはおまかせいたします」
「いやぁ、僕ではとてもとても…」

 ふんっ。恋愛謳歌村の村民がなにを言うか。自分の経験を元にアドバイスをしてやればいいじゃないか。

「円城様は鏑木様が私になにを相談しているのか、ご存じですの?」
「うん、まぁね」

 円城は鏑木のいる方向をちらっと見た。鏑木は窓辺に座り長い脚を組んで静かに本を読んでいる。あれはたぶんきっと、厄介な恋の詩集に違いない。また変な引用をするんだ…。
 鏑木の残念な中身を知らないメンバー達は、その姿にうっとりとため息をついていた。

「それでしたらますます、円城様がアドバイスをなさったほうが有意義だと思いますわ?」
「どうして?」

 彼女持ちだからだよ!
 だいたいなんで仲良くもない私にお鉢が回ってきたんだか。あぁ、岩室君達か…。

「僕は異性の意見のほうが有意義だと思うな」

 円城がニコニコと笑顔で言った。

「雅哉のこと、よろしく頼むね、吉祥院さん?」





 おでこに宝毛が生えてきたというのに、今年に入って厄介ごとばかりだ。あ~、面倒くさい。
 そんなことを考えてごろごろしていた土曜日、ピヴォワーヌのメンバーであり同じグループの芙由子様に「ぜひ一度麗華様と親しくお話ししたいの」と、突然お茶に誘われた。
 学院外でお友達と会うのはとても嬉しいので、二つ返事で了解した。
 芙由子様とは、初等科からずっと同じグループで、ピヴォワーヌのメンバーとしても付き合いがあったけど、個人的にあまり仲良くするチャンスがなかったんだよね。ちょっとテンポの違うお公家様気質というか。
 でもこうして、休みの日に遊びに誘ってもらえるんだから、これからもっと仲良くなれるかな?新たな友達ゲット?!
 うきうきした気分で、指定されたホテルのラウンジに行くと、芙由子様のほかに年上の女性の姿もあった。
 ん?芙由子様のお姉様?

「芙由子様」
「麗華様!」

 私はふたりの座る席に近づき、声をかけた。

「よく来てくださったわ!さ、座って」
「ええ、ありがとう」

 私はふたりの向かいの席に座ると、ハーブティーを注文した。

「…え~っと、それで今日は?」
「ええ!ぜひね、一度麗華様とじっくりお話がしたくって」

 …そうですか。それは嬉しいんですけど、なぜ見知らぬ人が?
 芙由子様の隣に座る女性は、年の頃は25歳前後?スーツを着た地味な女性で、とても上流階級に所属する芙由子様の身内とは思えない。誰だ。
 私はなんとなく、来たことを後悔した。

「私ね、最近麗華様が疲れた顔をしているのが、ずっと気になっていたの」
「はぁ、そうですか」
「ええ。麗華様、今なにか悩んでいることがあるのではなくて?」
「悩み…いえ特には…」
「あら、あの庶民の子をめぐって、鏑木様といろいろとトラブルがあったのではなくて?それにピヴォワーヌのサロンでも鏑木様達とこそこそ話しているでしょう?ほかの方々は鏑木様と円城様とあんなに仲が良くて羨ましいなんて噂していたけど、私は違うと思ったわ。だって麗華様の顔が幸せそうじゃないんですもの」
「はぁ」

 いつもおとなしい芙由子様が、別人のように捲し立ててくる。

「それであの、芙由子様、こちらの方は…」
「ええ!そうなの!この方はリュレイア様といって、高位のヒーラーです!」

 は?
 ヒーラー?ヒーラーってなんだ?ひら?平?平社員?

「ヒーラーというのはね、癒しの力を持つ人のことを言うの。その力で体や心を癒すことが出来るのよ!」
「初めましてヒーラーのリュレイアです」

 欧米の血は一滴も入っていなさそうな化粧っ気のない地味な女性の名前は、リュレイアさんというそうだ。

「…珍しいお名前ですね?」
「ヒーラーネームです。力天使(ヴァーチューズ)から授けられました。奇跡の力で人々を癒し導けという天啓とともに」
「はあ…」

 リュレイアさんから渡された紫色の名刺には、“力天使(ヴァーチューズ)の加護を受けし高位のヒーラー 龍霊愛(リュレイア)”と書いてあった。
 まさかの漢字だった。

「私がとてもつらかった時、リュレイア様にお会いして心を救っていただいたのよ。それ以来私はずっと、リュレイア様に導いていただいているの」
「あ、すみません、この本日のお薦め、ケーキ3種の盛り合わせというのをお願いします」

 通りすがりの店員さんにメニューを指差して注文した。小さなケーキを3種類食べられるというのは、とても魅力的だね。

「…それで最近の麗華様を見ていたらずいぶんと大変そうでしょ。ぜひ力になりたいと思ってリュレイア様にご相談したの」

 へー。
 それからもごちゃごちゃと説明をされたけど、終始気のない態度を取り続けていたら、高位のヒーラーの目がきつくなった。

「貴女には狐の霊が取り憑いています」
「大変だわ!麗華様」
「はあ…」

 そうきたか。狐、ねぇ…。
 なんだかもう、どうでもいいや。

「今すぐ除霊をしないと、さらに不幸なことが…」
「いいえ、それには及びません」

 私はきっぱりと否定した。

「なぜなら私に憑いているのは狐ではなく、狸だからです」
「は?」
「その狸に、私は子狸化の呪いをかけられております。これは油断すると腹部が狸化するという恐ろしい呪いなのです。そしてこの呪いを解く術はありません」
「麗華様、なにを言って…」
「ですが、私はこの狸に愛着を持っておりますので、一生付き合っていく覚悟をしております。うるさい狸ですが慣れれば可愛いものです。それゆえ除霊は結構。不幸な運命など、踏み潰し、蹴散らして前に進んでみせましょう」

 ケーキとハーブティーを完食し終わった私は力強く宣言し、「では、ごきげんよう」と挨拶をして席を立った。

 芙由子様は浮世離れしていると思っていたけど、そっちの人だったかぁ…。参ったなぁ。
 家に帰ると私に取り憑いた狸の生霊が私を呪うべく、旬のフルーツタルトを用意して待っていた。ええいっ!調伏してやる!
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